未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第二十三話(ばいばい)

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「いやー、良かったねぇ。これで正式に慈愛ちゃんも家の子になれるよ。苗字が藤野から木ノ下になるんだよ。あたしと日影と同じにね」

叔母さんが児童虐待の疑いで逮捕されたことを、お家に帰ってきたおばあちゃんに聞きました。
ニュース番組に映っているあの人は間違いなく叔母さんなのに、まだ実感が湧きません。私何かがこのままお兄ちゃんやお姉ちゃんの家族になってしまってもいいんでしょうか?
未だにお兄ちゃんは私に関わったせいで檻の中です。それも、後何年も……。

「どうしたの、慈愛ちゃん。そんな暗い顔してちゃ折角の可愛い顔が勿体無いよ」

「すいません。お兄ちゃんのことを考えたら、私だけ幸せになっていいのかなって思いまして……」

姉が作ってくれた目玉焼きトーストをかじりながら慈愛は思案する。何か日影の無実を証明する方法は無いだろうかと。

「別にいいんじゃないかな。日影は慈愛ちゃんに幸せになってほしいって願ってると思うけど」

「あの……、どうにかしてお兄ちゃんを牢から出してあげる方法はないでしょうか?」

慈愛が歌に尋ねると、彼女はこう返答した。

「世間は日影が慈愛ちゃんを誘拐しようとした犯人だって思ってるんでしょ。だったら本当のことを話してあげれば当然疑いは晴れるよね。証明してあげればいいよ。日影の無実を」

「どう証明したらいいんですか?」

「刑務所宛に手紙でも送ってみたら?案外簡単に解放してくれるかもしれないよ」

そんなに上手く事が進むでしょうか?
初めこそ半信半疑だった慈愛だが、何も行動しないよりはマシと考え、刑務所に日影の無実を証明する手紙を書いてみることにした。


************************


「慈愛、大丈夫かなぁ……歌姉に弄ばれたりしてないといいけど……」

慈愛が手紙を送ってから残り数時間で一週間が経過しようとしていた午後十九時。
刑務所のペア牢では日影とルナが晩御飯を食べながら、世間話をしていた。

「歌姉って誰?ひーくんのお姉さん?」

慈愛を心配する台詞と共に混じっていた「歌姉」という人物名にルナが反応し、その正体を尋ねてきた。
別に隠すことでもないと、目の前で晩御飯として支給されたコッペパンをかじりもぐもぐしているツインテールさんにその答えを返した。

「一応、俺の姉かな。木ノ下歌。歌だから歌姉」

日影のその返答に、ルナは説明が物足りないとでも言いたそうに更に質問をぶつける。

「一応って、どういうこと?」

「ほら、俺って「孤児」じゃん」

「……いや、「じゃん」とか言われても知らないけど」

ルナはそう口にした後、怪訝そうな表情で縦長のコッペパンをかじった。

晩御飯にコッペパンはねぇよ。こういうパン系は朝に出せよ。

と、心中で文句をつけながら日影は言葉を続ける。

「あれ、言ってなかったっけ?俺って実は元孤児何だわ。小さい頃にその歌姉と一緒に児童相談所に勤めてたばあちゃんに引き取られたんだ」

「へぇ~……そうだったんだぁ~」

尋ね聞かなければ命尽きるまで知ることなど無かったであろう事実に、ルナはコッペパン片手に呆気に取られているようだった。
日影はそんなルナを更にぽかんとさせてやろうと、自分の姉である「木ノ下歌」のもう一つの名を教えてやることにした。

「「水嶋歌姫みずしまうたひめ」ってアイドル歌手を知ってるか?」

「うん。「シンプリ」のボーカルやってる子でしょ。国民的アイドルだもん。知らない筈ないよ」

シンプリとは「シンガープリンセス」というバンド名を略した呼び方で、名前の由来は「歌うお姫様」
男女共に人気のあるアイドル水嶋歌姫が男性四人組の国民的アイドル「フォース」と組んで絶賛注目を集めている。
四人の弾くベース、ドラム、ヴァイオリン、キーボードの奏でる演奏に合わせて歌姫が美声を叩き込む。新曲CDの売り上げは過去最高の記録を更新した。

「で、その歌ちゃんがどうかしたの?」

「察しが悪いな。俺の姉ちゃんの名前教えたばっかだぞ」

「え、木ノ下歌さん……だよね?」

「そう。それが本名。水嶋歌姫は芸名だよ」

「うっ、嘘っ!?すご~い!ひーくんってあの歌ちゃんの弟だったんだ……!ーーあっ」

驚愕の事実に目を丸くして驚いていたルナは、片手に握っていたコッペパンを不注意で床に落としてしまった。

「うう……まだ半分も食べてなかったのに、落としちゃったぁ……」

ちょっぴり目尻に涙を浮かべて落ち込むルナを可哀想に思ってか、日影は自分の一口も食べていないコッペパンを手渡した。

「そんなに悲しがるな。俺のをやる」

「えっ、いいの?ひーくんありがとーっ!」

「良いって、良いって。味のついてないパンはあまり好きじゃなくてな。どう処分しようか迷っていたとこだ」

「そうなの?でもパンも食べないとお腹空いちゃうよ。今日の晩御飯パンとサラダだけだし」

ルナの言うとおり今日はパンとサラダのみの乏しい夕食で、誰が見ても明らかにケチっていた。一日に働いた仕事量を考えたらこんなもんじゃ腹は膨れない。
日影はフォークで刺したミニトマトを眺めながら言葉を返す。

「平気だよ。慈愛は三日くらい何も食べなかった時があるみたいだぞ。それに比べたらサラダ一品食えるだけマシさ」

「そうなの?」

「ああ。叔母が嫌いで家に帰らずに三日間公園の水道水だけで飢えを凌いでたんだってさ」

ルナと日影が慈愛の話をしている途中で、二人の牢の前に髭面の四十代くらいのおっさん刑務官がやってきて閉じられていた鍵を解除する。
自分達に何の用があるのか、日影が身構えていると刑務官が口を開いた。

「木ノ下日影。釈放だ。出なさい」

「…………は、釈放?」

唐突過ぎるビックな報告に日影が訝しげな表情を浮かべていると、ルナが目の前の刑務官に対して喚き出した。

「ひっ、ひーくんが釈放っ!?それって、此処から出て行くってこと?……う、嘘だよねっ!何かの冗談だよねっ!」

「嘘でも冗談でもない。木ノ下の起こした事件で被害者となった少女から手紙が届いてな。再捜査の末、この男の無実が証明されたそうだ」

手紙を送ってくれた少女。
日影はすぐにその人物が藤野慈愛だということに気付いた。

……そっか。俺、やっと外の世界に帰れるんだ。

「やだやだ!やだよ!ひーくん行っちゃやだぁっ!!」

「……ルナ」

立ち上がって牢から去って行こうとする日影の腕に抱きついて我が儘を言う。
そんな彼女に日影が何と声をかけたら良いのか迷っていると、刑務官が彼からルナを引き離した。

「ルナ・ティアーズ。木ノ下は元々無実で牢の中に居たんだ。彼はこんな場所に居ていい人間じゃない」

「そ、それは……そう、だけど…………ひーくんが居なくなっちゃったら寂しいよ」

瞳を潤ませてそんなことを口にするルナを見て心が痛む。
刑務所を出て行くのはルナとの別れを意味する。やっと解放されるのは嬉しいけど、可愛らしい台詞に決心が揺らいでしまう。

「……俺だって寂しいよ。折角仲良くなれたのに、これでさよなら何て」

「ひーくん……」

戸惑いを露にしている日影を見て、彼を困らせていることを理解する。ルナは涙を袖で拭って無理矢理に笑顔を作った。

「ごめんなさい。あたしもう我が儘言わないよ。やっと無実だって皆に分かって貰えたんだから、ずっと此処に居ちゃいけないよね」

「悪いルナ。俺は先に行くけど、お前も頑張れよ。釈放される時が来たら連絡くれ。塀の外で会える日を楽しみに待ってるぞ」

「うん。おめでとう、ひーくん。今まで仲良くしてくれてありがとう。一緒に過ごせて楽しかったよ」

最後は日影を笑顔で送り出してくれたルナは笑ってはいたけれど、目には零れ落ちそうな程の涙を溜めていて、声を押し殺し精一杯泣き出すのを我慢しているように見える。
ばいばいと振ってくれていた手は、日影の姿が視界から消えるまで止まることはなかった。













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