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第三十七話(ルナの出所日がやってきた)
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(ああ、やっぱりね……)
やっとのこと刑期を終えて刑務所から解放されたルナ・ティアーズは塀の外に出れたというのに、さっそく溜息をこぼした。
ある事件が切っ掛けで喧嘩中である母親が自分を迎えに来てくれないとは何となく予想していたが、まさにその通り勘は的中した。因みに、こんな時頼れる親しい友達も0だったりする。
暫くの間、誰か自分に声をかけてくれる人物が現れるのを健気に立ち尽くして待っていたが、一時間近く待った所でとうとう諦め歩き出す。
帰る場所のない彼女の足取りはとてつもなく重かった。
幸いお金持ちの家系に生まれた為に親から貰えるお小遣いもそれなりで、貯金額は七桁を超えている。近場の漫喫に泊まろうか公園で一夜を明かすか究極の二択で頭を悩ませていた所「ルナ!」と下の名前を気安く呼ぶ聞き慣れた男の声を鼓膜が察知した。
「ひーくん……あり、がとう。ほんとーに、ありがとう……」
大好きな人が迎えに来てくれた嬉しさに感極まったのか、彼の顔を見た途端えぐえぐと涙を流すルナに日影は少々あわあわとどうしたら良いのか困り果てていた。
己の眼前で泣きじゃくる外国産のお嬢さんは、あらかじめ録音されていた音声のように何度も同じ言葉を繰り返し発声していらっしゃる。
「本日何度目の「ありがとう」だよ?嬉しいのか悲しいのかどっち何だ?そこははっきりしてもらわんと遥々リムジンでお迎えに来た執事も音を上げるぞ」
「へ……、執事?リムジン?」
ルナの問いに日影はバツが悪そうな顔をした。
「ああ……、いや、本気にすんなよ。そんな高級車俺が乗ってる筈がねえだろ。全部口からでまかせだ。言葉の綾だよ。お前みたいなお嬢様にはちぃと窮屈だろうが、軽自動車で我慢しろ」
日影が正直に白状すると、ルナは泣いていたことなど忘れて心から笑った。
女の子の涙に滅法弱い彼が毎回のように慰めようと冗談めいた言葉を紡ぐのは癖……というか、本質なのだろう。
ルナは久しぶりに日影の優しさに触れて幸せそうな顔をしている。
金髪少女は一頻り十分に笑ったあとで目の前の紳士にお礼を告げた。
「ありがとう、ひーくん。あたしを笑顔にしたくて、そんな嘘付いてくれたんだよね。嬉しいな」
「嘘じゃねぇよ。冗談だ。つうか、お前、また「ありがとう」かよ。俺は今日一日で一生分のお礼を言われた気分だ」
「別に良いじゃない。お礼は何度言われても不快な気持ちにはならないでしょ」
「ま、そうかもな。それよりそろそろ行こうぜ。どうせ、帰る場所無いんだろ?」
「どうせとか、酷いなぁ~。喜ばせておいて悲しませるのはどうかと思うよ。……行くって、何処に?」
日影の意味深な言葉にルナが?マークを浮かべながら尋ねると、彼は当然のようにきっぱりと言い切った。
「俺ん家だよ。俺ん家。暫くの間泊めてやるよ。ルナが母親と仲直り出来るまでな」
刑務所から車で三十分程走った先に木ノ下家はある。そこは確かにルナが家庭教師代行の奉仕作業で訪れた場所だった。
此処に到着するまでのドライブで日影に聞かされた話は家族の内容で、妹の慈愛は学校のお友達とお泊まり会。姉の歌は全国ライブ。親代わりである光子は社員旅行。
という訳でありまして、現在我が家には日影君しかおりません。正直に打ち明けてしまえば、広いお家の中ひとりぼっちで寂しい思いをしていた。
「なあ、ルナ。俺に何かして欲しいお願いはないか?久しぶりのシャバだもんな。三つまでなら何でも言うこと聞いてやるぞ」
「えっ、良いの!?……ええっと、ええっと……、それじゃあねぇ……」
色々と悩んだ末、ルナが一つ目に笑顔でお願いしたのは久しぶりの「一緒にお風呂」だった。
「……確かに何でも聞いてやるとはいいましたが、この状況は何だ?木ノ下家の風呂で混浴をOKした覚えはない」
木ノ下家の広い風呂釜の中、二人は肩を寄せ合う形で温かなお湯に浸かっていた。
通常の家庭よりは倍くらいに大きな風呂を楽しめるのも、全て人気アイドルとして名を馳せた姉のおかげである。
「えー。別に良いじゃん。どうせひーくんはえっちだから、毎日慈愛たんとお風呂してるんでしょ。妹の成長がどうのとかってどうでもいい理由付けたりしてさ」
「してねーよ。勝手に決めつけるのはよくないぞ。つうか慈愛ちゃんと風呂に入ってたのは刑務所の中だけで、こっちに帰ってきてからは一度もご一緒してないからな」
「へー。ほー。ふーん」
ルナは「そんな話信じられるか」とでも言いたげにテキトーな相槌を打っている。
というか、妹とお風呂して何が悪い?
何度もくどく言う様で申し訳ないが「あれは俺の妹だから」な。
こんな台詞を慈愛ちゃんの前で吐こうものなら「お兄ちゃんに「あれ」呼ばわりされました」と拗ねてしまうだろうよ。心の中限定で呟いたので何も問題はない。
「そこまで疑うなら慈愛ちゃんに直接聞いてみればいい。「お兄ちゃんとのスキンシップは日常茶飯事ですが、一緒にお風呂は入ってないです。添い寝と抱っこは毎日のようにされています」と包み隠さず答えてくれるさ」
「添い寝と抱っこを毎日!?お風呂入ってるのは認めないのにそっちは白状するんだ!」
「ま、一緒にお風呂の方は事実無根だが、そっちは紛れもなく事実だからな」
「慈愛たん、ずるいっ!あたしもひーくんと添い寝したい!抱っこされたい~!」
「うわっ、うるせ。耳元で騒ぐなよ。……添い寝何か数え切れない程刑務所の中でしてただろ。お姫様抱っこだってしてやった記憶がある」
「そ、それは……そうかもだけど……」
ルナが今更変えようのない人生にため息を零してからすぐに、こんな欲望を呟いた。
「あーあ。あたしもひーくんの妹だったら良かったのになぁ」
「お前、それ本気で言ってんのか?」
「うん。だって妹ならひーくんお兄ちゃんに可愛がって貰えるんでしょ?」
そう上目遣いで尋ねてくるルナの顔は火照っていて、ほんの少しだけ色っぽく感じる。
恥じらってるのかのぼせてるのかよく分からん表情だ。
「そりゃ勿論。ルナは可愛いし金髪ツインテールの外人さんが妹とか友達に自慢出来るしな」
「ほんとっ!?ならあたし、今日からひーくんの妹になる!」
「ならって、お前……」
「ねぇ、良いでしょ。一日だけでも大丈夫だから、あたしをほんとーの妹だって思って接してよー。ね?ひか兄」
「ひ、ひか兄!?」
おお……、何かよく分からんが、その呼び方は新鮮でかなりの破壊力があるな。
生まれた国の異なる俺達が兄妹ってのも無理がある話だが、親同士の再婚という設定ならあり得なくもないのか。
ルナの身長は同い年の女子と比べたら低めの方だし、一つ違いくらいには普通に見える。
慈愛ちゃんという可愛い過ぎるリアル妹がいながら、一瞬気持ちが揺らぎそうになっちまったよ。
(…………まあ、一日だけならいっか)
幸い、本日リアル妹の慈愛ちゃんはお友達のお家でお泊まり会だ。俺がルナといちゃいちゃ兄妹ごっこをしたところでその行為がバレることはない。
三つまでお願いを聞いてやると約束してしまった以上、断り辛いってのが正直な気持ちではあるが……。
「わ、分かった。一日だけだぞ」
「やったー。ひーくんありがとう」
「お前は俺の妹になって何をして欲しいんだ。慈愛ちゃんと同じように接すれば良いのか?」
「えっとね、えっと、えっとぉ…………」
暫くの間思考を巡らして唸っていたルナだったが、それはやがて沈黙を貫いて……、
「……ん、ルナ?」
ルナの頭部が日影の肩にこつんと当たった。
刑務所からやっとのこと出所できて気が抜けたのか、昨日夜更かししたのかは知らないが、どうやらお疲れのご様子だ。
肩をソフトに揺すってみても起き出す気配はない。
「ーーやれやれだな」
日影はルナとの兄妹ごっこを意外にも楽しみにしていたのか、眠っている少女の体を残念そうな表情で掬い上げ風呂を後にした。
************************
「……あ、あれ……此処は、何処?あたしは……」
「あたしは誰?とかありふれた台詞言うつもりじゃないだろうな。此処は木ノ下日影の自宅の中。俺の部屋だ」
ルナが目覚めたのは日影の部屋のベッドの上。窓から差し込む太陽の光が眩しい。
「えっと、あれれ、 確か、ひーくんと一緒にお風呂に入って……それからどうしたんだっけ?何故かその辺りから記憶が飛んでて全然憶えてない……」
「そりゃ当然だろ。ルナはお湯に浸かりながらいつの間にか寝ちゃってたんだからな」
「そう……だった、の?何かよく思い出せないかも。ひーくんとお話ししてたのは覚えてるんだけど、その話の肝心の内容が……」
「無理すんな。特に大切な話はしていないし、態々頭を巡らせてまで思い出す必要は皆無だから。うん……」
ルナは俺の妹になりたいとかアホな台詞を発言したことなど微塵も記憶に無いようだ。
こっちから一々説明してやるのも憚られるような内容だし、馬鹿らしいから黙っておこう。
兄妹ごっことか、慈愛ちゃんという可愛い妹が居るというのに浮気はいかんよな。
「つうかさ、昨日はいきなり寝ちまうもんだからビックリしたぞ。刑務所での最後の夜は消灯時間になっても眠れなかったのか?」
日影が率直に尋ねると、ルナもありのままに正直に返答する。
その表情は俯き加減で暗くしょんぼりしているように感じた。
「あたし何かを誰かが迎えに来てくれるのかなって……、ママとは喧嘩してるし絶対に来ない、友達何か作ったことない。色々考えたら不安になって、気付いたらそんなマイナスなことばっかりが頭の中に浮かんでた。ようやく夢の中に入れたのは明け方に近い頃だったかな」
「居るだろ。ルナに友達」
「……へ?」
「俺は友達じゃないのかよ。俺が別れ際に伝えた言葉忘れちまったのか?ルナが出所する日が来たら教えてくれって言った筈だぞ」
「もちろん憶えてたよ。あたしがこれからも頑張ろうって思えた嬉しい言葉だったもん」
「じゃあ、どうしてーー」
「だってだって、そんなこと伝えた所でまさかお迎えに来てくれる何て思わないし、態々刑務所まで出向いてもらうのも迷惑かなって…………友達って言っても、ひーくんは他人だし」
ルナが最後にぼそっと呟いた一言をしっかりと捉えた俺は少々腹が立った。
俺達は確かに他人かも知れないけれど、家族と同等以上の時を共に過ごしてきた仲だ。
こっちは一度もそんな風に思った日はねぇよ。
日影の放ったデコピンを食らったマイナス思考で物分かりの悪い小娘が「あぅ」と小さく悲鳴を上げる。
「ルナは馬鹿だな。俺が伝えろって言ったのは迎えに行くからって意味だろ。そのくらい元相棒なら分かれよ。察しろよ。他人とか二度とそんな釣れない台詞吐くなよな。次は本気で小突くぞ。……自分勝手な理屈かもしれないけどさ、俺はルナのこと本当の家族みたいだって思ってるんだからな」
デコピンが予想以上に痛かったのか、はたまた日影の優しい言葉が胸に刺さって感動したのか、ルナは涙を溢れさせた。
どうか後者の方であって欲しいと心から願う。何だか俺が泣かしたみたいで後味が悪い。
ルナがこんな調子では、彼女の携帯に掛かってきた母親からの言伝を発表するのは幾許か時間を置いた方が得策だろう。
絶対に迎えに来てくれない何て嘆いてはいたが、そもそも出所する日を伝えていないお前が悪い。
俺はつるぎから手紙を貰って知ってはいたが、最初から決めつけるのはよくないぞ。
お母さん、ルナに帰ってきて欲しいってさ。
良かったな。ちゃんと心配してくれてたんじゃねぇか。
代わりに電話を取ったのはこっちも悪かったけど、それはルナが中々起きないのが悪いんだぞ。
やっとのこと刑期を終えて刑務所から解放されたルナ・ティアーズは塀の外に出れたというのに、さっそく溜息をこぼした。
ある事件が切っ掛けで喧嘩中である母親が自分を迎えに来てくれないとは何となく予想していたが、まさにその通り勘は的中した。因みに、こんな時頼れる親しい友達も0だったりする。
暫くの間、誰か自分に声をかけてくれる人物が現れるのを健気に立ち尽くして待っていたが、一時間近く待った所でとうとう諦め歩き出す。
帰る場所のない彼女の足取りはとてつもなく重かった。
幸いお金持ちの家系に生まれた為に親から貰えるお小遣いもそれなりで、貯金額は七桁を超えている。近場の漫喫に泊まろうか公園で一夜を明かすか究極の二択で頭を悩ませていた所「ルナ!」と下の名前を気安く呼ぶ聞き慣れた男の声を鼓膜が察知した。
「ひーくん……あり、がとう。ほんとーに、ありがとう……」
大好きな人が迎えに来てくれた嬉しさに感極まったのか、彼の顔を見た途端えぐえぐと涙を流すルナに日影は少々あわあわとどうしたら良いのか困り果てていた。
己の眼前で泣きじゃくる外国産のお嬢さんは、あらかじめ録音されていた音声のように何度も同じ言葉を繰り返し発声していらっしゃる。
「本日何度目の「ありがとう」だよ?嬉しいのか悲しいのかどっち何だ?そこははっきりしてもらわんと遥々リムジンでお迎えに来た執事も音を上げるぞ」
「へ……、執事?リムジン?」
ルナの問いに日影はバツが悪そうな顔をした。
「ああ……、いや、本気にすんなよ。そんな高級車俺が乗ってる筈がねえだろ。全部口からでまかせだ。言葉の綾だよ。お前みたいなお嬢様にはちぃと窮屈だろうが、軽自動車で我慢しろ」
日影が正直に白状すると、ルナは泣いていたことなど忘れて心から笑った。
女の子の涙に滅法弱い彼が毎回のように慰めようと冗談めいた言葉を紡ぐのは癖……というか、本質なのだろう。
ルナは久しぶりに日影の優しさに触れて幸せそうな顔をしている。
金髪少女は一頻り十分に笑ったあとで目の前の紳士にお礼を告げた。
「ありがとう、ひーくん。あたしを笑顔にしたくて、そんな嘘付いてくれたんだよね。嬉しいな」
「嘘じゃねぇよ。冗談だ。つうか、お前、また「ありがとう」かよ。俺は今日一日で一生分のお礼を言われた気分だ」
「別に良いじゃない。お礼は何度言われても不快な気持ちにはならないでしょ」
「ま、そうかもな。それよりそろそろ行こうぜ。どうせ、帰る場所無いんだろ?」
「どうせとか、酷いなぁ~。喜ばせておいて悲しませるのはどうかと思うよ。……行くって、何処に?」
日影の意味深な言葉にルナが?マークを浮かべながら尋ねると、彼は当然のようにきっぱりと言い切った。
「俺ん家だよ。俺ん家。暫くの間泊めてやるよ。ルナが母親と仲直り出来るまでな」
刑務所から車で三十分程走った先に木ノ下家はある。そこは確かにルナが家庭教師代行の奉仕作業で訪れた場所だった。
此処に到着するまでのドライブで日影に聞かされた話は家族の内容で、妹の慈愛は学校のお友達とお泊まり会。姉の歌は全国ライブ。親代わりである光子は社員旅行。
という訳でありまして、現在我が家には日影君しかおりません。正直に打ち明けてしまえば、広いお家の中ひとりぼっちで寂しい思いをしていた。
「なあ、ルナ。俺に何かして欲しいお願いはないか?久しぶりのシャバだもんな。三つまでなら何でも言うこと聞いてやるぞ」
「えっ、良いの!?……ええっと、ええっと……、それじゃあねぇ……」
色々と悩んだ末、ルナが一つ目に笑顔でお願いしたのは久しぶりの「一緒にお風呂」だった。
「……確かに何でも聞いてやるとはいいましたが、この状況は何だ?木ノ下家の風呂で混浴をOKした覚えはない」
木ノ下家の広い風呂釜の中、二人は肩を寄せ合う形で温かなお湯に浸かっていた。
通常の家庭よりは倍くらいに大きな風呂を楽しめるのも、全て人気アイドルとして名を馳せた姉のおかげである。
「えー。別に良いじゃん。どうせひーくんはえっちだから、毎日慈愛たんとお風呂してるんでしょ。妹の成長がどうのとかってどうでもいい理由付けたりしてさ」
「してねーよ。勝手に決めつけるのはよくないぞ。つうか慈愛ちゃんと風呂に入ってたのは刑務所の中だけで、こっちに帰ってきてからは一度もご一緒してないからな」
「へー。ほー。ふーん」
ルナは「そんな話信じられるか」とでも言いたげにテキトーな相槌を打っている。
というか、妹とお風呂して何が悪い?
何度もくどく言う様で申し訳ないが「あれは俺の妹だから」な。
こんな台詞を慈愛ちゃんの前で吐こうものなら「お兄ちゃんに「あれ」呼ばわりされました」と拗ねてしまうだろうよ。心の中限定で呟いたので何も問題はない。
「そこまで疑うなら慈愛ちゃんに直接聞いてみればいい。「お兄ちゃんとのスキンシップは日常茶飯事ですが、一緒にお風呂は入ってないです。添い寝と抱っこは毎日のようにされています」と包み隠さず答えてくれるさ」
「添い寝と抱っこを毎日!?お風呂入ってるのは認めないのにそっちは白状するんだ!」
「ま、一緒にお風呂の方は事実無根だが、そっちは紛れもなく事実だからな」
「慈愛たん、ずるいっ!あたしもひーくんと添い寝したい!抱っこされたい~!」
「うわっ、うるせ。耳元で騒ぐなよ。……添い寝何か数え切れない程刑務所の中でしてただろ。お姫様抱っこだってしてやった記憶がある」
「そ、それは……そうかもだけど……」
ルナが今更変えようのない人生にため息を零してからすぐに、こんな欲望を呟いた。
「あーあ。あたしもひーくんの妹だったら良かったのになぁ」
「お前、それ本気で言ってんのか?」
「うん。だって妹ならひーくんお兄ちゃんに可愛がって貰えるんでしょ?」
そう上目遣いで尋ねてくるルナの顔は火照っていて、ほんの少しだけ色っぽく感じる。
恥じらってるのかのぼせてるのかよく分からん表情だ。
「そりゃ勿論。ルナは可愛いし金髪ツインテールの外人さんが妹とか友達に自慢出来るしな」
「ほんとっ!?ならあたし、今日からひーくんの妹になる!」
「ならって、お前……」
「ねぇ、良いでしょ。一日だけでも大丈夫だから、あたしをほんとーの妹だって思って接してよー。ね?ひか兄」
「ひ、ひか兄!?」
おお……、何かよく分からんが、その呼び方は新鮮でかなりの破壊力があるな。
生まれた国の異なる俺達が兄妹ってのも無理がある話だが、親同士の再婚という設定ならあり得なくもないのか。
ルナの身長は同い年の女子と比べたら低めの方だし、一つ違いくらいには普通に見える。
慈愛ちゃんという可愛い過ぎるリアル妹がいながら、一瞬気持ちが揺らぎそうになっちまったよ。
(…………まあ、一日だけならいっか)
幸い、本日リアル妹の慈愛ちゃんはお友達のお家でお泊まり会だ。俺がルナといちゃいちゃ兄妹ごっこをしたところでその行為がバレることはない。
三つまでお願いを聞いてやると約束してしまった以上、断り辛いってのが正直な気持ちではあるが……。
「わ、分かった。一日だけだぞ」
「やったー。ひーくんありがとう」
「お前は俺の妹になって何をして欲しいんだ。慈愛ちゃんと同じように接すれば良いのか?」
「えっとね、えっと、えっとぉ…………」
暫くの間思考を巡らして唸っていたルナだったが、それはやがて沈黙を貫いて……、
「……ん、ルナ?」
ルナの頭部が日影の肩にこつんと当たった。
刑務所からやっとのこと出所できて気が抜けたのか、昨日夜更かししたのかは知らないが、どうやらお疲れのご様子だ。
肩をソフトに揺すってみても起き出す気配はない。
「ーーやれやれだな」
日影はルナとの兄妹ごっこを意外にも楽しみにしていたのか、眠っている少女の体を残念そうな表情で掬い上げ風呂を後にした。
************************
「……あ、あれ……此処は、何処?あたしは……」
「あたしは誰?とかありふれた台詞言うつもりじゃないだろうな。此処は木ノ下日影の自宅の中。俺の部屋だ」
ルナが目覚めたのは日影の部屋のベッドの上。窓から差し込む太陽の光が眩しい。
「えっと、あれれ、 確か、ひーくんと一緒にお風呂に入って……それからどうしたんだっけ?何故かその辺りから記憶が飛んでて全然憶えてない……」
「そりゃ当然だろ。ルナはお湯に浸かりながらいつの間にか寝ちゃってたんだからな」
「そう……だった、の?何かよく思い出せないかも。ひーくんとお話ししてたのは覚えてるんだけど、その話の肝心の内容が……」
「無理すんな。特に大切な話はしていないし、態々頭を巡らせてまで思い出す必要は皆無だから。うん……」
ルナは俺の妹になりたいとかアホな台詞を発言したことなど微塵も記憶に無いようだ。
こっちから一々説明してやるのも憚られるような内容だし、馬鹿らしいから黙っておこう。
兄妹ごっことか、慈愛ちゃんという可愛い妹が居るというのに浮気はいかんよな。
「つうかさ、昨日はいきなり寝ちまうもんだからビックリしたぞ。刑務所での最後の夜は消灯時間になっても眠れなかったのか?」
日影が率直に尋ねると、ルナもありのままに正直に返答する。
その表情は俯き加減で暗くしょんぼりしているように感じた。
「あたし何かを誰かが迎えに来てくれるのかなって……、ママとは喧嘩してるし絶対に来ない、友達何か作ったことない。色々考えたら不安になって、気付いたらそんなマイナスなことばっかりが頭の中に浮かんでた。ようやく夢の中に入れたのは明け方に近い頃だったかな」
「居るだろ。ルナに友達」
「……へ?」
「俺は友達じゃないのかよ。俺が別れ際に伝えた言葉忘れちまったのか?ルナが出所する日が来たら教えてくれって言った筈だぞ」
「もちろん憶えてたよ。あたしがこれからも頑張ろうって思えた嬉しい言葉だったもん」
「じゃあ、どうしてーー」
「だってだって、そんなこと伝えた所でまさかお迎えに来てくれる何て思わないし、態々刑務所まで出向いてもらうのも迷惑かなって…………友達って言っても、ひーくんは他人だし」
ルナが最後にぼそっと呟いた一言をしっかりと捉えた俺は少々腹が立った。
俺達は確かに他人かも知れないけれど、家族と同等以上の時を共に過ごしてきた仲だ。
こっちは一度もそんな風に思った日はねぇよ。
日影の放ったデコピンを食らったマイナス思考で物分かりの悪い小娘が「あぅ」と小さく悲鳴を上げる。
「ルナは馬鹿だな。俺が伝えろって言ったのは迎えに行くからって意味だろ。そのくらい元相棒なら分かれよ。察しろよ。他人とか二度とそんな釣れない台詞吐くなよな。次は本気で小突くぞ。……自分勝手な理屈かもしれないけどさ、俺はルナのこと本当の家族みたいだって思ってるんだからな」
デコピンが予想以上に痛かったのか、はたまた日影の優しい言葉が胸に刺さって感動したのか、ルナは涙を溢れさせた。
どうか後者の方であって欲しいと心から願う。何だか俺が泣かしたみたいで後味が悪い。
ルナがこんな調子では、彼女の携帯に掛かってきた母親からの言伝を発表するのは幾許か時間を置いた方が得策だろう。
絶対に迎えに来てくれない何て嘆いてはいたが、そもそも出所する日を伝えていないお前が悪い。
俺はつるぎから手紙を貰って知ってはいたが、最初から決めつけるのはよくないぞ。
お母さん、ルナに帰ってきて欲しいってさ。
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