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第四十八話(鬼ヶ島散策2)
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そうです。私は美しい風景を写真に収めるために街まで足を運んだんでした。
決して、猫さん達に落雁を配るためではありません。
「さてと……困りましたね」
ユキミさんから別れ際に渡されたこれどうしましょう。
ラアルさんにすべて押し付けるのもあれですし……ここらで手っ取り早く会えそうなのは、海にいるヒスイさんですかね。
お兄ちゃんのことが大好きと公言するヒスイさんならば、お兄ちゃんが生成した落雁だと言えば間違いなく受け取ってくれるはず。
決めた。階段を降りて海へ行こう。
「たーちゃんからあたしにプレゼント?なにかななにかな?」
「プレゼントというかお裾分けですね。うちのお兄ちゃんが調子乗って作り過ぎたとあるお菓子がいっぱいありまして」
「ああ、落雁だね。菊とか桜の形してるお菓子だ。美味しいよね、これ」
「あ、はい。ひたすらに甘いだけですけど、たまに食べると美味しいです」
猛烈に熱いお茶が欲しくなりますが、今は無いので持参した水筒で我慢します。やはりこれを一度にたくさんは無理です。いけて3個までが限度ですね。
ヒスイさんは甘いだけのお菓子に抵抗が無いのか、隣でぱくぱく食べてますが。
何はともあれ受け取ってもらえてよかったです。
「たーちゃんは食べないの?美味しいよ」
「私は大丈夫です。先程十二分に頂いたので」
二つだけしか食べてませんが、そもそもこれは一度にたくさん食べるのに適したお菓子じゃないと思います。二つも食べれば早々に飽きが来るお菓子です。
「そうなんだ。食べたくなったら遠慮しないで言ってね」
「はい。お気遣いありがとうございます。それよりも、せっかくここまで来たので写真撮ってもいいですか」
海の写真を撮るのも悪く無いです。
鬼ヶ島のまわりを囲むように流れている海は青々としていて、目の前に広がる光景はまるで一つの絵画のように見えます。
お店の窓からも海は一望できますが、間近で見る海は迫力が違います。まさに格別です。
「いいよ!たーちゃんのためなら何時間だって被写体になってあげる!どんなポーズがいい?」
「あの、私はヒスイさんではなくーー」
「将来はカメラマンになりたいのかな?いくらでも練習に付き合うよ」
将来というか、それを言うなら来世だと思いますが。
「私の話、全然聞いてくれてませんね」
それから私は、ノリノリにポーズを決めるヒスイさんの写真を意味も無く連写しその場を後にした。
人魚の姿を現実世界で撮るなんて不可能なのだから、これはこれでよしとすることにしよう。
幽霊や人魚や鬼というレアな存在と出会えるのも、鬼ヶ島の魅力の一つかもしれない。
「ふぅ……中々いい写真が撮れました。大満足です」
途中、落雁配りや無意味な撮影会らしきものに関わりましたが、終わり良ければなんたらかんたらってやつですね。
白い建物の多い鬼ヶ島に海や空の青がマッチしてとても美しいです。
おしゃれな雑貨屋やブティックが軒を連ねていて散策も楽しい。
ふいに漂ってくる食べ物の匂いには食欲をそそられます。
最近食べ物屋さんが増えたような……うちも頑張らないとお客さんを他のお店にどんどん取られてしまいそうです。
オーガニックの調理師さんはお気楽な不真面目さんなので、ライバル店にお客さんを取られることなど屁でもないと思ってそうで怖いですが……。
「……あと十分で十二時。羽目を外し過ぎました」
時間を確認してみれば、写真を撮るのに夢中になっていたせいか、気付けばお昼時。
落雁を二つほど摘みましたが、この時間になると自然とお腹が空きます。
ただ単に、食べ物屋さんの美味しそうな匂いに体が反応しただけかもですが。
お兄ちゃんはどうでもいいとしても、らっちゃんにお昼ごはんを用意してあげないとですから、そろそろオーガニックに帰ることに決めました。
休みの日となると平気で夕方まで寝こけている誰かさんが起きていれば話は別なんですが、その可能性は限りなくゼロに近いので。
「タルト、おかえり。どっか行ってたの?」
「らっちゃん、ただいまです。ちょっと街に出かけてました」
「まちっておかいもの?おみやげちょうだい」
オーガニックへ帰宅した私の目に飛び込んできたのは、出迎えてくれたらっちゃんと、そのらっちゃんに齧られている落雁です。
連続して落雁にお目にかかる日なんて滅多にないので、なんだか不思議な気分になります。
「おかいものには行ってないのでおみやげはないんですが……帰りにどこかお店に立ち寄るべきでしたね」
二階のリビングにあるテーブルの上には、パーティーで使うような大皿にたくさんの落雁が盛り付けられています。
ユキミさんがたんまり分けたと言っていたのはまさしくこれのこと。
想像以上に数が多くて驚愕しました。
お兄ちゃんの今日の晩ご飯は落雁の盛り合わせでいいんじゃないでしょうか。
おふざけで生成した落雁が、まさかまだこんなにあっただなんて。
(……あれ、キッチンの方から懐かしい匂いがする)
「よう、タルト。帰って来てたのか。昼飯できてるぞ」
「お兄ちゃん、起きてたんですね。どーせまだ布団の中だと思ってました」
「あー……ラスクにメシ作れって叩き起こされてな……俺の貴重な睡眠時間が削られた」
キッチンから運ばれて来た品はムキサメの煮付けです。
私が小さい頃によく作ってくれていた、お兄ちゃんの数少ない手作り料理の一つになります。
「ごしゅじん、ごはんできた?」
「できたぞ。持ってってやるから座って待ってな」
「これ、身が柔らかくて骨もないから食べやすくて好きです。これなららっちゃんも安全に食べられますね」
「ああ。そう思って久しぶりに作ってみた。ラスクさんよ、味の方はどうだ?」
「あまい味がする。おいしい」
ムキサメの煮付けは甘塩っぱい味付けが美味しいです。口の中に入れるととろける身の柔らかさが昔から好きでした。
思いもよらずお兄ちゃんの手料理を堪能できた私は、落雁の件を問い詰めようかやめておこうか、その二択で大いに迷ってしまっています。
決して、猫さん達に落雁を配るためではありません。
「さてと……困りましたね」
ユキミさんから別れ際に渡されたこれどうしましょう。
ラアルさんにすべて押し付けるのもあれですし……ここらで手っ取り早く会えそうなのは、海にいるヒスイさんですかね。
お兄ちゃんのことが大好きと公言するヒスイさんならば、お兄ちゃんが生成した落雁だと言えば間違いなく受け取ってくれるはず。
決めた。階段を降りて海へ行こう。
「たーちゃんからあたしにプレゼント?なにかななにかな?」
「プレゼントというかお裾分けですね。うちのお兄ちゃんが調子乗って作り過ぎたとあるお菓子がいっぱいありまして」
「ああ、落雁だね。菊とか桜の形してるお菓子だ。美味しいよね、これ」
「あ、はい。ひたすらに甘いだけですけど、たまに食べると美味しいです」
猛烈に熱いお茶が欲しくなりますが、今は無いので持参した水筒で我慢します。やはりこれを一度にたくさんは無理です。いけて3個までが限度ですね。
ヒスイさんは甘いだけのお菓子に抵抗が無いのか、隣でぱくぱく食べてますが。
何はともあれ受け取ってもらえてよかったです。
「たーちゃんは食べないの?美味しいよ」
「私は大丈夫です。先程十二分に頂いたので」
二つだけしか食べてませんが、そもそもこれは一度にたくさん食べるのに適したお菓子じゃないと思います。二つも食べれば早々に飽きが来るお菓子です。
「そうなんだ。食べたくなったら遠慮しないで言ってね」
「はい。お気遣いありがとうございます。それよりも、せっかくここまで来たので写真撮ってもいいですか」
海の写真を撮るのも悪く無いです。
鬼ヶ島のまわりを囲むように流れている海は青々としていて、目の前に広がる光景はまるで一つの絵画のように見えます。
お店の窓からも海は一望できますが、間近で見る海は迫力が違います。まさに格別です。
「いいよ!たーちゃんのためなら何時間だって被写体になってあげる!どんなポーズがいい?」
「あの、私はヒスイさんではなくーー」
「将来はカメラマンになりたいのかな?いくらでも練習に付き合うよ」
将来というか、それを言うなら来世だと思いますが。
「私の話、全然聞いてくれてませんね」
それから私は、ノリノリにポーズを決めるヒスイさんの写真を意味も無く連写しその場を後にした。
人魚の姿を現実世界で撮るなんて不可能なのだから、これはこれでよしとすることにしよう。
幽霊や人魚や鬼というレアな存在と出会えるのも、鬼ヶ島の魅力の一つかもしれない。
「ふぅ……中々いい写真が撮れました。大満足です」
途中、落雁配りや無意味な撮影会らしきものに関わりましたが、終わり良ければなんたらかんたらってやつですね。
白い建物の多い鬼ヶ島に海や空の青がマッチしてとても美しいです。
おしゃれな雑貨屋やブティックが軒を連ねていて散策も楽しい。
ふいに漂ってくる食べ物の匂いには食欲をそそられます。
最近食べ物屋さんが増えたような……うちも頑張らないとお客さんを他のお店にどんどん取られてしまいそうです。
オーガニックの調理師さんはお気楽な不真面目さんなので、ライバル店にお客さんを取られることなど屁でもないと思ってそうで怖いですが……。
「……あと十分で十二時。羽目を外し過ぎました」
時間を確認してみれば、写真を撮るのに夢中になっていたせいか、気付けばお昼時。
落雁を二つほど摘みましたが、この時間になると自然とお腹が空きます。
ただ単に、食べ物屋さんの美味しそうな匂いに体が反応しただけかもですが。
お兄ちゃんはどうでもいいとしても、らっちゃんにお昼ごはんを用意してあげないとですから、そろそろオーガニックに帰ることに決めました。
休みの日となると平気で夕方まで寝こけている誰かさんが起きていれば話は別なんですが、その可能性は限りなくゼロに近いので。
「タルト、おかえり。どっか行ってたの?」
「らっちゃん、ただいまです。ちょっと街に出かけてました」
「まちっておかいもの?おみやげちょうだい」
オーガニックへ帰宅した私の目に飛び込んできたのは、出迎えてくれたらっちゃんと、そのらっちゃんに齧られている落雁です。
連続して落雁にお目にかかる日なんて滅多にないので、なんだか不思議な気分になります。
「おかいものには行ってないのでおみやげはないんですが……帰りにどこかお店に立ち寄るべきでしたね」
二階のリビングにあるテーブルの上には、パーティーで使うような大皿にたくさんの落雁が盛り付けられています。
ユキミさんがたんまり分けたと言っていたのはまさしくこれのこと。
想像以上に数が多くて驚愕しました。
お兄ちゃんの今日の晩ご飯は落雁の盛り合わせでいいんじゃないでしょうか。
おふざけで生成した落雁が、まさかまだこんなにあっただなんて。
(……あれ、キッチンの方から懐かしい匂いがする)
「よう、タルト。帰って来てたのか。昼飯できてるぞ」
「お兄ちゃん、起きてたんですね。どーせまだ布団の中だと思ってました」
「あー……ラスクにメシ作れって叩き起こされてな……俺の貴重な睡眠時間が削られた」
キッチンから運ばれて来た品はムキサメの煮付けです。
私が小さい頃によく作ってくれていた、お兄ちゃんの数少ない手作り料理の一つになります。
「ごしゅじん、ごはんできた?」
「できたぞ。持ってってやるから座って待ってな」
「これ、身が柔らかくて骨もないから食べやすくて好きです。これなららっちゃんも安全に食べられますね」
「ああ。そう思って久しぶりに作ってみた。ラスクさんよ、味の方はどうだ?」
「あまい味がする。おいしい」
ムキサメの煮付けは甘塩っぱい味付けが美味しいです。口の中に入れるととろける身の柔らかさが昔から好きでした。
思いもよらずお兄ちゃんの手料理を堪能できた私は、落雁の件を問い詰めようかやめておこうか、その二択で大いに迷ってしまっています。
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