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第六話(三人目のペア)
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その別れは突然に訪れた。
木ノ下日影の相棒ルナは、昨日の奉仕作業で子供達の相手を頑張り過ぎたせいか、午前中の刑務作業中眠りに落ち、何度刑務官が呼びかけてもぴったりと閉じた瞳が開く様子はない。
俺も一応声をかけてみたが、今回はうんともすんとも反応が無かった。
……という訳で、止むを得ず相棒の懲罰牢行きが決定した。
(あいつ、目が覚めたら驚くだろうな)
聞くところによれば、懲罰牢という場所は一日刑務作業も奉仕作業も一切無し。通常の牢よりも更に狭い場所で一日中座っているだけ。食事は最低ランクのものが支給され自由時間も与えられない。起きて、食べて、寝るだけの超が付く程暇な場所らしい。
反省していると判断されれば短くて三日程でこちらへ帰ってこれると経験者は語るが、そいつは最高で一週間そこに幽閉され心が病んだとか、何とか……。
しかし、日影はそれ以上の期間そこへ閉じ込められている人物を一人知っている。
桜葉つるぎ。ルナと出会う前の最初のペアだ。
彼女は自分の両親の命を奪った相手を殺し、殺人の容疑で逮捕。此処に連れてこられたんだが、自分がこんな所で罰を受けることに納得がいかず、刑務官と揉めることが何度かあった。懲罰牢に入れられたのはそれが原因だ。
最初こそ真面目に刑務作業や奉仕作業をペアとして共に熟してはいたが、我慢の限界だったのかもしれないな。
親を殺されて、その敵討ちをしたいと考えるのは普通のことだ。
日影はつるぎに殺された相手を可哀想とは考えないし、死んで当然の人間だと思ってる。
誰かを殺めるということはそういうこと。
被害者遺族に命を狙われる可能性は否定出来ない。
「ああ……また一人になっちまったな」
ということで、本来二人で向かう筈だった午後の奉仕作業も寂しく一人で行ってきた。
ちなみに本日はスーパーの品出し作業。
店内にずらっと並んでいる商品を確認し、数が減っている物を倉庫から運んで来て補充する。至って簡単な作業だったが正直なところルナには居て欲しかったかな。
あいつが居ないせいで、一日サボれる時間が少しも無かった。
「木ノ下、君の新しいペアを連れてきた。明日から宜しく頼むぞ」
一日汗水垂らして働いた体をベッドの上で休ませていたところに刑務官がやって来た。
彼の隣にいたのは見るからに幼く小さい少女で、目を奪われるような綺麗な銀髪と子供ながらに美しく整った顔はあの日声をかけた迷子の小学生とそっくりだった。
「……慈愛?」
牢に入ってきた銀髪少女から、にこっと笑顔のプレゼント。
気付けばあの日出会った少女の名を口走っていた。
「お兄ちゃん、私の名前憶えていてくれたんですね。また会えて嬉しいです」
やっぱり慈愛だったのか。自分が捕まった原因となった少女と同室のペアになるとかすげぇ。
こんな幼女でも警察は容赦無く牢屋にぶち込むんだなと、随分と世知辛い世の中になったことを実感する。
犯罪を犯せば大人も子供も関係無し。現在は同じ様に罰を受けるか。
何年か前じゃ考えられなかったことだ。
「……そりゃ憶えてるさ。一緒に飯食った仲だろ」
「はい。あの日はごちそうさまです。お兄ちゃんのおかげで何とか生き長らえることが出来ました。感謝感謝です」
「お前は大袈裟だな。知ってるか。人間は一日何も食べなくたって死にはしないんだよ」
「三日です」
「……は?」
慈愛は日影の問いに驚愕の事実を口にした。
「お兄ちゃんと初めて会ったあの日、私は三日ぶりにご飯を食べたんです。テストの点数が悪いと決まって叔母さんにお仕置きされますから」
はぁ……それはまた、何と言うか……酷い叔母だな。としか良い様がない。
そう言えばと、慈愛と一緒に入ったファミリーレストランで彼女が涙を零しながらお子様ランチを食していたことを俺の頭が思い出していた。
いくらテストの点数が悪くて結果を残せなかったとしても、三日もご飯抜きはこんな小さい子には辛いし、虐待でしかない。
母親……つうか、叔母さんか。最低な大人だな。
「悪い。そこら辺のところはちゃんと聞いておけば良かったな。つうか、お前も虐待されてるなら俺に言えよ。今の時代そんな事実が表沙汰になれば、その親代わりは即逮捕されるぞ」
自分の子供放置したり暴力振るって死なす親は後を絶たないからなぁ。
それ知ってたら児童相談所が動いてくれただろうに……。
力になってやれなかったことが今更ながら悔やまれる。
「叔母さんがそんなことはしていないと言い切ってしまえばそれまでです。告げ口をした私は更に嫌われてご飯を二度と食べさせて貰えなくなるかもしれません」
「まあ、証拠が不十分だとそうなる場合もあるかもな……話は変わるんだけどさ、お前、その髪どうした?」
「……髪、ですか?」
そんなことを聞いたのにはちゃんとした理由があってだな。
慈愛の髪は初めて会った頃とだいぶ長さが違っていて、ロングで長かった銀髪がバッサリと、肩くらいのショートヘアにがらりと変化していた。
あまり想像したくないが……。
「切られました。学校で虐められていましたから」
返ってきた答えは予想とは少し違って、慈愛の人生が幼いながらに波乱万丈だということを知った。
子供とは未熟で無知な生き物故、虐めという残酷な行為を平気でやってのける。
その髪は叔母じゃなくクラスメイトに切られたか。
「あー……えっと、だな……気にすんな。長い髪よりそれくらいの短めの髪の方が可愛いと思うぞ」
「そうですか。お兄ちゃんが好きと言うならこの髪型も悪くないかもです」
「しかしよ、お前何で虐められてんだ?俺が見た感じじゃそういうことをされるような見た目してないんだが」
「お兄ちゃんは一体何が言いたいんです?」
「ほら、虐められる人間って大体決まってるだろ。俺が知っている限りじゃそういうことされるのはブスや根暗がほとんどだ。実際此処でもそうだしな。お前は普通に可愛いしそういうのとは無縁じゃないのか?」
ペア専用の牢に収容されている日影は経験したことないが、四~五人収容されている牢の中じゃ実際に虐めはある。カルテットやクインテットの連中に聞いた話じゃ新入りを虐める輩は必ず一人は居るそうだ。
「さあ。何で、ですかね?」
「心当たりはないのか?」
「はい。特には」
「男子に告白された回数は?」
「数え切れません」
……おそらくそれだ。
可哀想に。慈愛は他の女子から男子にモテていることを羨ましがれ妬まれて虐めを受けていたんだな。
何ということだ……、ルナとペアであることを羨ましく思われていた俺とほとんど状況が同じじゃないか。
「お兄ちゃん、そんなことよりお腹が空きました。晩御飯はまだですか?」
「あ、ああ……そろそろそんな時間か。皮肉な話かもしれないが、学校や家庭に居場所がなかったお前からしたら此処は最高の場所になるな。飯も三食、おまけに風呂も寝る場所もある」
「はい。刑務所がこんなにも素晴らしい場所だ何て知りませんでした。お兄ちゃんに恩返しする為にやって来て正解だったようです」
「……は?」
そういえば、一番重要なことを聞いていなかったな。
この少女、藤野慈愛がどんな容疑で逮捕され刑務所に収容されることになったのか。
木ノ下日影の相棒ルナは、昨日の奉仕作業で子供達の相手を頑張り過ぎたせいか、午前中の刑務作業中眠りに落ち、何度刑務官が呼びかけてもぴったりと閉じた瞳が開く様子はない。
俺も一応声をかけてみたが、今回はうんともすんとも反応が無かった。
……という訳で、止むを得ず相棒の懲罰牢行きが決定した。
(あいつ、目が覚めたら驚くだろうな)
聞くところによれば、懲罰牢という場所は一日刑務作業も奉仕作業も一切無し。通常の牢よりも更に狭い場所で一日中座っているだけ。食事は最低ランクのものが支給され自由時間も与えられない。起きて、食べて、寝るだけの超が付く程暇な場所らしい。
反省していると判断されれば短くて三日程でこちらへ帰ってこれると経験者は語るが、そいつは最高で一週間そこに幽閉され心が病んだとか、何とか……。
しかし、日影はそれ以上の期間そこへ閉じ込められている人物を一人知っている。
桜葉つるぎ。ルナと出会う前の最初のペアだ。
彼女は自分の両親の命を奪った相手を殺し、殺人の容疑で逮捕。此処に連れてこられたんだが、自分がこんな所で罰を受けることに納得がいかず、刑務官と揉めることが何度かあった。懲罰牢に入れられたのはそれが原因だ。
最初こそ真面目に刑務作業や奉仕作業をペアとして共に熟してはいたが、我慢の限界だったのかもしれないな。
親を殺されて、その敵討ちをしたいと考えるのは普通のことだ。
日影はつるぎに殺された相手を可哀想とは考えないし、死んで当然の人間だと思ってる。
誰かを殺めるということはそういうこと。
被害者遺族に命を狙われる可能性は否定出来ない。
「ああ……また一人になっちまったな」
ということで、本来二人で向かう筈だった午後の奉仕作業も寂しく一人で行ってきた。
ちなみに本日はスーパーの品出し作業。
店内にずらっと並んでいる商品を確認し、数が減っている物を倉庫から運んで来て補充する。至って簡単な作業だったが正直なところルナには居て欲しかったかな。
あいつが居ないせいで、一日サボれる時間が少しも無かった。
「木ノ下、君の新しいペアを連れてきた。明日から宜しく頼むぞ」
一日汗水垂らして働いた体をベッドの上で休ませていたところに刑務官がやって来た。
彼の隣にいたのは見るからに幼く小さい少女で、目を奪われるような綺麗な銀髪と子供ながらに美しく整った顔はあの日声をかけた迷子の小学生とそっくりだった。
「……慈愛?」
牢に入ってきた銀髪少女から、にこっと笑顔のプレゼント。
気付けばあの日出会った少女の名を口走っていた。
「お兄ちゃん、私の名前憶えていてくれたんですね。また会えて嬉しいです」
やっぱり慈愛だったのか。自分が捕まった原因となった少女と同室のペアになるとかすげぇ。
こんな幼女でも警察は容赦無く牢屋にぶち込むんだなと、随分と世知辛い世の中になったことを実感する。
犯罪を犯せば大人も子供も関係無し。現在は同じ様に罰を受けるか。
何年か前じゃ考えられなかったことだ。
「……そりゃ憶えてるさ。一緒に飯食った仲だろ」
「はい。あの日はごちそうさまです。お兄ちゃんのおかげで何とか生き長らえることが出来ました。感謝感謝です」
「お前は大袈裟だな。知ってるか。人間は一日何も食べなくたって死にはしないんだよ」
「三日です」
「……は?」
慈愛は日影の問いに驚愕の事実を口にした。
「お兄ちゃんと初めて会ったあの日、私は三日ぶりにご飯を食べたんです。テストの点数が悪いと決まって叔母さんにお仕置きされますから」
はぁ……それはまた、何と言うか……酷い叔母だな。としか良い様がない。
そう言えばと、慈愛と一緒に入ったファミリーレストランで彼女が涙を零しながらお子様ランチを食していたことを俺の頭が思い出していた。
いくらテストの点数が悪くて結果を残せなかったとしても、三日もご飯抜きはこんな小さい子には辛いし、虐待でしかない。
母親……つうか、叔母さんか。最低な大人だな。
「悪い。そこら辺のところはちゃんと聞いておけば良かったな。つうか、お前も虐待されてるなら俺に言えよ。今の時代そんな事実が表沙汰になれば、その親代わりは即逮捕されるぞ」
自分の子供放置したり暴力振るって死なす親は後を絶たないからなぁ。
それ知ってたら児童相談所が動いてくれただろうに……。
力になってやれなかったことが今更ながら悔やまれる。
「叔母さんがそんなことはしていないと言い切ってしまえばそれまでです。告げ口をした私は更に嫌われてご飯を二度と食べさせて貰えなくなるかもしれません」
「まあ、証拠が不十分だとそうなる場合もあるかもな……話は変わるんだけどさ、お前、その髪どうした?」
「……髪、ですか?」
そんなことを聞いたのにはちゃんとした理由があってだな。
慈愛の髪は初めて会った頃とだいぶ長さが違っていて、ロングで長かった銀髪がバッサリと、肩くらいのショートヘアにがらりと変化していた。
あまり想像したくないが……。
「切られました。学校で虐められていましたから」
返ってきた答えは予想とは少し違って、慈愛の人生が幼いながらに波乱万丈だということを知った。
子供とは未熟で無知な生き物故、虐めという残酷な行為を平気でやってのける。
その髪は叔母じゃなくクラスメイトに切られたか。
「あー……えっと、だな……気にすんな。長い髪よりそれくらいの短めの髪の方が可愛いと思うぞ」
「そうですか。お兄ちゃんが好きと言うならこの髪型も悪くないかもです」
「しかしよ、お前何で虐められてんだ?俺が見た感じじゃそういうことをされるような見た目してないんだが」
「お兄ちゃんは一体何が言いたいんです?」
「ほら、虐められる人間って大体決まってるだろ。俺が知っている限りじゃそういうことされるのはブスや根暗がほとんどだ。実際此処でもそうだしな。お前は普通に可愛いしそういうのとは無縁じゃないのか?」
ペア専用の牢に収容されている日影は経験したことないが、四~五人収容されている牢の中じゃ実際に虐めはある。カルテットやクインテットの連中に聞いた話じゃ新入りを虐める輩は必ず一人は居るそうだ。
「さあ。何で、ですかね?」
「心当たりはないのか?」
「はい。特には」
「男子に告白された回数は?」
「数え切れません」
……おそらくそれだ。
可哀想に。慈愛は他の女子から男子にモテていることを羨ましがれ妬まれて虐めを受けていたんだな。
何ということだ……、ルナとペアであることを羨ましく思われていた俺とほとんど状況が同じじゃないか。
「お兄ちゃん、そんなことよりお腹が空きました。晩御飯はまだですか?」
「あ、ああ……そろそろそんな時間か。皮肉な話かもしれないが、学校や家庭に居場所がなかったお前からしたら此処は最高の場所になるな。飯も三食、おまけに風呂も寝る場所もある」
「はい。刑務所がこんなにも素晴らしい場所だ何て知りませんでした。お兄ちゃんに恩返しする為にやって来て正解だったようです」
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