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第九十三話(千里眼)

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ーー千里眼って言ったかな。


歌ちゃんには先天的にそんな能力があって、実物や写真を見つめることで、その人の生い立ちや性格、もっと細かい部分まで詳細に見抜けるらしい。
例えば、対象が良い人なのか悪い人なのかは勿論、どんな親から産まれてどう育てられて、これまでに何を経験したとか、本当に幅が広い。
実を言うと、の仕事は今回が初めてではなく、過去に何度か引き受けている。
あたし達のような器量持ちきりょうもが犯罪に手を染めれば、一般の警察では歯が立たない。
厄介なことに、器量持ちは器量持ちにしか手に負えない存在であり、警察は自ずと器量持ちに仕事を移譲するしかなくなる。
そんな訳で、器量持ちであることを公言して活動する便利屋に白羽の矢が立つのは珍しい話ではない。
器量とは一種の才能みたいなもので、ありとあらゆる人間に何かしらの器量が付与されていると言われているが、自分の可能性を引き出し辿り着ける者は極僅かしかいない。
この世界で器量持ちは忌み嫌われる存在であり、化け物扱いされいじめのターゲットになったりもする。何かしらの器量を所有する者は器量持ちである事実をひた隠しに生活を送っているケースが多い。凡人よりも出色な人間が淘汰される側に回るとは何とも皮肉なものだ。
俗に「器量」や「特色」と呼ばれる能力を所持する「器量持ち」を忌避する一方で、密かに妬んだり羨ましがる凡人は珍しくない。


「なるほどね。そういうことか」

「歌ちゃん、何かわかったの?」


手配書に目を通している時点で聞くまでもないけれど、歌ちゃんのお家芸が発動し、三人の情報を掴んだみたいだ。


「この子達は所謂、犠牲者みたいなものなの。器量持ちに抗う為の対抗策として実験台にされた兵器」


今や国と国との戦争となれば、大国や小国は勿論のこと、軍事力の高低や有無も関係は無い。全ては器量持ちの人数とその力量によって左右される。
戦艦、戦闘機、戦車などの兵器は時代錯誤となり器量持ちには歯が立たない。
強力な器量持ちは単体で大国の軍事力と拮抗するどころか、それ以上の絶大な脅威で敵を圧倒し、全てを有無を言わせず灰燼に帰す。
そんな馬鹿げた存在に対抗する為の手段として人型兵器は生み出された。
サンプルとなったのは主に、物として扱われる人間『奴隷』だ。


「つくねちゃん。この子はとある器量持ちの延命の為に無理やりドナーにされて、幸か不幸か偶然に力を手に入れた。大手術が原因で貴重な念動力が使えなくなるなんて皮肉なものね。独りよがりな行動に対するバチが当たったのかもしれないけれど」

「ドナーとか大手術って……あまり穏やかじゃない単語が並んでるけど、どういうこと?」

「互いの脳をトレードしたのよ。それも、本人の意思を無視して健康な脳と病に犯された脳を不当にね。つまりつくねちゃんは、いつ破裂するかも判らない爆弾を背負いながら今を懸命に生きてるってこと」

「そこまでわかるんだ…… 相変わらず、歌ちゃんの千里眼ってすごい」


つくねって子の重篤状態にも度肝を抜かれたが、それ以上に酷い状態なのは森羅万って子の方らしい。
歌ちゃんは沈痛な面持ちで話を続けた。


「彼女は体の半分が機械化されてる。現状維持には定期的なメンテナンスが必要みたいだけれど、当然、此処暫くはそれを受けられていない。ガタが来るのも時間の問題って感じかしら。誰かが直接手を下さずとも、時期がくればひとりでに自滅するでしょうね……可哀想に」

「……酷い」

「本当にね。酷いことだらけよ。終いには人間と動物の融合実験、それに加えて、様々な種類の器量をランダムにインプットした大量のクローン兵の生成。人ならざる者として身体強化させたテイルちゃんを基にして、続々と量産されたコピー体。そのうちの一人が紫紺ちゃんってわけ」

歌ちゃんの説明によると、戦争となればコンちゃんとほぼ同じ姿で生み出された殺戮兵器達が戦場に駆り出され、敵を殺したり殺されたりしているらしい。
一人一人に支給されている身体を透明化させる特殊なポンチョは、敵を奇襲する際に決まって使われる常套手段だとか……。
生き残りの一人であるコンちゃんも同じ物を現在も羽織っている。存外気に入っているみたいだ。
それにしても器量持ちに頼り切りで傍観を決め込んでいる自分勝手な連中には怒りをおぼえる。
あの男の依頼を易々と引き受けた自分にさえも同様に。
他人の身体を好き勝手にいじって改造する行為は、非人道的で言語道断だ。


「あたし……あたしは、どうすればいいのかな……? 歌ちゃんの器量のおかげで、今更ながら三人の凄惨な現状を知って、引き受けた依頼を達成することを躊躇っちゃってる。前払いで莫大な依頼料受け取っちゃってるのに…… 最早実行する以外に選択肢が無いのに…… すぐにでもこんな最低な依頼キャンセルしたいって、心変わりしちゃってる。……歌ちゃんだったらこんなときどうするの?」

「あたしはそんな依頼、迷うことなく反故にするわ。そして、その子達に会いに行く。もちろん捕縛何かじゃなくて助けにね」

「困っている人を見つけたら放っておけない優しいところ。歌ちゃんらしくて好き」

「そう? 優しいかどうかはわからないけれど、放っておけないのは事実ね。出来るものなら可能な限りは何とかしてあげたいし、昔あたしがおばあちゃんに救って貰ったみたいにあたしも誰かを助けたい。つるぎちゃん、貴女達便利屋さんに依頼のお願いがあるんだけれど、引き受けて貰える?」


歌ちゃんは本当に優しい。心から尊敬できる。
歌ちゃんから直々の依頼を受けるのはこれで何度目だったか。
たくさんあり過ぎて、最早数え切れないくらいだ。
ホームレスの人達を気遣って炊き出しを用意したり、孤児院に頻繁にプレゼントを届けたりと、とにかく他人に対して寛容な人。
あたしとおデブちゃんで料理を作って振る舞ったり、サンタの格好をして子供達にクリスマスプレゼントを届けたのが記憶に新しい。
どれもこれもが楽しくて人の為になる依頼ばっかりだった。
話の流れ的に、今回の歌ちゃんからの依頼は聞かなくても分かる。


「恩人の歌ちゃんからの依頼は無条件に引き受けるよ。それが例え、危険なお願いでも無茶な頼み事でも汚れ仕事でも。絶対に断ったりしない」

「よかった。だったら、その恩人からのお願い。その子達を助けてあげて」


歌ちゃんはその持ち前の器量を世間に公開し、幾度となく警察に協力してきた。
要請を受ければできる限り出向いて、何件もの冤罪事件を解決に導いた。その功績は紛れもなく大きい。
今回もきっと、三人の為に粉骨砕身するつもりなのだろう。
年端もいかない子供達には懸賞金がかけられ、殺害が容認されている。
規格外な存在がそう簡単に首を上げられる筈もないが、このまま逃避行を続行すれば、いずれ滝登つくねは力尽き、森羅万の機能は停止する。それだけは何としても回避したい。
命を繋ぐ方法は自首を促す以外に方法はない。


「仰せのままに」


あたし達便利屋は、歌ちゃんの依頼を受理し捕縛の依頼を棄却。
その翌日の明朝、一念発起し指名手配犯三名の説得へと乗り出した。








































 
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