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SAKAHAKU

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第八十八話(坊主めくりをしよう)

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「ひーくん、ひま~!ひま!ヒマ!暇~!!」

極寒と言っても過言ではない真冬の室内。四人で仲良くコタツでぬくぬくと暖を取っていた時分。突如、ルナの口からぎゃあぎゃあと世迷言が飛び出した。
耳元で「遊んで遊んで」と発声し、執拗に懇願する金髪ツインテールのお嬢さんは、童顔も然る事乍ら正に子供のように思えた。
体を左右に揺さ振られながらも、俺は平然とこう提案する。
そんなに暇なら「わたくしの部屋に漫画があります故、そちらでも読んでみてはいかがでしょうか?」と、そこはかとなく可笑しな言葉遣いで。そしてまた、著しく面倒そうな表情で……。


『えっ!?ひーくんが帰って来てるの……?』

『はい。ルナさんに伝えるの、うっかり忘れてました』

『慈愛たん、ずるい!ひーくんを二日も一人占めにする何て!忘れてたとか調子のいいこと言ったって、ルナ先生の目は誤魔化せないんだからね!』

『いえ。特にそんなつもりはなかったのですが……というか、テイルさんも居る状態でお兄ちゃんを一人占めに何てできませんよ』

『ちょちょちょっ、ちょっと待って……!』

『ルナさんは本当に落ち着きの無い人ですね……、私は一体全体何を待てばいいんですか?』

『えっと、その……、テイルって……誰?』

そんなやり取りを二人が電話で交わしたのが、ほんの二時間ほど前だったかな。
それからルナは、脱兎の勢いで木ノ下家へ押し掛けて来て、獣耳の少女と邂逅を果たした。
テイルの姿を眼前に見るなり硬直し、徐に言葉を紡ぐ。

『あ、あれ……、何だろう、何だか強烈な既視感が……』

『はい。甘菓子で一度会ったことありますよね。こちらは、木ノ下家に暫く仮寓することになったテイル・ブラウニーさんです。話によれば、お兄ちゃんとは起居を共にする間柄だったみたいですよ。率直に言ってしまうと、以前の私達と同じです』

本人に代わり、慈愛ちゃんがてきぱきと紹介を済ませ、その他諸々あって現在に至る。
いつの間にか、俺と三名の女子でコタツを四方八方から囲繞するという和気藹々とした光景を現出させていた。
最初こそ、例のケーキ屋での行き違い話に花を咲かせていたのだが……、

「えー……、ひーくんのえっちな漫画なら、疾うの昔に読み飽きたよー」

「おいおい、誰がえっちな漫画を勧めたよ?読むなら健全な少年漫画とか少女漫画とかをだな…………」

そこまで言いかけて絶句した。
……あれ、俺の聞き間違いか?
何か妙なフレーズが…………今、読み飽きたとか言ってなかったか!?

「なあ、ルナ……俺って、お前に漫画何か貸したことあったっけ?」

「お兄ちゃんの本棚の漫画コレクションなら、ルナさんが此処へ来るたびに読み漁ってました」

慈愛ちゃんの吹聴という助け船により、疑問が跡形もなく霧散した。
どうやらルナは、俺が何ヶ月か留守にしていた間に此処へ頻繁に出入りしていたらしい。
暇つぶしの為、俺の部屋にエロ本が無いか確認していたようだ。

「ひーくんにずっと聞こう聞こうと思ってたんだよね。どーして女の子同士のえっちな本があるの?何で片方の女の子のお股におちんちーーむがっ!」

危険なワードを口走ろうとしたルナの口を咄嗟に塞ぎに掛かった。
……にしても、可笑しいな。
そもそも、俺の部屋にはそんなカテゴリーの本は無かった筈だが。
内容から察するに、ちまたで最近流行りの男の娘系だろうか……それか、ふた何とかってジャンルもあった気がするぞ。

「えっちな本の話はさて置き、皆で遊ぶならカードゲームとかいいんじゃないですか?トランプとかカルタとか、ちなみに私のお勧めは坊主めくりです」

「坊主めくり……坊主めくりねぇ……」

自分から能動的に来客しておいて、暇だ暇だと連呼し我儘を敢行するルナ。そんな彼女を見兼ねた慈愛ちゃんが、昔懐かしの遊び『坊主めくり』を提言した。小学生の頃によくやったっけ。

「はい。坊主めくりなら遊び方も明快ですし、ルールを知らない人でもすぐに理解出来て、皆で遊ぶには持って来いだと思います」

「日影、坊主めくりってなあに?」

「ねぇねぇ、ひ~く~ん。どーして女の子の体にーー」

「説明しよう。坊主めくりとはだな」

そんなに知りたきゃ、わざわざ俺に聞かずにネットで調べりゃ確実じゃねぇか。
ルナの際どい質問を勢いで遮って、坊主めくりについてテイルへ話してやることにした。

「坊主めくりとは、百人一首の絵札のみを使用し遊ぶゲームだ。まずは絵札をシャッフルし、裏向きに置いて幾つかの山を作る。順番に一枚ずつ引いていき「殿」だった場合は自分の物としてどんどん溜まっていく」

そこまで説明してやった所で、ルナと慈愛ちゃんが、残りの説明を引き継いだ。

「「坊主」を引いてしまった場合は、それまで苦労して溜めた絵札を全部手放さなくてはならないんです」

「でもね「お姫様」を引き当てると、皆が手放した絵札を全て自分の物にできるんだよ。小さな子供でもすぐにルールを覚えられる簡単な遊びでね、これが不思議なことに、やってみると結構病み付きになるんだ~」

「面白そう。やってみたい」

「そうだな。試しにやってみるか」

そんな訳で、四人で始めた久方振りの懐かしい遊び。
テイルから順番に、時計回りに、山札から絵札を一枚ずつ引いていく。

「これって、殿で合ってる?」

「合ってるぞ。次からは頭に毛が無いかあるかで見分けたら、それでいい」

テイルの次は慈愛ちゃんの番だ。続いて俺の番、そして最後がルナの番となる。
慈愛ちゃんは「セーフです。殿様のカードでした」と言って、皆に律儀に呈示してみせた。

「さて、次は俺の番だな」

カッコつけてシュバっと引いたカードは姫。
こいつを引き当てた場合には、皆が坊主を引いたことによって手放したカードを自分の物にできるが、現在捨て札はゼロ。つまり姫の能力は発揮されずに終了する。

「姫の絵札だ。次はルナの番だぞ」

「うん。じゃあ引くね。…………やった。殿様のカードだよ」

「変にドキドキしてきた」

「序盤の内は坊主を引いても被害は少ないけど、中盤になってくるとそのぶん持ち札も多くなってくるからなぁ……そのとき引き当てるとちょっと辛いか」

順番は再びテイルへと戻ってきた。
俺達は何度もカードを引いては、持ち札を増やしたり減らしたり、がっかりしたり喜んだりする。
そんなこんなで、坊主めくりを心から楽しんでいた。

「う、うそ……また坊主引いちゃった……」

「ふっふっふ。またもお姫様のカードを引き当てました。ルナさんが苦労して集めた絵札をごっそりと頂戴します」

坊主を引いて落胆するルナに止めを刺すかのように、慈愛ちゃんが姫を引き当て扁平な胸を誇らしげに張っていた。
気付けば慈愛ちゃんの持ち札は、三人の持ち札の枚数を軽く凌駕していた。凄まじい強運の持ち主を目の当たりにして、テイルが感嘆の声を漏らす。

「慈愛強い。それにひきかえルナは弱い」

「うう~、どうして慈愛たんのとこには、一度も坊主が来ないのよ~~!」

「ルナさんが坊主を何度も引いてくれたおかげですね。ありがとうございます」

「慈愛たん、何かズルしてない?」

「聞き捨てならないですね。私は最初から最後まで、終始一貫、正々堂々です」

驚いたことに、一ゲーム目も二ゲーム目も三ゲーム目も四ゲーム目も、慈愛ちゃんの一人勝ちだった。
負け続けているというのにも関わらず、終始楽しそうにしているテイルとは打って変わって、ルナは悔しそうに歯を噛んでいた。
このゲームでは勝てる気がしない。
そう悟ったルナは、慈愛ちゃんに別のゲームで勝負を挑むことにしたようだ。

「たたいてかぶってジャンケンポン?それって面白いんですか……?」

「うん。面白いに決まってるよ。慈愛たんの頭をポカンって叩けたらストレス発散にもなるよねっ!」

たたいて・かぶって・ジャンケンポン。
それは、ジャンケンに勝った者が負けた相手の頭をピコピコハンマーで叩くという、至って簡単な遊びだ。
尚、叩かれる側はヘルメットを素早く被って防衛することが許可されている。

「始める前から私が負けると決まってるんですか。ルナさんは坊主めくりで全敗したの根に持ってるんですね。子供に完膚なきまでに負かされて発狂しちゃうくらい悔しかったんですね。大人気ないです」

暫く見ない内に、ルナに対する慈愛ちゃんの態度が強気で容赦がなくなっていることに気付いた。
遠慮が無くなったような、より親密になったような。以前よりも更に仲の良い姉妹っぽく感じる。何にしても非常に微笑ましい光景だ。

「そんなこと言って慈愛たん、あたしに負けるのが怖いんでしょ。強がっちゃって~」

「別に怖がっても強がってもいません。そこまで言うなら受けて立ってあげてもいいです。必然的に後で吠え面をかくことになりますが、泣いても慰めてあげないです」

こうして、売り言葉に買い言葉で牽制し合う二人の「たたいて・かぶって・ジャンケンポン」対決の幕が上がった。
俺とテイルの両名は、みかんをぱくつきながら、しょうもない意地の張り合いを静観する観客だ。
開始早々に、ピコンという小気味いい音と「あうっ」という可愛らしい悲鳴が和室に響き渡る。
慈愛ちゃんがジャンケンに負けて、ヘルメットを被る隙を与えず、ピコハンが銀髪頭を打擲したのだった。

「ふぅ~。すっきりしたぁ~。ほらほら、慈愛たん、まだまだやるよ~」

「お兄ちゃん、ダメです。この遊びはイジメを助長します」

「ま、まあ、何だ……がんばれ」

慈愛ちゃんが叩かれた頭を押さえながら、不満を訴え助けを求めてくるが、ルナはまだ完全には満足していないようだ。
あと何発叩くつもりだよ……?

「慈愛、それ叩かれたら痛いの?」

「痛いですよ。ルナさんが軽く叩けば良いところ、力を込めて叩いてくるので」

テイルの問いに率直な意見を述べる慈愛ちゃんは、心なしかちょっと涙目だ。
ルナはジャンケンに立て続けに勝利し、大人気なく頭を殴りに掛かっていた。
ほんと、これじゃどっちが子供何だかって話だ。

「ルナさん、私は常にヘルメットを被りながらこのゲームに臨みたいと思います。反対にルナさんはヘルメット無しでお願いします。ジャンケンに負けたら、頭剥き出しの状態で私に叩かれて下さい」

「慈愛たん、その提案はこのゲームのルールを瓦解させることになるよ。ハンデにしてもこっちが不利過ぎるし……って、あれ……?いつの間にか、あたしのヘルメットが消えてるよ?」

「日影、テイル達もピコピコしよ」

「おまえ、それって……ルナの……」

ルナのヘルメットは、気付かぬうちにテイルに奪取されていた。

「あ~っ!?ているん!それっ、ヘルメットあたしに返してー!」

「ルナさん、試合中ですよ。余所見は厳禁です。じゃんけんぽんっ!」

「へっ……うきゃっ!?」

ヘルメットを掠め取られ周章したルナの頭を、不意打ちのピコピコハンマーが小突いた。
その一度の敗北を境に、ルナはじゃんけんに負け続け、あっという間に慈愛ちゃんが巻き返していた。













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