なんちゃって調理師と地獄のレストラン

SAKAHAKU

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第十五話(サラダライス)

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「ももちゃん、今日はどんな料理を振舞ってくれるの?」

「今日はあれだな、サラダライスといって俺の十八番なんだ」

今日のオーガニックは大盛況で、鬼子とヒスイを呼ばなきゃいけないほどに人手が足りなかった。
仕事終わりのホール内では、みんなが疲弊した体を休めてぐったりしている。

「それってどんな料理なの?」

「なんと言ったらいいか……そうだな、カレーライスの野菜バージョンみたいなやつだ」

「お兄ちゃんが作るいびつな食べ物の中で、数少ないまともなものです。それなら安心してして食べられると思いますよ」

「タルト、褒めてんのか貶してんのか?」

「別に褒めても貶してもいません。今日のまかないがそれなら私の分はトマト無しでお願いします」

「トマト無しな。極力でいいよな」

「極力じゃダメです。絶対です」

数多とやってきた夥しい数の客をさばいて、やっとこ一息つけたのは午後三時頃。
体の方はへとへとで悲鳴をあげていたが、ずっと忙しかったために未だ昼食を取れていない。
それは俺だけでなく、ヘルプに入ってくれていた鬼子やヒスイも同じだ。
皿洗いや注文品の運搬だけでも非常に助かった。
まかないを振る舞おうと決めたのは手伝ってくれたせめてものお礼だ。

「ももちゃん、大変ならあたしも手伝おーか?」

「いや、大丈夫だ。ヒスイ頑張ってくれたし疲れてるだろ。たいした手間もないから座って待っててくれ」

一人厨房に行って食材の準備を始める。
これから作るサラダライスに必要な野菜はトマトと玉ねぎのこの二つ。
ボールに細かく刻んだトマトと玉ねぎを投入し、そこへシーチキンを追加。
調味料にマヨネーズ、オリーブオイル、黒胡椒、レモン汁を振りかけ念入りに混ぜる。
平皿を用意してライスとサラダを半分ずつ盛ったら完成だ。
いやはや、我ながら簡単な一品。
作る際に感じるストレスもほとんどない。
これは俺が心から調理を楽しんでいる証拠かもしれないな。

「できたぞ、お前ら」

「はやっ!?まだ厨房に行ってからそんなに経ってないよ。もう出来上がったの?」

「面倒だからって手抜きしたんじゃないでしょうね」

せっかく作ってやって運んでまでしてやってんのにこれだからな。

「してねぇって。至って簡単な料理だからな。誰が作ったってこの程度の時間しかかからないだろうよ。えっと、タルトはトマト山盛りでよかったよな」

「よくないです。トマト嫌いなの知ってて嫌がらせしないでください」

「ふっふっふ。いつもお決まりの冗談じゃねぇか。あんまかっかすんなよ。お前のとこにはトマトの代わりにアボガドを追加しといてやったぞ。中々粋な計らいだろ」

玉ねぎとシーチキンだけじゃ物足りなさを感じたからな。トマト嫌いなこいつ専用に仕方なく生成した。

「そうですか。アボガドなら得意なので食べるのに支障はないです」

「ごしゅじん、ごはんごはん」

「そっか。忘れてた。ラスクのぶんも用意しないとな」

今日は珍しく忙しくて飯の用意をしてやる余裕がなかったんだよな。
ラスクのはふつうにシンプルなのでいいだろう。あまり変な具材を入れて口に合わなくても困る。

「おい鬼子、納豆入れるか納豆。美味いぞ~」

「……あんた、あたしが納豆嫌いなの知っててわざと言ってるでしょ。見た目的にもあれだから遠慮しとく」

「ごしゅじん、納豆入れると美味しくなる?」

「なるな。自分で試してみたから間違いない」

俺も最初は入れないで食ってたんだが、味変で加えてみたらまあまあ美味かった。

「じゃあ入れてみる」

「らっちゃん、それだけはやめておきましょう。今ならまだ引き返せます」

「なんで、ごしゅじんが入れるとおいしいってゆってる」

「お兄ちゃんの好みに合わせるのは非常に危険ですから。取り返しがつかなくなります」

サラダライスに納豆を入れようとするラスクの動きをタルトが制止した。
しかも、しっかりと俺を謗るのを忘れずにだ。

「おまえ、毎回毎回ほんとうに失礼な物言いだよな。ヒスイは俺の真似して食べてるぞ」

ヒスイが納豆を加えた瞬間に鬼子によるモザイク処理が施されてしまってよく見えないが。

「ヒスイさんはもう手遅れですから仕方ありません。これまでにも変な料理をたくさん食べさせられて味覚が崩壊してますから」

「なんか最近、たーちゃんのあたしに対する扱いがももちゃんと大差ないように感じるのは気のせい?」

「気のせいじゃないと思うぞ。あいつは俺の作る料理を平然と食してしまうヒスイを変人……いや、変な人魚認定したんだろう」

タルトが俺以外を謗るなんて今までなかったからな。
これからはヒスイもちょくちょく小馬鹿にされる対象になるかもしれない。

「変な人魚!?ももちゃんが出してくれた食べ物を美味しくいただいてるだけなのになんで!」

「それはあれですよ。お兄ちゃんが作る変な料理なんて見た目からして普通毛嫌いしますから。ヒスイさんは変な物を食べてる自覚がないんだなと。味覚が崩壊してると断言せざるを得ないです」

「たーちゃんひどっ……!でも、それを言うなら鬼ちゃんも味覚が崩壊してるってことになるよね」

「あんたらの可笑しな論争にあたしを巻き込まないでほしいんだけど?」

「だって、鬼ちゃんが作る料理はどれもこれもハイカラで食べられたものじゃないんだもん……。ううん、はっきり言うね。あれは食べ物じゃないよ!何かの罰ゲーム用に用意された危険物だよ!」

ヒスイが言う『ハイカラ』とはハイパー辛いの訳語である。

「んなっ……失礼な!あたしの料理は辛口で美味しいって評判なの知らないの!」

「初耳だぞ。それどこ情報だよ……?」

「あっ、わかった!あたしの味覚がおかしいって言うなら、きっとそれは鬼ちゃんの作る料理を何度も食べてたせいだよ。ももちゃんがこの島に来る前に四六時中ね。あんな辛い食べ物ばっかり食べさせられてたから舌が壊れちゃったんだ」

「あれを四六時中ね、そりゃもう拷問と同じだな……たまに食わされるだけでも拒否反応が半端ないってのに、それを毎日とか体がどうにかなっちまうよ。これまでよくもちこたえたなヒスイ。同情するぜ。あれを食うぐらいならまだ、金棒でホームランされるほうがマシだな」

「そう……そんなにホームランされるのがお好きなの。だったら、今日も強烈な痛みとお空に飛ばされる快感を味わってもらうとしましょうか」

鬼子が金棒を握り締めながら近寄ってくる。俺に向けられる笑顔はとてつもなく恐ろしい。

「やめろやめろ……別に好きとは言ってねぇ!マシだって言ったんだ。現在ヒスイがいない海になんかホームランされたら俺が溺れ死ぬだろうが!」

「そんときはそんときよ!潔く海の藻屑となりなさい!」

「や、やめーー」

なんで俺だけがこんな目にあうんだ。ヒスイも結構なこと言ってたぞ。

『クスクス……また飛ばされちゃったの?』

頭に響く聞き覚えのあるこの笑い声は、ユキミのテレパシーか……。

「笑い事じゃねぇ……沈む前に助けてくれよな」

珍しくも、水面をぷかぷか漂っている俺を回収しに来たのは、空中を浮遊することができるユキミだった。
鬼子が俺を吹っ飛ばしたあとにでも、回収してくるように頼んだんだろう。
このままヒスイの到着を待ってたら、あの世行き決定だからな。

……ああ、でも、そういやここもあの世だったか。
それっぽくないからすっかり忘れてたわ。




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