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SAKAHAKU

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第四十一話(お年玉が貰える日。おせち料理が食べられる日)

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一年という時間は意外に短いものだとこの瞬間だけは毎年感じてしまう。

十二月三十一日。新しい年を迎える一日前。
バイトから帰ってきた日影はコタツに潜って、TV画面に映る相次いで尻を叩かれるおっさん達の勇姿を眺めながら慈愛と光子が仲良く作った年越し蕎麦を食していた。

「明日から正月かぁ~。蕎麦におせちに餅。食べるの大好きな慈愛ちゃんにはまるでお祭りみたいだよな。お年玉もたんまり貰えるだろうし」

二年間刑務所で年越しを経験している日影には我が家の蕎麦の味が懐かしくて堪らなかった。もちろん刑務所内でもこの日にはこの日らしい献立が提供されるが、量が少ない上に味付けが気に入らなかった。
支給される食べ物はその全てが調理未経験の囚人達が作った物だし、クオリティに文句はつけられない。

やっぱ、家庭の味が一番だと身に沁みて思う。

「はい。おせちとか初めてなので今から楽しみで待ち切れません。目の前にあったらつまみ食いしてしまいそうで怖いです。欲求を我慢する自信がありません」

「……まあ、何だ。明日まで辛抱しろ」

年越し蕎麦をすでに七杯もおかわりしている我が妹は、まだまだ腹八分目という様子で、その顔に苦しさは少しも感じられない。
まだ一杯目さえ食べ切っていない日影も、その豪快な食べっぷりを見ているだけで満腹になりそうだ。

「あっ、お兄ちゃん。歌お姉ちゃんが毎年恒例の歌番組に生出演するって言ってましたよね。チャンネル変えても良いですか?」

「ん、ああ。慈愛ちゃんが観たいなら別に構わないぞ」

こんな時も歌姉は相変わらず仕事か。芸能人ってのも案外大変だよな。
あの人は国民的アイドルだけあって、この番組には毎年参加してる。三十一日から正月の間は多忙過ぎて中々家には帰ってこないんだよ。
慈愛ちゃんは初めて観るから新鮮かもしれないけど、俺は何年か前から見飽きてるんだよなぁ。

「おばあちゃん、そろそろお姉ちゃんが歌う順番です。皆で観ましょう」

「はいよ。慈愛ちゃんはほんとお姉ちゃん大好きだねぇ」

台所で明日のおせちの準備をしていたばあちゃんを慈愛ちゃんが手を引いて茶の間へ連れてきた。
子供らしくて可愛いその行為は日影と光子を自然と笑顔にさせる。まるで天使のようだ。

(どうして皆、年越しにこだわるんだろうねぇ……俺には理解できん)

この日だけは普段夜更かしなどしない人も、頑張って十二時がやって来るまで眠らずに起きているようだが、正直あほらしい。
新しい年を迎えるのがそんなに嬉しいのかね。
歌姉が三曲程持ち歌を披露したのちお腹いっぱいで眠たくなった慈愛ちゃんは、数時間前から夢の中だ。コタツに頭を付けてくたっとしている。
小学生のまだ幼い慈愛ちゃんには、はっきりと言って年越しなどどうだって良いのだ。
コタツで寝るのは体に良くないと考えて妹をお姫様抱っこ。自室の離れへと連れて行き布団に寝かし付けた。

(さて……俺もそろそろ寝床に着きますか)

夜中の十一時とまだ年明け前ではあったが、慈愛と同様部屋に戻ってベッドにダイブした。


************************



「おっ。慈愛ちゃん可愛いの着てるな」

いつにもまして元気な妹の「おはようございます」+「あけましておめでとうございます」の挨拶で目が覚めた。

目の前に居る慈愛ちゃんが桜色の振袖をお召しになられていた。銀髪のショートヘアと相俟って可愛さが二倍くらいには引き立って見える。可憐な瞳をキラキラ輝かせながら兄へ幾つかのお年玉袋を見せ付けた。

「お兄ちゃん見てください。おばあちゃんとお姉ちゃんからお年玉を頂きました。これで食べたかったお菓子が一杯買えます」

「おおっ!?歌姉すげぇな!稼いでるだけあって妹に渡す金額も万クラスじゃねぇか!」

慈愛ちゃんから借りたお年玉袋の中身を取り出してみれば、そこには諭吉さんが十枚も入っていた。ばあちゃんの方は一万円だったが、こっちが妥当だ。小学校低学年の子なら相場は三千円くらいのもんだろう。歌姉の十万はいくら金が捨てても惜しくない程あるからって異常過ぎてるし常識から外れてる。
それとも、ある程度知名度のある芸能人の子供ならこれ以上に貰っているのだろうか?

「ひーくん、おせち料理ご馳走になりに来たよー」

「おお、ルナ。相変わらず暇そうだな」

「暇じゃないよー。だって、ひーくんに会いに来たんだもん」

チャイムの音が響いて玄関まで向かってみれば、来訪者はすっかりと見慣れた金髪ツインテールの少女、ルナ・ティアーズだった。
彼女が日影の後ろをてくてくと歩いてきた振袖姿の慈愛に気付く。

「慈愛たんが振袖着てる~。可愛いね」

「おばあちゃんに買って貰いました。似合っているなら嬉しいです」

「うん。すっごく似合ってるよ。羨ましいくらい。……あっ、そうだ。慈愛たんにお年玉持ってきたよ~」

ルナがネコのイラスト付きの可愛らしいお年玉袋を慈愛ちゃんに差し出した。
何故か目を丸くして驚いた表情をしている。

「ルナさんからお年玉を貰えると思いませんでした。ありがとうございます」

「ルナ。ちなみにそのお年玉袋には何円包んだ?」

「へ?五万円だけど……」

日影はその高額なお年玉にまたしても度肝を抜かれた。

そういえばコイツの母親は大統領だったな。
ルナは普段どの程度小遣いを受け取っているんだ?一ヶ月百万とか言わないよな?

日影は刹那に悪行を閃いた。

ルナの恋人になってヒモ男として生きて行く人生とか最高じゃね?

「ねぇねぇ。ひーくんは慈愛たんにお年玉何円あげたの?」

四人でおせち料理や鍋に舌鼓を打った食後、ルナと慈愛の二人は福笑いで遊んでいた。
そんな光景を暇そうに眺めている日影に対しルナが痛い所を衝いた。

姉が予想以上の金額をお年玉として妹にプレゼントするのはなんとなく分かっていたつもりだが、この金髪のお嬢様までもが五万円という大金を慈愛ちゃんに差し出すとは想定外だった。両名にとって10万や5万といった大金は五百円や千円くらいの扱いなのだろう。
アルバイトとして働く時給760円の凡人な兄に二人のように大金を渡せる訳がありません。
昨日のうちにお年玉袋に包んでおいた五千円札が霞んで見える。
慈愛ちゃんはこれっぽっちの端金を貰って喜んでくれるだろうか?

「い、今渡そうと思っていた所さ。慈愛ちゃん、お兄ちゃんからのお年玉だ。受け取ってくれ」

「わぁ~。お兄ちゃんからも貰えるんですか?ありがとうございます」

「悪いな。そのくらいしかあげられなくて」

「嬉しいです。お兄ちゃんからは貰えないと思ってました」

「どうして?」

「お兄ちゃんにはクリスマスにぬいぐるみを買って貰ったばかりでしたから」

慈愛ちゃんは俺からのお年玉を快く喜んでくれたが、ルナはその金額を覗き見て貧乏人全員を敵に回すような台詞を口にした。

「ひーくんは五千円かぁ~。あたしが小学生の頃は毎年五万円貰ってたよ。中学生の頃は七万円。高校生は十万円だったかな」

ルナの家系は金持ちだからそうかも知れないが、一般庶民である小学生が貰える一人当たりの金額はだいたい二千円~五千円が良いところだ。
中学生になったらやっと一万円。これ以上に上がった年は一度も無かったよ。

日影はお嬢様なルナがとても羨ましかった。
















































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