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第四十四話(雛人形は怖い)

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小学校の給食の時間。慈愛にとっては学び舎で一番の至福のひととき。
揚げパンを美味しそうに頬張る銀髪少女の姿を陽射輝徒が笑顔でガン見していた。

「……あの、陽射さん」

「慈愛。俺の妹になってくれ」

「唐突なお願いですね。何です一体?というか、先に話しかけたの私ですよね?」

「細かいことは気にすんな。良いから大人しく俺の妹になれよ。ずっとお前みたいな可愛い妹が欲しかったんだ」

「お願いの次は命令ですか。折角のお誘いですがお断りします。私にはかっこよくて優しくて妹想いな素敵なお兄ちゃんがいます。浮気は絶対にしないです」

キッパリと否定すると、輝徒は自分の揚げパンを惜しみもせずに差し出してくる。
食べるのが大好きな慈愛を餌で釣る作戦のようだ。

「そんなこと言うなよ~。揚げパンやるからさ。なっ!なっ?」

「揚げパンは頂いておきますが、妹にはなれません。無理です。お兄ちゃんが嫉妬しちゃいます」

「牛乳もやるからさ。なっ?」

「頂きます」

二人のこんなやりとりが暫くの間続いたが、一人分の給食を丸々差し出しても慈愛が首を縦に振る瞬間はいつになっても訪れなかった。


***********************


「お兄さん。慈愛ちゃんを僕に譲って下さい。……ははっ。こんな感じでOKか?」

「本当に家まで付いて来るつもり何ですね……、最初に言っておきますがお兄ちゃんはアルバイト先から帰ってきてないと思いますよ」

今日は厄日かも知れないと、慈愛は心中で溜息を吐いた。給食時からの熱烈なアプローチは休み時間、五時間目、六時間目、放課後と現在進行形で続いており、慈愛の兄である日影を羨ましく感じた輝徒は、木ノ下家に出向いて話をつけるとアホなことを言い出し始めたのだ。

「良い。帰って来るまで待たせて貰う」

「迷惑なので晩御飯までには帰って下さい。お兄ちゃんがそれまでに帰ってくる保証は出来ないですが、18時までなら家に居ても良いですよ」

「18時かぁ……あと二時間くらいしかねぇじゃん。そうだ。だったらバイト先に殴り込みにーー」

「行かせませんよ」

輝徒はゆっくりと帰り道を歩く慈愛の手を強引に引っ張って、急ぎ足で木ノ下家まで足を進める。
自宅までは五分程の短い距離だというのに、成り行きで引きずられるような形になっている慈愛は誰の目から見ても不憫でしかない。

「おお……、此処が木ノ下家。慈愛の兄貴、俺の敵が悠然と暮らす城だな。でけぇ……」

「敵とか言わないで下さい。私のお兄ちゃんは悪者じゃないです」

「うぉおおおっ!何だこれっ!?庭に自販機がいっぱいだっ!!すげぇっ!!」

「騒がしい人ですね……」

木ノ下家の広々とした庭に幾つも鎮座する自動販売機の数に輝徒は驚愕していた。
これらを初めて拝見する人皆が必ずと言ってビックリする程にはラインナップが凄まじい。慈愛の姉である歌が趣味は自動販売機収集だと最近認めていたばかりだ。

「私の部屋はこっちです。案内します」

自動販売機に興味津々で釘付けになっているクラスメイトを放ったらかしにして、慈愛はてくてくと庭の中を歩いて離れ家へと向かった。
案内する気など始めから毛頭ないような平坦な声音を吐き捨て、輝徒を置き去りにする。

「おい慈愛!ちょっと待てよ!」

慌てて銀髪少女の後を追いかける輝徒の叫びが、ある人の台詞に少しだけ似ていたような気がした。

「へぇ~。此処が慈愛の部屋なのか。随分と殺風景だなぁ。今日此処に泊まってっても良い?」

「駄目です。というか嫌です」

「大丈夫だ。俺が一緒に寝てやるから怖くないだろ」

「どうして私が一人で眠れないこと知ってるんです?個人情報筒抜けですか?だとしたらとてつもなく怖いです。もしかして陽射さんはストーカーさんか何かですか?」

「ちげぇよ。俺はストーカーじゃない。慈愛のお兄ちゃん、陽射輝徒だ」

「違います。勝手に私の家族構成を改竄しないでほしいです」

勝手に付いて来たとはいえ一応お客様である輝徒へ慈愛が差し出したのは、販売機で購入したジュースと昨日のひな祭りで日影にプレゼントされたひなあられだ。
赤白緑の円形状の甘いお菓子は何度食べても飽きない。

「余り物ですがどうぞ。ひなあられです 」

「おお、慈愛。気が利くじゃねぇかよ。流石は俺の嫁」

「私は陽射さんのお嫁さんになった憶えはないです。ふざけた発言ばかりするなら、取り上げますよ」

慈愛が輝徒の正面で美味しそうに食べているのは菱餅。これもひなあられ同様日影からのプレゼントで上から順に赤白緑と三段で色分けがされたお菓子だ。

「そうか。昨日はひな祭りだったのか」

「はい、そうです。着物で美味しい物をお腹いっぱい食べる日です。おばあちゃんがちらし寿司を作ってくれて、お姉ちゃんが雛人形を買ってくれました」

輝徒の視線はタンスの上に飾ってある立派な雛人形に釘付けとなっていた。

「こういうタイプの人形ってさ、何か怖いよな。見つめられてる気配を感じたり髪が伸びたり突然に動き出したりしてさ」

「そういう話は聞きたくないのでやめて下さい。折角買ってくれたお姉ちゃんには口が裂けても言えませんが、正直に言うとそう何です。雛人形を飾り始めてから怪奇現象が頻繁に……、こんな話をしてもお兄ちゃんは信じてくれませんでした」

これは一週間前。学校から帰宅しこの部屋で仮眠を摂っていた時の話です……。

慈愛が語り出したのは実際に彼女を襲った恐怖体験のようである。
ポルターガイスト。というのだろうか?
背後に誰かが立っているような気配を感じた。金縛りにあった。うめき声が聞こえた。
人形の目線が動いたような気がした。
話せば切りが無いが、これは全てこの離れ家の中で本当に起きた出来事だと銀髪の少女は飄々と紡ぐ。

「ほ、本当かよ、それ……、めちゃくちゃ怖いじゃん」

「はい。めちゃくちゃ怖いんです。なので、この部屋にいつまでも居座るのはお勧めしません。雛人形さん達に呪われても私は責任を取れませんので悪しからずです。体に憑依される可能性だって十分にありますよ」

「ひっ、ひぃいいいっ!」

男が発する悲鳴ほど気持ちの悪いものはない。
慈愛が忠告してすぐ様、輝徒は逃げるように離れ家から去って行った。

ーー簡単に言えば怖気づいたのだ。


(……何とか言いくるめることに成功したようですね。ああでも言わないと陽射さん帰ってくれそうに無かったですから)

先程まで何かと騒がしかった部屋の中はシーンと静まり返って、すっかりと落ち着きのある空間へ元に戻った。
何事も無かったかのようにランドセルから宿題のプリント二枚を取り出し、掘りごたつの上へ並べて、ほうと安堵の息を吐く。

これで落ち着いて宿題に専念できます。

(お兄ちゃん、早く帰って来ないかな……)

披露した怪談話はどれも輝徒を退散させる為に思いついた作り話だったが、雛人形が怖いと言ったのは嘘ではない。
慈愛は視線を合わせないようお雛様とお内裏様に背中を向けて肩をビクビクと震わせている。

二人の顔が不気味な笑みを浮かべているように見えたのは私の気のせい、ですよね……?


























































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