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第十九話(さよならのかわりに)
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「あれ……慈愛が居ないけど、何処に行ったんだ?」
「慈愛たんなら、さっき刑務官の人に呼び出されてたよ」
ーーはあ?
刑務官が慈愛に何のようだよ。
こんなこと言うのも酷いかもしれないが、家族の居ないあの子に面会に来る人物は居ない筈だ。
何か別の用があって呼び出したってことだよな……?
「お兄、ちゃん……」
慈愛が牢に帰ってきたのは、晩御飯を食べ終えてルナが風呂に入っていた頃だ。
日影は中々帰って来ないちみっこが心配で、一人ベッドの上に腰掛けてそわそわしていた。
「おかえり。随分と遅かったな。慈愛の分の晩御飯取っておいたぞ」
「…………」
「慈愛?」
表情が暗く何処か浮かない顔をしているおちびさんが、俺の顔を見た瞬間に目尻に溜めていた涙をぽろっと流した。
まるで母親と離れて迷子になった子供のように泣き始める。そんな少女の姿に日影があたふたし始めたのは言うまでもない。
「どうした慈愛ちゃん!?何処か痛い?転んだ?刑務官のおっさんに虐められたのか?」
日影が色々尋ねてみても慈愛は泣きじゃくるばかりで喋れるような状態じゃない。
見た所、特に気になる虐待の痕はないようだが……。
「……明日、釈放されることに……なっちゃった……の……」
「へ……釈放?」
「……叔母さんのとこ、帰りたくない……帰りたくないよぉ……ずっと、お兄ちゃんといっしょに、一緒に居たい……」
釈放という響きは本来ならば俺を含め、囚人達にとって最高の一言だ。
慈愛からしたら刑務所は、自分を嫌う叔母と離れて暮らせる唯一の場所であって、自分の家みたいに思ってるんだろうな。
「こっちにおいで。お腹空いてるだろ」
声をかけると慈愛はこくんと頷いて、俺の膝の上にちょこんと座った。
自前のハンカチを使って涙で濡れた頬を拭いてやると、ちょっとだけ笑顔になってくれた。
「今日はシチューだって。食べるだろ」
「食欲、ない……です……」
「いつも食欲旺盛で食べるのが大好きな慈愛ちゃんが食欲ないだって?そんなことないだろ。今日だってあんなに頑張ってくれたし、お腹空いてる筈だ。俺が調子に乗って大量に買った餃子たくさん売ってくれてありがとな」
「……そんなに褒めないで下さい。私が頑張るのは当然のことです。お兄ちゃんが此処に居るのは私のせい何ですから」
別に気にしてない。とは、何とでも言える。
それでも、全く気にしていないのかと問われたら、やはりそれは嘘だ。
「慈愛ちゃんのせいじゃないだろ。最近は物騒だからな。小さな子と高校生が一緒に居る現場を見て怪しむ人も少なくないんだ。通報されて当然だったんだ。泣いてる小学生に邪な気持ちで近付いた俺が悪い」
「嘘です。お兄ちゃんに邪な気持ち何て無かったです。どうせお兄ちゃんは私を慰める為に」
「はいはい。じゃあそうゆうことにしてくれても良いけど、もうこの話はお終いな」
最初こそ温かかったシチューも、慈愛を待っている間にすっかりと冷めてしまったようで、美味しさは半減している。
猫舌の人なら丁度良いのかもしれないな。
「ほら、口開けてみ。あーんって」
スプーンで掬ったシチューを慈愛の口元に近付ける。
食欲が無いとは言っていたが、すんなりと口を開いた。
「美味しいか?」
「冷めてますけど、普通に美味しいです。お兄ちゃん、もっと下さい」
「あいよ。やっと元気出てきたな。良かった、良かった」
二口目、三口目とシチューを食べたところで、慈愛ちゃんが思い出したように目に涙を浮かべ始める。
思い出し笑いならぬ思い出し泣きに日影は困り顏だ。
「泣くなって、慈愛ちゃん。……ほらほら、良い子、良い子~」
自分の子供をあやす親のように優しく頭を撫でた。
泣き止んだ慈愛が日影に話した内容は、明日釈放されて叔母の家に帰ること。
駄菓子屋のおばあちゃんから警察に電話があって慈愛の身の潔白を証明したそうだ。
この子からしたら余計なことだったのかもしれないが、此処は罪を償う場所であってアパートやマンションではない。本来なら悪いことをしていない人間が居て良い所じゃないんだ。
「慈愛。実は俺からも話があるんだ。聞いてくれるか?」
「……はい」
俺が話したのは面会時ばあちゃんに会って慈愛を助けてくれるようお願いしたことだ。
児童相談所に勤めるあの人なら、叔母の手からこの子を引き離して保護することが可能だと考えての行動だった。
その話をまじまじと聞いていた慈愛は、本日三度目の涙を目に浮かべる。
その涙が悲し泣きではなく嬉し泣きであって欲しいと切に願った。
「ごめんな、慈愛ちゃん。本当は俺が助けになってやれたら一番何だけど……」
日影はこの先数年は此処から出られない。
だから慈愛を助ける役目は児童相談所の職員に任せるしか方法がない。
悔しいけど、我が儘が通る訳でもない。こればかりはどうしようもないんだ。
「いえ……それでも嬉しいです。ありがとうございます。お兄ちゃんは私のこと嫌ってたんじゃ無かったんですね」
「はは。何言ってんだよ。真正ロリコンの俺が慈愛ちゃんを嫌いな訳無いだろ。むしろ好き。大好きさ。女子小学生サイコー」
「よく言います。全部嘘の癖に」
「嘘じゃねぇよ。本気だ」
「……本当ですか?俄かには信じられません。だったらもう一度言ってみて下さい。お兄ちゃんは私のことが、何ですか?」
「慈愛ちゃん萌えーっ!小学生サイコーっ!うっひょ~っ!!」
気狂いの如くやけくそに叫んで慈愛を思いっきり笑わせてやろうと考えていたのだが、俺の狂った奇声は刑務所中に響き渡っていて、向かいの牢に居るつるぎとデブちゃんの汚物を見るような視線が痛かった。
それどころか、タイミングよく風呂から上がったルナとご対面。慈愛を膝に乗せ後ろから抱きしめている姿を見られた時は詰んだと思ったね。
ルナに「ロリコン!」「変態!」と容赦無く罵られている俺を見て、心から笑えていた慈愛にはホッとしたな。
「慈愛たんなら、さっき刑務官の人に呼び出されてたよ」
ーーはあ?
刑務官が慈愛に何のようだよ。
こんなこと言うのも酷いかもしれないが、家族の居ないあの子に面会に来る人物は居ない筈だ。
何か別の用があって呼び出したってことだよな……?
「お兄、ちゃん……」
慈愛が牢に帰ってきたのは、晩御飯を食べ終えてルナが風呂に入っていた頃だ。
日影は中々帰って来ないちみっこが心配で、一人ベッドの上に腰掛けてそわそわしていた。
「おかえり。随分と遅かったな。慈愛の分の晩御飯取っておいたぞ」
「…………」
「慈愛?」
表情が暗く何処か浮かない顔をしているおちびさんが、俺の顔を見た瞬間に目尻に溜めていた涙をぽろっと流した。
まるで母親と離れて迷子になった子供のように泣き始める。そんな少女の姿に日影があたふたし始めたのは言うまでもない。
「どうした慈愛ちゃん!?何処か痛い?転んだ?刑務官のおっさんに虐められたのか?」
日影が色々尋ねてみても慈愛は泣きじゃくるばかりで喋れるような状態じゃない。
見た所、特に気になる虐待の痕はないようだが……。
「……明日、釈放されることに……なっちゃった……の……」
「へ……釈放?」
「……叔母さんのとこ、帰りたくない……帰りたくないよぉ……ずっと、お兄ちゃんといっしょに、一緒に居たい……」
釈放という響きは本来ならば俺を含め、囚人達にとって最高の一言だ。
慈愛からしたら刑務所は、自分を嫌う叔母と離れて暮らせる唯一の場所であって、自分の家みたいに思ってるんだろうな。
「こっちにおいで。お腹空いてるだろ」
声をかけると慈愛はこくんと頷いて、俺の膝の上にちょこんと座った。
自前のハンカチを使って涙で濡れた頬を拭いてやると、ちょっとだけ笑顔になってくれた。
「今日はシチューだって。食べるだろ」
「食欲、ない……です……」
「いつも食欲旺盛で食べるのが大好きな慈愛ちゃんが食欲ないだって?そんなことないだろ。今日だってあんなに頑張ってくれたし、お腹空いてる筈だ。俺が調子に乗って大量に買った餃子たくさん売ってくれてありがとな」
「……そんなに褒めないで下さい。私が頑張るのは当然のことです。お兄ちゃんが此処に居るのは私のせい何ですから」
別に気にしてない。とは、何とでも言える。
それでも、全く気にしていないのかと問われたら、やはりそれは嘘だ。
「慈愛ちゃんのせいじゃないだろ。最近は物騒だからな。小さな子と高校生が一緒に居る現場を見て怪しむ人も少なくないんだ。通報されて当然だったんだ。泣いてる小学生に邪な気持ちで近付いた俺が悪い」
「嘘です。お兄ちゃんに邪な気持ち何て無かったです。どうせお兄ちゃんは私を慰める為に」
「はいはい。じゃあそうゆうことにしてくれても良いけど、もうこの話はお終いな」
最初こそ温かかったシチューも、慈愛を待っている間にすっかりと冷めてしまったようで、美味しさは半減している。
猫舌の人なら丁度良いのかもしれないな。
「ほら、口開けてみ。あーんって」
スプーンで掬ったシチューを慈愛の口元に近付ける。
食欲が無いとは言っていたが、すんなりと口を開いた。
「美味しいか?」
「冷めてますけど、普通に美味しいです。お兄ちゃん、もっと下さい」
「あいよ。やっと元気出てきたな。良かった、良かった」
二口目、三口目とシチューを食べたところで、慈愛ちゃんが思い出したように目に涙を浮かべ始める。
思い出し笑いならぬ思い出し泣きに日影は困り顏だ。
「泣くなって、慈愛ちゃん。……ほらほら、良い子、良い子~」
自分の子供をあやす親のように優しく頭を撫でた。
泣き止んだ慈愛が日影に話した内容は、明日釈放されて叔母の家に帰ること。
駄菓子屋のおばあちゃんから警察に電話があって慈愛の身の潔白を証明したそうだ。
この子からしたら余計なことだったのかもしれないが、此処は罪を償う場所であってアパートやマンションではない。本来なら悪いことをしていない人間が居て良い所じゃないんだ。
「慈愛。実は俺からも話があるんだ。聞いてくれるか?」
「……はい」
俺が話したのは面会時ばあちゃんに会って慈愛を助けてくれるようお願いしたことだ。
児童相談所に勤めるあの人なら、叔母の手からこの子を引き離して保護することが可能だと考えての行動だった。
その話をまじまじと聞いていた慈愛は、本日三度目の涙を目に浮かべる。
その涙が悲し泣きではなく嬉し泣きであって欲しいと切に願った。
「ごめんな、慈愛ちゃん。本当は俺が助けになってやれたら一番何だけど……」
日影はこの先数年は此処から出られない。
だから慈愛を助ける役目は児童相談所の職員に任せるしか方法がない。
悔しいけど、我が儘が通る訳でもない。こればかりはどうしようもないんだ。
「いえ……それでも嬉しいです。ありがとうございます。お兄ちゃんは私のこと嫌ってたんじゃ無かったんですね」
「はは。何言ってんだよ。真正ロリコンの俺が慈愛ちゃんを嫌いな訳無いだろ。むしろ好き。大好きさ。女子小学生サイコー」
「よく言います。全部嘘の癖に」
「嘘じゃねぇよ。本気だ」
「……本当ですか?俄かには信じられません。だったらもう一度言ってみて下さい。お兄ちゃんは私のことが、何ですか?」
「慈愛ちゃん萌えーっ!小学生サイコーっ!うっひょ~っ!!」
気狂いの如くやけくそに叫んで慈愛を思いっきり笑わせてやろうと考えていたのだが、俺の狂った奇声は刑務所中に響き渡っていて、向かいの牢に居るつるぎとデブちゃんの汚物を見るような視線が痛かった。
それどころか、タイミングよく風呂から上がったルナとご対面。慈愛を膝に乗せ後ろから抱きしめている姿を見られた時は詰んだと思ったね。
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