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第四十九話(最後は笑顔で……)
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六時間目の授業中、慈愛は最初から最後までずっと上の空だった。
いつの間にか彼女の席におかれていた手紙に記されていた内容は思わずゾッとしてしまうような衝撃の内容で、差出人は不明。ラブレターのような微笑ましい内容とは打って変わった脅迫状のような文章が書き殴られていた。赤のマジックで雑に書かれた文字からは血液を連想させる。
(一人で五年の教室に来い。……ですか)
あたし達は転校生「水嶋日影」の正体を知っている。情報を漏らされたくなければ五年の教室へ一人で来い。
脅迫状を送りつけてきた人物はおそらく、この前慈愛を痛ぶった少女三人のいずれかだろう。
文面の通りなら、兄に手紙の内容は話すべきじゃない。
優しい日影は妹を一人で危険な場所に行かせたりするような薄情な兄ではないからだ。
「おーい。慈愛ちゃん。帰ろうぜー」
「は、はい……」
「どした?元気ないなぁ」
「い、いえ。そんなこと、ないですよ」
そう言って兄の後ろを追いかけるように歩く慈愛の目は分かりやすく泳いでいる。日影が顔を覗いてみると、目線をチラつかせた。
「ま、まあ、慈愛ちゃんがそういうなら信じるけど」
ランドセルを背負い、教室から廊下に出て昇降口へ足を運ぶ。
慈愛は校門まで来たところで歩く足を止める。
「すいません、お兄ちゃん。教室に忘れ物をしたので先に帰っていて下さい」
「此処で待ってるよ。先に帰ったって特にやることないしな」
「い、いえ、待たせても悪いですし、大丈夫です……と、とにかく先に帰っていて下さい。お願いします」
それだけ言い残して、慈愛は慌てたように走って校舎の方へと戻っていく。
返答する隙さえ与えられずに校門に一人残された日影は、暫くの間その場で妹の帰りを待つことに決めた。
ーー忘れ物って言ってたけど、一体何を取りに行ったんだろう。
「五年生の教室は四階。でしたよね……」
慈愛は一階の階段前までやって来て、そこから一歩踏み出すのを躊躇っていた。
向かわなくてはならないことは分かっていたのだが、この階段を上がった先にある目的地で自分がどんな目に合わされるのか予想出来ない。
暴行を受けるのか罵声を浴びさせられるのか、そう考えただけで体が恐怖に怯えていた。
それでも、行かなくちゃ。
私が一人で行けばお兄ちゃんの秘密は黙っていて貰える筈です。
脅迫状の送り主に「兄の正体」という明るみにされては非常に不味い秘密を握られている以上、慈愛の取れる行動はたったの一つに絞られる。この選択にYesはあってもNoは無い。
意を決し恐怖に震える体を何とか制御しながら、一歩、また一歩と階段を上がる。もう後戻りは出来ない。
四階の最上階まで到達したところで、一人の五年の少女が慈愛を待ち受けていた。
「へー。素直に言い付け守って一人で来たんだ。偉いね」
「はい……手紙のことは誰にも話していません。私一人で来ました」
この少女はあの日三年の教室にやって来た五年生の一人で間違いない。慈愛の予想は的中した。
「付いてきて。彩が教室であなたを待ってる」
「あ、あの……私は何をすれば、日影君の秘密を駄まっていて貰えるんでしょうか?」
「さあね。それはあの子に聞いて。正直言うとね、あたしは木ノ下のことどうとも思ってない。彩の友達として仕方なく付き合ってあげてるだけ……ごめんね」
少女は一言謝罪を入れてから自分達の教室に慈愛を案内した。
「連れてきたよ」
教室の扉が少女によって開かれ、慈愛は恐る恐る中に入った。
掃除の途中なのか、全ての席は教室後方に寄せられて前方にちょうど半分くらいのスペースが空いていた。
床に胡坐をかいて座っていたのは鈴木彩。この前慈愛に暴行を加えた人物だ。
「木ノ下、あたしを待たせる何てどういうつもり?来るのが遅いわよ」
早速鈴木彩は声を荒らげて激怒するが、慈愛は思っていることを正直に口にした。その返答が相手の怒りをさらにヒートアップさせる結果となることも予想せずに。
「ごめんなさい。時間の指定は特に無かったので……」
「うるせー!来いって言ったらすぐ来りゃ良いんだよっ!餓鬼の癖に生意気な口聞きやがってっ!」
唇を鋭く尖らし、感情的になって怒鳴り声を撒き散らす。立ち上がった鈴木は、慈愛の頭を手加減無しに、げんこつを作って殴り落とした。
当然のことながら、突然の重い一撃を食らって慈愛は痛みに耐えきれず悲鳴をあげる。
「あぐっ…………痛い、です……どうして殴るんですか」
生まれて初めて味わった強烈な痛みに慈愛は顔を歪ませ、涙を瞳に滲ませる。
頭を両手で押さえながら床にしゃがみ込んだ。
「てめーが一丁前に屁理屈並べるからだよ。おらっ、立てよ!まだこんなもんじゃ済まさねぇからなっ!」
乱暴に慈愛の腕を掴んで小さな体を立ち上がらせる。まだ頭に与えられた痛みが十分に引いていないところで腹部に激痛が走る。
鈴木は自分の方へ慈愛の体を引き寄せると、お腹を容赦なく膝蹴りした。女子とは思えない非常に強烈な一撃だ。
それを近くで見ていた友達の少女は流石にやり過ぎだと鈴木へ口を突っ込む。
「ちょっと彩っ。今のはやり過ぎだよ。さっきのもどうかと思ったけど、この子が死んじゃったらどうするの?あたし等じゃ責任取れないでしょ?」
「こんな奴死んだって良いんだよ。三年の餓鬼の癖して色付きやがって。水嶋をボディガードに付ければあたしに手を出されないと思って安心してたんだろ?舐めやがってよ。どうなんだ、おいっ!」
鈴木の怒りは収まらず、床に体を倒して咳き込む慈愛に容赦なく怒鳴り散らすが、その質問に最早答える余裕などどこにも残っていない。
痛みと苦しさと不安で、泣くのを我慢して堪えていた涙がとうとう瞳から零れ出す。
「おらっ!さっさと質問に答えやがれっ!おらおらおらっ!」
倒れる慈愛の腕を上から矢継ぎ早に踏みつける。鈴木はその光景を黙って見ていた少女にも同じことをするよう命令した。
「見てばかりいないでアンタも踏みつけなよ」
「えっ……あたしは、遠慮しとくよ……」
「良いからさっさとやれや!」
鈴木の威張った口調と険悪な顔つきに威嚇され、少女は仕方なくと慈愛の脚を踏みつけに掛かった。
「うっく……ぐすっ……お兄、ちゃん……助け、て」
「ははっ。やっぱアイツってお前の兄だったのな。そうじゃないかと思ってたけど予想通りにビンゴだわ」
慈愛の救いを求める声を耳にして、そうじゃないかと疑っていた日影の正体を確信し、鈴木は不気味に顔を二やつかせる。
床に転がる慈愛の銀髪を適当に鷲掴みにして持ち上げると、無理やりに自分の方へ視線を向けさせた。
その行いに、痛みを訴えるように呻き声を出す小さな少女を気にする様子はこれっぽっちも感じられない。
「お前の兄はもう終わりだよ。あたしの発言一つで社会的に抹殺される。残念だったな、木ノ下。もうすぐでお前等兄妹は離れ離れだ」
獰猛な顔つきで冷たく言い放った言葉は慈愛の気持ちを更に不安にさせた。約束を守って一人でやって来たというのに、鈴木には鼻から日影の正体を秘密にする気など無かったのだと、後悔の気持ちで一杯になった。
酷薄な思いやりのない台詞に慈愛は背筋が寒くなった。
すっかりと狂乱化してしまった少女の勢いは止まらない。
慈愛が自分の問いかけに黙ったままでいると、怒鳴り声で威圧し、懐からカッターを取り出した。
「何とか言えよ、てめぇ。シカトしてんじゃねぇよ。マジで殺すぞ」
慈愛は痛みで上手く喋れないだけであって、決して鈴木の声を無視していた訳ではない。そんなことも理解出来ない発狂少女はカッターの刃を剥き出しにして慈愛の目鼻立ちの整った顔に近付ける。
狂気に満ちた表情からは戸惑いの心など皆無だ。
「お前の生意気な面ぐちゃぐちゃに切り裂いてやるよ。二度と表を歩けないよう皮膚を剥がして、目をくり抜いて、口も裂いて化け物顔にしてやる。どうだ?嬉しいだろ。まずは目だ。目を開けろ」
「やだ……やだぁ……恐いよ……本当に、くり抜くの……?」
「あたりめーだろ。おいお前等、暴れないようにこいつ押さえとけ」
本当に友達なのか疑わしいくらいの命令口調で鈴木はそう告げる。
慈愛の体はもう一人の少女に羽交い締めにされて逃げ場を失った。
体が恐怖に竦んで抵抗もできない。
ーー子供は時に残酷な行為を平気でやってのける。鈴木は本気だ。
「やっ、やだ……痛いの、やだ……やだよぅ……」
慈愛は怖くて目を瞑った。
(お兄ちゃん……助けて……)
涙を零しながら心の中で切実に願った。
先に家へ帰してしまった兄が助けに来てくれる筈がないことは分かっていたが、それでも救いを求めずにはいられなかった。
目をくり抜かれたらお兄ちゃんの顔、もう見られないんだよね……お姉ちゃんの顔もお婆ちゃんの顔も、ルナさんの顔も、全部、何も見えない……。
「ははっ。今の内に泣いとけ泣いとけ。暴れても騒いでも止めないから覚悟しとけよ」
ーーぐちゃぐちゃにされて、醜くなったおばけみたいな顔の私でも、お兄ちゃんは普段と変わらずに可愛がってくれるかな?
そうだったら、嬉しいな……。
最後だけでも鈴木に一矢報いてやろうと、慈愛は最高の笑顔を見せて笑った。
いつの間にか彼女の席におかれていた手紙に記されていた内容は思わずゾッとしてしまうような衝撃の内容で、差出人は不明。ラブレターのような微笑ましい内容とは打って変わった脅迫状のような文章が書き殴られていた。赤のマジックで雑に書かれた文字からは血液を連想させる。
(一人で五年の教室に来い。……ですか)
あたし達は転校生「水嶋日影」の正体を知っている。情報を漏らされたくなければ五年の教室へ一人で来い。
脅迫状を送りつけてきた人物はおそらく、この前慈愛を痛ぶった少女三人のいずれかだろう。
文面の通りなら、兄に手紙の内容は話すべきじゃない。
優しい日影は妹を一人で危険な場所に行かせたりするような薄情な兄ではないからだ。
「おーい。慈愛ちゃん。帰ろうぜー」
「は、はい……」
「どした?元気ないなぁ」
「い、いえ。そんなこと、ないですよ」
そう言って兄の後ろを追いかけるように歩く慈愛の目は分かりやすく泳いでいる。日影が顔を覗いてみると、目線をチラつかせた。
「ま、まあ、慈愛ちゃんがそういうなら信じるけど」
ランドセルを背負い、教室から廊下に出て昇降口へ足を運ぶ。
慈愛は校門まで来たところで歩く足を止める。
「すいません、お兄ちゃん。教室に忘れ物をしたので先に帰っていて下さい」
「此処で待ってるよ。先に帰ったって特にやることないしな」
「い、いえ、待たせても悪いですし、大丈夫です……と、とにかく先に帰っていて下さい。お願いします」
それだけ言い残して、慈愛は慌てたように走って校舎の方へと戻っていく。
返答する隙さえ与えられずに校門に一人残された日影は、暫くの間その場で妹の帰りを待つことに決めた。
ーー忘れ物って言ってたけど、一体何を取りに行ったんだろう。
「五年生の教室は四階。でしたよね……」
慈愛は一階の階段前までやって来て、そこから一歩踏み出すのを躊躇っていた。
向かわなくてはならないことは分かっていたのだが、この階段を上がった先にある目的地で自分がどんな目に合わされるのか予想出来ない。
暴行を受けるのか罵声を浴びさせられるのか、そう考えただけで体が恐怖に怯えていた。
それでも、行かなくちゃ。
私が一人で行けばお兄ちゃんの秘密は黙っていて貰える筈です。
脅迫状の送り主に「兄の正体」という明るみにされては非常に不味い秘密を握られている以上、慈愛の取れる行動はたったの一つに絞られる。この選択にYesはあってもNoは無い。
意を決し恐怖に震える体を何とか制御しながら、一歩、また一歩と階段を上がる。もう後戻りは出来ない。
四階の最上階まで到達したところで、一人の五年の少女が慈愛を待ち受けていた。
「へー。素直に言い付け守って一人で来たんだ。偉いね」
「はい……手紙のことは誰にも話していません。私一人で来ました」
この少女はあの日三年の教室にやって来た五年生の一人で間違いない。慈愛の予想は的中した。
「付いてきて。彩が教室であなたを待ってる」
「あ、あの……私は何をすれば、日影君の秘密を駄まっていて貰えるんでしょうか?」
「さあね。それはあの子に聞いて。正直言うとね、あたしは木ノ下のことどうとも思ってない。彩の友達として仕方なく付き合ってあげてるだけ……ごめんね」
少女は一言謝罪を入れてから自分達の教室に慈愛を案内した。
「連れてきたよ」
教室の扉が少女によって開かれ、慈愛は恐る恐る中に入った。
掃除の途中なのか、全ての席は教室後方に寄せられて前方にちょうど半分くらいのスペースが空いていた。
床に胡坐をかいて座っていたのは鈴木彩。この前慈愛に暴行を加えた人物だ。
「木ノ下、あたしを待たせる何てどういうつもり?来るのが遅いわよ」
早速鈴木彩は声を荒らげて激怒するが、慈愛は思っていることを正直に口にした。その返答が相手の怒りをさらにヒートアップさせる結果となることも予想せずに。
「ごめんなさい。時間の指定は特に無かったので……」
「うるせー!来いって言ったらすぐ来りゃ良いんだよっ!餓鬼の癖に生意気な口聞きやがってっ!」
唇を鋭く尖らし、感情的になって怒鳴り声を撒き散らす。立ち上がった鈴木は、慈愛の頭を手加減無しに、げんこつを作って殴り落とした。
当然のことながら、突然の重い一撃を食らって慈愛は痛みに耐えきれず悲鳴をあげる。
「あぐっ…………痛い、です……どうして殴るんですか」
生まれて初めて味わった強烈な痛みに慈愛は顔を歪ませ、涙を瞳に滲ませる。
頭を両手で押さえながら床にしゃがみ込んだ。
「てめーが一丁前に屁理屈並べるからだよ。おらっ、立てよ!まだこんなもんじゃ済まさねぇからなっ!」
乱暴に慈愛の腕を掴んで小さな体を立ち上がらせる。まだ頭に与えられた痛みが十分に引いていないところで腹部に激痛が走る。
鈴木は自分の方へ慈愛の体を引き寄せると、お腹を容赦なく膝蹴りした。女子とは思えない非常に強烈な一撃だ。
それを近くで見ていた友達の少女は流石にやり過ぎだと鈴木へ口を突っ込む。
「ちょっと彩っ。今のはやり過ぎだよ。さっきのもどうかと思ったけど、この子が死んじゃったらどうするの?あたし等じゃ責任取れないでしょ?」
「こんな奴死んだって良いんだよ。三年の餓鬼の癖して色付きやがって。水嶋をボディガードに付ければあたしに手を出されないと思って安心してたんだろ?舐めやがってよ。どうなんだ、おいっ!」
鈴木の怒りは収まらず、床に体を倒して咳き込む慈愛に容赦なく怒鳴り散らすが、その質問に最早答える余裕などどこにも残っていない。
痛みと苦しさと不安で、泣くのを我慢して堪えていた涙がとうとう瞳から零れ出す。
「おらっ!さっさと質問に答えやがれっ!おらおらおらっ!」
倒れる慈愛の腕を上から矢継ぎ早に踏みつける。鈴木はその光景を黙って見ていた少女にも同じことをするよう命令した。
「見てばかりいないでアンタも踏みつけなよ」
「えっ……あたしは、遠慮しとくよ……」
「良いからさっさとやれや!」
鈴木の威張った口調と険悪な顔つきに威嚇され、少女は仕方なくと慈愛の脚を踏みつけに掛かった。
「うっく……ぐすっ……お兄、ちゃん……助け、て」
「ははっ。やっぱアイツってお前の兄だったのな。そうじゃないかと思ってたけど予想通りにビンゴだわ」
慈愛の救いを求める声を耳にして、そうじゃないかと疑っていた日影の正体を確信し、鈴木は不気味に顔を二やつかせる。
床に転がる慈愛の銀髪を適当に鷲掴みにして持ち上げると、無理やりに自分の方へ視線を向けさせた。
その行いに、痛みを訴えるように呻き声を出す小さな少女を気にする様子はこれっぽっちも感じられない。
「お前の兄はもう終わりだよ。あたしの発言一つで社会的に抹殺される。残念だったな、木ノ下。もうすぐでお前等兄妹は離れ離れだ」
獰猛な顔つきで冷たく言い放った言葉は慈愛の気持ちを更に不安にさせた。約束を守って一人でやって来たというのに、鈴木には鼻から日影の正体を秘密にする気など無かったのだと、後悔の気持ちで一杯になった。
酷薄な思いやりのない台詞に慈愛は背筋が寒くなった。
すっかりと狂乱化してしまった少女の勢いは止まらない。
慈愛が自分の問いかけに黙ったままでいると、怒鳴り声で威圧し、懐からカッターを取り出した。
「何とか言えよ、てめぇ。シカトしてんじゃねぇよ。マジで殺すぞ」
慈愛は痛みで上手く喋れないだけであって、決して鈴木の声を無視していた訳ではない。そんなことも理解出来ない発狂少女はカッターの刃を剥き出しにして慈愛の目鼻立ちの整った顔に近付ける。
狂気に満ちた表情からは戸惑いの心など皆無だ。
「お前の生意気な面ぐちゃぐちゃに切り裂いてやるよ。二度と表を歩けないよう皮膚を剥がして、目をくり抜いて、口も裂いて化け物顔にしてやる。どうだ?嬉しいだろ。まずは目だ。目を開けろ」
「やだ……やだぁ……恐いよ……本当に、くり抜くの……?」
「あたりめーだろ。おいお前等、暴れないようにこいつ押さえとけ」
本当に友達なのか疑わしいくらいの命令口調で鈴木はそう告げる。
慈愛の体はもう一人の少女に羽交い締めにされて逃げ場を失った。
体が恐怖に竦んで抵抗もできない。
ーー子供は時に残酷な行為を平気でやってのける。鈴木は本気だ。
「やっ、やだ……痛いの、やだ……やだよぅ……」
慈愛は怖くて目を瞑った。
(お兄ちゃん……助けて……)
涙を零しながら心の中で切実に願った。
先に家へ帰してしまった兄が助けに来てくれる筈がないことは分かっていたが、それでも救いを求めずにはいられなかった。
目をくり抜かれたらお兄ちゃんの顔、もう見られないんだよね……お姉ちゃんの顔もお婆ちゃんの顔も、ルナさんの顔も、全部、何も見えない……。
「ははっ。今の内に泣いとけ泣いとけ。暴れても騒いでも止めないから覚悟しとけよ」
ーーぐちゃぐちゃにされて、醜くなったおばけみたいな顔の私でも、お兄ちゃんは普段と変わらずに可愛がってくれるかな?
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