未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第四十八話(慈愛の笑顔)

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日影とルナの小学校侵入開始から一週間という時が過ぎた。
いつも片時も離れずに一緒に居る為か、慈愛が心配していた虐めや暴力行為は何も起こらず、穏やかで過ごしやすい毎日を送っている。

三日前には子供達が楽しみにしている席替えが行なわれ、日影と慈愛は目出度くも隣の席になった。
この結果は偶然を遥かに通り越して必然と言っても可笑しくはない。
まるで誰かが必ずそうなるように仕向けたような、そんな感じさえしたくらいだ。
慈愛からは最早、完全に不安など取り除かれたようにも見える。
隣の席に座る兄の顔を眺めて満開の笑顔を咲かせていた。

「こら、慈愛たん。授業中に余所見しないの。ひーくんから視線を逸らしなさい。今すぐに!」

現在はルナ・ティアーズこと、ルナ先生による算数の授業中だ。
日影の顔を見つめてにこにこしている慈愛に腹が立ったルナは、算数の苦手な少女へ割り算の答えを求めるよう指示を出した。

「慈愛たん。148÷2は何でしょう?三十秒以内に答えなさい」

「えっと、えっと……ちょっと待ってください……」

突然の質問に慈愛があたふたしながらノートに計算式を書いていると、隣にいる日影が代わりに答えを口にした。

「74だ」

「ひーくんは答えちゃ駄目です」

「慈愛ちゃんを虐めてやるな。可哀想だろ」

それから何問か続けてルナが慈愛を名指ししたが、その全てを代わりに日影が答えていた。流石は十八歳。見た目は大人。頭脳も大人である。

今更ながらに思うが、ほんと、よく正体がバレないものだ。

ーーと、安心していたら……、

「日影君ってさ、何だか、何処かで見たことある気がするんだよね。もしかしてあたしと会ったことある?」

お昼の時間、机を前の席の二人とくっ付けて懐かしの給食に舌鼓を打っていた時の話だ。
向かいに座る女子小学生が日影の顔を眺めて急にそんな問いを振ってきた。

俺の姿がこの子の目に触れた機会が会ったとするならば、それはおそらく慈愛ちゃんの授業参観で学校に来た日だろう。それしか考えられない。

「……はは。気のせいだろ。誰かと間違えてるんじゃないかな」

「そっ、そうですよ。お兄っ、日影君は帰国子女で海外からこっちに帰って来たばかりですから」

ナイスな慈愛のアドリブによって日影は難を逃れた。帰国子女というのは丸っきりの嘘話故に外国語など喋れないから、そこを突っ込まれたら終いだが……、

「へぇ~。すごいね。海外って、何処の国に行ってたの?」

「あ~……えっと……アメリカ、かな?」

もちろんアメリカに行ったことなど一度も無い。

ただ真っ先に頭に浮かんだ国の名前を口にしただけだ。
中学や高校で英語は習ったものの、日影にはレベルが高すぎたのか、英文を日本語に訳す難しさに知恵熱を発症し勉強する気も失せた。
よって、十八歳になった現在でもちんぷんかんぷんなのは変わらない。
英語で喋ってみてと、無理難題をさらっとお願いされたが丁重にお断りした。


************************


「ねぇひーくん。いつまで小学校に通い続けるつもりなの?慈愛たんが心配なのは分かるけど、大事にならない内に退散した方がよくない?あれから一週間経った訳だけど、虐めに来る子は居たの?」

昼休み。ルナに屋上に呼び出され現状の報告を求められる。此処を話し合いの場所に指定したのは誰かに内容を聞かれないようにと配慮してのことだろう。先生方や子供達の目に触れず、児童に扮する日影と先生であるルナが対等に話せる場所は他にない。

「おそらくだが、俺が慈愛ちゃんの近くに居るうちは虐めは起こらないだろうな。俺達が学校から姿を消せばどうなるかは分からない。まだ安心は出来ないな」

席替えをしてから陽射輝斗と慈愛の距離は最前列と最後列と見て分かるくらいに離れた。一番前とかなり微妙な席に座る彼とは振り向かれなければ目を合わせることもない。
授業の間に挟まれる休み時間は短いから問題は無いが、昼休みに絡まれる可能性は否定出来ないんだよな。
水嶋日影という天敵が現れてからは慈愛に対するスキンシップの数はかなり減少した筈だが、それでもまだゼロではない。輝斗はちょっとした隙があれば構わず我が妹にちょっかいを出しにやって来るのだ。

そろそろ戻ろう。教室に残して来た慈愛ちゃんの身の安全が心配だ。


************************



「ほら、慈愛。高い高ーい」

教室に戻ってみれば案の定、輝斗が慈愛の脇の下に手を入れて小さな体を高く持ちあげていた。
九歳でも十分に幼い年齢だが、流石に高い高いをして貰う歳ではないだろう。兄の日影が妹にしてあげるならそれなりに見えるかもしれないが、同級生にそんなことをされても屈辱以外に感じることは何も無い。

「あの、陽射さん……、気が済んだらそろそろ降ろしてくれませんか?皆が見てます。それなりに恥ずいです」

大半の児童が外に出てサッカーやらドッジボール、鬼ごっこなどをして遊んでいる中、それでも昼休みを教室で過ごす児童は少なからず存在する。
ほとんどが女子だったが、教室にいる全員の視線はじゃれ合う二人に釘付けとなっていた。慈愛の気持ちはこっちにも痛いほど伝わってくる。
身長は男子である輝斗の方がいくらかは大きいようだが、それでも可愛いからと言って同級生を妹扱いするのは如何なものか。

嫌がる子はとことん嫌がるぞ。
うちの妹は呆れた顔で、諦めたようにされるがままになってはいるが、口から投げられた言葉だけは正直だった。

「おい輝斗。慈愛ちゃんが嫌がってるだろ。俺にそれ返却しろ」

「おいおい水嶋。俺を下の名前で呼ぶことを許したのは慈愛だけだぜ。輝斗とか気安く呼ぶんじゃねぇよ」

「私はそう呼んだこと一度も無いんですけどね……。これからもずっと「陽射さん」のままです」

空中から地上に降ろされた慈愛は彼から逃げるように兄の背中へと身を隠した。そこから顔を半分だけ覗かせて輝斗を見ている。

「うっひょおっ!慈愛可愛いっ!」

パシャリと、慈愛のプリティな姿を携帯のカメラ機能を使ってメモリーに保存する。行動一つ一つが日影の普段やってることと被って見えた慈愛だった。
終いに口にした台詞まで似通っているとは思わなかったが……。

「これ待ち受けにするわ」

「人を勝手に撮って勝手に待ち受けにするのはやめて欲しいです」

「今に始まったことじゃねぇんだから、一々気にすんな」

少しの反省の色などなく、開き直った輝斗が口にした台詞は何とも意味深な言葉だった。

「何ですか、それ。どういう意味です?ちゃっかりと聞き逃してはいけないような台詞を口にされた気がするんですが……」

「俺の慈愛コレクションにはこんな写真があってだな」

そう言って自慢気に見せびらかしてきた写真は、プールの授業中に体育座りで居眠りをしている慈愛の姿だった。
着ているスク水が小さな体にとてもよく似合っている。

「いつの間にか盗撮されていたんですね。全く気が付きませんでした」

「おお。慈愛ちゃんのスク水姿初めて見たな。すげぇ似合ってんじゃん」

「俺のコレクションはまだまだこれだけじゃないぜぇ~」

体操着姿の慈愛。給食をきらきらした目で見つめている慈愛。転んで膝を擦りむき涙目になっている慈愛。家庭科の授業で料理をするエプロン姿の慈愛。他多数。

人のことは言えたもんじゃないが、コイツも大概だな。
盗撮されていることを慈愛ちゃんが警察に相談しに行けば即逮捕されるレベルだ。

「ちょっとそれ貸して下さい」

慈愛は輝斗の手から自分の写真が何百枚も保存されているスマホを奪い取り中身を確認した。

「うわぁ……、これ私以外の写真が一枚も存在しません。カメラロールに九百九十九枚。後一枚で千枚です」

「見たらさっさと返せよ。記念すべき千枚目は慈愛の写真を撮ろう。そうしよう」

「……えい」

「あーあ。勿体無いことを。慈愛ちゃん鬼だな」

「へ……勿体無い?……おい、慈愛。お前、まさか……」

慈愛がタップしたのは写真の全選択と消去のダブルコンボ。後一枚で千枚だったカメラロールの写真達は、音も無く静かに画面上から全て消失した。

「はい。全部抹消させて頂きました」

「ふざけんなよ、おいっ!?マジで消しやがったよ、こんにゃろ~!どうしてくれんだよ、慈愛。あのコレクション全部夜専用のおかずだったんだからなっ!」

「おかずって……お前変態だな。まだ小三の癖に生意気だぞ」

「おかずって、晩御飯のことですよね。それがどうして変態何です?」

「……はは、慈愛ちゃんは知らなくて良いことさ」

最近の小学生ってのは随分と間施ているんだな。これもネットの発展があってこそか。

うちの妹はピュアな心の持ち主で良かったと、日影はほっと胸を撫で下ろした。

「ああ……、体操着姿の慈愛ちゃん可愛い」

午後の授業、五時間目。体育。
地球温暖化の進行+六月と夏が近いことも重なってか、太陽の光が体に照り付けて肌が焼けるように暑かった。そんな中をグラウンドでマラソンさせようと考える教師の思考が日影には少しも全く理解出来ない。出来て溜まるか。

心中で文句を垂れ流しながら我武者羅に、ただひたすらに地面を蹴って走り続ける。
これならまだプールの授業の方がマシだと、暇そうに木陰の下であくびをする体育教師を鋭い視線で睨みつけた。
寝不足で眠たいのか、彼はそんな視線を向けられていることさえ気付いていない。

(あんな楽な仕事で給料が支払われるなら俺も教師になりてぇよ)

ルナと同じように教員免許でも取得しようかと、そんなどうでも良いことを黙考しながら日影が走っていると、兄の背中を追いかけるように走っていた慈愛が何かに躓いて激しく転んだ。
すぐさま自分に急ブレーキをかけて途中で立ち止まる。ギアをドライブからリバースに入れ直し、転んで膝を擦りむいていた妹の元へ急いだ。

「盛大に転んだな。慈愛ちゃん、平気か?」

「ごめんなさい、お兄ちゃん。転んじゃったみたいです……痛たたた」

体育教師は児童が転んで怪我をしたというのに、昼過ぎで眠いのかこの状況に気付いておらず近寄って来る気配すらない。

やれやれと呆れた視線を向ける日影は、怪我をした慈愛を地面から掬い上げてお姫様抱っこ。
転んだ慈愛を隣で心配する女子へ、保健室に行って来ると伝えると一度グラウンドを後にした。

「……私、迷惑ばかりかけてますよね。すいません」

「転けること何か誰にだってあるだろ。迷惑何て思わないよ」

「いえ、それだけじゃなくてですね……小学生の振りしてくれて一緒に学校に通ってくれています。本当にごめんなさい」

「別に良いよ。俺が好きでやってることだしな。妹を守ってやるのはお兄ちゃんの使命みたいなもんだろ」

兄の腕の上でしょんぼりと浮かない顔をしている慈愛に日影は笑顔を向けた。


************************



(もうこんな時間か。全然気付かなかったな)

保健室で治療を受けている途中で、五時間目終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

ーーこれならグラウンドに態々戻る必要は無さそうだな。

勝手にそう判断した日影は慈愛と一緒に教室へと足を進める。怪我をした妹を気遣いながらゆっくりと廊下を歩いた。
予想通り、教室にはグラウンドから戻って来た児童が着替えや六時間目の用意を始めている。

「あれ……?」

自分の席に腰を下ろした慈愛が何かに気付いて、驚いたような声を上げる。小さな手に握られていたのは一通の手紙だった。

誰からの手紙だろう。まさか、ラブレターとか?

日影が半ば不安そうな目で慈愛を眺めている中で、その手紙は開封された。

(……んんっ?)

あれ……何か様子が可笑しいぞ。

手紙の内容を確認している途中で慈愛ちゃんが一瞬顔をしかめたように見えたのは気のせいか?

……いいや違う。確かに血の気が引いた様に顔が青白く変化した。まるで恐怖の感情を抱いているような、そんな風に思える。

「慈愛ちゃん、何だか顔色悪いぞ。平気か?」

「……だっ、大丈夫、です。平気、ですから……」

心配になって声をかけてみるも、慈愛から帰ってきた返答は「大丈夫」や「平気」という問題を感じさせない言葉ばかりが並んでいた。

「その手紙誰から?」

「あっ、と……その……ルナさんです。ルナさんからでした……」

本当にルナからだとしたら、俺の口にした質問に考えるような間は必要無い筈だ。
話したくない内容なら無理に聞くつもりもないが、何だか心配でならない。
もしかして輝斗の奴が送り主だったりしてな。十分にありえるからそれはそれで恐ろしい。慈愛ちゃんが顔を青冷め恐怖を感じてしまうのも頷ける。
今日の放課後デートしようとか、そんな感じのくだらない内容に違いない。うん。きっとそうだ。

日影の勝手な推測から程無くして、本日ラスト国語の授業が始まった。
























































































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