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第五十七話(ようこそ。地獄の入り口へ)
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未成年限定の死刑囚や凶悪犯。そういった連中ばかりを収容する刑務所の存在を小耳に挟んだ記憶がある。
ーーそうだ。昔つるぎから聞いた話だった。
起床は朝の五時ジャスト。朝食は支給されず、同じく昼食も出ない。
目覚めて早々に 毎日二時間の走り込み。歩いたら即懲罰の対象になるそうだ。
そして辛い運動の後は休む暇もなく奉仕作業。
こっちの刑務所では刑務作業は省かれ、一日丸々外で働かされる。
朝昼と何も食べないで働いている訳だから、体も思うように動かず、十キロの過度な走り込みで疲れているせいか物凄くだるさを感じるんだってさ。
途中で倒れる囚人もザラらしい。
夜しか食べ物が支給されないとか、ふざけてるよな。死ねって言ってるようなものだ。
(しかし、どうしてこの俺がそんな刑務所に収容されなきゃならないんだ……)
鈴木彩。慈愛を酷く嫌っていた虐めっ子のリーダー格。嫉妬で狂乱と化した小五の少女の存在を覚えているだろうか。日影が顔面を殴り飛ばし永久歯を数本砕いた相手。
彼女の親は警視総監だったらしく、大切な一人娘の顔をボロ雑巾のようにされて偉く憤怒した親父さんは、俺を普通の刑務所に入れることを許さなかった。
(喜べ木ノ下。貴様の身柄は「犬小屋」に収容されると決まった)
何分か前に刑務官から投げ捨てられた言葉が嫌でも頭をよぎる。
ニヤリと口元を不気味に歪ませる刑務官の不敵な笑みが背筋をブルっと震わせた。
(何だよ、犬小屋って……まさか、本当に本当のあの犬小屋じゃないだろうな……)
日影の頭に浮かんだのは飼い犬が体一つ入るのがやっとの、人間からしたら不愉快でしかない狭苦しい犬小屋。
まさかとは思うが、首輪でもされて鎖に繋がれたりするのか?
あり得ない話じゃないから恐ろしい。
此処は元居た刑務所と違って囚人を人として扱わず、まるで奴隷の如くオモチャとされ彼等の娯楽の対象となる。ストレス発散の道具と言ってもいい。
懲罰を受けて命を落とす者もあれば、あまりの空腹や睡眠不足で力尽きる者も居る。生きる希望さえ失って、自殺を行動に移す者も少なくない。
犯罪者共が「地獄の入り口」と噂する恐ろしい場所だ。
「入れ。今日から此処が、貴様の新しい家となる。精々噛み殺されないようにな」
不吉な台詞とセットで乱暴に背中を押された。二人用の牢の中にぶち込まれ厳重に鍵が閉められる。
……何だ。前居た牢と大して変わらないじゃないか。びびって損した。
部屋の隅っこには寂しそうに体育座りで佇む同居人の姿あり。
フードを目深に被っていて顔をはっきりとは確認出来ないが、女性用の囚人服を着ているところを見るに女子で間違いないだろう。
この囚人服は相変わらずか。
日影達が着用している黒と白の線でデザインされた縞柄の囚人服は、パーカーのような形をしていて、それをネクタイを締めたワイシャツの上から纏っている。男子にはズボンが支給されているが、女子はパーカーの裾が長めに調整されていて見た目はワンピースに近い。太ももを強調するように両脚に履いているニーソックスという靴下が目のやり場に困る。
絵に描いたように男女共々全身がシマウマみたいだ。
ルナやつるぎがこれを着ていた姿は目の毒で、よく視線を逸らしていたっけ。
俺が関わった女子三人は見た目が可愛いくて綺麗な子達だったから、こんな囚人服でもうまい具合に着こなしてたな。
妹の慈愛ちゃんも二人に負けず劣らずでさ。
「よっ、先輩。今日から宜しく頼む。新人の木ノ下日影だ」
「…………」
牢の隅っこで体育座りを決め込んで俯いている先人に気さくに話しかけてみるも、反応が返って来ない。
目深く被っているフードのせいで顔が見えないしピクリとも動かないし、必ずとは言い切れないが、もしかしたら眠っているのかもしれない。
無理に起こすのも悪いと感じて、日影が隣に腰掛けた数秒後、少女のお腹の虫が代わりに返事をした。
「…………お肉」
「ーーはぁ、何だって?」
ふいに、隣に座る少女の片手が俺の片腕を鷲掴みにする。
意味不明な謎発言と行動に日影は戸惑うことしか出来ずにされるがまま。
自分の腕が可愛らしい顔をした同居人の口元に運ばれた瞬間、この牢が「犬小屋」と呼ばれ忌み嫌われている実態を初めて悟ったのだ。
「ひっ、……ひぎゃあぁあああああああああっ!!」
日影の悲痛の叫びが刑務所内に轟いて周りをざわつかせる。
腕を犬歯でガブっと噛まれた。まるで骨付き肉にかぶり付く海賊のように皮膚と肉を容赦なく噛み千切ろうとしている。
何だコイツ……、正気の沙汰とは思えねぇ。イカれてやがる。
この凶暴な同居人は、テイル・ブラウニー。
名前の通り異国の者だ。生まれた国は不明……というか、人間かどうかも怪しい。
頭に奇妙な獣耳を生やした少女と木ノ下日影のファーストコンタクトは最低最悪だった。
ーーそうだ。昔つるぎから聞いた話だった。
起床は朝の五時ジャスト。朝食は支給されず、同じく昼食も出ない。
目覚めて早々に 毎日二時間の走り込み。歩いたら即懲罰の対象になるそうだ。
そして辛い運動の後は休む暇もなく奉仕作業。
こっちの刑務所では刑務作業は省かれ、一日丸々外で働かされる。
朝昼と何も食べないで働いている訳だから、体も思うように動かず、十キロの過度な走り込みで疲れているせいか物凄くだるさを感じるんだってさ。
途中で倒れる囚人もザラらしい。
夜しか食べ物が支給されないとか、ふざけてるよな。死ねって言ってるようなものだ。
(しかし、どうしてこの俺がそんな刑務所に収容されなきゃならないんだ……)
鈴木彩。慈愛を酷く嫌っていた虐めっ子のリーダー格。嫉妬で狂乱と化した小五の少女の存在を覚えているだろうか。日影が顔面を殴り飛ばし永久歯を数本砕いた相手。
彼女の親は警視総監だったらしく、大切な一人娘の顔をボロ雑巾のようにされて偉く憤怒した親父さんは、俺を普通の刑務所に入れることを許さなかった。
(喜べ木ノ下。貴様の身柄は「犬小屋」に収容されると決まった)
何分か前に刑務官から投げ捨てられた言葉が嫌でも頭をよぎる。
ニヤリと口元を不気味に歪ませる刑務官の不敵な笑みが背筋をブルっと震わせた。
(何だよ、犬小屋って……まさか、本当に本当のあの犬小屋じゃないだろうな……)
日影の頭に浮かんだのは飼い犬が体一つ入るのがやっとの、人間からしたら不愉快でしかない狭苦しい犬小屋。
まさかとは思うが、首輪でもされて鎖に繋がれたりするのか?
あり得ない話じゃないから恐ろしい。
此処は元居た刑務所と違って囚人を人として扱わず、まるで奴隷の如くオモチャとされ彼等の娯楽の対象となる。ストレス発散の道具と言ってもいい。
懲罰を受けて命を落とす者もあれば、あまりの空腹や睡眠不足で力尽きる者も居る。生きる希望さえ失って、自殺を行動に移す者も少なくない。
犯罪者共が「地獄の入り口」と噂する恐ろしい場所だ。
「入れ。今日から此処が、貴様の新しい家となる。精々噛み殺されないようにな」
不吉な台詞とセットで乱暴に背中を押された。二人用の牢の中にぶち込まれ厳重に鍵が閉められる。
……何だ。前居た牢と大して変わらないじゃないか。びびって損した。
部屋の隅っこには寂しそうに体育座りで佇む同居人の姿あり。
フードを目深に被っていて顔をはっきりとは確認出来ないが、女性用の囚人服を着ているところを見るに女子で間違いないだろう。
この囚人服は相変わらずか。
日影達が着用している黒と白の線でデザインされた縞柄の囚人服は、パーカーのような形をしていて、それをネクタイを締めたワイシャツの上から纏っている。男子にはズボンが支給されているが、女子はパーカーの裾が長めに調整されていて見た目はワンピースに近い。太ももを強調するように両脚に履いているニーソックスという靴下が目のやり場に困る。
絵に描いたように男女共々全身がシマウマみたいだ。
ルナやつるぎがこれを着ていた姿は目の毒で、よく視線を逸らしていたっけ。
俺が関わった女子三人は見た目が可愛いくて綺麗な子達だったから、こんな囚人服でもうまい具合に着こなしてたな。
妹の慈愛ちゃんも二人に負けず劣らずでさ。
「よっ、先輩。今日から宜しく頼む。新人の木ノ下日影だ」
「…………」
牢の隅っこで体育座りを決め込んで俯いている先人に気さくに話しかけてみるも、反応が返って来ない。
目深く被っているフードのせいで顔が見えないしピクリとも動かないし、必ずとは言い切れないが、もしかしたら眠っているのかもしれない。
無理に起こすのも悪いと感じて、日影が隣に腰掛けた数秒後、少女のお腹の虫が代わりに返事をした。
「…………お肉」
「ーーはぁ、何だって?」
ふいに、隣に座る少女の片手が俺の片腕を鷲掴みにする。
意味不明な謎発言と行動に日影は戸惑うことしか出来ずにされるがまま。
自分の腕が可愛らしい顔をした同居人の口元に運ばれた瞬間、この牢が「犬小屋」と呼ばれ忌み嫌われている実態を初めて悟ったのだ。
「ひっ、……ひぎゃあぁあああああああああっ!!」
日影の悲痛の叫びが刑務所内に轟いて周りをざわつかせる。
腕を犬歯でガブっと噛まれた。まるで骨付き肉にかぶり付く海賊のように皮膚と肉を容赦なく噛み千切ろうとしている。
何だコイツ……、正気の沙汰とは思えねぇ。イカれてやがる。
この凶暴な同居人は、テイル・ブラウニー。
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