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SAKAHAKU

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第三十四話(10月10日)

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10月10日。今日は日影の妹である慈愛の誕生日だ。

「……降ってきたな」

情報番組の天気予報通り、外に飛び出してみれば曇り空から雨がぽつぽつと降ってきており、妹が傘を学校に持っていかなかったのを思い出した。
可愛い妹と相合傘をする自分の姿も頭に思い浮かべたりしていたのだが、あれはどっちかの肩が傘からはみ出すのであまりよろしくない。

よって日影は、二本の傘を手にして慈愛のお迎えに小学校へ向かって歩き出した。

「あっ……お兄ちゃんだぁ~」

「慈愛ちゃん。お待たせ」

「えへへ……お迎えありがとー」

「おっ、おお……今日は何だか積極的だな。皆が見てるぞ」

雨が降ってる中を校門で待たせるのは濡れるし可哀想だと、電話で昇降口まで迎えに行くと伝えておいた。
俺の姿を見つけた慈愛ちゃんは、周りに友達がいるのもお構いなしに甘えん坊の子供みたいに抱きついてきた。
その表情は上気していてほんのりと赤い。まるで酔っ払ってしまったかのようにぼうっとしてふらついているし、言葉遣いが普段の丁寧語とは違ってため口だ。
まあ、兄妹の間ならそれが普通な接し方だとは思う。うちの妹は幼い癖にしっかりし過ぎてるよな。

「どうした、慈愛ちゃん。もしかして具合悪い?」

「お兄ちゃん早く帰ろ~。お腹空いた~」

全く兄の声が耳に入っていない様子で、慈愛は日影の手を繋いで外へと引っ張っていこうとする。

こりゃ重症だな。学校側が未成年に酒を飲ませる筈はないから、きっと熱でもあるんだろう。

帰ったら体温計探さないとな。

「慈愛ちゃん平気か。歩くのしんどいならおぶってやるぞ」

「ら、らいじょうぶ。じあ、子供じゃないから一人で歩けるよぉ……」

「ランドセル背負った現役の小学生を大人とは言えないだろ」

ーーてくてくてく。……ぐたり。

「おっと。マジか、慈愛ちゃん」

自宅までの帰り道を数分歩いた所で、よろけて倒れそうになった妹の体を咄嗟に近寄って受け止めた。
すっかりと体の調子が悪そうな妹を背負って歩くことになったのは言うまでもない。

「37.5℃か。やっぱり熱あったんだな」

ベッドの上に横になった妹は力なさそうにぐったりはしていたが、いつものように丁寧口調に戻っていた。

「眠くないです。眠らなきゃ駄目、ですか……?」

「駄目ですな。誕生日の日に風邪引くとかついてないな慈愛ちゃん。折角ホールでチーズケーキ買ってきたのにな」

「へっ、お兄ちゃんケーキ買ってくれたんですかっ!?食べたい!食べたいですっ!」

ーー駄目。

と言いたい所だが、薬を飲む前には何か腹に入れた方が良いと聞く。
風邪で弱っている妹のお願いを断ることなど日影には出来ないのだ。

「慈愛ちゃん、食べさせてあげるから口開けて」

そう言うと慈愛ちゃんは素直に口を開けてくれた。
フォークで刺した一口サイズのケーキを小さな口元に近づける。

「美味しいです。もっと下さい」

瞳をキラキラさせて可愛くおねだりする妹に、日影は二口、三口、四口目と続けてケーキを食べさせてやった。

何だか薬を飲ませる必要がないくらいに元気になってる気がするのだが、好きな物を食べて風邪のウイルスを殺してしまったのだろうか?

「もう一個食べたいです」

「駄目。残りは風邪が治ったらでも食べられるだろ。今は薬飲んで少し眠ってな」

「眠くないです」

「それさっき聞いた」

「うぅ……お兄ちゃんが風邪で弱ってる妹に冷たいです」

酷く落胆する慈愛の姿を可哀想に思いながらも、日影は心を鬼にして可愛いおねだりを拒否した。

「俺だって慈愛ちゃんにさっさと風邪治して欲しいからこんなこと言ってんだからな。それくらい分かれよ」

「へっ、そうだったんですか?」

「当たり前よ。慈愛ちゃんは俺のmyゆたんぽ。夜はいないと寒くて眠れないんだ」

「理由が何か嫌です。お兄ちゃんにとって私は暖房の役割しかないんですね。酷いです」

妹を道具としか考えていない様な兄の言い方に、慈愛はしょんぼりと落ち込んだ。

冗談で口にした台詞を真に受けられても困るのだが……。

「本気で言ってる訳じゃないからな」

「今更弁解しても遅いです。私の心はすごく傷付きました。激おこです」

「激おこって……そんなギャル語何処で覚えてきたんだよ」

「ネットで得た知識です」

どうしたら機嫌を直してくれるのか聞いてみると「ケーキのおかわりが欲しいです」と言い出しやがったので、俺は慈愛ちゃんの銀髪頭に一発チョップを入れた。

「ふぇ……お兄ちゃんが打った……痛い……」

「あ……、悪い慈愛ちゃん。ちょっと強く叩き過ぎたかな?」

手加減するのを忘れた兄の一撃は慈愛の頭をごつんと強めに叩いていた。

「お兄ちゃんが妹に暴力を振るいました。とても痛いです」

「慈愛ちゃんがお兄ちゃんの言うこと聞かないから悪いんだぞ。具合悪いんだから寝てなきゃ駄目だろ」

「だって本当に眠くないんですもん」

日影は我が儘を言う妹に無理矢理に風邪薬を飲ませると、体に布団を被せてやった。



************************



「おーい。慈愛ちゃーん。ご飯ですよー」

一度寝かし付けた妹を起こしに来た時間は夜の二十時。
今日は歌姉もばあちゃんもまだ帰ってきてないから一人で寂しく晩御飯を済ませた。
一応お粥を作ってみたが、食べてくれるかな。

「おお、熱下がってんじゃん」

薬飲んで眠ったからか、37.5℃あった熱は36.5℃まで下がっていた。
ケーキ食べた辺りから元気だったから、もしかしたらその時点で熱は下がっていたのかもしれないが。

「ほ、本当ですか。ならケーキ、ケーキが食べたいです」

「ならの意味が分からんが、お粥食べた後なら良いぞ」

慈愛は日影からお粥の入った茶碗を受け取ると、スプーンを使って美味しそうにぱくぱくと食べ始めた。

熱も下がったしこれだけ元気なら明日も学校に行けるだろう。

「お兄ちゃん。お粥食べ終わったのでケーキ下さい」

 「分かった、分かった。その前にこれ、お兄ちゃんからの誕生日プレゼント」

そう言って日影が慈愛の首に巻いたのは今日の午前中買ってきたばかりの水色のマフラー。

通学路を歩く慈愛ちゃんが寒そうにしている姿を見て思いついたプレゼントである。

「わぁああああ。お兄ちゃん太っ腹です。このマフラー本当に貰っちゃっていいんですか?」

「うん。だって今日は慈愛ちゃんの誕生日だろ」

「えへへ…………嬉しいです。誕生日プレゼント何て父と母が生きていた頃以来貰ったことありませんでしたから……このマフラー、大切に使わせて頂きます」

親を早くに亡くした慈愛は叔母夫婦の元に預けられてから大切に扱われることが一度もなかった。
言葉通りの意味なら誕生日の日を迎えても祝ってなど貰えなかったのかもしれない。
日影からの心が籠ったプレゼントを喜ぶ慈愛は、昔の彼女とは違ってとても幸せそうに見える。

「そっか。これからは毎年俺が慈愛ちゃんの誕生日を祝ってやるよ。ウザがられても、嫌がられても絶対にやるからな。覚悟しとけよ」

そう断言してやると、慈愛ちゃんはにっこりと満面の笑みを向けてくれた。

自分のプレゼントしたマフラーを巻いて学校に登校する妹の姿を見るのが今から待ち遠しい。そんな妹大好き過ぎるシスコンの兄が此処にいた。


































































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