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第三十三話(授業参観は兄の出番)
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日影の脳がつい一週間ほど前に、光子が食器の洗い物をしている最中、慈愛にこんな頼み事をされていたなと思い出していた。
「……あの、おばあちゃん」
「どうしたんだい、慈愛ちゃん」
慈愛ちゃんがばあちゃんの顔を見つめていた。一枚の紙を握って何かを言いたそうに視線で訴えかけている。
「えっと、その……あのですね……一週間後に授業参観があるんですが、おばあちゃん、学校に来てくれませんか?」
「授業参観け。わかった。その日は仕事休んで行けるようにしておくよ」
授業参観のお知らせのプリントを慈愛ちゃんから受け取って、ばあちゃんは笑顔で返答をした。
俺の溺愛する自慢の妹がすげぇ喜んでて可愛かったから、萌え死にしそうだったとはっきりと鮮明に憶えている。
それなのに……、まさかばあちゃんにどうしても外せない用事ができるとはな。
「ごめんね、慈愛ちゃん。ばあちゃん、急な仕事が入って授業参観行けなくなっちゃった」
「……だ、大丈夫です。おばあちゃんお仕事ですし、わがまま言えませんから」
朝ご飯を食べている中、妹が耳にした残念なお知らせ。
やせ我慢しているのが目に見えて分かるくらいには落ち込んでいらっしゃる。
日影が何と声をかけてやったら良いか分からず固まっていると、正面に居る姉が代わりに口を開いた。
「日影、あんた暇でしょ。慈愛ちゃんの授業参観行ってあげなさいよ」
絶賛ニート生活を満喫中の弟に予定など皆無だと、姉に暇だと断定される。
それは一応日影自身も考えていた。
目に入れても痛くない可愛い妹の為ならば、面接の予定をキャンセルしてでも学校に駆けつける。それが慈愛ちゃん大好き木ノ下日影である。
「俺もそう言おうと思ってたところだよ。慈愛ちゃん、お兄ちゃんでも構わないなら喜んで行くぞ」
「でもお兄ちゃん、確か今日は面接があるって言ってましたよね?学校に来ても大丈夫何ですか?」
「平気、平気。俺って基本妹優先に考える質だからさ。面接はキャンセルしてもらうよ」
自分の為に笑顔で面接をキャンセルすると断言した兄に、慈愛は喜んで良いのか悪いのか、何とも困った顔をしていた。
************************
「さてと……、そろそろ行ってみますか」
授業参観のお知らせによれば、保護者が授業風景を見に行けるのは、一時間目から六時間目までの都合の合う時間帯だ。
日影は学校までの道をのんびりと歩きながら、幼少の頃を思い出していた。
俺も子供の頃は親が教室にやって来てくれるその時を心待ちにしていたっけ。
いつ来るのか、後ろを何度も振り返ったりきょろきょろしたりしてな。とにかく落ち着きがなかったと何となくだが憶えている。
日影と歌の親代わりである光子は二人の授業参観に必ず来てくれていた。
仕事で行けないと口では言っていても、いつも決まって仕事場を抜け出して来る。
だから今回もきっと大丈夫。ばあちゃんは慈愛ちゃんの為に教室へ姿を見せる筈だ。
「えっと、慈愛ちゃんの居る教室はっと……」
小学校ってのは学年ごとに何階に教室があるのか分かり易くて良い。
一年生は一階。二年生は二階。三年生と四年生が三階。五年生と六年生が四階だ。
つまり、三年生である慈愛ちゃんは三階か。
小学生の頃は学年が上がるたびに上の階へ行けるのが嬉しかったよな。
教室の窓から見える景色が何となく綺麗で。
勉強が徐々に難しくなったのは不快でしかなかったが。
(……あ、慈愛ちゃん)
ちょうど休み時間となったのか、教室からぞろぞろと廊下に出てきた子供達。その中に見知った銀髪ショートの妹を発見した。
小さい体で限界まで背伸びをして窓から校門の方を覗いている。まるで日影か光子の姿でも探しているような仕草だ。
「じーあちゃん!」
「わっ!?」
後ろから小さな体を容赦無く抱きあげる。
兄の参上に気付いていない妹の背後からこっそりと近付いて驚かすことに成功した。
「嬉しいです。来てくれたんですね。ずっと待ってました」
「当たり前だろ。可愛い妹の為だ」
「あの、お兄ちゃん……」
「ん?」
「下ろしてくれませんか。皆に注目されてます。恥ずかしいです」
廊下でじゃれあう俺達兄妹へ多数の小学生の視線が集中していた。
抱っこされたままの慈愛ちゃんの顔が分かりやすく赤く染まっている。
甘えん坊な妹も流石に公衆の面前で兄に可愛がられるのは恥ずかしいか。
小さな体を解放したところで次の授業開始を告げるチャイムが校内に鳴り響く。
「お兄ちゃん、三時間目は算数です。ルナさんに叩き込まれた私の成果を見ていてください」
「楽しみにしてる。頑張れ」
期待する声をかけてやると慈愛ちゃんは元気に教室の中へと戻って行った。
俺も他の保護者が並ぶ列に続く。
(何か新鮮だな。この歳でこの列に並ぶことになるとは……)
少し前まで高校生だった男がまるで自分の子供の活躍を見学しにやって来た親のように慈愛の姿を見守っている。
何年か前は俺もあっち側だったんだよな。時の流れが速く感じてしまう。
日影がにやけ顏で妹の姿を眺めていると、慈愛も兄の居る後ろを振り返って手を振ってきた。
反応して同じように手を振る俺は周りのたくさんの親の目にはどう映っているのだろう。
気になる。気になるぞ。若過ぎて逆に怪しまれたりしてないか心配だ。不審者だと思われている可能性も否定できん。
「それじゃ、この計算式の答えが解った人は手を挙げてください」
担任教師が問題を児童に出題し答えさせるという授業参観のスタイルは昔から変わらないようだ。若干の懐かしさを感じながらも黒板にチョークで書かれた計算式を自分でも解いてみる。
……良かった。俺もまだ小学三年レベルの算数は現役で解けるみたいだ。
一方の慈愛ちゃんはと言えば、他の児童が続々と手を挙げる中、一人悪戦苦闘している様子だ。
算数が苦手だということは知ってはいたが、他の子と此処まで差がついていたとはな。
ーーそれからも教師からの出題が何度かあったが、慈愛ちゃんはその度に頭を悩ませていた。
「ごめんなさいお兄ちゃん。折角見に来てくれたのに有言実行出来ませんでした」
三時間目の算数の授業が終わった直後の休み時間。廊下の窓際で慈愛ちゃんが俺へ申し訳無さそうに頭を下げる。
「別に謝る必要ないだろ。慈愛ちゃんは十分頑張ってたんだから」
頑張った妹の頭を撫でてやっていると、前方の階段からやたらと強い存在感を醸し出している人物が上がってきた。眼鏡とニット帽で姿を偽ってはいるが、あれは間違いなくうちの姉でありアイドル。水嶋歌姫だ。
「良かったな。慈愛ちゃん。選手交代だ」
「へ、選手交代?」
日影の視線を向けている先へ慈愛が振り返る。
そこには来ないと思っていた変装中の姉の姿。
嬉しさと感動のあまり、思わず名前を叫ぶ。
「歌お姉ちゃん!来てくれたんですね!」
「し~。慈愛ちゃん、声大っきい……」
慌てて妹の口を塞ぐ姉の姿が日影には可笑しくて仕方が無い。
自然と日影の顔に笑みがこぼれた。
「……な、何よ、日影。何か言いたそうな顏ね」
「い、いや、別に……、歌姉にも優しい一面があるんだなって思ってさ」
仕事で忙しいと言っておきながら授業参観に来てくれた姉に慈愛は喜びを隠しきれない。
日影は歌にバトンタッチし一旦帰宅することにした。
本当なら放課後までいるつもりだったが、この時間に帰れたら本日の午後の面接に間に合いそうだ。
************************
「慈愛ちゃん。授業参観はどうだった?楽しかったか」
六時間目の授業を見学後、日影と慈愛は兄妹仲良く手を繋いで自宅までの帰り道を歩いていた。
面接終わりに学校に寄ってみれば、すでに歌の姿は見当たらなかった。
慈愛ちゃんの話によれば、姉は四時間目の授業とお昼の時間限定で教室に居てくれたみたいで、給食を一緒に食べたらしい。
途中、自分の姉が水嶋歌姫だとバレてしまわないかひやひやしたそうだ。
「はい。おばあちゃんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、皆来てくれたので嬉しかったです」
「やっぱりばあちゃんも来たんだな」
「五時間目に来てくれました。お兄ちゃんは知ってたんですか?」
「いや、何となくだけどそう思っただけさ。あの人は俺や歌姉が小さい頃も無理やり時間作って授業参観に来てくれてたから」
ばあちゃんは一時間ほど授業を受ける慈愛ちゃんの姿を見てから仕事に戻って行った。
俺がラストの六時間目に行けたのはちょうど良かったんだな。
結果的に妹を寂しがらせずに済んだんだ。
「……あの、おばあちゃん」
「どうしたんだい、慈愛ちゃん」
慈愛ちゃんがばあちゃんの顔を見つめていた。一枚の紙を握って何かを言いたそうに視線で訴えかけている。
「えっと、その……あのですね……一週間後に授業参観があるんですが、おばあちゃん、学校に来てくれませんか?」
「授業参観け。わかった。その日は仕事休んで行けるようにしておくよ」
授業参観のお知らせのプリントを慈愛ちゃんから受け取って、ばあちゃんは笑顔で返答をした。
俺の溺愛する自慢の妹がすげぇ喜んでて可愛かったから、萌え死にしそうだったとはっきりと鮮明に憶えている。
それなのに……、まさかばあちゃんにどうしても外せない用事ができるとはな。
「ごめんね、慈愛ちゃん。ばあちゃん、急な仕事が入って授業参観行けなくなっちゃった」
「……だ、大丈夫です。おばあちゃんお仕事ですし、わがまま言えませんから」
朝ご飯を食べている中、妹が耳にした残念なお知らせ。
やせ我慢しているのが目に見えて分かるくらいには落ち込んでいらっしゃる。
日影が何と声をかけてやったら良いか分からず固まっていると、正面に居る姉が代わりに口を開いた。
「日影、あんた暇でしょ。慈愛ちゃんの授業参観行ってあげなさいよ」
絶賛ニート生活を満喫中の弟に予定など皆無だと、姉に暇だと断定される。
それは一応日影自身も考えていた。
目に入れても痛くない可愛い妹の為ならば、面接の予定をキャンセルしてでも学校に駆けつける。それが慈愛ちゃん大好き木ノ下日影である。
「俺もそう言おうと思ってたところだよ。慈愛ちゃん、お兄ちゃんでも構わないなら喜んで行くぞ」
「でもお兄ちゃん、確か今日は面接があるって言ってましたよね?学校に来ても大丈夫何ですか?」
「平気、平気。俺って基本妹優先に考える質だからさ。面接はキャンセルしてもらうよ」
自分の為に笑顔で面接をキャンセルすると断言した兄に、慈愛は喜んで良いのか悪いのか、何とも困った顔をしていた。
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「さてと……、そろそろ行ってみますか」
授業参観のお知らせによれば、保護者が授業風景を見に行けるのは、一時間目から六時間目までの都合の合う時間帯だ。
日影は学校までの道をのんびりと歩きながら、幼少の頃を思い出していた。
俺も子供の頃は親が教室にやって来てくれるその時を心待ちにしていたっけ。
いつ来るのか、後ろを何度も振り返ったりきょろきょろしたりしてな。とにかく落ち着きがなかったと何となくだが憶えている。
日影と歌の親代わりである光子は二人の授業参観に必ず来てくれていた。
仕事で行けないと口では言っていても、いつも決まって仕事場を抜け出して来る。
だから今回もきっと大丈夫。ばあちゃんは慈愛ちゃんの為に教室へ姿を見せる筈だ。
「えっと、慈愛ちゃんの居る教室はっと……」
小学校ってのは学年ごとに何階に教室があるのか分かり易くて良い。
一年生は一階。二年生は二階。三年生と四年生が三階。五年生と六年生が四階だ。
つまり、三年生である慈愛ちゃんは三階か。
小学生の頃は学年が上がるたびに上の階へ行けるのが嬉しかったよな。
教室の窓から見える景色が何となく綺麗で。
勉強が徐々に難しくなったのは不快でしかなかったが。
(……あ、慈愛ちゃん)
ちょうど休み時間となったのか、教室からぞろぞろと廊下に出てきた子供達。その中に見知った銀髪ショートの妹を発見した。
小さい体で限界まで背伸びをして窓から校門の方を覗いている。まるで日影か光子の姿でも探しているような仕草だ。
「じーあちゃん!」
「わっ!?」
後ろから小さな体を容赦無く抱きあげる。
兄の参上に気付いていない妹の背後からこっそりと近付いて驚かすことに成功した。
「嬉しいです。来てくれたんですね。ずっと待ってました」
「当たり前だろ。可愛い妹の為だ」
「あの、お兄ちゃん……」
「ん?」
「下ろしてくれませんか。皆に注目されてます。恥ずかしいです」
廊下でじゃれあう俺達兄妹へ多数の小学生の視線が集中していた。
抱っこされたままの慈愛ちゃんの顔が分かりやすく赤く染まっている。
甘えん坊な妹も流石に公衆の面前で兄に可愛がられるのは恥ずかしいか。
小さな体を解放したところで次の授業開始を告げるチャイムが校内に鳴り響く。
「お兄ちゃん、三時間目は算数です。ルナさんに叩き込まれた私の成果を見ていてください」
「楽しみにしてる。頑張れ」
期待する声をかけてやると慈愛ちゃんは元気に教室の中へと戻って行った。
俺も他の保護者が並ぶ列に続く。
(何か新鮮だな。この歳でこの列に並ぶことになるとは……)
少し前まで高校生だった男がまるで自分の子供の活躍を見学しにやって来た親のように慈愛の姿を見守っている。
何年か前は俺もあっち側だったんだよな。時の流れが速く感じてしまう。
日影がにやけ顏で妹の姿を眺めていると、慈愛も兄の居る後ろを振り返って手を振ってきた。
反応して同じように手を振る俺は周りのたくさんの親の目にはどう映っているのだろう。
気になる。気になるぞ。若過ぎて逆に怪しまれたりしてないか心配だ。不審者だと思われている可能性も否定できん。
「それじゃ、この計算式の答えが解った人は手を挙げてください」
担任教師が問題を児童に出題し答えさせるという授業参観のスタイルは昔から変わらないようだ。若干の懐かしさを感じながらも黒板にチョークで書かれた計算式を自分でも解いてみる。
……良かった。俺もまだ小学三年レベルの算数は現役で解けるみたいだ。
一方の慈愛ちゃんはと言えば、他の児童が続々と手を挙げる中、一人悪戦苦闘している様子だ。
算数が苦手だということは知ってはいたが、他の子と此処まで差がついていたとはな。
ーーそれからも教師からの出題が何度かあったが、慈愛ちゃんはその度に頭を悩ませていた。
「ごめんなさいお兄ちゃん。折角見に来てくれたのに有言実行出来ませんでした」
三時間目の算数の授業が終わった直後の休み時間。廊下の窓際で慈愛ちゃんが俺へ申し訳無さそうに頭を下げる。
「別に謝る必要ないだろ。慈愛ちゃんは十分頑張ってたんだから」
頑張った妹の頭を撫でてやっていると、前方の階段からやたらと強い存在感を醸し出している人物が上がってきた。眼鏡とニット帽で姿を偽ってはいるが、あれは間違いなくうちの姉でありアイドル。水嶋歌姫だ。
「良かったな。慈愛ちゃん。選手交代だ」
「へ、選手交代?」
日影の視線を向けている先へ慈愛が振り返る。
そこには来ないと思っていた変装中の姉の姿。
嬉しさと感動のあまり、思わず名前を叫ぶ。
「歌お姉ちゃん!来てくれたんですね!」
「し~。慈愛ちゃん、声大っきい……」
慌てて妹の口を塞ぐ姉の姿が日影には可笑しくて仕方が無い。
自然と日影の顔に笑みがこぼれた。
「……な、何よ、日影。何か言いたそうな顏ね」
「い、いや、別に……、歌姉にも優しい一面があるんだなって思ってさ」
仕事で忙しいと言っておきながら授業参観に来てくれた姉に慈愛は喜びを隠しきれない。
日影は歌にバトンタッチし一旦帰宅することにした。
本当なら放課後までいるつもりだったが、この時間に帰れたら本日の午後の面接に間に合いそうだ。
************************
「慈愛ちゃん。授業参観はどうだった?楽しかったか」
六時間目の授業を見学後、日影と慈愛は兄妹仲良く手を繋いで自宅までの帰り道を歩いていた。
面接終わりに学校に寄ってみれば、すでに歌の姿は見当たらなかった。
慈愛ちゃんの話によれば、姉は四時間目の授業とお昼の時間限定で教室に居てくれたみたいで、給食を一緒に食べたらしい。
途中、自分の姉が水嶋歌姫だとバレてしまわないかひやひやしたそうだ。
「はい。おばあちゃんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、皆来てくれたので嬉しかったです」
「やっぱりばあちゃんも来たんだな」
「五時間目に来てくれました。お兄ちゃんは知ってたんですか?」
「いや、何となくだけどそう思っただけさ。あの人は俺や歌姉が小さい頃も無理やり時間作って授業参観に来てくれてたから」
ばあちゃんは一時間ほど授業を受ける慈愛ちゃんの姿を見てから仕事に戻って行った。
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