木曜日のカフェタイム【完結済】

真柴理桜

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クラフト市のクレープワゴン

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「ここは……?」

 葉汰ようたに連れてこられた場所は博物館や美術館が並ぶ公園の広場だった。そこにはいくつもテントが立ち並び、それら一つ一つが店舗になっているようだ。アクセサリーや小物に衣類、食器など色々な店が連なる。

「クラフト市やってるんだ、今日。いろんな作家さんの作品が並んでておもしろいよ」

 広がる光景に目を見開いている瑠花るかに「掘り出し物もあったりするし」と笑う葉汰。

「コーヒーカップ欲しくてさ。瑠花ちゃんも一緒に探してくれる?」
「……うん!」

 色とりどりの個性的な店舗にわくわくしながら瑠花は笑顔で頷いた。



 テントの一つ一つを冷やかしながら見て回り、食器を扱うところで足を止める。焼き物を売っているようで、豆皿やカレー皿、湯飲みや茶わんと色々な食器が並ぶ中、コーヒーカップも置かれていた。青や緑、白にピンクととりどりの色の大小様々なカップが所狭しと並んでいる。

「どんなの探してるの?」

 鮮やかなエメラルドグリーンのカップを手に取りながら訊ねる瑠花に、葉汰はエスプレッソ用だろう小さなカップを眺めながら口を開く。

「んー、普通のやつだよ。大きすぎず小さすぎない感じの。あとはまぁ……フィーリング?」
「フィーリングって……。それ探すの難しいよー」

 眉尻を僅かに下げて唸る瑠花。その様子が可愛くて葉汰は思わず笑みがこぼれた。

「ここで売ってるやつ、だいたいハンドメイドだから一点物だし、これだ!って思うやつが見つけられたらいいなぁってね」
「……難しい……」

 唸りながらもカップを見る目は真剣だ。そんな瑠花を微笑ましく思いながら、葉汰もカップを手に取る。上から紺、紫、茜色とグラデーションになった様子は宵闇よいやみの空のようで面白い。どうやら自然の風景を表現しているようで、瑠花が手にしていたカップもエメラルドグリーンの中に白波のような模様があり、南国の海を思わせた。

「うーん……これとかは?」

 エメラルドグリーンのカップを戻した瑠花が次に手に取ったのは灰色がかった青系のもので、鮮やかすぎず暗すぎないその色は、落ち着きがあって柔らかい。胴は落ち着いたグレイッシュブルーだがフチは黄みがかったベージュで、そのコントラストは空に差し込む光のようだ。

「見せて」

 葉汰が手を出すと、瑠花がその手にカップを渡す。
 ストレートな胴がフチに向かって広がっていく形状のカップは良く手に馴染み持ちやすく、取っ手は少し大きめで指が本体から離れていないものの、持った時に指がカップに当たらない設計だ。セットになってるソーサーも同じくグレイッシュブルーにベージュで縁取ふちどりが成されており、形が円ではなく六角形になっているのも面白い。

「いいね、これ」
 
 そう言って笑うと、瑠花も嬉しそうに笑顔になった。
 店主にカップを渡し包んでもらうと会計をすませ、別のテントを覗きにいく。目的であったコーヒーカップは気に入る物が見つかったから、あとは純粋なウィンドウショッピング、つまりは冷やかしだ。広場をぐるっと一周し、一通り見て回った後、休憩とばかりに広場のベンチに腰を下ろした。

「瑠花ちゃんはどこか気になるお店とかあった?」

 陶器の他にもアクセサリーや服、バッグや財布といった小物類、玩具やぬいぐるみに文具や生活雑貨、スイーツやスパイスやお茶の葉にジャムやシロップなど本当にいろんな店が並んでおり見ていて飽きない。
 見て回っている時はアクセサリーや小物のテントで足を止めていたからその辺りだろうか。幾つか手に取っていた物で似合いそうだと思ったものがあった。
 
「えっとね……」



 やりたいことがあると言って瑠花が向かったのはハーバリウムの店だ。色とりどりの花にドライフルーツやパスタといった食材、貝殻やシーグラスなど、色々な素材が閉じ込められた瓶が並ぶテントの真ん中ではハーバリウムのワークショップもやっていた。

「作るの、楽しそうだなって。もうすぐお母さんの誕生日だし」
飛鳥あすかさんにプレゼントするの?」
「うまく作れたらだけどね」
「そっか。飛鳥さん、喜ぶね、きっと」

 はにかみながら頬をかく瑠花に葉汰が笑いかける。

「だといいな」

 そう言って笑いながら、瑠花は素材を選び始めた。



 選んだ素材を円柱型の瓶に詰めていく瑠花を葉汰は向かいに座って見守っていた。
 作業を進める瑠花の、手元の瓶に向ける真剣な眼差しに、葉汰はいいこだなぁと微笑ましくなる。先程、葉汰のカップを探している時も同じ様な眼差しをカップに向けていた。誰かのために真剣になれるのはきっと瑠花の美点だ。

「出来たー!」

 瓶を上にかざして光をあてる。反射した光がキラキラと輝き、瓶の中をいろどった。
 瓶の底には砂が敷かれ、そこにシーグラス、貝殻、パール、カニのマスコットが置いてある。その上を紫陽花あじざいや青く染められたかすみ草など青系の花材がオーロラの様に浮かぶ。
 そこには小さな海が出来上がっていた。飛鳥の誕生日は夏であり、季節柄を考慮したものなのだろう。

「綺麗だね。涼し気で、海みたいだ」
「わかる!?よかったー」

 自分でもうまくできたと思っているのだろう、嬉しそうに笑った瑠花に葉汰も笑顔を返す。

「飛鳥さん、喜ぶよ、きっと」
「うん!」

 屈託ない無邪気な笑顔の瑠花に葉汰は僅かに目を細める。子供特有なのだろうこの真っ直ぐさは眩しくて純粋に可愛らしい。

「あ、葉汰くん、後で雑貨屋さん行ってもいい?一緒にラッピング選んでくれる?」
「うん、いいよ」

 笑いながら答えれば瑠花はまた花がほころぶように笑顔を見せた。



 ハーバリウムの店を出て、どこに行こうかとまた歩き出した時だ。ふと、瑠花の足が止まった。視線が何かを追っていて、葉汰もつられる様に足を止める。

「いいなぁ……」

 ぽつりと呟かれた言葉に視線の先を追えば、そこにいるのは一組のカップルだ。手にしたクレープにかぶりついていたのだろう。男性のクリームがついた頬を女性が笑いながらティッシュで拭っていた。

「ん?クレープ食べたい?」

 そろそろおやつの時間だしなぁと思いながら声をかける葉汰。

「ちがうよっ!そうじゃなくて……!!」
「違うの?」

 頬を染めて言う瑠花に葉汰が首をかしげると、瑠花はむーっと頬を膨らませ「ちがうもん……」とうつむいた。

「そっか。でも俺も小腹すいたし食べたいな、クレープ。買いに行かない?」

 俯く瑠花に、かがんで視線を合わせた葉汰が笑う。機嫌をとろうとするようなその口調に、瑠花はじっと葉汰を見つめるとうらめしげに口を開いた。

「……葉汰くん、わたしのことおやつで釣れると思ってない?」
「違うの?」
「ちがうよー!!もうっ!それじゃあわたしが食いしん坊みたいじゃない!」
「違うの!?」
「ちがっ……わないかもだけど……!!」

 もーっ!と怒りながらポカポカと叩いてくる瑠花に葉汰は「ごめんごめん」と笑いながら謝った。

「まぁいいじゃん。俺は美味しそうに食べてる瑠花ちゃん好きだよ」
「すっ……!」

 笑いながらくしゃりと瑠花の頭を撫でる葉汰。その手つきの優しさや言葉に他意がないことはきっと瑠花が一番知っている。それでも言われた言葉に頬が熱くなる。胸の奥が苦しくなる。それが自分だけの感情なのは、仕方ないけれど何だか悔しい。

「行こっ!クレープ屋さん!」

 頭に乗っていた葉汰の手を掴み、きゅっと握ると、瑠花はその手を引いて歩きだした。すぐに横に並んだ歩幅と離されることのない手が嬉しくて、耳の辺りが熱かった。



「おまたせしましたー!クリームチーズガトーショコラバニラアイスのせアーモンドトッピング生クリーム増しとトリプルベリーカスタードミルフィーユフローズンヨーグルトのせカラフルスプレーチョコトッピングです!こちら、スプーンはクッキーで出来てますのでそのままお食べください!」

 クレープワゴンの店員からクレープを二つ受け取り、ワゴンの横に置かれた4人掛けの白いテーブルセットに座る瑠花にトリプルベリーのクレープを渡す。それから瑠花の向かいの椅子に腰をおろした。

「ありがとうー。スプーン可愛いー!」

 クッキーのスプーンはアイスや生クリームでふやけない為だろうピンクや白でアイシングされていて、それ自体がトッピングの様に華を添えていた。笑顔で受け取る瑠花に葉汰も笑顔を返す。やっぱり食べ物を前にしている時の瑠花は可愛い。

「いただきます」

 瑠花が選んだのは苺、ブルーベリー、ラズベリーの三種のベリーの甘酸っぱさと卵の風味が豊かなカスタードクリームの甘さ、そこにサクサクとしたパイ生地の食感が楽しいクレープだ。
 スプーンでフローズンヨーグルトをすくい、口にと運ぶ。緩む頬と嬉しそうに下がる眉尻、満面の笑顔を浮かべる瑠花に葉汰もつられて笑顔になる。美味しそうに食べるから自身の食も自然と進むのだ。
 上にのったバニラアイスを落とさない様に気をつけながら葉汰もクレープに被りつく。薄い皮に包まれたチーズクリームの塩味と酸味、ガトーショコラの濃厚な甘さが絡み合い、アイスと生クリームのミルクの風味とバニラの香りが広がる。そこにアーモンドの食感が程よいアクセントを添えていた。
 あっという間に食べ終えた葉汰は、「美味しいね」と笑う瑠花に笑顔で頷いた。フローズンヨーグルトを食べ終わり、瑠花がクレープを頬張ほおばる。小さな口をいっぱいにして、もぐもぐと動かす仕草を葉汰は微笑ましく見つめる。普段よりも膨らんだ頬が小動物の様で愛らしく、無心で食べ進める姿は可愛い。
 
「瑠花ちゃん、ここ」

 葉汰が自身の口の右端を指でつつく。一瞬キョトンとした瑠花がすぐに指で右端をぬぐうと指先についたパイ生地の欠片に恥ずかしそうに笑った。

「ねぇ瑠花ちゃん、次は……」

「あれー?葉汰じゃん!!」
「うわっ!?」

 背後からかかった声と伸びてきた腕。後ろから首に絡みつく様に回されたそれに驚いて、葉汰が声のした方へ首を動かすとそこにいたのは2人の男性だ。1人は後ろからホールドしてきたかと思えばもう1人は空いている席に腰をおろした。ふわりとアルコールの香りが鼻に届く。

「お前、なにやってんの?こんなとこで。……って何!?誰この美少女!!え!?お前俺らの誘い断ってこんな美少女とデートしてたのかよ!?」
「うっわ!めっちゃ可愛いじゃん!あれ?でもちょっと年離れてね?葉汰ってそういう趣味?」

 突然の乱入者に驚いて固まる瑠花に2人は次々にまくし立てる。

「あ!それとも妹とか?初めましてー!俺ら大学の友達でー」
「同じゼミの仲間なの。いやでも君ほんと可愛いねー!お姉ちゃんとかいる?いたら紹介してー!」
「お前らっ!」

 首に回った腕を引きはがし、葉汰が声を荒げた時だ。

「ようくん?」

 また声がかかる。振り返れば今度は女性が1人歩いてくるところだった。

「偶然だね、ようくん。先約があるって聞いてたけど。この子は?」

 隣まで歩いてきて、女性が葉汰の肩に綺麗にネイルが塗られた手を添えた。つけまつ毛に縁取られたぱっちりとした目が、ちらりと瑠花に向けられる。

「妹さん?それとも親戚の子とか?」
「……バイト先のオーナーの娘さん。で?お前らは何でここにいるんだよ?」

 葉汰に視線を戻して柔らかく微笑みながら訊ねる女性に答えると、葉汰は男性2人にめんどくさそうな視線を向ける。

「隣の広場でクラフトビールフェスしてるじゃん?」
「そうそう!葉汰も誘っただろ!無下に断りやがったけどな!」 
 
 口々に言われ、そういえばそんなことを言っていたかもと思い出す。断った誘いのことなどすっかり頭から抜け落ちていた。

「それはそうと何でオーナーの娘さんとこんなとこいんの?」
「俺の買い物に付き合ってもらってたとこ」

 男性の1人が隣のテーブルから椅子を一脚拝借し、葉汰の隣に置くとすかさずそこに女性が腰を下ろした。葉汰の腕を取り自分の腕と絡ませる。

「えー言ってくれたら私が付き合ったのに。私もようくんと買い物したかったなぁ」
「あー、うん、それはまた機会があれば」

 小首をかしげて上目遣いになりながら笑う女性に葉汰は綺麗に笑いながら返事をして、それから瑠花にと向き直った。

「ごめんね、瑠花ちゃん。こいつら大学のやつで。ちょっと今酔っぱらってるぽいし、無視してていいから」
「え、で、でも……」

 空になったクレープの包みをくしゃりと握りしめながら言葉を濁す瑠花。戸惑い気味の様子に葉汰は優しく笑いかけた。いきなりこんなのに絡まれたのだ。戸惑うのも無理はない。

「えっと、あなた、るかちゃん?って言うの?お買い物は終わった?ようくん、借りていい?」
「は?」
「え?」

 女性の言葉に葉汰と瑠花の声が重なる。

「この後ね、他にも何人か誘って飲もうって話してたの。ようくんもどうかと思って」

 絡ませた葉汰の腕をきゅっと自身の方へ寄せながら、女性は瑠花にと視線を向けた。コーラルピンクに塗られた唇のふっくらとしたツヤ感が目に留まる。それがゆっくりと持ち上がった。

「ようくんも飲みたいんじゃないかしら。子守りも大変でしょうし」

 「ね?」っと葉汰に笑いかける女性に、瑠花の表情が強張る。葉汰の腕を掴む手の、唇と同じコーラルピンクのグラデーションが、そこにつけられたラインストーンが、まるで誇示するかのようにキラリと光る。
 気まずさから顔を隠すようにうつむいて、瑠花はきゅっと唇を引き結ぶと椅子から立ち上がった。

「わ、わたし帰るね。葉汰くん今日はありがとう。じゃあっ!」

 俯いたままそれだけ言って、瑠花はその場を逃げる様に駆け出していく。

「瑠花ちゃん!?」

 慌てて立ち上がろうとする葉汰に女性は絡ませた腕に力を込めて引き留めた。

「ようくん!帰っちゃったんだしいいでしょ?飲みに行こう?」

 可愛らしく微笑みながら訊ねてくる相手に、葉汰は腕を払って立ち上がると座ったままの相手を綺麗な笑顔で見下ろした。

「ごめん。悪いけど、今日は無理。言っただろ、先約があるんだ」
「え!?おい、葉汰!?」

 それだけ告げると、葉汰も瑠花を追って駆け出した。男性の1人が困惑気味にかけた声は葉汰に届くことはなく霧散する。男性2人が視線を向けると女性は「ほぅ」っと甘い溜息をひとつこぼした。

「相変わらずつれないんだから。でも、そこがいいんだけど……!」





 走って、走って、クラフト市をしていた広場を抜けると瑠花は足を止めた。心臓が早鐘の様に鳴っている。肩で大きく息をしながら呼吸が落ち着くのを待つ。
 わかっていたつもりだった。瑠花がどんなに好きでも葉汰にとってはバイト先の子供なのだということ。そういう対象にはならないこと。わかってはいたのだ。

「……子守りかぁ……」

 ぽそりと呟くと、視界がジワリとにじんで見えた。我慢しようとすればするほど、それはぽろぽろとこぼれだす。
 一緒に飲みに行ける相手。あの女性となら子守りには絶対に見えない。釣り合いのとれた恋人同士の様にうつるのだろう。当たり前の様に、葉汰の隣に座って、そして触れていた、瑠花が出来ないことをとても簡単そうにしていたあの女性なら。
 まばたきをすればバサリと音がしそうな睫毛とコーラルピンクに色づいた唇に、ラメの乗ったまぶたやしっかりとラインの引かれた目元。自身を美しく見せるために作り上げられたそれは、瑠花との違いを見せつけられているようだった。
 瑠花に向けられる視線と笑みの形を作った口元が、瑠花とは立っている場所が違うのだと言っているようで、同じ場所に行けない自分の年齢や幼さが悔しい。
 葉汰はあの人たちと一緒に行ったのだろうか。あの場で瑠花が嫌だと言えたら今も隣にいてくれただろうか。あんなに楽しかったはずなのに、今はおりが溜まる様に沈んでいた。
 あふれる涙を拭いながら、すっかりしぼんだ気持ちを抱えて、瑠花は重い足を引きずる様に歩き出した。





 駆け出した瑠花を追っていた葉汰はすぐに瑠花を見つけることが出来た。そこそこの敷地がある広場で、出入り口は限られてくるし、何より瑠花の容姿は目立つ。長い亜麻色の髪を風になびかせる美少女は人目を引く。肩を丸めながらうつむき気味に歩く後ろ姿を見つけ、足を速めた。

「瑠花ちゃん!」
「っ!?」

 細い腕を捕まえて、声をかける。突然のことに驚いたのか、瑠花の身体がビクっと跳ねて、振り返った顔は僅かに歪み、目には涙が溜まっていた。

「ごめんっ!怖がらせた?」

 背の高い葉汰が立っていると見下ろす形になりどうしても威圧感が出てしまう。同年代でもそうなのだ、年下の瑠花なら猶更なおさらだ。腕は弱い力で握ったまま、腰を落として瑠花に視線を合わせた。出来る限り優しく声をかけると瑠花は緩く首を振った。
 驚きはしたけれど、声ですぐに葉汰だとわかった。別に怖かったわけではないのだ。ただ、先ほど見たコーラルピンクが瑠花は相手ではないと言っているようで、脳裏から消えない。

「……葉汰くん、飲みにいくんじゃなかったの……?」

 掴まれていない方の手で涙を拭いながら、訊ねてくる瑠花の、いつもと違う固い声に葉汰はそっと瑠花の頭に手を伸ばし、くしゃりと撫でる。優しく優しく。瑠花の心が少しでも落ち着く様に。

「瑠花ちゃんを残して行かないよ。それに、約束したでしょ?一緒にラッピング選びに行くって」

 その言葉に、瑠花はまた泣きそうになって、必死でこらえる。
 こういうところは本当にずるいと瑠花は思う。こうやって優しくしてくれて、友達だという人たちよりも優先してくれるのに、いつもどこか子ども扱いで、瑠花のことを妹くらいにしか思っていないのだ。同じ場所に立つことすら出来ていないのに、勘違いしそうになる。
 それは痛くて苦しいのに、それでも気にかけてもらえることは嬉しいと思うのだ。

「……じゃあ、今から雑貨屋さん、行ってくれる?」
「もちろん」

 優しく笑いながら頷く葉汰に瑠花の表情も和らぐ。
 相手と同じ場所には、まだ立てないけれど。それでも、葉汰が隣にいてくれるから。今は、それでいいかもしれない。


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