未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第四十二話(バレンタインデー)

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(……どうしましょう。困りました)

慈愛は学校から帰宅するなり本日の休み時間、お友達と交わした会話内容を思い出していた。

今日は二月の十二日。 
数日後に自然と当たり前のように訪れるバレンタインデー。
クラスの友達四人は慈愛の腰掛ける席の周りへ囲むように集まってこう尋ねる。

「ねぇねぇ。慈愛ちゃんは十四日、誰かに渡す予定あるの?」

「はい……?えっと、渡すって、何をです?」

慈愛は暫くの間恵まれない家庭に預けられていたせいか、そういったイベント事にはとてつもなく疎い。
だからこそ、友達の質問に当然のように、こてんと首を傾げた。

「チョコだよ。十四日はバレンタインでしょ。好きな男の人にチョコをあげる日。知らないの?」

「バレンタインですか。噂には聞いたことがあります。二月の十四日がその日だったんですね。ごめんなさい。知りませんでした」

慈愛がこくりと軽く頭を下げた。友達等は話を続ける。

「そっかー。男子達、慈愛ちゃんにチョコ貰いたくてうずうずしてたのに残念だったねー」

「そうそう。皆して慈愛ちゃん可愛いって言ってたよ。背が小っちゃくて妹みたいだって」

ーー慈愛はその話を聞いて心中で思った。

お兄ちゃんに可愛がられるのは慣れていますが、同い年の男の子に妹扱いされるのはとても傷付きます。私はそこまで子供っぽいでしょうか?

「慈愛ちゃんって誰か好きな人居ないの?」

「好きな人ですか?男の人、ですよね?」

「うん。そうそう」

慈愛が好意を寄せる異性はと問い質せば、それはもう完全に一人しか存在しない。一名しか頭に浮かんでこない。
それは、自分をいつも可愛がってくれて大切に扱ってくれる笑顔が素敵な優しい人。

「お兄ちゃん……、でしょうか」

「お兄ちゃんって、この前の授業参観に来て慈愛ちゃんのこと抱っこしてたかっこいい人?」

友達の「かっこいい」という言葉に一瞬耳を疑った。
毎回日影と顔を合わせるたびに罵声を浴びせている姉のせいか、慈愛は自分が兄をかっこいいと思っているのが可笑しいのかと感じていた時期があった。

(私の目に狂いは無かったんですね。安心しました)

「はい、そうです。お友達がかっこいいと言っていたとお兄ちゃんに伝えておきます」

(お兄ちゃん、私がチョコあげたら喜んでくれるかな……?)

チョコを兄の為に作ってみたいが、その作り方が分からない。
最近はスマホがあれば簡単に何でも調べることが可能だが、如何せん材料が揃っていない。買い物に行けば済む話だが、慈愛は日影に口がすっぱくなる程に忠告を受けていた。
危ないから一人で買い物には行っちゃ駄目だと……。

歌お姉ちゃんもおばあちゃんもお兄ちゃんも全員仕事で、今お家には私しかいません。
社員になるのを諦めたお兄ちゃんは現在バイトとしてファミレスで働いています。
去年の十一月頃から働き始めたので、あれからもう三ヶ月くらいでしょうか。
何年か前とは違って時が経つのが早く感じます。叔母さんの所に住んでいた頃は毎日が苦しくて悲しくて泣いてばかりいました。
今とは比べ物にならないです。全然違います。最近は毎日がすごく楽しいですから。
お兄ちゃんが学校に迎えに来てくれなくなったのはちょっとだけ寂しいですが、お仕事ですし仕方ないですよね。

(もう少しでお兄ちゃんがアルバイトから帰って来る時間です。買い物にはお兄ちゃんに連れて行って貰いましょう)


************************



「いやー……マジで参ったわ。ルナは転んで皿割るし。客にはキレられるしよぉ……」

帰宅後、真っ先に離れへ来てくれたお兄ちゃんの髪は仕事で帽子を被っていたせいかボサボサです。いろんなところが跳ねまくってます。
兄の愚痴を聞いてあげるのも妹の役目です。

ルナさんは去年刑務所から解放されて、現在はお兄ちゃんと仲良くファミレスで働いています。
囚人の頃から何もない所で転ぶ癖は直ってないみたいです。此処にも頻繁に遊びに来てくれます。

「ルナさんは今日一緒じゃないんですね」

「ん……、ああ。毎日遊びに来る程あいつも暇じゃないだろ。バイトで顔合わせるたびに抱きつかれてるんだ。こっちの体が持たない」

ーー日影は囚人時代にルナとペアだった頃を思い出していた。

ファミレス内であいつに抱きつかれる俺に客からの妬みの視線が飛んでくる。
これじゃ刑務所に居た時と何も変わらねーよ。

「あの、お兄ちゃん」

「……ん、なあに?」

「私の買い物に付き合ってくれませんか?」

上目遣いっぽく見える妹の、愛嬌たっぷりの可愛らしいお願いに、日影は快く頷いた。

一緒に最寄りのスーパーへ買い物に向かい、材料の調達をする。

板チョコ、バター、砂糖、牛乳、などなど。
それらと共に夕飯の材料も購入したが、日影がバレンタインチョコの材料に気付くことはなかった。


************************


翌日の放課後。慈愛は学校から帰って来て、日影がアルバイトに行っている時間を見計らいチョコレート作りを開始した。
本日の兄の帰宅時間は午後十九時。ちょうど夕飯時だと聞いている。今から大体二時間後だ。
冷蔵庫から昨日購入したばかりの材料と必要な道具を用意しテーブルに並べた。

(お兄ちゃん、喜んでくれると良いな)

皮切りにまな板の上で包丁を使い、板チョコを細かく刻む。それをボウルに入れて50℃くらいのお湯で湯せんする。

チョコ作りをしている途中で、玄関の方からドアを開く音が聞こえてきた。

(もしかして……お兄ちゃん?)

「ど、どうしよう……」

慈愛はあわあわと慌てだす。
自分が何をしているのか、この状況を見られたら即気付かれるだろう。
それはキッチンに充満する甘い匂いと、チョコで汚れた自分の頬が何よりの証拠となる。

「あれ、慈愛ちゃん。何作ってるん?」

「……お、おばあちゃん」

人違いだったと、ほうと息を吐き胸を撫で下ろす。

慈愛は光子へ、兄に渡すチョコレートを作っていると正直に話した。

「お兄ちゃんに渡そうと思いまして……。バレンタインのチョコレートです」

「ひかくんに作ってるんけ。きっと喜ぶぜ。ばあちゃんも何か手伝おうか?」

「大丈夫です。もう少しで終わりますから」

一時中断した作業を再開し、湯せんで溶かしたチョコにテンパリングを行う。
チョコレートを型に流して、冷蔵庫で三十分くらい冷やせば完成だ。

型はありきたりだがハートの物を用意した。

「ーーできました」

冷蔵庫から取り出したチョコレートは綺麗に仕上がっていて、初めて作ったとは思えない。
完成したハート型のチョコレートを隣から光子が覗き見て感想を述べる。

「上手に出来たねぇ。文字とかは入れないん?」

「文字、ですか?」

「「お兄ちゃん大好き」とか書いてあげたら、ひかくん喜ぶと思うよ」

飾り気の無いチョコを前に、自分が文字を書いているところを想像してしまう。
慈愛の顔は恥ずかしさのあまり紅潮した。

「むむむ、無理です……、私も恥ずかしいですし、お兄ちゃんきっとドン引きします」

「そうかい?そんなことないと思うけど。ひかくんの慈愛ちゃん好きは本物だぜ」

「……か、考えておきます」

明日がバレンタインデー本番です。チョコに文字を書くか書かないかはお兄ちゃんに渡すまでに考えましょう。

慈愛が光子と夕飯の支度をしていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。
廊下を気だるそうな足音を響かせながら歩いて来る。
妹はその足音だけで、兄が帰って来たのだと理解した。

「腹減った~。慈愛ちゃんご飯まだぁ~」

帰ってきてすぐさまキッチンに立つ妹に背後から抱きつく日影。
現在慈愛は右手に握った包丁で野菜を刻んでいる真っ最中だ。

「お、お兄ちゃん危ないですっ……、抱きつくならお料理の後にして下さい」

「いや~、やっぱ妹って良いわ~。癒されるわぁ~……ん、あれ?」

「……どうしました?」

日影が唐突に慈愛から漂ってくる匂いを嗅ぎ始める。
くんくんと妹の体の匂いを嗅ぐ姿はまるで犬のようだ。見る人からしたら変態でしかない。

「お、可笑、しいな……、慈愛ちゃんからチョコの匂いがするぞ。……ま、まさかっ!?」

「は、はい……?」

日影が何かに勘付いたような声を上げる。

「まままままっまさかっ、慈愛ちゃんバレンタインチョコでも作ったっ?だだっ、誰にあげるのかな?」

「ひ、秘密です」

「学校で彼氏でも出来たのか?お兄ちゃん許しませんよ」

「内緒です」

「教えなさい。教えてくれないなら擽っちゃうぞ」

「黙秘します」

日影は頑なに兄の質問を拒否し続ける妹の体をいやらしく弄った。
脇の下に両手を侵入させて激しくこちょこちょ。料理のお手伝い中にも関係無しにこちょこちょこちょこちょ。
慈愛は必死で声を押し殺し、くすぐったさから耐え続けていた。

「お、お兄、ちゃっ……、やっ、やめ……やめて下さい……怒り、ますよ……」

「本当に二人は仲が良いねぇ」

「当然さ。俺は慈愛ちゃん大好き何だから。なぁ、慈愛ちゃん。慈愛ちゃんもお兄ちゃんのこと大好きだよな」

擽りを一旦ストップし、小さな体を後ろから抱き上げる。

日影が微笑みながら口にした台詞に妹である慈愛は、兄の思いもよらない台詞を吐き捨てたのだった。

「……私は、お兄ちゃん嫌いです」

日影は妹から嫌われたと勝手に勘違いし、崩れ落ちるように床へへたり込んだ。

兄の悪戯からやっとのこと解放された慈愛は何事も無かったかのように、夕飯の支度へと戻る。

ーー数分後、後ろを振り返ってみれば兄の姿はキッチンから消えていた。

「あれま、ひかくん何処行っちゃったんだろうねぇ。もうすぐご飯出来るのに」

「わ、私が言い過ぎたせいでしょうか……?つい思ってもいないことを口にしてしまいました。ごめんなさい……」

慈愛には落ち度など何処にも無かった筈だが、本当は大好きな兄へ思わず嫌いなどと嘘の言葉を口にしてしまった。
あれだけ自分を可愛がってくれていた日影のことを嫌いになる何てあり得ないというのに……。

「良いんだよ。さっきのは誰が見てもひかくんが悪い。野菜切ってる途中で悪戯されたら危ないしね。慈愛ちゃんは悪くないよ」

おばあちゃんはそう言ってくれていますが、お兄ちゃんは誰かが呼びに行ってあげないと一階に下りてきてくれないような気がします。
折角のお料理が冷めてしまいますし、何より、一緒に食べたいです。

……お部屋に向かってみましょうか。


************************


「あの、お兄ちゃん。お夕飯の準備が出来ました」

コンコンと二回ノックし、声をかけるも反応がない。

(ひょっとして疲れて眠ってしまったんでしょうか?)

そう思った慈愛は、返事は無かったがドアノブを捻って部屋の中に入ってみることにした。
暗い部屋の中、ベッドに横になっている兄の姿を発見する。
廊下から明かりが射し込んで、部分的に日影の姿を照らした。

「お兄ちゃん、ご飯です。起きて下さい」

ゆさゆさと被っている布団の上から体を揺すりながら声を掛ける。
日影は妹の存在に気付いたのか、ベッドに倒していた体を起こして口を開いた。

「慈愛ちゃんは俺のことが嫌い何だろ。だったら、ばあちゃんと二人で食べてなよ。悪いけど俺は食欲無いから眠るわ」

「……へっ?」

日影の素っ気ないような、拗ねた子供のような態度に慈愛は目を丸くした。

見て分かるくらいには機嫌が悪い。

いつも変わらず毎日優しかった兄からの冷たい台詞に耳を疑ってしまう。
というよりも、信じたく無かったのだ。何だか日影に嫌われてしまった様な気がして。

「えっと……、お兄ちゃーー」

「バイト終わりで疲れてんだ。分かったら出てってくれ」

言葉を途中で遮られる。

……完全に嫌われた。そう思った。

「ごめん、なさい……」

それだけ呟いて、ドアを静かに閉める。

突然憤懣され、撥ねつけるような態度を取られた慈愛の表情は虚ろで暗い。

拒絶されては仕方がないと判断し、 蹣跚と階段を下りて一階のリビングに戻った。

「あれ……、慈愛ちゃん、ひかくんは?」

「ふっ、ふぇっ……」

「あらら……、どうしたの慈愛ちゃん」

いきなり涙を溢れさせて泣き出した慈愛に光子は戸惑っていた。
どうしたら良いか分からずにハンカチを取り出して涙を拭い、頭を撫でて慰める。

それでも零れる涙は次々と滲み出して中々止まらない。胸の中に抱きしめてやると慈愛はわんわんと、滂沱の涙を流した。

「よしよし。いい子いい子。お兄ちゃんに酷いこと言われちゃった?そっかそっか。妹を
虐めるような悪いお兄ちゃんは後でばあちゃんが叱っちゃう。だからそろそろ泣き止んで。一緒にご飯食べよ」

この日は日影抜きの二人での夕食となった。
いつもは食欲旺盛の慈愛も食べ物が喉を通らない様子で、兄のことを気にしているのが目に見えて分かる。

ーー日影に構われなくなって、慈愛は相当のショックを受けていた。


************************



そして、バレンタイン当日の朝。

アルバイトに通い始めた現在でも、日影は朝限定で毎日慈愛を学校まで送り届けていたのだが、今日は昨日の一件もあってか朝ごはんの時間さえ一階に姿を見せなかった。
光子が起こしに行ってはみたが、爆睡していた為か反応が無かったとのことだ。

「慈愛ちゃん、大丈夫?一人で学校行けるけ?ばあちゃんが一緒に行ってやるかい?」

「大丈夫です。放課後はいつも一人で帰ってますし、平気です」

「そっか。そうだよねぇ……それじゃ、いってらっしゃい」

「はい。いってきます」

慈愛は光子が仕事に行く時間も考えて、遠慮がちに申し出を断った。

いつもなら十時から仕事開始で時間に余裕がある日影が学校まで送ってくれていたのだが、今日は初めての一人で登校だ。
何となく寂しさを感じるのは、二人で肩を並べて足を進める日常に慣れ親しんでしまったからかも知れない。

ーーふと、自分に笑いかけてくれている兄の顔が脳裏に浮かんできた。

あの優しい笑顔はもう見られないのかと考えるだけで、涙が滲み瞳が潤んでしまう。
ほんのりと目が赤くなっているのは、昨日あれだけ泣いたからだろうか。

ーーダッフルコートの袖を使って涙を拭っているさなか、後方から足音が聞こえた。

走っているのかどんどんと距離が縮まっていく。慈愛は後ろを振り返った。

「慈愛ちゃん待って!」

「お……、お兄、ちゃん……」

光子が心配して追いかけて来てくれたのかと思ったのだが、後ろに居たのは寝起きで髪がボサボサの寝巻き姿の日影だった。
全力で走って来たからか酷く息切れしている。

「はあ、はあ……、ごめん、慈愛ちゃん。本当に、ごめん。……俺、昨日ばあちゃんにこっ酷く叱られたんだ。妹泣かすお兄ちゃんは最低だって。晩御飯の時に呼びに来てくれただろ……あの後俺、すぐに眠っちゃってさ……慈愛ちゃんが泣いてたの気付いて無かったんだ」

慈愛はきょとんとしていた。

昨日は落ち込んで早めに就寝したから、光子が日影を叱っていた事実を今初めて知った。

「えっと、その……、お兄ちゃんは私を許してくれるんですか?」

「許して欲しいのはこっちの方だよ。ごめんね。慈愛ちゃんに嫌いって言われてさ、頭の中真っ白になっちゃったんだ……。大人気ないよな。拗ねて、怒って、可愛い妹を泣かしちゃうんだからさ。俺のこと、余計に嫌いになったよね」

日影が恐る恐る聞くと、慈愛は目を潤ませて言葉を返す。

「よかった……、よかった、です……。お兄ちゃんは私のこと嫌いになってなかったんですね……」

「嫌いに何かなるもんか。昨日はちょっと……、慈愛ちゃんに好きな男子が居るって知って拗ねてただけだ。小三、だもんな。好きな相手くらいそりゃ居るよな……はは……」

日影は無理に笑顔を作って妹に微笑む。
本当は認めたくなかったんだ。慈愛に兄以外に好きな相手が出来たことが。

「お兄ちゃん、これ受け取ってくれませんか。バレンタインのチョコレートです。昨日作りました」

ブルーカラーのお洒落なランドセルから慈愛が取り出したのは、兄を想って作った大好きな気持ちが籠ったバレンタインチョコだ。ラッピングした箱には可愛くリボンが結び付けてある。

「く、くれるの……、俺に?」

「はい」

「義理でも嬉しいよ。ありがとな」

「義理じゃないです。それ、本命チョコです」

「……えっ?」

妹の意外な返答に耳を疑う。

ーー慈愛ちゃん、今「本命」って言ったのか?

日影が呆然としてその場に棒立ちになっていると、慈愛は言葉を紡ぎ始める。

「昨日私が作っていたのはお兄ちゃんのチョコ一つだけですよ」

「だって、慈愛ちゃん……、学校で好きな人が居るって……」

「私が異性で好きな人はずっと一人だけですよ。お兄ちゃんだけです。昨日お兄ちゃんの質問にちゃんと応えなかったのは当日にチョコを渡して喜んで欲しかったからです。それくらい察してください……こんなこと言うの恥ずかしいじゃないですか」

「慈愛ちゃん!」

「わっ!?お兄ちゃんどうして泣いてるんですか!」

慈愛の本音が聞けて感極まった日影は両目からだらだらと涙を垂れ流しながら正面に立つ小さな妹の体に抱きついた。
ぎゅっと腕に力を込めて精一杯の愛情表現をぶつける。

「許してくれてありがとう。本当はあんな酷いこと言うつもり無かったんだ。昨日に戻れるなら、昨日の俺をぶん殴ってやりたいよ。妹虐める何て最低な男だって……」

「もう良いんです。私はこうしてお兄ちゃんと仲直り出来て、とっても嬉しいですから」

「本当?本当に本当?」

「はい。本当に本当です。その箱に入っているチョコが何よりの証拠になります」

日影は慈愛を腕の中から解放して、受け取ったばかりの箱を開封してみる。
姿を露わにしたのは妹が兄を想って作ったハート型の大きなチョコレート。ホワイトチョコのペンシルで表面に書かれた文字は日影を一瞬で笑顔に変貌させる内容だった。
そこには「お兄ちゃん大好き」と、慈愛が恥ずかしさを堪えて籠めたメッセージ。
光子に勧められて書いた素直な気持ちがチョコいっぱいに表現されていた。
嬉しさを我慢出来ずに満面の笑顔になった兄の顔を見つめて、慈愛も釣られるようにニコっと笑う。
酷い言葉を投げ捨て傷付けたというのに、慈愛の心の広さに救われた。

目の前にあるサラサラな銀髪を撫でてやりながら今更に思う。

ーーこの子が妹で幸せだなと。









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