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第十八話(餃子の売り子からの解放)
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餃子をスーパー内で売り出してようやくの七日目。
このストレスの溜まりが半端ない苦痛な奉仕作業も本日でラストとなった。
初日はおデブ&つるぎの完成度高い厚焼き玉子の人気に客を取られてしまい結果はいまいちだったが、二日目からはそれなりに売れて三日間くらいは黒字が続いていた。
調子に乗って餃子を新たに十ケースほど+で会社から購入したのだが、その翌日と翌々日の売り上げは下降し、餃子が二十パック以上も売れ残った。
タイムマシンがあるなら三日前に戻って俺をぶん殴ってやりたいよ。
「……十ケースも買うんじゃなかったな」
俺の邪な感情が招いた結果だ。この仕事は失敗すれば自殺する人間が続出するくらい酷いが、成功者には莫大な額の金が手に入る。
餃子売りまくって一儲けしよう何て安易な思考は持つもんじゃないな。
「ひーくん。買っちゃった後でいつまでもくよくよしてたって仕方ないでしょ。溜息付いてる暇があったら餃子一パックでも多く売るよ。ほらぁ、立って、立って」
持参してきたパイプ椅子に腰掛けて項垂れていた日影に慰めの言葉をかけてくれるルナが頼もしく見える。
すっかりとやる気と希望を無くして絶望感に浸っていた俺の代わりに、ルナが餃子を焼いて、慈愛が一生懸命に呼び込みをしてくれている。
二人の愛らしい美少女が居れば、ブサメンな私目の存在など必要ナッシング。
黒字の続いた三日間だって、今思い出してみればほとんどルナと慈愛のおかげで売れたようなもんじゃないか。
俺が無理矢理にレンタルして来たメイド服を二人に着せて接客させてみたら、その魅力に惹かれて一日とは比べ物にならない倍以上の客が集まったんだ。
一人で十パックも買ってくれた人だっていたんだぜ。
「なあ、やっぱもう一回だけメイド服着ようぜ。あれ評判良かっただろ」
売り上げが急降下したのは、ルナがメイド服を恥ずかしがって着てくれなくなったのが一番の原因だと思う訳よ。
それで、慈愛一人だけがメイド服ってのも変だよなって話になって、二人揃ってフツーの三角巾とエプロン姿に戻ったんだ。
くそ。慈愛一人だけでもメイド服でいてくれたらそれなりの客を呼び込めたのに。
「ひーくんのお願いでもあれだけはもう嫌!」
「どうしてだよ。ルナと慈愛のメイド服姿可愛かったぞ」
「かっ、可愛いっ!?…………いやいやいや、駄目よ、あたし。嬉しい台詞に騙されちゃ駄目……今回ばかりは本当に駄目なのっ!駄目何だからね!」
「えー。何でだよ~。今日でラスト何だから後一日くらい良いだろ」
「何でって、そんなの決まってるじゃない。ひーくんがあんなルール勝手に付け加えたりするからだよ……」
説明しよう。
ルナの言うルールとは、餃子をお買い上げの客に俺が配った券のことだ。
それがあれば一度だけメイドの体に触れることが許される。
人呼んで「メイドお触り券」
これがまた好評で、二人の美少女のファンと化したお客はこれ欲しさに三~四パックは餃子をまとめて購入する。売れ過ぎてニヤニヤが止まらない程に。
「頭撫でられるくらい大丈夫だろ。減るもんでもない」
「やだよ。あたしもう十七なのにどうして頭撫でられたりしなきゃならないの。そんなのまるで子供みたいじゃない」
「慈愛は嬉しそうに撫でられてたけどな」
「慈愛たんはまだ子供だから不快に感じないのかもしれないけど、あたしは色々と複雑なの。ひーくん以外の人に触られるのは嫌。これでも三日間は我慢して言う通りにしてあげてたんだからね」
メイドお触り券とは言っても、日影が許可したのは頭撫でるか握手の二択限定だ。
抱きついたり変なところに触るのはもちろんご法度。
二人にそんなことをする輩が現れたら俺がぶん殴ってる。
どっかのアイドルと同じで、握手券みたいなものよ。
「悪かったよ。もうあんな真似させないから機嫌直してくれ」
「お兄ちゃん。あのお客さんが二十パック買ってくれるそうです。急いで詰めてください」
「マジか!?出来した慈愛!」
慈愛が餃子を味見させて回っていたら、一人の相撲取りのようながたいをしたお客が、餃子パーティーを開くとか何とかで大量に購入してくれることになった。
「お買い上げありがとうございます」
餃子の入った袋を手渡す慈愛の頭を、お客がにっこりとした笑顔で撫でる。
二日前からお触り券は廃止になったが、あれだけ買ってくれた相手に「撫でるなよ」と文句は言えない。
「お昼ご飯食べたばかりなのにお腹が空いてきました……」
「慈愛もルナも頑張ってくれたからな、当然だろ。休憩行って来いよ。餃子食べてていいから売り場は俺に任せな」
「餃子食べていいんですか?」
「おう。好きなだけ食え。腹いっぱい食え」
「ひーくんがやる気取り戻してくれたみたいで安心したよ。それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな。慈愛たん、一緒に行こうか」
「はい。お兄ちゃん、がんばです」
休憩室に向かう二人の背中を見送った後で、日影は通常の倍の倍くらいの力を振り絞って餃子の売り込みを開始する。
一人で餃子を焼き、自分でそれを配り、お客を煽てて、財布の紐を緩めさせた。
見た目が明らかに七十くらいの婆さん相手でも嫌々「お姉さん」と呼んだ。可愛いくもないのぺっとした顔をした子供を「可愛いお子さんですね」と褒めてみたり、綺麗なお姉さんを口説いたりと、やれることは何でもやった。
そうでもしないと、頑張ってくれた二人に顔を合わせられねぇよ。
************************
「よう、お二人さん。ゆっくり体は休ませられたのかな?」
「わぁ~、すごーい。ひーくん全部売っちゃったの?さっきまで四十パック近く残ってた餃子が一パックも無いよ」
「すごいです、お兄ちゃん」
ぱちぱちぱちと二人が拍手して日影を褒め称えてくれた。
それだけでも。本気を出して売った甲斐があったと思える。
「二人が売った数に比べたら俺が売った数何て比べ物にならねぇよ。帰ろうぜ。今日はこれでお開きだ」
売り物の餃子が手元に無くなれば作業は終了。何時迄も此処に留まる必要はない。
撤収の準備を開始し、売り上げ金と機材を車まで運んでさっさとおさらばだ。
このストレスの溜まりが半端ない苦痛な奉仕作業も本日でラストとなった。
初日はおデブ&つるぎの完成度高い厚焼き玉子の人気に客を取られてしまい結果はいまいちだったが、二日目からはそれなりに売れて三日間くらいは黒字が続いていた。
調子に乗って餃子を新たに十ケースほど+で会社から購入したのだが、その翌日と翌々日の売り上げは下降し、餃子が二十パック以上も売れ残った。
タイムマシンがあるなら三日前に戻って俺をぶん殴ってやりたいよ。
「……十ケースも買うんじゃなかったな」
俺の邪な感情が招いた結果だ。この仕事は失敗すれば自殺する人間が続出するくらい酷いが、成功者には莫大な額の金が手に入る。
餃子売りまくって一儲けしよう何て安易な思考は持つもんじゃないな。
「ひーくん。買っちゃった後でいつまでもくよくよしてたって仕方ないでしょ。溜息付いてる暇があったら餃子一パックでも多く売るよ。ほらぁ、立って、立って」
持参してきたパイプ椅子に腰掛けて項垂れていた日影に慰めの言葉をかけてくれるルナが頼もしく見える。
すっかりとやる気と希望を無くして絶望感に浸っていた俺の代わりに、ルナが餃子を焼いて、慈愛が一生懸命に呼び込みをしてくれている。
二人の愛らしい美少女が居れば、ブサメンな私目の存在など必要ナッシング。
黒字の続いた三日間だって、今思い出してみればほとんどルナと慈愛のおかげで売れたようなもんじゃないか。
俺が無理矢理にレンタルして来たメイド服を二人に着せて接客させてみたら、その魅力に惹かれて一日とは比べ物にならない倍以上の客が集まったんだ。
一人で十パックも買ってくれた人だっていたんだぜ。
「なあ、やっぱもう一回だけメイド服着ようぜ。あれ評判良かっただろ」
売り上げが急降下したのは、ルナがメイド服を恥ずかしがって着てくれなくなったのが一番の原因だと思う訳よ。
それで、慈愛一人だけがメイド服ってのも変だよなって話になって、二人揃ってフツーの三角巾とエプロン姿に戻ったんだ。
くそ。慈愛一人だけでもメイド服でいてくれたらそれなりの客を呼び込めたのに。
「ひーくんのお願いでもあれだけはもう嫌!」
「どうしてだよ。ルナと慈愛のメイド服姿可愛かったぞ」
「かっ、可愛いっ!?…………いやいやいや、駄目よ、あたし。嬉しい台詞に騙されちゃ駄目……今回ばかりは本当に駄目なのっ!駄目何だからね!」
「えー。何でだよ~。今日でラスト何だから後一日くらい良いだろ」
「何でって、そんなの決まってるじゃない。ひーくんがあんなルール勝手に付け加えたりするからだよ……」
説明しよう。
ルナの言うルールとは、餃子をお買い上げの客に俺が配った券のことだ。
それがあれば一度だけメイドの体に触れることが許される。
人呼んで「メイドお触り券」
これがまた好評で、二人の美少女のファンと化したお客はこれ欲しさに三~四パックは餃子をまとめて購入する。売れ過ぎてニヤニヤが止まらない程に。
「頭撫でられるくらい大丈夫だろ。減るもんでもない」
「やだよ。あたしもう十七なのにどうして頭撫でられたりしなきゃならないの。そんなのまるで子供みたいじゃない」
「慈愛は嬉しそうに撫でられてたけどな」
「慈愛たんはまだ子供だから不快に感じないのかもしれないけど、あたしは色々と複雑なの。ひーくん以外の人に触られるのは嫌。これでも三日間は我慢して言う通りにしてあげてたんだからね」
メイドお触り券とは言っても、日影が許可したのは頭撫でるか握手の二択限定だ。
抱きついたり変なところに触るのはもちろんご法度。
二人にそんなことをする輩が現れたら俺がぶん殴ってる。
どっかのアイドルと同じで、握手券みたいなものよ。
「悪かったよ。もうあんな真似させないから機嫌直してくれ」
「お兄ちゃん。あのお客さんが二十パック買ってくれるそうです。急いで詰めてください」
「マジか!?出来した慈愛!」
慈愛が餃子を味見させて回っていたら、一人の相撲取りのようながたいをしたお客が、餃子パーティーを開くとか何とかで大量に購入してくれることになった。
「お買い上げありがとうございます」
餃子の入った袋を手渡す慈愛の頭を、お客がにっこりとした笑顔で撫でる。
二日前からお触り券は廃止になったが、あれだけ買ってくれた相手に「撫でるなよ」と文句は言えない。
「お昼ご飯食べたばかりなのにお腹が空いてきました……」
「慈愛もルナも頑張ってくれたからな、当然だろ。休憩行って来いよ。餃子食べてていいから売り場は俺に任せな」
「餃子食べていいんですか?」
「おう。好きなだけ食え。腹いっぱい食え」
「ひーくんがやる気取り戻してくれたみたいで安心したよ。それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな。慈愛たん、一緒に行こうか」
「はい。お兄ちゃん、がんばです」
休憩室に向かう二人の背中を見送った後で、日影は通常の倍の倍くらいの力を振り絞って餃子の売り込みを開始する。
一人で餃子を焼き、自分でそれを配り、お客を煽てて、財布の紐を緩めさせた。
見た目が明らかに七十くらいの婆さん相手でも嫌々「お姉さん」と呼んだ。可愛いくもないのぺっとした顔をした子供を「可愛いお子さんですね」と褒めてみたり、綺麗なお姉さんを口説いたりと、やれることは何でもやった。
そうでもしないと、頑張ってくれた二人に顔を合わせられねぇよ。
************************
「よう、お二人さん。ゆっくり体は休ませられたのかな?」
「わぁ~、すごーい。ひーくん全部売っちゃったの?さっきまで四十パック近く残ってた餃子が一パックも無いよ」
「すごいです、お兄ちゃん」
ぱちぱちぱちと二人が拍手して日影を褒め称えてくれた。
それだけでも。本気を出して売った甲斐があったと思える。
「二人が売った数に比べたら俺が売った数何て比べ物にならねぇよ。帰ろうぜ。今日はこれでお開きだ」
売り物の餃子が手元に無くなれば作業は終了。何時迄も此処に留まる必要はない。
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