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第三十六話(慈愛を可愛がる会)

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今日は11月15日。七五三。子供の成長を祝う日だ。晴れ着着て、神社行って、お詣りして、写真撮って、千歳飴を美味しく頂く。
ウチの妹は9歳だがそんなの関係ない。
本作の主人公、木ノ下日影は最寄りのスーパーによると、一目散に千歳飴を手に取りレジへ向かった。
千歳飴を嬉しそうに舐める慈愛ちゃんを想像するだけで自然と顔がニヤけてしまう。
レジ担当のおばちゃんが気味悪そうに日影を見つめていた。

「よっ。慈愛ちゃん。おつかれ」

「お疲れ様です。お兄ちゃん。待ってました」

日影は今日も可愛くて堪らない妹を迎えに校門まで足を運んだ。
千歳飴の入ったレジ袋を片手にぶら下げて。

「悪いな。ちょっとスーパー寄ってて少し遅くなった」

「平気です。何か買ったんですか?」

「おう。慈愛ちゃんにプレゼントをな」

そう言って日影は袋から取り出した千歳飴を慈愛に手渡した。

「千歳飴だ。今日七五三だろ」

「わあ~。この飴懐かしいです。三歳の頃お母さんに買って貰いました。お兄ちゃん、ありがとうございます」

「良いって、良いって。慈愛ちゃんは三歳の頃、神社とか行ったの?」

「はい。行きました。写真撮影もしたと思います」

「そっか。じゃあ今年はお兄ちゃんと一緒に写真撮ろうな。二人で」

慈愛は兄がいきなり口にした言葉を暫く理解出来ず、ぽかんとしていた。

「あの、お兄ちゃん。私九歳児ですよ。来年は十歳になります。七五三を祝うような歳ではありません」

慈愛が最もなことを口にするが、日影は聞く耳を持たない。兄は妹の小さく可愛いらしい手を握って、いきなり駆け出した。

「さあ、慈愛ちゃん。着物着せてあげるから服脱いで」

慈愛の手を取ってダッシュで帰宅。
帰ってくるなり日影がそんなことを言い出した。

「お兄ちゃんが着せてくれるんですか。というか着物何て家にあったんですね。もしかして歌お姉ちゃんのおさがりでしょうか?」

慈愛が疑問を兄へ尋ねてみれば、返ってきたのはすぐには信じられない様な意外な言葉だった。

「買ったんだよ。慈愛ちゃんにどうしても着せたかったからな。これ着て一緒に神社にお参り行こうぜ」

日影が慈愛の眼前に持ってきたのは水色をベースとした花柄の綺麗な着物だ。
それを見た慈愛は一目で気に入ったようで、視線が着物に釘付けになっていた。

「どうだ。気に入ってくれたか?」

「可愛いですね。お兄ちゃん、ありがとうございます。……でも、お金大丈夫だったんですか?こういう着物って高いんですよね?」

「だだ、大丈夫だ……。ローンで何とかなる」

日影は慈愛に、着物にどのくらいの金額がかかったのか教えることを避けた。

二十万以上した何て口を滑らせれば、遠慮されて折角買った着物を着て貰えないだろうからな。

「さあさあ慈愛ちゃん。服脱ぎ脱ぎしましょうね」

「お兄ちゃんの前で脱ぐんですか?何か恥ずいです」

その台詞を聞いて日影は思った。
何を今更気にすることがあるのかと。
すでに一緒にお風呂に入って、お互いの生まれたままの姿を拝見済みだというのに。
この子は裸を見られるより、下着姿を見られる方が恥ずかしいってか。

「じょ、冗談だろ?」

「冗談です。私はそういう感情に疎いので、男の人に下着姿を見られようが何とも思いません。それに私達は兄妹です。何を気にすることがあるんですか?」

「じ、慈愛ちゃんが言ったんじゃないか。恥ずかしいって」

「恥ずかしかったのはお兄ちゃんの台詞です。何ですか、脱ぎ脱ぎって」

「悪い。妹の着替えを手伝えるのは兄の特権かと……」

兄が多少残念そうな表情で落ち込んでいると、慈愛は上着を脱ぎ始め、続いてスカートを脱いだ。

「お兄ちゃんが私の為に買ってくれた着物です。着せて下さい。着てみたいんです」

妹に可愛くお願いされた途端、日影は完全に元気を取り戻した。
ネットで得た知識を元に何度か苦戦や失敗を繰り返しながらも、二十分くらいかけてやっと慈愛に着物を着せ終わった。
九歳という歳で七五三というのも慈愛的には複雑だったが、これはこれで悪くない。何より兄が喜んでくれたのが一番だ。
ただ、同級生に着物姿を見られたら笑われるかも知れない。それだけが唯一の不安要素であった。

「ど、どうですか?似合ってますか?」

「すっげぇ似合ってる。流石は俺の妹だな。可愛ええ」

日影はうんうんと何度も頷いた後、暫くの間舐め回すように着物姿の慈愛に視線を送っていた。
妹は兄に褒められ、ガン見され顔を紅潮させる。

「あまりじろじろ見られると流石に恥ずいです」

「そっか。可愛いからついな。さて、それじゃ神社にお参りにでも行きますか」

「ちょっと待って下さい」

妹の手を取って神社に出向こうとする兄の動きを止めたのは慈愛の声だった。
視線を前にして歩き出した日影の体は当然のように慈愛の方へと向き直る。

「どうした慈愛ちゃん。千歳飴舐めてからが良いって?仕方がないなぁ」

「えと、そうじゃなくてですね……、この格好で外に出るのは勇気が要ります。普通九歳の子は七五三を祝いません。同級生の子に着物姿を見られでもしたら学校で噂話になりそうで怖いんです」

その台詞を聞いて、日影は転校前の学校で慈愛が虐めにあっていたことを思い出していた。
子供は案外残酷な生き物で、クラスメイトに対して虐めや暴力を平気で振るう。嫌がっている妹を無理やりに連れて行く程日影は鬼畜じゃない。

「そっか。分かった。少し残念な気もするけど、神社に行くのはやめておこうか」

「ごめんなさい。折角着物まで買って貰ったのに、我儘言っちゃいました」

「良いんだよ。その代わり、慈愛ちゃんの写真飽きるまで、俺の心が満ち足りるまで撮るからな。覚悟しておけよ」

日影はスマホとデジカメを両手に持って着物姿の慈愛を激写した。
スマホでパシャ。デジカメでパシャ。自撮りに役立つ棒を取り出してツーショット写真まで撮った。

「これ、俺の携帯の待ち受けにしとくわ」

「え、どうしてそれ何ですかっ!」

「何でって、可愛いからさ。千歳飴舐めてる慈愛ちゃんマジで萌えるわ」

千歳飴を口に咥えた子供らしさ溢れるのほほんとした慈愛の写真を待ち受けに設定した日影の顔は相変わらずにやけている。

「千歳飴舐めてる慈愛ちゃん、何かエロいね」

「ただ普通に舐めてるだけですよ。何処がエロいんです?」

「慈愛ちゃんはまだ子供だから知らなくて良いんだよ」

「お兄ちゃん、今の時代知りたいことは何でもこれ一つで調べられるんです。教えてくれないなら検索します」

「慈愛ちゃん、君にスマホを持たせたのはそんなアダルトな情報を検索する為じゃない。止めるんだ。まだ引き返せる」

兄は俊敏な動きで妹の手から半ば強引にスマホを取り上げると、その恐ろしい検索機を自分のポケットの中にしまった。

「お兄ちゃん酷いです。返してください」

「だーめ。慈愛ちゃんにはまだアダルトな知識を持つことは早すぎます。せめて高校生になるまで我慢しなさい」

「ならせめて、さっきの理由だけでも教えてください。どうして千歳飴舐めてるだけでエロいんですか。気になります」

「長細い食べ物を男の股間だと錯覚させることでエロく感じるんだ。バナナとかソーセージが主だな」

日影がそう説明してやると、滅多なことでは動じない慈愛が珍しく兄へ蔑むような視線を向けていた。

「お兄ちゃんが変態です。妹に欲情しちゃうお兄ちゃん変態です」

「ふ。何を今更。そんなことは言われなくたって自分で十分に分かってるさ」

日影は思い出した。そもそもの話、慈愛のスマホには18禁サイトへアクセスすることが出来ないよう設定がしてある。何も心配する必要は無かったのだと。

スマホを返して貰えて、慈愛もほっと一安心していた。

「ほら、慈愛ちゃん。遠慮は要らねぇ。千歳飴もっと舐めな」

「そんなエッチな豆知識聞いたばかりで、素直に舐めると思いますか?」

「慈愛ちゃんなら舐めるだろ。食いしん坊な慈愛ちゃんならね」

慈愛はすでに千歳飴を一本食べ終わっている。一袋に二本入っている飴は残り一本だ。
日影は新たに千歳飴を袋から取り出して、慈愛に差し出した。

「ぺろぺろしてごらん。美味しいぞ~」

「美味しいのは知ってます。ミルク味です」

「もう一本は苺ミルク味だぞ。舐めないで良いのかなぁ?慈愛ちゃんが要らないなら俺が」

「舐めます。ください」

妹が自分の買ってきた着物を着て千歳飴を美味しそうに舐める。
そんな微笑ましい姿を眺めているだけで、日影には目の保養になった一日だった。




































































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