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第十七話(コーンフレーク)
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「コーンフレーク。これほど簡単に完成する料理がほかにあるだろうか」
いや、無いね。自信を持って言える。
なんてったって器に盛って牛乳をかけるだけでいいんだからな。
こんなん、おにぎり作るより楽ちんだ。
「これを調理したと胸を張って言い切れるお兄ちゃんが信じられないです。小さな子供でも容易にできるレベルですよ」
俺が厨房でコーンフレークを作っている様を呆れ顔でタルトが見ていた。
コーンフレークは牛乳をかけずにそのままポテチ感覚で食ってもいい。
ボリボリとした食感を口で楽しみながら、俺はタルトへこう言ってやった。
「だからだよ。これだけ簡単ならラスクに店の手伝いをさせられるだろ。これで一人頼もしい人手ができたな」
「らっちゃんにお店を手伝わせるとか、正気ですか……?冗談ですよね。本気だとしたら鬼畜過ぎてかなり引きます。まだ幼いらっちゃんまで傀儡にするつもりでいたなんて、汗顔の至りです」
「表現が相変わらず酷いなっ!?ラスクから店の手伝いがしたいって言われたから、俺は案を出しただけなんだが!」
「らっちゃんが自分からですか?」
どうしてこいつはこう俺を疑うかね。
嘘だと思うなら本人に直接聞いてみりゃいい。
「そーだよ。タルトが大変そうだから何かお手伝いがしたいんだとさ。
あいつ、ひなたぼっこしながらお前の働いてる姿いつも見てたもんな。自分によくしてくれるねーちゃんを微力ながら支えたいって思ったんじゃねぇの」
「そうですか。らっちゃんが私の為を思って発してくれてたんですね。それを先に言ってください」
束の間の休憩時間。
タルトはさっそく、ラスクにコーンフレークの作り方を伝授していた。
「らっちゃん、まずは袋からシリアルを出してお皿に入れてください」
「こう?」
「筋がいいですね。さすがらっちゃん、理解が早くて助かります」
タルトに頭を撫でられて褒められたと理解したラスクは、嬉しいのか虎しっぽを左右にぶんぶん振っている。
「つぎは?」
「あとは適量の牛乳を注ぐだけでおわりです。一人で出来そうですか?」
「できる。任せて」
「調子の方はどうだ。安心して任せられそうか?」
「らっちゃんは飲み込みが早いのでゆくゆくはお兄ちゃんを超える料理人になるかもですね。そうなったらお兄ちゃんはお払い箱になります。うかうかしてられませんね」
そうなったらそうなったでオーガニックはラスクに任せて、俺は遊んで暮らせそうだな。早くお払い箱になりてぇ。
「コーンフレーク一つ作って三つ星レストランの料理人になれるなら誰も苦労しねぇよ」
「お兄ちゃんって三つ星レストランの料理人でしたっけ?」
「いや、違うけど」
生きてた頃の話なら清掃会社で働いてたな。
調理関係の仕事に就くのが嫌で、俺でもできそうな他の仕事を必死になって探した結果がそれだった。
「はあ……お兄ちゃんがそれくらい腕の立つ人だったら」
「露骨にため息つくのやめてくんない!?なんか居た堪れなくなるわ!」
「あ、お客さんが私を呼んでいます。それでは」
「あいつ、無理やり話を終わらせやがった……」
俺に背を向けてタルトがお客のところへ走っていく。
厨房からでも喋っている内容がギリ聞き取れた。
さっそくコーンフレークの注文が入ったみたいだ。
「しかしあれだな。自分でメニューに付け加えておいてこんなこと言うのもなんだが、あんな子供のおやつみたいの注文するやついるんだ」
「せっかく頼んでくれたお客さんになんてこと言うんですか。ほんとにお兄ちゃんは失礼な人ですね」
「いやー、まさか本当に売れるとは思ってなくてな。鬼ヶ島のやつらってコーンフレーク知らねーのかもよ」
「知らないなら知らないでそれでいいじゃないですか。何か問題でもあるんですか?」
いや、問題はないな。むしろ好都合だ。
運良く人気が出れば荒稼ぎできるかもしれない。
ばんばん売ってばんばん売りまくろう。
「らっちゃん。コーンフレーク注文入りました。一つ作ってください」
「がんばる!」
気合いは十分って感じだが、張り切りすぎてとちらないか心配だ
ーーま、個人経営の店だと年端もいかない子供が手伝いしてる光景なんて見慣れたもんだし、これくらい大丈夫だろ。
「ごしゅじん、これでいい……?」
「そうだな……ちょっとばかし牛乳を入れすぎてる感があるが、初めてでこれなら上出来だ。次からは入れすぎに気をつけてやってみ」
「わかった。牛乳のいれすぎ、きをつける」
ラスクはタルトと違って素直でいいな。
あいつと接していく過程で影響を受けない保証はないが。
「タルト、できた」
みてみてと言わんばかりに、ラスクがタルトへ完成したコーンフレークを差し出す。
「ばっちりです。よくできました。らっちゃんの自信作は私が責任を持って送り届けます」
「大げさだな。ただお客のとこへ持ってくだけだろ」
「らっちゃんが初めて作った料理ですよ。私のつまらない失敗で台無しにするわけにはいかないじゃないですか」
タルトはトレイに自信作とやらを乗せて、お客の元へゆっくりと慎重に足を進めた。
さっさと持っていかんとシリアルがふやけてサクサク感が無くなるんだがな。
サクサクとふにゃふにゃを味わえて二度美味しいのがコーンフレークの醍醐味だってのに。
「あれ美味しそうじゃない。新メニュー?」
オーガニックの入り口が開く。新たなお客の来店だ。
ーーと思ったら、なにかとうるさくて乱暴な鬼のお嬢さんだった。
「鬼子か。別件の仕事ってのは片が付いたのか?」
「大方ってところよ。昼休憩のあとでまた行かなきゃだけど……ほんと、ここは暇そうでいいわよね」
鬼子も大変だな。
なんの仕事をしているのかはよくわからないが、鬼ヶ島の管理者ってのは気楽そうに見えて意外にハードなのかもしれない。
「これ、俺からの奢りだ。遠慮なく食え」
「さっきタルトが運んでた新作ね。桃之介の癖に気がきくじゃない」
「『癖に』は余計だ。いらないなら俺が食うぞ」
「いらないなんて言ってないでしょ。ちょうど頼もうと思ってたのを用意してくれたから拍子抜けしただけ」
コーンフレークをタダで献上してやったってのにこれだからな。
俺のさりげない優しさを返せ。
「これ、甘くてサクサクしててお菓子みたいね。ごはん系じゃなくて、デザート?」
「うーん、どうなんだろうな。そんなの考えたこともねぇわ。お前がデザートだって思うならそれでいいんじゃね?」
基本コーンフレークって朝に食ってたから朝飯のイメージしかねぇな。
たしかにデザートと言われたらそうかもしれない。おやつの時間に食ったとしても何もおかしくないだろう。
「本当に適当よね。お客の質問にも答えられないなんて。調理関係に携わった経験があるなら簡単に答えられそうなものだけど。さすがはなんちゃって調理師」
「うっせ。勝手に言ってろ」
それから鬼子はコーンフレークを物の数分で完食し「ごちそうさま」と言ってオーガニックを後にした。
いや、無いね。自信を持って言える。
なんてったって器に盛って牛乳をかけるだけでいいんだからな。
こんなん、おにぎり作るより楽ちんだ。
「これを調理したと胸を張って言い切れるお兄ちゃんが信じられないです。小さな子供でも容易にできるレベルですよ」
俺が厨房でコーンフレークを作っている様を呆れ顔でタルトが見ていた。
コーンフレークは牛乳をかけずにそのままポテチ感覚で食ってもいい。
ボリボリとした食感を口で楽しみながら、俺はタルトへこう言ってやった。
「だからだよ。これだけ簡単ならラスクに店の手伝いをさせられるだろ。これで一人頼もしい人手ができたな」
「らっちゃんにお店を手伝わせるとか、正気ですか……?冗談ですよね。本気だとしたら鬼畜過ぎてかなり引きます。まだ幼いらっちゃんまで傀儡にするつもりでいたなんて、汗顔の至りです」
「表現が相変わらず酷いなっ!?ラスクから店の手伝いがしたいって言われたから、俺は案を出しただけなんだが!」
「らっちゃんが自分からですか?」
どうしてこいつはこう俺を疑うかね。
嘘だと思うなら本人に直接聞いてみりゃいい。
「そーだよ。タルトが大変そうだから何かお手伝いがしたいんだとさ。
あいつ、ひなたぼっこしながらお前の働いてる姿いつも見てたもんな。自分によくしてくれるねーちゃんを微力ながら支えたいって思ったんじゃねぇの」
「そうですか。らっちゃんが私の為を思って発してくれてたんですね。それを先に言ってください」
束の間の休憩時間。
タルトはさっそく、ラスクにコーンフレークの作り方を伝授していた。
「らっちゃん、まずは袋からシリアルを出してお皿に入れてください」
「こう?」
「筋がいいですね。さすがらっちゃん、理解が早くて助かります」
タルトに頭を撫でられて褒められたと理解したラスクは、嬉しいのか虎しっぽを左右にぶんぶん振っている。
「つぎは?」
「あとは適量の牛乳を注ぐだけでおわりです。一人で出来そうですか?」
「できる。任せて」
「調子の方はどうだ。安心して任せられそうか?」
「らっちゃんは飲み込みが早いのでゆくゆくはお兄ちゃんを超える料理人になるかもですね。そうなったらお兄ちゃんはお払い箱になります。うかうかしてられませんね」
そうなったらそうなったでオーガニックはラスクに任せて、俺は遊んで暮らせそうだな。早くお払い箱になりてぇ。
「コーンフレーク一つ作って三つ星レストランの料理人になれるなら誰も苦労しねぇよ」
「お兄ちゃんって三つ星レストランの料理人でしたっけ?」
「いや、違うけど」
生きてた頃の話なら清掃会社で働いてたな。
調理関係の仕事に就くのが嫌で、俺でもできそうな他の仕事を必死になって探した結果がそれだった。
「はあ……お兄ちゃんがそれくらい腕の立つ人だったら」
「露骨にため息つくのやめてくんない!?なんか居た堪れなくなるわ!」
「あ、お客さんが私を呼んでいます。それでは」
「あいつ、無理やり話を終わらせやがった……」
俺に背を向けてタルトがお客のところへ走っていく。
厨房からでも喋っている内容がギリ聞き取れた。
さっそくコーンフレークの注文が入ったみたいだ。
「しかしあれだな。自分でメニューに付け加えておいてこんなこと言うのもなんだが、あんな子供のおやつみたいの注文するやついるんだ」
「せっかく頼んでくれたお客さんになんてこと言うんですか。ほんとにお兄ちゃんは失礼な人ですね」
「いやー、まさか本当に売れるとは思ってなくてな。鬼ヶ島のやつらってコーンフレーク知らねーのかもよ」
「知らないなら知らないでそれでいいじゃないですか。何か問題でもあるんですか?」
いや、問題はないな。むしろ好都合だ。
運良く人気が出れば荒稼ぎできるかもしれない。
ばんばん売ってばんばん売りまくろう。
「らっちゃん。コーンフレーク注文入りました。一つ作ってください」
「がんばる!」
気合いは十分って感じだが、張り切りすぎてとちらないか心配だ
ーーま、個人経営の店だと年端もいかない子供が手伝いしてる光景なんて見慣れたもんだし、これくらい大丈夫だろ。
「ごしゅじん、これでいい……?」
「そうだな……ちょっとばかし牛乳を入れすぎてる感があるが、初めてでこれなら上出来だ。次からは入れすぎに気をつけてやってみ」
「わかった。牛乳のいれすぎ、きをつける」
ラスクはタルトと違って素直でいいな。
あいつと接していく過程で影響を受けない保証はないが。
「タルト、できた」
みてみてと言わんばかりに、ラスクがタルトへ完成したコーンフレークを差し出す。
「ばっちりです。よくできました。らっちゃんの自信作は私が責任を持って送り届けます」
「大げさだな。ただお客のとこへ持ってくだけだろ」
「らっちゃんが初めて作った料理ですよ。私のつまらない失敗で台無しにするわけにはいかないじゃないですか」
タルトはトレイに自信作とやらを乗せて、お客の元へゆっくりと慎重に足を進めた。
さっさと持っていかんとシリアルがふやけてサクサク感が無くなるんだがな。
サクサクとふにゃふにゃを味わえて二度美味しいのがコーンフレークの醍醐味だってのに。
「あれ美味しそうじゃない。新メニュー?」
オーガニックの入り口が開く。新たなお客の来店だ。
ーーと思ったら、なにかとうるさくて乱暴な鬼のお嬢さんだった。
「鬼子か。別件の仕事ってのは片が付いたのか?」
「大方ってところよ。昼休憩のあとでまた行かなきゃだけど……ほんと、ここは暇そうでいいわよね」
鬼子も大変だな。
なんの仕事をしているのかはよくわからないが、鬼ヶ島の管理者ってのは気楽そうに見えて意外にハードなのかもしれない。
「これ、俺からの奢りだ。遠慮なく食え」
「さっきタルトが運んでた新作ね。桃之介の癖に気がきくじゃない」
「『癖に』は余計だ。いらないなら俺が食うぞ」
「いらないなんて言ってないでしょ。ちょうど頼もうと思ってたのを用意してくれたから拍子抜けしただけ」
コーンフレークをタダで献上してやったってのにこれだからな。
俺のさりげない優しさを返せ。
「これ、甘くてサクサクしててお菓子みたいね。ごはん系じゃなくて、デザート?」
「うーん、どうなんだろうな。そんなの考えたこともねぇわ。お前がデザートだって思うならそれでいいんじゃね?」
基本コーンフレークって朝に食ってたから朝飯のイメージしかねぇな。
たしかにデザートと言われたらそうかもしれない。おやつの時間に食ったとしても何もおかしくないだろう。
「本当に適当よね。お客の質問にも答えられないなんて。調理関係に携わった経験があるなら簡単に答えられそうなものだけど。さすがはなんちゃって調理師」
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