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SAKAHAKU

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第百二話(カラダサガシ)

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「これがベルウッドの本体だ。この大木を破壊されたら流石に彼だって一溜まりも無い」


複雑で難解で迷路のような森を疾走するトラックが辿り着いたのは、一際大きい木の真ん前。
よく見ればその木には神社で見かけるしめ縄が巻き付き、そして馬鹿でかい鈴が中央にぶら下がっていた。
これがベルウッドの本体か。ここに来るまで結構大変な道のりだった。さっさと片付けて帰りたい。


「ナオ」

「……!」


以心伝心ってやつだろうか。ナオが無言で頷いてくれる。
何度も指示を出してきたからか、今じゃもう手慣れたもんだ。
名前を呼んで顔を合わせる。
たったの二つの動作だけで意思が通じてしまう。


「ーーおとーと」

「……あ?何だよ紫紺」

「何か来る」

「何かって何だよ?魔物なら一匹残らずお前らが狩り尽くしただろ。主に紫紺以外が」

「何かは何か」

「はあ?わけわからーー」


ナオが手っ取り早く炎の器量で焼き払おうとした直後、巨大な右足左足が天空から現出し、森に立ち並ぶ草木何もかもを蹴散らしていく。
咄嗟に危険を察知したテイルズは散開。
退避に出遅れた俺は呆然としていたところを紫紺に手を引かれ難を逃れた。
やっとのことベルウッドの森攻略かと思った矢先に新手の登場か。


「おとーと、ぼやぼやしてると瞬殺される」


数秒前まで俺が棒立ちしていた地面は大きく凹んで、巨人の足形のような見事なクレーターが出来上がっている。紫紺のサポートがなければ今頃どうなっていたことか……想像するだけでゾッとする。


「……紫紺、ナイス。助かった……」


巨大な右足と左足は、背を向けて遁走するちっぽけな俺達を嘲笑うかのように悠々と行進を始めた。
奴は通常の速度で歩いているだけだというのに、懸命に走っている俺達との距離は一向に開かない。足の裏で踏み潰されるのは時間の問題か。


「おい紫紺っ!俺達追いかけられてねぇか?こっち来るぞ……!」

「おとーと、うるさい」

「うるさいっつったって、おまえ……」

「マスプロダクション」

「……は?」


紫紺は何やら魔法のような言葉を唱えて、自らが羽織っているポンチョに手を翳していた。
するとどうだろう、不思議なことに同じポンチョが生成され目の前に現れる。


「これ着て」

「こいつを着りゃいいのか?」

「そうゆってる」

「わかったよ。お前が言うんだからきっと意味があるんだろ」


言われた通りにお揃いのポンチョを羽織り、紫紺に倣ってさらにフードを被る。 
どうせ何も起こるまいと高を括っていたが、驚いたことに頭のてっぺんから足の爪先まで全体が透明化した。


「……これ、すげぇな」

「戦闘で奇襲をかけるには持ってこいのアイテム。紫紺達は皆持ってる」


気付けば、ばらばらに散らばったナオ達の姿までもが忽然と消えている。
紫紺の説明によると、フードを被ることで全体を透明化させる仕組みのようだ。反対に透明化の解除はフードを脱ぐだけと至って簡単な動作で済むらしい。
なるほどな。俺みたいな役立たずにもぴったりな道具だ。姿さえ相手に視認されなけりゃ敵から攻撃を貰うこともない。これで少しは落ち着いて皆に指示が出せる。冷静になれ。慎重にいこう。


「おいシュガー。こいつは何だ?こいつも魔物なのか?」

「言い忘れていたけど、本体を砕くにはまず、器量図鑑が使役する最も強力な魔物を駆除しなければならないんだ」

「そんな大事なこと言い忘れんな!」

「まあまあ、そんなにかっかしなくてもいいじゃないか。彼は『カラダサガシ』と言って、そこまで強い魔物じゃない。あくまで僕や紫紺ちゃん達に限定される基準だけどね」


シュガーは巨人のように大きい右手左手の猛攻を軽くあしらいながら、カラダサガシについて説明を挟む。


「カラダサガシには胴体が存在しないんだ。頭と手足が別々に意思を持っていて、例えて言うなら切断された頭と手足がまるで生きているように動く。つまり、僕達が相手にしている魔物は一体じゃないってこと」


単純に計算して、頭一つに手と足が2本ずつで五体か。
普通の人間である俺には、一体相手でも精一杯だってのに、こりゃ骨が折れるな……。


「カラダサガシに弱点はないのか?」

「彼の弱点は頭だ。現在暴れ回っている手足に指示を出している頭をかち割れば頭共々消滅する」


俺とシュガーが言葉を交わしているこの瞬間にも、右足左足の魔物二体が済し崩しに森を破壊し蹂躙していく。上空から木々を踏み潰し真横から障害物を薙ぎ払う。ポンチョの力で姿を消している俺やテイルズを力尽くで探し出すつもりのようだ。
……何か手を打たないとこのままではいずれ追い込まれる。


「頭部は俺と紫紺とシュガーで探す。悪いが五人には手足の四体を引き付けてもらいたい。ナオとミミナは手形の相手を、イオンとヤヤとツミレは足形の相手をしてくれ」


テイルズと同じくシュガーにもちゃっかり指示を出してやった。
つうか、頭部が隠れている場所を探し当てる何て荒技はこの規格外な男にしかできないと思う。紫紺はどうかわからないが、俺には多分無理だ。


「そうするの」

「御意」

「です」

「足形の相手やるー!」

「おまかせであります」

「仕方ないね。僕は基本誰かに従うつもりは無いんだけど、今回は特別だよ」


恐怖の感情に疎いのか、ヤヤは足形と干戈を交えようと嬉しそうに駆けていく。イオンとツミレは積極的なヤヤの後ろを追随する形だ。


「ジャンプ」

「 フロート」


器量を唱えたナオとミミナが同じタイミングで天高く跳躍し、上から下へ火炎と暴風を雨霰と降りそそぐ。二人の息が合った強襲をまともに浴びた右手左手の化け物が怯み動きが止まった。
続いて、右足左足の化け物の相手を担当するのはイオンとヤヤだ。
ヤヤの放出する冷気が敵をあっと言う間に凍てつかせ、行動を停止させる。次の瞬間、まばゆい閃光が轟いて凄まじい威力の雷撃が右足左足の化け物の頭上に落ちる。
イオンの発生させた渾身の一撃がもろにぶち当たった。


「あいつらやっぱすげぇわ。まさかとは思うが、もう倒しちまったのか……?」

「一時的には。いくらダメージを与えても頭を潰さない限り再生を繰り返すだけ」


シュガーの言葉を疑っていたわけじゃないが、やっぱ別々じゃ駄目か。シュガーの言明していた通り、頭部をどうにかしないとカラダサガシは倒せないっぽい。
中々厄介な魔物だ。頭部の捜索が急がれる。


「ヤヤ!イオン!上だっ!上から来るぞ!」


右足左足を満身創痍の状態にしたのも束の間、落ち着ける暇もなく再生した右手左手の猛攻がイオンとヤヤへ迫る。真上から振り下ろされる強烈な平手打ち。二人は間一髪で左右に飛び退き、焦りを見せない余裕な顔つきで致命の一撃を回避した。
ツミレが光の矢による援護射撃で敵の動きを数瞬鈍らせた功績が大きい。
あれが奏功していなかったら今頃どうなっていたかわからない。


「あはは。こーげき避けるのたのしー。当てられるものなら当ててみろー」

「鬼さんこちら。であります」

「過度に怒らせるのは危険……です」


ヤヤは戦闘を楽しみながら相手を牽制する。イオンも負けずと挑発の言葉を発した。ツミレが油断をするなと忠告をしてはいるが、二人は聞く耳を持たない。
右手と左手が執拗に挟み撃ちを仕掛けているが、すばしっこいヤヤとイオンには中々攻撃が命中しない。軽々と敵を翻弄する二人の勇姿は、ちょこまかと飛び回って逃げる蚊を彷彿とさせる。俺だったら恐らく何秒と持たずにあの世行きだろうな。


「おとーと、こっちにも来る」

「うおっ!?あっぶねぇえぇ……」


紫紺に促され正面から向かってくるローキックをしゃがんで避ける。こちらに隙を与えまいと繰り出される真上からの一撃は所謂かかと落としだ。これもまた身を翻して避けた。全くと言って攻撃が通らないことに憤慨したのか、右足左足が地団駄を踏む。
引っ切り無しに続く攻撃に紫紺は動じず、的確な判断で俺を安全な場所に導いていく。


「ナオっ!飛んで火に入る夏の虫だ!一発ど偉いのかましたれ!」


卓越した身のこなしを遺憾なく発揮し、紫紺が逃げ果せたところには口に炎をたっぷり溜め込んだナオが待ち伏せていた。
炎の暴力が右足左足を一斉に包み込み、躍動する二体を停止させる。


「再生が早い。これじゃ倒してもキリがないの」

「ほんとだよな……さっさと降参してほしいんだが、無理な相談か……」


どうせテイルズには敵わないのによく頑張るな。
今のでかなりのダメージを負わせた筈だが、頭部を引きずり出して討伐しない限り、こいつらの復活に際限はない。
カラダサガシは能天気そうなナオまで辟易するほど、弱すぎて退屈な相手らしい。


「みつけた。日影君、頭部は上空だ」


落胆する俺とナオへ確かに届いたシュガーからの朗報。
カラダサガシの頭部が我が物顔で浮遊する空しき空を全員が仰ぐ。


「仕事が早くて助かるぜ。ツミレ、カラダサガシの目を器量で潰せ」

「承りです」


ツミレの背後に五本の光の矢が現出。
燦然と輝く十字形の矢が空高く突進し、カラダサガシの双眸を難なく穿つ。
カラダサガシの壮絶な悲鳴がベルウッドの森へ響き渡った。


「これで終わりだ」


おまけと言わんばかりに、空中へ飛翔したシュガーの蹴りが炸裂し、カラダサガシの頭部が下に向かって叩き落とされる。
落下した顔面は、地面と濃厚な口付けを交わした後、俺と紫紺の立ち尽くす方へゆっくりとーー確実に転がってきた。


「ばかっ!どこに蹴り飛ばしてんだ!」

「すまない。落とす場所のことまでは頭に入っていなかった」

「おとーと、ここに突っ立ってたらまずい。とっとと逃げよう」

「何でお前はいつも冷静なんだ……!?」


ゆったりと隣を走る紫紺に痺れを切らした俺は、お姫様だっこをして滅茶苦茶に荒らされた森を疾走した。
だんだんと加速する頭部は非常に不気味で気持ちが悪い。
目玉を潰されて視界を奪われてもなお、侵入者を排除しようという精力的な執念。
主人であるベルウッドを死に物狂いで守ろうとする必死さがひしひしと伝わってくる。
こっちは轢き殺されないよう逃げるので精一杯だってのに……しつこいやつだ。


「ヤヤ!ヤヤァ!早いとこコイツを凍らせてくれっ!……頼むっ!もームリ!もう走れね~!!」

「任せてー」


ヤヤの吐く強力な冷気は俺のお望み通り、鉄球のように前進してくる頭部を、可及的速やかに氷漬けにしてくれた。
終わってみるとけっこう呆気なかった気もする。


ーーこれで今度こそ、本当の本当にフィナーレだよな?
























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