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第四十話(ルナと慈愛の二人でお留守番)

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残り数日で新年を迎えようとしていた十二月の三十日。
刑務所から出所したばかりで間もない「ルナ」こと「ルナ・ティアーズ」は雪がちらちらと降る曇り空の下を一人笑顔で歩いていた。

「ひーくん、あたしのことが必要だ何て大胆だなぁ」

一体何の用だろう。

ルナは独り言を呟きながら目的地である木ノ下日影の自宅へ足を進める。
彼の妹である慈愛の部屋に来て欲しいとのことだったが、それ以上は何も説明されていない。
それでもルナは大好きな日影に会えるだけで胸が高鳴り、嬉しさを隠せない。自分が呼び出された理由など、案外どうでも良かった。

「おーい、ひーくーん。来たよー」

木ノ下さん家の庭に足を踏み入れ、本宅の手前に鎮座する離れの前まで移動し足を止めた。
ノックを二回してから、中に居る筈の日影の名を呼んでみる。
反応があったのは彼の声ではなく、

「ルナさん、お久しぶりです。出所おめでとうございます」

「久しぶり慈愛たん。ひーくんは?」

「お兄ちゃんなら居ないですよ。バイトに行ってます。お仕事中です」

「えっ、どういうこと?」

「ここにお兄ちゃんが書き残していた手紙があります。ルナさんに渡してと言伝されました」

慈愛が手に持っていたのは日影がルナ宛にと書いた手紙だ。
それを受け取って内容を確認してみれば、一日妹のお守りをお願いしたいと記されていた。現在木ノ下家には光子も姉も自分も居ない。妹LOVEの兄が一人お留守番をする慈愛ちゃんを心底心配してのお願いだった。

(……ひーくんの馬鹿)

ルナは日影に会うことを楽しみに木ノ下家へやって来た。

(本人が居なきゃ来た意味無いじゃない)

別に慈愛のことが嫌いな訳ではない。
ただ、最近日影に好かれ過ぎている妹となった慈愛には若干の焼きもちがあった。

「あの、その手紙には何て書いてあるんです?」

「慈愛たん、手紙の内容知らないんだ」

「はい。勝手に覗いては悪いかなと思いまして」

気になるなら途中で確認することだって出来た筈なのに、慈愛はそうしなかった。小学三年という幼い歳にしては対応がやけに大人びている。

「あたしに可愛い妹のお守りを頼みたいんだって。ふふ。慈愛たんってば、一人でお留守番出来ないんだね」

「そ、そんなことないです。一人でお留守番くらい出来ますよ」

「大丈夫、大丈夫。ルナお姉ちゃんが一緒にお留守番してあげるから何も怖くないよ」

「あの……、私の話聞いてましたか?」

慈愛の話では日影が帰って来る時間
は午後十七時。おおよそ日が暮れる時間帯だ。それまで何をして過ごしたら良いものか……。

そう考えながらも、ルナは掘りごたつの上に置いてあったリモコンに手を伸ばしテレビの電源を入れる。
画面に映ったのは警告マーク入りの「呪美」という怖い映画だった。

「あっ。これおもしろそー。慈愛たん暇だから二人でこれでも観ようよ」

「み、観たら「絶対に呪われる」って書いてあるじゃないですか。嫌です」

「あれ~、慈愛たんもしかして怖いのかなぁ?やっぱり子供何だね」

「怖くないです。呪われるのが嫌なだけです」

「こんなの観て呪われてる人がいたら、ニュースとか新聞で大騒ぎになってるよ。良いから一緒に観るよ」

そう言って半ば強引に慈愛の体を自分の膝の上に引き寄せて座らせると、逃げないように両腕をしっかりとお腹の辺りに回した。 
お互いの体温や鼓動が感じ取れそうなくらい密着した状態だ。

「慈愛たん、怖くても絶対に目閉じちゃダメだからね」

「ルナさんこそ、です。後ろから体を抱き締められたままでは顔が確認出来ません。ずるいです」

「慈愛たん震えてるね。やっぱり怖いんだ」

「こ、こわく……ないです。気のせいです……」

強がってみせた慈愛だったが、小さな体を抱きしめているルナにはばればれだ。肩を小刻みに震わせながらTVから目を離さないように頑張っている。
年相応な小さな胸に手を当ててみれば案の定ドキドキ、バクバクと鼓動が激しくなっていた。

「慈愛たん。胸の音が走った後みたいになってるよ。怖いなら我慢しないで良いのに」

「胸触らないでください。そこに触ることを許したのはお兄ちゃん一人だけです」

「何よ、その具体的な言い方。まるでひーくんに触られたことがあるみたいじゃない」

「ありますよ。初めて二人でお風呂に入った日ですね。体を洗って貰った時です。ルナさんは当然触られたこと無いですよね」

勝ち誇ったかのような慈愛の自慢毛な言い方に不覚にも少しだけイラっとしたルナは、その薄くて平らな胸を激しく揉み始めた。

「慈愛たんの癖に生意気!貧乳の癖に!貧乳の癖にぃ~!」

「や、やめっ……、やめて、下さい。くすぐったいです」

「だーめ。歳上のお姉さんに生意気なこと言う悪い子にはお仕置きします」

ルナが暫くの間小さな胸を弄っていると、慈愛のお腹から可愛い音が鳴った。
午前十一時。お昼にはまだ少々早い気もしたが、ルナは何か作ろうと考えて慈愛の体を解放する。

「そろそろお昼にしようか。慈愛たんお腹空かせてるみたいだし」

「ルナさんってお料理作れるんですね。意外です」

「またそうやって生意気なこと言う。失礼なこと口にする慈愛たんはお昼ご飯抜きかな?」

「別にそれでも良いですよ。私には歌お姉ちゃんのコレクション、自販機があります。カレーもうどんもピザだって買えるんです」

「あっ……」

一瞬、慈愛の明るかった表情に曇りがかかった気がした。

「慈愛たん待って。冗談だよ」

立ち上がってすたすたと足を進めて玄関に向かう慈愛をルナの声が制した。
深く考えずに冷たい言葉をかけてしまった。傷付けたかもしれない。

「……冗談、ですか?」

「うん。ごめんね。あたし酷いこと言っちゃった」

「別に気にしてません。言われ慣れていたからでしょうか。「ご飯抜き」という言葉が何だか懐かしく感じます」

ルナはかつて彼女が置かれていた最低最悪な環境を思い出し、トラウマに触れてしまったことを深く後悔し反省した。

慈愛は木ノ下家に暮らす以前は食べたくても食事を満足に取らせて貰えない家庭の中にいた。自分の発言はそんな過去をフラッシュバックさせるような酷い言葉だっただろうと、本当にそう思う。

「ごめん……、ごめんね。ごめん、なさい……」

そう思うと、自然と涙が目に滲んできた。

「どっ、どうしてルナさんが泣くんですかっ!?な、泣かないで下さい。いい子、いい子です」

「……うん。ありがと」

折角日影が救った少女の笑顔を自分が暗く穢してしまうところだった。

もう慈愛は昔の慈愛とは違う。
苗字も変わり、新しい三人の家族も出来た。住む場所も学校も変わった。今は普通に一日三食の食事も取れている。あの日の薄幸少女の姿はもう何処にもない。

「ルナさん、ご飯買ってくるので食べたい物言ってください。奢りますよ」

「え、別に良いよ。悪いし」

「平気です。お兄ちゃんに貰ったお小遣いがあります。遠慮なくどうぞ」

慈愛がそう言うので、ルナはお言葉に甘えることにして同じ物をお願いする。

数分後、自販機で二人分のカレーライスを買って慈愛が離れへと帰ってきた。

「お待たせしました」

「ありがとう、慈愛たん」

「いえいえ。私もルナさんにお世話になっていますから、このくらい当然です」

ルナはさっそく受け取ったカレーライスを食べる為、邪魔な上蓋を開ける。
すると、まるでレンジで温めたかの如く真っ白な湯気が天井に立ち上った。
自販機の中がどんな構造になっているのか普通に気になる。

「すごいね。まるで出来たてみたい」

「はい。ちなみにこのカレーは歌お姉ちゃん行き付けの有名店からお願いして仕入れているそうです。ですので味はお墨付きです」

言いながら慈愛は自分のカレーライスを手にして、ルナの膝の上にちょこんと腰を降ろした。
そんな彼女にきょとんとした表情でルナは尋ねる。

「慈愛たんどうしたの?あたしの膝の上じゃ食べ辛くない?」

「す、すいません……。最近お兄ちゃんの膝の上に慣れてしまったせいか何だか落ち着きません。ルナさんの膝を私に貸して下さい。駄目ですか……?」

上目遣いに申し訳なさそうな視線を向けてお願いする慈愛を自分の妹のように可愛く感じ、ルナは幼く未成熟な体を後ろからぎゅっと抱擁した。

「慈愛たんっ、可愛いっ!あたしの妹になってっ!!」

「危ないです、ルナさんっ。いきなり抱きつかないで下さい。カレーが零れちゃいます」


カレーを食べ終わると慈愛はお腹いっぱいで眠たくなったのか、ルナの膝の上で静かな寝息を立てていた。そんな可愛らしく、微笑まな光景を見つめながら一言呟く。

「何だかあたしも眠くなってきちゃったかも……」

安らかに眠る慈愛の銀髪ショートヘアを優しく撫でる。
ルナが同じく眠りに落ちたのは間も無く数分後のことだった。


************************


「ただいま~……って、あれ?」

アルバイトから帰宅して二人が居る筈の離れに顔を出した日影が見たのは、本当の姉妹のように仲良く眠る慈愛とルナの姿だった。









































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