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SAKAHAKU

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第三十九話(クリスマスイブ)

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今日はクリスマスイヴ。という日らしいです。

いよいよサンタクロースが子供達にプレゼントを届けてくれる聖夜となった。
いつもは仕事ばかりの毎日で中々早くは帰宅できない歌や光子も、ケーキやチキンを買って夕飯前には自宅にいた。
リビングにある長テーブルの上にはクリスマス用のごちそうが種類豊富に並んでいる。ケーキにチキンに巻き寿司。グラタンにピザにシャンパン。慈愛はフォークとスプーンを両手に握ってキラキラワクワクした瞳を向けていた。

可愛らしい銀髪頭には姉が買ってきたサンタクロースとお揃いの帽子がちょこんと乗っている。

「クリスマスイヴってごちそうが一杯食べられる日だったんですね。知りませんでした。感激です」

「慈愛ちゃん、サンタ帽似合ってる!かーわいい!」

自分が買ってきたサンタ帽を被る慈愛にきゅんとしていた姉が我慢出来ずに妹の後ろから抱きついた。

「似合ってますか?自分ではよく分かりませんが、歌お姉ちゃんが喜んでくれたなら私も嬉しいです」

「ごちそう食べる前に皆で写真撮ろうか。慈愛ちゃんとお姉ちゃんとお婆ちゃんの三人で」

「三人、ですか?お兄ちゃんが帰って来るまで待たないんですか?」

慈愛は美味しそうなごちそう達に目を奪われていながらも、未だアルバイトから帰って来ない兄のことを心配していた。

もうすぐで十九時です。お兄ちゃんどうしたんでしょう。今日は一緒にクリスマスしようって約束したのに……。

「ああ、ひかくんなら帰りは遅くなるからってさっき電話あったぜ。晩御飯は三人で食べてってさ」

「へっ……」

光子の台詞に驚いて目を丸くする。
家族全員揃ってのクリスマスを楽しみにしていた慈愛からしたら、それは残念な知らせでしかない。

(アルバイトが忙しいなら、仕方ないですよね。お仕事中のお兄ちゃんに我儘は言えないです)

「日影、彼女とデートするって言ってたよ。クリスマスデートとか生意気ね」

「おっ、お兄ちゃんに彼女さんが居たんですかっ!?」

歌が何気無く口にした唐突な台詞に、慈愛は驚愕した。

「らしいね。あたしも今日初めて知ったよ。どんな子何だろうね」

「お兄ちゃん、酷いです……今日は一緒にクリスマスしようって約束してたのに彼女さんとデートに行く何て……」

いつもおとなしく温厚な慈愛が珍しく焼き餅を焼いている。

お兄ちゃんの馬鹿。もう知りません。帰って来ても口聞いてあげないです。

膨れっ面でご機嫌斜めな妹を見て、歌はグラスに注いだシャンパンを手渡した。

「まあまあ、慈愛ちゃん。日影何ていなくてもお姉ちゃんとお婆ちゃんが居るんだからそれで十分でしょ。そんなに怒ってちゃ、可愛い顔が台無しだぞ」

「そうだぜ。いつも一緒に居るひかくんより、お仕事で忙しいばあちゃんと歌お姉ちゃんに慈愛ちゃんの可愛い顔見せて。ねっ?」

「……は、はい。ごめんなさい。おばあちゃん。お姉ちゃん」

日影欠席で始まったクリスマスの夕ご飯。
慈愛が兄に感じていたイライラも、三人で豪勢な料理を食べていたらいつの間にかほとんどゼロに薄まっていた。



************************



「悪いな、ルナ。折角のクリスマスに俺の用事何かに付き合わせちまって」

「ううん、あたしもひーくんとクリスマス一緒にいられて幸せだから。全然平気だよ」

日影がルナと訪れていた場所は自宅から徒歩で十分くらいの所にあるぬいぐるみ専門店。
もちろん此処に来た理由は妹が欲しがっていたプレゼントを購入する為だ。
本当は昨日の内に用意しておくつもりだったのだが、客が女子供ばかりで日影のような男が来店するには何だか場違いな気がしたし、羞恥心が勝った。

俺にはこの店に単独で入る勇気などない。

「なあルナ。慈愛ちゃんどのぬいぐるみプレゼントしたら喜ぶかな?」

日影は肝心なことを聞くのを忘れていた。
 一人で寝られるようにぬいぐるみが欲しいと言っていた妹だったが、具体的にどれが良いとか悪いとかは言ってなかった。

クマかな?ペンギンかな?それともタヌキ?

店の中には動物のぬいぐるみが棚の上に何種類も豊富に並んでいる。
うちの妹ならどれを抱かせても可愛さが引き立つだろうが、ルナが手にしていたのはイルカのぬいぐるみだった。

「これ可愛いよ!ねぇ、ひーくんはどう思う!」

「そう、だな……それもいいかも知れないけど、俺はあのデカイのが気に入った」

ルナが抱いている白と水色のボディのイルカ(通常)も中々にキュートだが、日影が更に目を惹かれたのは抱き枕くらいの大きさのシロイルカ(特大)のぬいぐるみだ。

あれなら抱いて寝るのにちょうど良さそうなサイズだな。

「うん。確かにこれも可愛いね。慈愛たんよりぬいぐるみの方が大っきいんじゃないかな」

「だなぁ……確かにこいつの方がデカイわ」

シロイルカ。全長140cm。
慈愛ちゃん。ジャスト130cm。

ーーまあ、10cmくらいそこまで変わらないか。

プレゼントを決断したのか、棚を小学生低学年一人分を占領しているシロイルカを日影は胸に抱えた。

「慈愛たんにそれあげるの?」

「ああ。これにするよ。どんな反応するか楽しみだ」

「二万五千円だって。高いね」

「…………へ、二万?」

二千円の間違いじゃなくて、二万円?
桁一つ間違っちゃいませんか?

俺の思っていたぬいぐるみの値段とは大違いだ。高くても三千円くらいまでかと……。
値札をちゃんと確認していなかった。

「ううむ……高いな。いや、高すぎだろ」

「買うの?買わないの?」

暫く隣で悩んでいた日影にルナが尋ねた。

「買うよ。慈愛ちゃんの喜ぶ顔が見たいからな。後それも」

「へっ、これも?二つあげるの?」

日影はルナが腕に抱えたイルカ(通常サイズ)を奪い取ると二つのぬいぐるみを持ってレジに向かった。

合計三万円越えである。バイト代貰ったばっかじゃなかったらきっと買えなかったな。

「ルナ、これプレゼント」

店の外で待っていてくれた金髪ツインテールさんに手渡したのはクリスマス用にラッピングして貰った小さい方のイルカだ。
日影からの突然のプレゼントに、ルナはぽかんと間抜けな顔をしている。

「……えと、どうしてあたしにも買ってくれたの?ひーくんから貰える物は何だって嬉しいけど、このイルカさんは今までの中で一番嬉しいかも」

「深い意味何て無いよ。買い物に付き合ってくれたお礼とルナの出所祝いも兼ねてみた。外の世界でもこうしてまた会えるのって、何だか嬉しいよな」

日影大好きなルナからしたら、涙が溢れて感動するくらいに嬉しい贈り物だ。
彼の優しさに久しぶりに触れたルナは、
「ありがとう、ひーくん!大好き!」
と周りにたくさんの人が居ることなど少しも気にせず、バカップル全開で抱きついていた。

 

************************



「すっかり遅くなっちまったな……」

ルナと買い物行って、レストラン行って、最後に家まで送って来た。
夜道を歩きながら時計を確認してみたら夜中の二十三時を回っていた。

(慈愛ちゃんには悪いことしちゃったよな……)

いくら内緒でクリスマスプレゼントを買いに行く為と言っても、大切な妹に嘘を付いた事実は一生消えない。

朝方にクリスマスを一緒に過ごそうと約束した時の、あの天使のような笑顔。思い出すだけで心が痛む。
歌姉とばあちゃんにはそれとなく誤魔化しておいてとは伝えておいたが、どうなったことやら。

(あれ……、誰か居るのかな?)

木ノ下家の庭まで辿り着いて、日影は二階にある自分の部屋の明かりが点いていることに気付いた。

歌姉もばあちゃんも明日は仕事だって聞いてるし、夜更かしはしない筈だ。

……もしかして、

(おお、やっぱり慈愛ちゃんか)

日影の部屋のベッドの上に体を倒して眠っているのは、すでにお風呂に入った後のパジャマ姿の妹。
兄の帰りを待っている内に眠くなってしまったのか、真冬の寒い中布団も被らないで寝転んでいる。

「お兄ちゃんの……ばか……嘘つき……」

妹の寝言に返す言葉もない。

日影は店でラッピングして貰ったプレゼント(シロイルカのぬいぐるみ)を腕に抱かせてやると、体の上から布団を被せてやった。

(……さて、俺は何処で寝れば良いかな)

慈愛を起こしてしまうのも悪い気がして、日影は隣で寝ることを避けた。
というか、特大サイズのプレゼントが邪魔をして、彼が横になれるスペースは埋め尽くされている。
日影が就寝場所に選んだのは部屋の中央に置いてあるコタツの中だ。

「お休み、慈愛ちゃん。今日は約束守れなくてごめんな」

それだけ呟いて、日影は部屋の明かりを消した。


************************



「あ、れ……私、寝ちゃって、た?」

窓から太陽の光が差し込んで、その眩しさに目を覚ました。

お兄ちゃんの帰りを待っていたらいつの間にか夢の中だったみたいです。

(…………これって、もしかして…………)

寝ぼけていた慈愛が腕に抱いていたプレゼントとコタツで眠っている兄の姿に気付いたのは、目覚めて数秒経過してからだった。

「お兄ちゃん、起きて下さい。朝ですよ」

「んんっ……慈愛、ちゃん?」

「はい。おはようございます」

妹に体を揺すられて眠りから目を覚ます。慈愛の腕には昨日の夜日影がぬいぐるみ店で購入した二万五千円のシロイルカが抱かれていた。

「昨日はごめんな、慈愛ちゃん。俺、約束守ってあげられなくて」

「もう良いんです。お兄ちゃんからのクリスマスプレゼントを見たら嬉しくて……怒ってたこと何てすぐに吹っ飛んじゃいました。ありがとうございます。イルカさん、可愛いです」

「いや、それはサンタさんからのプレゼントだ。俺にお礼の言葉は必要無いぞ」

兄の嘘を見破った慈愛は笑顔から打って変わってむすっとした表情を日影に向けた。

「どうしてそんな嘘付くんですか?」

「……へ、だって慈愛ちゃん、サンタさんにぬいぐるみが欲しいって手紙書いただろ」

「書いてないです。書こう書こうとは思っていたんですが、昨日まですっかり忘れていました。なので、このプレゼントをサンタさんから貰うとかあり得ないんです。それに、ぬいぐるみが欲しい何てお兄ちゃんにしか言ってないですから」

「……マジか」

「はい。マジです」

慈愛の言葉に観念したのか、日影はこくりと頷いて嘘を認める形となった。妹に二度目の嘘をかましたのだ。
心底怒らせてしまったかも知れないと内心びくびくしていたが、慈愛は笑顔で頬を赤らめながら日影を見ていた。

「このイルカさんのぬいぐるみ、お兄ちゃんからのプレゼントで合ってますよね」

「は、はい……左様ございます」

「えへへ。やっと認めてくれましたね。ありがとうです。とっても嬉しいです」

ぬいぐるみを抱きしめて嬉しそうにしている妹の姿に、日影はほっと安堵の息を吐く。

やっぱり慈愛ちゃんには怒った顔は似合わない。笑顔が一番だ。












































































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