未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第八十九話(高級な草刈機)

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「慈愛が作ったおにぎり美味しい♪」

「だな。こっちのサンドイッチも中々だぞ」

便利屋「株式会社ボイス」は年末が非常に忙しいらしい。
従業員であるデブちゃん吉澤大地が宣っていたから間違いはないんだろう。
何でも、一日に3件ほど依頼が入ってるとか寝る間も惜しんで働かなきゃならないとか、そんな愚痴を零していた。

軽いノリで『手伝ってやろうか?』何て言うんじゃなかったな。

俺は今、テイルと二人して木ノ下家の裏手にある広大な更地にやって来ている。
この場に我が物顔でのさばっている雑草を片付けるのが、引き受けた仕事の内容だ。
午前中に半分近く終わらせたものの、草刈機も使わず直に毟っていては今日中に終わる気がしない。
デブデブちゃんの話によれば、草刈機は故障していて現在修理に出しているらしい。
だったら新しいの買ってこいよって話だが、向こうには向こうの事情があるだろうし強制は出来ない。
何だか貧乏クジを引かされた気分だ。それを理由に厄介事を押し付けられたと勘繰られても文句は言えないだろう。
慈愛ちゃんが朝早く起きて作ってくれた弁当が唯一の癒しだった。

「お兄ちゃんが早くお仕事を終えられたらと考えまして、お隣のおじいちゃんから借りてきちゃいました」

「流石慈愛ちゃんだな。でかした!」

慈愛ちゃんが息急き切って運んできたのは、何とだ。
バッテリー内蔵の四輪でスイッチをオンにすると、けたたましい音を上げ起動を始める。本体からすらりと伸びるハンドルを軽く握って走行するだけで、見る見るうちに雑草を短く切りそろえていく。
素人でも簡単に使える優れもの。しかも、おそらく一度も使っていないと思われる新品だ。
こいつをお隣で大工を営んでいる酒巻さかまきの爺さんに借りてきたと慈愛ちゃんは告げる。
社交性抜群の我が妹は、度々御近所の爺さん婆さん達から寵愛され、本当の孫のように猫可愛がりを受けている。それは周知の事実故に、レンタルという手段はありえない話では無かった。
台車に乗っている草刈機が入っていたと思しきダンボール。そこに簡易なセロテープで貼り付けてあったを発見するまでは……。

「……慈愛ちゃん。もしや、この草刈機って、ホームセンーー」

「さっき申しました通りです。お隣のおじいちゃんにお借りしました。ホームセンターには行ってないです」

こっちの質問を遮るように、慈愛ちゃんは頑なに断言する。その答えはもう一度尋ねても変わることはない。
折角の妹からの手厚い温情に水を差すような言動は、察して控えるべきだったと思う。
でも俺は、レシートをまじまじと観察した結果、気付いてしまった。この草刈機を購入した時間が今からちょうど三十分程前だったこと。それと、値段がもする高級品だったことに。
慈愛ちゃんは、俺とテイルの為に大金を叩いてこいつを買ってきた。今日一日以降は使わなそうな品物を少しも躊躇もせずに。


「ちょっと酒巻の爺さんのとこ行ってくるわ」

「まっ、待ってください……おじいちゃんならついさっき、何処かへお出かけに向かわれました。尋ねても意味ないです。無駄足になります」

「いやいやいや……もう帰って来てるかもしれないだろ。というか、どうして袖をそんなに強く引っ張るんだっ!?」

「一つだけ教えて欲しいです。行ってどうするんですか?」

「率直に言うなら確認だな。ずばり言うぞ。この草刈機、慈愛ちゃんが自分のお小遣い使って買ってきただろ」

「そ、そそそ…………そんな、ことはないです…………」 

「嘘だな。顔に書いてあるぞ」

「かっ、書いてないです。見間違いです……」

「本当だな?本当に本当なんだな?」

「ぬぬぬ……ほんとーに、ほんとーです……これってもしかして、尋問ですか……?」

図星を突かれて明らかに動揺し始めた。
目も泳いでいるし、冷や汗もかいている。
普段は正直者で明け透けな慈愛ちゃんが、空々しい嘘を貫き通す理由は何なのか、俺には粗方の予想が付いていた。
この機を逃さず、更に、畳み掛けるように口撃を続ける。

「そうだな。尋問と言うより取り調べだ」

「取り調べはあまり得意じゃないです。あれは二度と経験したくありません。トラウマになります」

「だな。それに関しては同意せざるをえない」

「ですよね。だったらこんな言葉の応酬は終わりにしましょう。争いからは何も生まれないです。不毛です」

慈愛は上手く紛らわして話を終わらせようと画策しているが、思った以上に日影が執拗に追求してくる。
このままでは煙に巻くことは難しいと半ば焦燥し始めた。

「慈愛ちゃんは俺に隠し事をするのか?」

「えっと……その……」

「慈愛ちゃんに嘘付かれたらお兄ちゃんは悲しいな」

「ううっ……ううぅう~~」

まじまじと顔を凝視して、返答が出るのを待った。
ようやく観念したのか「はあ」と小さく吐息。
見るからに落胆している慈愛ちゃんが、訥々と隠蔽しようとした理由を話し始めるのにそう時間は掛からなかった。

「ごめんなさい。本当のことを話したらお兄ちゃんの性格上、きっと私にお金を返そうとすると思って……なので止むを得ず欺瞞を画策しました」

「まさか、慈愛ちゃんに嘘を付かれるとは夢にも思わなかったぞ……」

便です。この草刈機はお兄ちゃんへの出所祝いだと思って、大人しく受け取ってください」

「いや、だが……値段が値段だしな。流石にこんな高価な物を受け取る訳には……」

「受け取っていただけると嬉しいです。開封してしまった以上、返品はできませんし、私に返されても使い道がありません。きっと持て余してしまうでしょう。俗に言う宝の持ち腐れ状態です」

譲渡を逡巡するも、慈愛ちゃんの意志は固い。
しかし、持て余すという点に関して言えば、それはこっちも一緒だ。
年中、同じ類の仕事が斡旋されたのなら使い道はあるだろうが、そうでなきゃ、物置の最奥で、何年もほったらかしの状態となるのは目に見えている。
折角プレゼントしてくれたのに、一度だけ使ってリサイクルショップに売りに行くってのも気が引ける。
いっその事、便利屋に持ち込んでデブちゃんにでも有効活用して貰った方が、まだ活躍の機会がありそうだ。

「まあ、確かに……慈愛ちゃんに使う機会が無いってのは、その通りだよな」

「はい。お兄ちゃんに受け取っていただけないとなると、使ってしまった大金をドブに捨てたことになります」

「と、言われても……俺も同様に使い道がーー」

そこまで言いかけて、目に涙を浮かべている最愛の妹の姿を見た。

「うぅ……今日は心なしか、お兄ちゃんが冷たいです。もしかしてお兄ちゃんは私のことが嫌いになりましたか……?」

ーー兄が妹との言葉の応酬に完敗してから間もなくのこと。
日影は慈愛にプレゼントされた高級草刈機をさっそく起動させ、草を刈っていた。

(二十万かぁ……、こりゃ、とんでもないプレゼントを貰っちまったなぁ……)

気が付けば、助っ人のテイルが忽然と姿を霧散させていた。
どうやら、俺と慈愛ちゃんが話している間に何処かへ出掛けて行ったっぽい。
でもまあ、元々は一人で引き受けた仕事だ。午前中だけでも手伝ってくれたし、あとでとやかく言うつもりはない。何より、この草刈機があれば申し分なく百人力だし。

(……渡すつもりが、貰う側になるとは思いもしていなかった)

実を言うと、日影が今回の仕事を引き受けたのには確固たる理由が存在した。
何を隠そう、慈愛にクリスマスプレゼントやお年玉を渡す為だ。
はっきり言って、今年の十月の重大イベント誕生日を祝ってやれなかったことを盛大に悔やんでいる。
今回の草刈機に限らず、日頃から何かと世話になっている慈愛には感謝してもしたりない。多忙な歌や光子に代わって洒掃薪水を務め、日影の身の回りの世話まで献身的に熟す。
自分のお小遣いを惜しむことなく消費し、兄の好きな食べ物や似合いそうな服まで、多種多様に買い与えている。
……というか、勝手に買ってくる。気付いたら俺の部屋にそれらの品がずらりと並んでいるのだ。
現在の日影は情けないことに、妹にいつの間にか貢がれている半ばヒモのような状態に成り下がっていた。
何が楽しいのか面白いのかは不明だが、慈愛ちゃんは額に汗して働く兄の姿をにこにこしながら静観している。
そんな妹を見て、俺は固く決心した。
草刈機の膨大な代金は、いずれデブのヤローにでも耳を揃えて支払わせようと。
やはり、こんな高価なプレゼントを涼しい顔して受け取るとか、俺には荷が重すぎる……。



















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