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第四十七話(鬼ヶ島散策1)
しおりを挟むどうも、タルトです。
今日はとても天気が良くて絶好の散策日和ですね。窓から射し込む日光が眩しいです。
お店がお休みの日、うちの店主さんは高い確率で惰眠を貪っているので、起きてくるのが非常に遅いです。
なので、そんな時は自動的に私が朝ごはんの準備をすることになります。
オーガニックに住んでいるのは四人ですから、支度をするのは一人だと結構大変です。こんなとき、兄が手伝ってくれると幾分か楽なんでしょうけど……。
(でも、まあ……)
キッチンでのスクランブルエッグの調理中に、ふとリスクが頭に思い浮かぶ。
兄に料理を作らせると、卵料理オンリーな朝ごはんを食べさせられる羽目になったりしますから、その選択は諸刃の剣かもしれませんね。
手伝ってくれてもくれなくても面倒な人という認識は、鬼ヶ島に来てからこれまで何も変わっていないです。
卵かけご飯と厚焼き玉子とかきたま汁と茹で卵と目玉焼きが勢揃いした奇妙な朝食の風景は、 中々忘れられるものではないでしょう。
「えっと……水筒よし、カメラよし」
朝食を食べ終えたら、今日は鬼ヶ島の街に繰り出そうと思ってます。
私は白と青の建物と階段だらけのこの街が割と好きで、前々から一度写真に撮ってみたいと思っていました。
本当に地獄なのかと疑ってしまうほどに綺麗なところです。
「クスクス……鬼ヶ島の写真撮って面白い?」
「わわっ!?」
ファインダーを覗いていたところ、突然背後から声をかけられてびっくりした。
全く接近してくる足音が聞こえなかったけれど、幽霊なのだから当たり前といえば当たり前だ。
朝方にユキミさんが外を出歩いていること自体珍しい行動だったりする。この人は大概夜にふらっと出掛けて行くパターンが多い。
「ユキミさんでしたか……周りに誰も見当たらなかったのでちょっと怖かったです」
……なんだろう?
何かピンク色をした変わった形の食べ物を食べている。
よく見たら花の形をした砂糖菓子『落雁』だった。以前に一度だけ食べたことがあるが、ひたすらに甘いだけの退屈な味であったのを覚えている。
「フフフ……驚いていただけて何より。本来ゆーれいは生者を驚かせてナンボの存在。悪く思わないでくれたまえ」
(生者とユキミさんは比喩しましたが、一応私もここに居る以上死んでます……)
面倒なので訂正しませんが、私達とユキミさんの違いがよくわかりません。
「ユキミさん、それって落雁ですよね。鬼ヶ島にも売ってるんですか?」
「これラクガンって言うんだ?キミのお兄さんが「お前はこれでも食っとけ」って」
「ユキミさん、多分それ遊ばれてます。落雁って仏壇にお供えするのに最適なお菓子なんですよ。きっと「幽霊に落雁ってベストマッチじゃね」と、考えての行動かと」
「ぶ、ぶつだんのオカシ……!?」
「何をそんなに驚いているのかは皆目見当がつきませんが……そうです。それは仏壇にピッタリなお菓子なんです」
「ぶつだんってなんだい?ぼーりょくだんの親戚かなにか?」
「暴力団を知っていて仏壇を知らないとか、流石の私も驚きを隠せません。ちょっとヤバいですよ」
小学生でも当たり前のように知っているレベルです。手を合わせるあの有名なcmが即座に頭に浮かびました。
ユキミさんが何歳かは存じあげませんが、私より年上なのは確実。
そう考えると……相当ヤバいのでは……?
まあ、冗談で言ってるだけと信じましょう。ユキミさんはよく人をからかっていますから。
「クスクス。そんなことよりさ、キミもこれかじる? 袋一杯にくれたから、ユキミさんだけだと持て余す感じなんだよね」
「お兄ちゃん、調子乗ってこんなに生成したんですか。ざっと三週間分くらいありますね」
ユキミさんが何もない空間から落雁がたんまり入った袋を取り出しました。
それはまるでサンタクロースの持っているプレゼント袋のようにぱんぱんです。
「だからトラのチミっ子にもたんまり分けて来た。それはもう美味しそうにガジガジしていたよ」
「らっちゃんにもたんまりって……あの人落雁どんだけ生成したんですか。最早落雁大好き人間と認定してもいいレベルです」
確かに落雁は食べても美味しいかもしれませんが、用途を履き違えてます。
ほんとうなら仏壇にお供えして正しく使うべきです。
ユキミさんが幽霊だからといって落雁が大好物と決めつけるのはよくないと思います。
なにより調理師が食べ物を粗末に扱うのはダメです。調理師として終わってます。
最終的に食べきれず余った落雁は、お兄ちゃん自ら責任を持って完食してもらうとしましょう。
「お一つ頂きます。この量の落雁はユキミさんがおっしゃる通り持て余すでしょうね。なんならラアルさんにもお裾分けに行きますか」
「クスクス。もう行ってきた。まだ眠ってたから枕元にこれと同じ程度の量を山盛り放置してきた。今はその帰り。ホームを目指して浮遊していた途上でキミの姿を見つけた」
「なるほど。納得しました。ラアルさんのお家へ行った帰りに私を発見したと」
クリスマスでもないのに起きてみたら枕元に、カラフルな物体がぎゅうぎゅうに入った怪しい袋が目に入る。
ラアルさん驚くだろうなあ……いや、ラアルさんなら寧ろ大量のお菓子のプレゼントに喜ぶかも……。
「あれだけ配ってもまだまだあるから、鬼ヶ島中の猫達にも振る舞おうかと考えていたところ」
(猫に落雁なんてあげて大丈夫なのかな……)
鬼ヶ島には至る所に猫がいて、日々汗して労働する住民達のささやかな癒しとなっています。お望みなら触れ合うことも可能です。
落雁の甘い匂いに誘われたのか、ユキミさんの周りに続々と猫が集まって来ました。
「クスクスクス。自分から進んでたかりに来るとは、飛んで火に入る夏の虫とは此奴らのこと」
「それ……使い方間違ってないですか?」
「これが猫に小判ならぬ猫に落雁。実に美味そうに齧っておりますな」
「慌てなくてもいっぱいありますのでご安心を。横入りはダメです。順番は守りましょう」
いつのまにか私も、ユキミさんから落雁を受け取って猫さん達に配るお手伝いをしていました。
……あれ。
今日って、何しに街まで出てきたんだったっけ……?
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