未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

文字の大きさ
102 / 109

第百一話(突入)

しおりを挟む

不気味なトンネルを抜けると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
一面を緑で埋め尽くされた空間には、喜怒哀楽の顔をした人面木が隙間なく並んでいる。
シュガーの的確なナビゲートが無ければ、迷路のように入り組んだ道に四苦八苦していただろう。実際こんなごちゃごちゃした道を難なく進むのは不可能だ。進んでも進んでも同じような風景が続いていて、今となっては帰り道さえわからない。


「ベルウッドが森の異変に気付き始めたみたいだ。先を急ごう」


現在俺とテイルズがいるのは、シュガーが用意したトラックの荷台上だ。
だだっ広く開けた空間の左右に四人後方に二人が配置に付いている。前方はシュガーが運転と併用して担当するらしい。これならどの方向から敵が襲来しても迅速に対応が可能だ。


「つるぎとデブちゃんだけで、ベルウッドを足止めできるのか?」

「正直、不可能に近いだろうねぇ。相手は一二を争う器量図鑑の親玉だ。はっきり言って挑戦は無謀。干戈を交えたとしてもきっと何分も持たない。下手をしたら命を刈り取られるよ、彼は容赦が無いから。だからこそ、とっとと本体を砕く必要があるんだけど……」


突如、俺とシュガーの会話を遮るように、大樹に擬態していた化け物数体が一斉に始動する。
地面を激しく踏みしめながら、破竹の勢いで大量のトレントが疾走を開始した。侵入者を駆逐しようと脇目も振らずに追随する。図体がでかい癖に中々敏捷な動きだ。


「それじゃ日影君、手筈通りによろしく」

「了解。あんたに教えて貰ったみたいに指示すりゃいいんだろ」


追いつかれないようにトラックが加速し、徐々にトレントを突き放していく。
敵との距離が十二分に開けたところで、炎の器量を得意とするナオを選択した。


「ナオ、2時方向のトレントを焼き払え」

「わかったの」


俺の指示に頷いたナオは、小さな口から炎を放った。容赦ない一撃がトレントを襲う。


「フガァアアアアアアッ!!」


全身を焼かれたトレントは盛大にのたうち回り、断末魔の叫びをあげて跡形もなく消失した。

ーーその後もナオの蹂躙劇は続く。

圧倒的な強さを前にトレント達は手も足も出ない。焼かれて焦がされて燃やされまくった。
口から炎を吐く人間ってのは初めてお目にかかった。
やっぱ、木の化け物相手に炎攻撃は定石だよな。


「たいちょー。ぜんぶ倒したの」

「上出来だ。ありがとうな」


ナオの功績を心から賞賛し、よくやったと頭を撫でる。
まだ安心はできないが、とりあえず一息付けるか?

ーーいや、無理そうだ。

牙を向いて襲ってくる敵を片付けても片付けても、矢継ぎ早に新手が突進を仕掛けてくる。あらかじめ聞いていたより数が多い気がしてならない。


「また来る……です」

「ほんとーにきりがねぇな……」

「どーするのー?」

「そんなの決まってんだろ。攻撃あるのみだ」


新たに、ゴブリン、トレント、ゴーレムが集団で前後左右から邁進してきた。
こちらの逃げ場を断つつもりのようだが、何にせよ、彼等にテイルズの相手は少々荷が重い。


「ナオ、ヤヤ、イオン、ツミレ、ミミナ。敵を殲滅しろ」


速攻で脳内に記憶したテイルズ五人の名前を読み上げ、簡潔な指示を出す。


「わかったの」

「おっけー」

「承知であります」

「らじゃーです」

「御意」


直様テイルズは、それぞれの分担を決めて敵へ狙いを定めた。
手始めに、ツミレが太陽のような眩しい光源を発現させ敵全ての視界を眩ませる。畳み掛けるように、イオンが凄絶な雷を落とし、トレントを一撃で屠る。ミミナが烈風を口からお見舞いし、群がるゴブリン達を遥か彼方へと吹き飛ばす。ヤヤが口から吹雪を吐いてゴーレムをカチンコチンに凍らせる。そして、ナオがフィナーレと言わんばかりに赤々と燃える迫力満点の炎を浴びせた。それらがクリティカルヒットした敵から大音声の悲鳴が上がる。
テイルズの頼もしさは想像以上だ。
俺は攻撃の対象を指定しているだけのお気楽な作業しかしていないが、向かってくる敵全てが数秒も持たずに討取られていく。四方八方から襲ってきた魔物を一斉射撃する様はまさに圧巻だった。
特にこれと言ったことはしていない紫紺は、皆の仕事っぷりに細やかな拍手を贈っている。こいつには戦闘系で使える器量は無いのだろうか?


「なあ、紫紺さんよぉ」

「なあに、おとーと」

「いや、お前は皆と一緒に戦わねーのかなと思って」

「おーえん」

「応援?」

「おーえんが紫紺のおしごと」


しれっと戯けてみせる紫紺は『何か問題でも?』と言いたそうな顔をしている。

ーーもう何も言うまい。

今の所は、ナオ、イオン、ヤヤ、ツミレ、ミミナの活躍で手は足りているし、紫紺なりに考えての静観だと信じたい。応援も場合によっては必要だからな……。


「シコンの隠し玉は強力なの」

「そうなのか?」

「御意」

「闇の力を行使するであります」

「闇の力?」

「シコンのブラックホールは危険だからねー」

「ブラックホールって、あれか?あれだよな?」

「ブラックホールは味方を飲み込む恐れがある。言わば『諸刃の剣』……です」


俺の疑問だらけの発言に答えるように、口々に紫紺の隠し持つ器量が危険だと主張するテイルズ。
彼女達の話が本当なら、それは五人の使う器量を遥かに上回る。最大最強の力だ。
聞けば紫紺は、ブラックホールの展開が思うようにできないらしい。
上手く使い熟せれば、ちまちまと敵を倒す必要はなくなり、何もかも一瞬で終わらせることも可能なのにな。


「試しに使ってみる?」

「いーや、やめとく」


簡単に言うが、自滅して貴重な仲間が減る可能性を否定出来ないってことだよな。
巻き添えをくらって魔物共々消滅させられたら堪ったものじゃない。
非常に残念だが、紫紺にはおとなしく応援だけしておいてもらおう。


「でもさ……実際問題、紫紺が器量を制御できれば、ベルウッドだって敵じゃないよな」

「余裕。一撃必殺」


宝の持ち腐れって表現とはちょっと違うけど、使えなけりゃ意味ないからな。使いたくても使えないが正しい現状。
敵を葬るつもりが失敗して、仲間どころか自分自身を消滅させてしまう危険が付いて回る。怖くない筈がないか。





ーー暗闇が支配する真夏の静寂の中、不意に涼やかな鈴の音色が聞こえた。



「……来たみたいね。おデブちゃん、準備はいい?」

「問われるまでもねぇ。バッチリだ」


人々が寝静まった静謐な未明に現れた異形の存在。
ハエトリグサのような顔面と蔓で形作られた独特な髪型は不気味さを一層と際立たせている。名状しがたい性別不明の何かは、莫大な殺気を漂わせながら徐に歩を進める。そいつが前進するたびにチリンチリンと鈴の音が響いた。
よく目を凝らしてみれば、衣服を一着も佩用していない。俗に言う素っ裸肌の状態ではあるが、余すところなく紫色に染まった肉体と至る所に絡みついている蔓と鈴が衣服の役割を見事に果たしていた。植物化した両手はまるで大木を二本引き摺っているように見える。
これがベルウッド本来の姿なのだろうと、大地とつるぎは直感し、直様戦闘態勢に入る。
得物を握りしめて構える二人を発見したベルウッドが口を開いた。


「ーーおやおや、森を攻略しようと画策したのは歌さんの飼い犬君たちでしたか」

「おめぇがうちの歌を好き放題してやがる鈴木の親分だな。残念だがこの先には行かせねぇぜ」

「あなたにはあたし達の相手をしてもらうから。うたちゃんを長い間苦しめてきた報いは大きいわよ。命が惜しいなら、大人しく投降することね」

「いいでしょう。わたくしに仇なす愚か者は排除せねばなりませんからね。挑戦を受けようではありませんか。ベリーベリーウェルカムです」


思っていた通りのベルウッドの返答につるぎは嘆息する。
一抹でも争いを回避して問題を平和的に解決できないかと考えた自分が馬鹿だったと。


「いくわよ、おデブちゃん」

「おうよ。投降する気は更々ねぇみてぇだからなぁ……、交渉決裂だ」


つるぎと大地が先手を取ろうと動いた瞬間、何も無い空間から無数に現出する大量の丸太。
それらが二人を囲むように展開し、ありとあらゆる逃げ場を奪う。


「かはっーー」

「うっーー」


前方から丸太が高速で接近し、大地のふくよかな腹部に末端を埋める。同様に突進してきた丸太がつるぎの細身を手加減無用に弾き飛ばす。堪えようのない激痛が二人を襲った。


「わたくしに逆らった者は揃いも揃って破滅を迎えます。ベリーベリージエンドです」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...