未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第三十二話(ゆーかい、愉快。幼女を誘拐?)

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「おっかないねぇ……。中学生の女の子が誘拐されたんけ」

晩御飯中にTVのニュース番組を眺めながらばあちゃんが呟いた。
画面に映るアナウンサーが、二十三歳の男が未成年者誘拐の容疑で逮捕されたと報道している。情報によれば三年という長い期間監禁されていたらしい。

本日は歌姉もばあちゃんも珍しく早めに帰宅し四人揃っての食事だ。
そのおかげか寂しがり屋な慈愛ちゃんは俺と二人っきりの日以上にニコニコしている。我が妹ながら、純粋で素直な可愛い奴だ。

「慈愛ちゃんも気を付けてね。知らない人に声を掛けられても付いて行っちゃ駄目だぜ。お菓子くれるとかご飯食べさせてあげるって誘われても釣られちゃ駄目。わかったかい?」

「は、はい。分かりました」

ばあちゃんの忠告にこくこくと頷く慈愛ちゃんだったが、この子は以前一度知らない人に声を掛けられて付いて行った経験がある。
俺と初めて会った日。まだ俺達がただの他人だったあの日のことだ。

(何か、心配だな……)

日影が妹の身を案じていると、歌がこんな提案を光子へ口にした。

「ねぇ、おばあちゃん。慈愛ちゃんにもケータイ持たせてあげた方がいいんじゃない?何か合った時のこと考えたらやっぱり必要よね。誘拐されそうになったらそれで助けを求められるし」

「そうだねぇ。慈愛ちゃん、明日ばあちゃんと一緒に携帯電話買いに行くけ?」

「けい、たい……」

携帯電話を買って貰えると嬉しさを隠せない慈愛ちゃんはわくわくで目を輝かせている。
その姿は明日が待ち遠しいリアルな子供だ。

ーーそっか。明日ばあちゃんは仕事休み何だな。


************************


「あ、もしもし。お兄ちゃんですか?慈愛です。貴方の妹です」

「ご丁寧にどうも。慈愛ちゃんの兄、日影です」

次の日の午後。
携帯に掛かってきた未登録の番号に日影は何の躊躇いもなく通話に応じた。

案の定、我が妹の携帯からの初めての着信だった。

「えへへ。お兄ちゃんの声が聞こえます」

「はは。当たり前だろ。電話何だから」

電話越しでも妹がご機嫌だと十二分に伝わってくる明るい声音。
そんな嬉しそうな声を聞いているだけで、こっちも自然と笑顔になっていた。

「これから帰ってくるのか?」

「いえ、すいません。おばあちゃんとお外でお昼ご飯食べてから帰ろうって話してたところです」

「そっか。それじゃ、気を付けて帰ってこいよ」

「はい。お兄ちゃん、ばいばいです」

可愛い自慢の妹との通話を切った後、先程から目を通していた求人雑誌に視線を戻す。

面接に行っては落とされ行っては落とされを繰り返す毎日に夢も希望もない日影だが、彼はまだ諦めてはいなかった。

「俺に警察とか消防士とか無理だわ~」

さっそく諦めの言葉が飛び出した。
応募資格の欄に最終学歴「大卒」とある。
中卒の彼には面接を受けることさえ叶わない。日影は絶望していた。

「かと言って清掃員は無いわ~」

清掃員=おっさん。
清掃員=年寄り達の天下り先。
清掃員=負け組。
清掃員=汚れ仕事。

こんなことを語れば全世界の清掃員を敵に回すかもしれないが、そんな様々なイメージが強い仕事に若いうちから就く何て日影には許せなかった。

だって、その仕事なら年取ったおっさんになってからでも十分に入社できるじゃん。

「ああ…………俺に相応しい仕事って何だろ?」

仕事探しに魂を燃やし尽くした日影はベッドの上に体を倒し、ふて寝した。
自分の部屋の天井をぼんやりと眺めながらこんなことを思う。

このまま何処にも就けないで、ニート生活から抜け出せずに死んじまったりしてな。

不吉なことを連想しながらゆっくりと瞼を閉じる。

今日予定している面接は午後十六時からだ。少しくらい眠っても平気だろ。


……………………………………………



「お兄ちゃん。起きてください。もう晩御飯の時間ですよ」

「…………ん、あれ……慈愛ちゃん。おかえり」

完全に日が沈み暗くなった部屋の中、妹の可愛らしい声が微かに聞こえて目を覚ます。
半開きのドアから差し込む通路の照明に照らされ、慈愛ちゃんの顔が近くにあるのが分かった。
寝ている兄の顔を覗き込むように見ている妹が普通に愛らしい。

「ただいまです。おばあちゃんにお兄ちゃんを呼んできてとお願いされました。ノックしたのですが、反応が無かったので無断で入っちゃいました。ごめんなさい」

「そっか。ありがとな。態々起こしに来てくれて」

「どういたしましてです。起こすくらいどうってことありません。お兄ちゃんのこと大好きですから。それより早く下に行きましょう。おばあちゃん特製のカレーが冷めちゃいます。私も野菜切ったりお手伝いしたんですよ」

「そうか、そうか。慈愛ちゃんはほんと偉いな」

綺麗な銀髪をぽんぽんと撫でてから、妹の後を追って階段を下りる。
キッチンに向かう途中で美味しそうなカレーの匂いが漂ってきた。

「どうだい、美味しいけ?」

「ん、ああ。美味いよ。何かこのカレー久しぶりに食った気がするわ」

「慈愛ちゃんも手伝ってくれたんだぜ」

「それさっき聞いた」

本日は歌姉不在で三人での晩御飯となった。
ばあちゃんは決まって食事中にTVを点けては歌姉が出演している番組を探している。
うちの姉は毎日欠かさず何かしらの番組には映ってるから、あまり寂しいと感じたことはない。流石、人気のアイドルなだけはある。

「歌お姉ちゃん、芸人の人とコンビで漫才やってます」

「すごいねぇ。あの子、私の娘何だよ」

「それ、俺に自慢したって仕方ないだろ」

「お兄ちゃん、あの人私のお姉ちゃんです」

「知ってるよ。同時に俺の姉でもある」

ばあちゃんの真似をしてみたつもりなのか、慈愛ちゃんまでもが得意気に当然の事実を俺相手に自慢する。血は繋がっていないものの、子供が親の背中を見て成長するというのは強ち間違っていないんじゃないかと思うね。

「慈愛ちゃん、ちょっとこっち向いてみ」

「はい、何ですか?」

日影は隣の椅子に腰掛ける妹の顔を覗き込んで口元が汚れていると気付いた。

「カレー付いてるぞ。まったく……可愛い奴め」

日影が慈愛の口元を拭ってやっている微笑ましい兄妹の姿を見て、光子が呟いた。

「二人は本当に仲が良いねぇ。見てるだけで癒されるよ。慈愛ちゃん、優しいお兄ちゃんで良かったね」

「はい。お兄ちゃんはいつも優しいです」

二人にお褒めの言葉を頂いた日影が満更でもなさそうにニヤニヤしていると、慈愛が買って貰ったばかりのスマホを取り出し、保存した写真を兄へ見せた。

「お兄ちゃんが眠っている写真こっそり撮っちゃいました。これ待ち受けにしても良いですか?」

自分の眠っている顔何か生まれて初めて見たかもしれない。
妹のスマホ画面に映る男(木ノ下日影)は口を半開きにしてアホ面を晒していた。
ヨダレを垂らしていないだけマシか。

「待ち受けだけはやめてくれ。俺が恥ずい」

「え~。ずるいです。お兄ちゃんの携帯の待ち受けは誰の写真でしたっけ」

日影のスマホの待ち受け画面にはもちろん可愛い妹の姿が映っている。
今まで何枚も撮りためた慈愛コレクションの中でも至高の一枚を待ち受けに設定しているのだ。
兄は堂々と、包み隠さず丁寧に言った。

「慈愛様でございます」

「なら、これでおあいこです。私もお兄ちゃんを待ち受けにします」

日影が妹を待ち受けにしている理由はおじいちゃんやおばあちゃんが孫の写真を待ち受けにする理由とだいぶ近い。
何時如何なる時も共に居たいという気持ちの表れだろう。
おあいこと言われてしまえば、無理に拒むことなど出来る筈もない。

…………あ、そういえば。

お腹がいっぱいに満たされて、自分の部屋に戻って来て、求人雑誌を見て思い出した。

今日の面接すっかり忘れてたよ。





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