未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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プロローグ(勘違いで逮捕された高校生)

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成人を迎える前なら他人を殺めたとしても顔にモザイクが施され、少年院に身柄を送られるだけと甘く考えていた幼稚な知能しか持ち合わせていない子供達が続々と逮捕され少年法が廃止されることが決定した。

複数の少年達が同い年の少年一名をリンチし殺害した事件や、高校生が友人の体をナイフでバラバラに切断した口にするのも悍ましい事件は記憶に新しい。
被害者遺族の苦しみ悲しみ怒りは、いくら訴えようと相手が年端も行かない少年少女だけに中々重たい罪を負わせることは不可能だった。

まだ子供だからと言って特別扱いされるのは、平等じゃない。公平じゃない。可笑しい。大人達と同じようにそれ相応の罰が下るべきだ。
未成年者だからって顔を隠すな。名前を伏せるな。
正に仰る通りである。
立て続けのように報道される若者による凶悪な事件をニュースで何となく眺めていた頃は、木ノ下日影もそう考えていた内の一人だ。
人の命を奪った殺人鬼など、この世に生きる資格はない。死んで償うべきだと。
少年法消失後、初めて中学生の容疑者が顔と名前を全国公開され、TVの画面にモザイク一切無しで映し出された時は目を丸くした程だ。

今ではそれも、すっかりと珍しくなくなったが。

「まさか……、俺もその犯罪者の一人になるとはな……」

そんなどうでも良いことを牢屋(ペア牢)の中で嘆き呟いている少年は木ノ下日影。
一年前までは何処にでもいる凡人な高校生だった彼も、今では立派な囚人の一人だ。

信じられないし、認めたくもない。
どうして人助けしておいて警察の世話にならなくちゃいけない?

ただ日影は迷子になって泣いていた小学一年生の女児を交番に連れて行ってやろうと親切に手を差し伸べただけだった。疚しい気持ちなど何一つとして存在しなかった。その筈なのに……。

「意味がわからない。通報した相手からしたら、俺が女の子を誘拐しようとしてる不審者、ロリコンに見えたってことか?」

ニュース番組で名前と顔が晒されたって考えるだけでも自然と腹痛が起こる。
世間では木ノ下日影が幼女大好きな異常な性癖持ちの変態だと思われていることは明白だ。

(これでは刑務所から出所したところで表を歩けない。どうしよう、仕事探しも彼女探しだってろくに出来そうにない)

「ひーくん。朝ごはん貰ってきたよー。一緒に食べよー」

「なぁ、ルナ。お前の知り合いにロリコン野郎でも大丈夫って女の子いない?」

「朝から何言ってんの?ひーくんが可笑しいのはいつものことだから別に何とも思わないけど、早く食べないと刑務作業の時間になっちゃうよ。朝ごはんの時間経ったの20分しかないんだよ」

二人分の朝食を運んできてくれた少女は同室(ペア)の「ルナ・ティアーズ」
同い年の十七歳で、金髪ツインテールの外人さんだ。

ちなみに日本語はぺらぺらで会話に困ったことは一度もない。

二人が収容されているこの刑務所は0~19歳の未成年者専用に新たに設置された。
牢の中には
一人の(シングル)
二人一組の(ペア)
三人一組の(トリオ)
四人一組の(カルテット)
五人一組の(クインテット)
この五種類のいずれかで収容されることになっている。組み合わせはランダム。
この刑務所の中に居る囚人達はほとんどが男子ばかりでルナのような女子は珍しい。
現在じゃ男女で牢に入っているのはペアの日影達だけだ。

女子と同室で幸運の持ち主である俺だが、他の男共に睨まれ妬まれたりと色々気苦労が絶えない。正直今でも正面のペア牢からの鋭い眼差しが恐ろしい。朝飯中もこっちのことなどお構いなしにギロギロと威嚇してくる。
ルナは女優のように容姿端麗で文句無しに可愛い顔をしている。日影を羨ましがるのも当然だった。

「ひーくん、ひーくん。口開けて」

満面の笑みで親密な恋人っぽく「はい、あーん」を当たり前のように要求してくる。
周りにいる犯罪者共の殺意の視線がこちらに集中した。

……まあ、だからといってこの有難い行為を態々拒んで無駄にしたりはしないのだが。

「美味しい?」

「うん。美味い」

まるで彼氏彼女な関係の二人の微笑ましい光景をがん見し、ぼそぼそとあちらこちらから聞こえてくる悍ましい声。
殺すや埋めるとか沈めるだの、どれも物騒な一言ばかりが並んでいた。
牢から出たら一斉に襲い掛かられそうで、つい体がビクッと震えてしまう。
俺、殺されるのかな。

「ひーくん、刑務作業の時間。遅刻しちゃうよー」

「悪い、ルナ。俺は牢から一歩も動くことが出来ん。先に行ってくれ」

「何言ってんの?ほら、うだうだしてないでさっさと行くよー」

厳つい強面の囚人達の殺気にびくびくし、縮こまっていた日影の手を握って立ち上がらせる。

彼等もルナと二人でいる時は手が出せないようだな。
ふっ。怯えて損したわ。
午前中の刑務作業は昨日と変わらず「ボールペンの組み立て作業」だったっけ?
牢の中と同じで作業部屋に移っても俺とルナは同席だ。
昼休みまで何も起こらないことを願おう。
背後から刺されないか心配だ。
この刑務所には殺人未遂や暴力事件を起こして捕まった人間が多い。
一応刑務官が監視役として立っているが、殺られない保証などない。刑務作業中は手錠が外れてるからな。

「ひーくん、何か考え事?もしかしてお腹でも痛いの?」

「……ああ。腹なら四六時中痛めてるな。主にお前のことを考えて」

ルナに好かれていることは悪い気分じゃないし、寧ろ嬉しい。滅茶苦茶嬉しい。そりゃもう嬉しすぎて涙が出る程に。
彼女無し=年齢=童貞な俺を舐めるなよ。
やっとやって来た遅過ぎるモテ期を逃してなるものか。
周りにいる囚人の暴力的な視線がなければと、何度考えただろう。

「ひーくんもあたしのこと考えてくれてたの?両思いだね」

「あー……、えっと、ルナさん。こんなブスメンの私目を好いてくれる気持ちは素直に嬉しいのですが、出来ればそういう台詞は二人っきりの時に言ってくれませんか?」

「二人きりだ何て、ひーくん大胆っ。も~、本当に可愛いなぁ~」

「あは、あははははははは……」

外人さんは挨拶にハグが当たり前と聞いたことがあるが、まさか本当だったとはな。
嬉しさのあまり隣の席から抱き付いてきたルナの体からは良い香りがしてまさに女の子って感じだった。顔に当たったのは微かだけど確かに感じた柔らかな感触。
彼女の小さな胸。貧乳だ。

「そこ、静かに」

二人して騒いでいたら刑務官から注意の言葉を投げられた。
ルナとペアでいる間は幾つ命があっても足りる気がしない。

(ああ、面倒くせぇ……)

刑務作業の内容はボールペンの組み立て作業と小学生でも簡単に出来るが、この作業は終了時間になるまで永遠と続き、だんだんとやる気も失せてくる。
学校の授業と違って刑務官が監視してるから居眠りすることは勿論手を休めることも出来ない。だからかなり、肉体的に精神的にも疲れる。
これなら立ち仕事でもしてた方が時間の流れが早く感じて、何より眠くならなそうだ。

「ルナ・ティアーズ。眠っては駄目だ。起きて作業に戻りなさい」

ルナが作業中にうとうとするのは今日に限ったことじゃない。毎日だ。
こうなると揺すっても中々起きないもんだから質が悪い。毎回刑務官が起こすのに苦労しているんだよな。もしかしたら老人の囚人よりも骨が折れる相手かもなと、いつ見ても思う。

「う~ん……ひーくんのえっち~」

(おい、こら……、こいつ何て夢見てやがるんだ。お願いだから男共の眼光を俺に集中させる危険なワードはなるだけ控えてくれ)

「おい、ひーくん。ルナ・ティアーズの相棒だろ。君が責任を持って起こしなさい。我々がこの子を起こすことが最近恒例行事になりつつある。分かったね」

ルナがひーくんひーくん呼ぶもんだから、いつの間にかあだ名が刑務官にまで定着しちまってるじゃねぇか。

「ったく、しゃあねぇなぁ。おーい、ルナ。早く起きねーと懲罰牢行きになっちまうぞ。そうなったら俺と離れ離れだ。それでも良いのか?」

「ひーくんと、離れ……離れ?」

「そうだ。もう一緒に居られなくなるぞ」

「……うっ、く……ひっ、く……やだ……、やだぁ………ひーくんと離れ離れやだぁ!ふっ、うう……どうしてそんな意地悪なこと言うのぉ。ひーくんの馬鹿」

何故だかは解らないが、ルナは俺の声だけには敏感で話しかけたらすぐに飛び起きた。
これが愛の力ってやつか。

「はいはい。懲罰牢へ行かない為にも作業再開しようか。君がひーくんと離れ離れにならずに済む方法はそれしかない」

「……分かった。もう絶対に眠らない」

眠りから目を覚まし、やる気になった姿を確認すると、刑務官は日影とルナの席から離れて行った。
やれやれ。いつものこととはいえ毎回ルナを起こすとか嫌だな。
バカップルのようにこいつと仲が良い俺が周りにいる凶悪な囚人達にリンチされるというイベントに何か、あんた達刑務官だって遭遇したくはないだろ。



























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