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SAKAHAKU

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第四十五話(兄が妹を救う方法)

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平日の午後。十三時を回ったお昼寝に持って来いのぽかぽかとした陽気。
給食をお腹いっぱいに食べた慈愛は眠くなったのか、昼休みを目一杯使って睡眠を取っていた。
周りのクラスメイト達がグラウンドに飛び出して遊ぶ中、慈愛だけが一人教室で机に体を倒してすやすやと寝息を立てている。

「お兄ちゃん……すき~……」

眠っている間でも、やはり慈愛は可愛かった。
日影と戯れている夢でも見ているのか、寝言で兄の名前を口にした。
幸せそうにちょっぴりと笑みを浮かべた寝顔は異性だけではなく同性さえも虜にしてしまいそうな程破壊力はバツグンだ。

「あ、居たわ。あの子じゃない?輝斗様に可愛がられてるって噂の転校生。銀髪だし、間違いないわ」

「輝ってあんな小さな子が好みなの?三年生なのに一年生くらいに見える~」

「輝斗ロリコンなのかなぁ。でも、そんなところも好き」

廊下から三年の教室の中を覗くように慈愛を見ているのは、五年生の女子児童三人だ。
現在そこに彼女一人しか居ないことを好機に、扉を半ば乱暴に開けて教室の中に足を踏み入れる。
銀髪の少女がすやすやと眠る席の周りには五年生女子三人が逃げ場を塞ぐように囲み立つ。

「あんたが木ノ下慈愛ね。あたしは五年の鈴木彩よ。ちょっと面貸しなさい」

一人の少女が獰猛な表情で声を投げかけるも、慈愛は眠っているせいか自分を囲むように三人の上級生が立っていることなど知る由もない。

「無視してんじゃないわよ。イラつくわね」

話かけても反応が無い慈愛に腹が立ったのか、鈴木と名乗った少女は目の前の綺麗な銀髪ショートを乱暴に引っ張った。

「いたっ、痛い!…………へ、だ、誰?」

起きたばかりで視界が安定しない状態で、涙目になりながら机から顔を上げる。
目の前に居たのは鋭い視線を向け自分を睨みつけている知らない少女。
慈愛にはこの状況が理解出来ない。

「えと、あの……どちら様でしょうか?」

痛みを与えられた頭を両手で押さえながら恐る恐る尋ねてみれば、今度は正面からグーでおでこを殴られる。慈愛はそれなりの悲鳴を上げた。

「ほんと、生意気。あたしさっき名乗ったわよね?」

「い、痛い、です……そ、そう、だったんですか……?」

「ねぇ、彩。手出すのはマズイんじゃない。今のこの子の声誰かが聞いてたら」

「そうそう。誰かに先生呼ばれちゃうかもよ。下級生虐めてる何て知られたら皆に悪者扱いされるわ」

「平気よ。コイツはこれくらい痛い目に合わないと分からないの。輝斗を独り占めして何様よ」

「あ、あの……一体皆さんは何の話をしてるんですか?」

未だに三人の女子が自分に何の用があるのか分からずに、疑問を持った声で尋ねる。その呑気な言葉が更に少女の怒りを買う結果となり、慈愛の頭を平手で打った。

「あんたが輝斗に好かれてるのが気に入らないって話よ。彼といちゃいちゃするのは止めなさい。目障りなのよ」

「……輝斗って、陽射さんのことですよね。いつ私がいちゃいちゃ何てしてましたか?」

慈愛が少しの悪びれも無く答えた言葉にも、鈴木は敏感に反応する。ぱしんと平手打ちを頬に受けたところで教室の扉が開いた。

「おーい。じあー。起きたかー。次音楽で移動教室だぞ。一緒に行こうぜー」

にこにこしながら慈愛の名を呼んで教室に入って来たのは、陽射輝斗。
今まさに話の中心となっていた人気者の少年である。
彼は三人の上級生に囲まれ、涙目になっている慈愛の顔を見た。

「あれ、何で慈愛泣いてんの?どっか痛い?先輩達はどうしてか知ってる?」

「あ、あたし達は知らないわよ。ね、ねぇ?」

「そうそう。知らなーい」

「皆行こ。次の授業始まっちゃう」

三人の少女達は輝斗に尋ねられると、バツが悪い顔をして口裏を合わせる。
そして、逃げるようにそそくさと三年の教室から出て行った。

「慈愛、どうして泣いてるんだ?もしかして、さっきの人達に何かされた?」

「……陽射さんのせいです」

「へ?」

意外な返答に輝斗は驚きを隠せない。

ーー自分はこの子に嫌われるようなことをしてしまったのだろうか?

頭をフル回転させ思考している途中で、慈愛から発せられた言葉は耳を疑う台詞だった。

「もう私に話しかけないで下さい」

それだけ伝えると、慈愛は教科書とリコーダーを持って一人音楽室へと向かって行った。
ショックで落ち込んでいるのか、立ったまま固まっている輝斗を教室に残して。


************************



「じーあちゃん!おつかれっ!今日も可愛いな!」

そこは放課後の校門前。慈愛が迎えに来てくれる兄を待ち遠しそうに待っている場所だ。
いつもなら溢れるばかりの笑顔を自分に向けてくる妹の様子が何だか違って感じたのは気のせいでは無かった。

ハイテンションな兄にどんな顔をして良いのか分からずにとりあえず無理にでも笑ってみせた。
暗い顔をしていては日影に心配をかけてしまう。そう思ったからだ。

「はい。お疲れ様です。お兄ちゃん」

貴方の一番の宝物は何かと問われれば、真っ先に妹と答える程に慈愛のことが大好き過ぎる兄には、僅な声のトーンの違いで喜怒哀楽の区別が付くのだ。

「どうした、慈愛ちゃん。元気無いな……。これは俺の勝手な仮説何だけどさ、友達と喧嘩でもした?」

「えっと、あの……」

何と話して良いのか分からずに言葉を詰まらせる。正直に話すべきなのか、黙っておいた方が身の為なのか……。
兄に告げ口をしたらまた暴力を振るわれるんじゃないのか。昼休みに与えられた痛みが慈愛の中でフラッシュバックしていた。
日影はそんな妹の姿を見て事情を察したのか、震えている小さな手を握ってこう言った。

「慈愛ちゃん、公園にでも行こうか。お兄ちゃんにちょっと付き合ってくれ」

日影が慈愛を連れて向った先は小学校から家に帰るまでの途中にある公園だ。
こういう場所は子供が揃って遊びに来るようなイメージだが、最近はスマホやゲームという娯楽が増えた為か外で遊ぶ子供は見て分かるくらいに激減した。故に公園には人っ子一人存在しない。此処は話し辛い内容を語るには丁度良い場所と言えるだろう。

二人してベンチに腰掛けると日影が先に口を開いた。

「慈愛ちゃん、無理に話せとは言わないけどさ、辛いことがあったら我慢しないでお兄ちゃんに相談してくれよな。不安事は抱え込んでても体に毒だぞ」

そう言って隣に座る慈愛の頭を優しく撫でる。
その時、日影が何かに気付いたような声を上げた。

「あれ……おでこのとこ痣になってるね。これ、どうしたの?」

「えっと……実は……」

自分を心配して聞いてくれている兄に嘘は付けない。三人の女子からの仕返しが怖かった慈愛だが、意を決して真実を口にした。























































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