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お腹が空いたと言う千葉を車に乗せ、ファミレスに向かった。千葉はチャーハンとドリンクバーを頼み、俺はアイスコーヒーを頼んだ。
「叔父さんはいつも僕を助けてくれました。でも叔母さんには嫌われてて、何かあるとすぐに疑われるんです……」
泣きながらチャーハンを食べる千葉は、聞けばまだ二十才で、前髪をどかせばまだ顔も幼く、とても泥棒ができる人間には見えなかった。
「とりあえず家には帰らない方が良いです。怖い叔母さんが探してるから」
「はい」
このあと依頼主に言われた場所にこの男を連れていけば任務完了だ。これでまた一年は北海道さんといられる。俺にとってはこれ以上ない報酬だ。
「あの」
チャーハンを食べ終えた千葉が袖で口を拭きながら言った。
「お願いがあるんですけど」
「はい?」
「これを叔母さんに返して欲しいんです」
そう言って千葉がズボンのポケットから出したのは、赤い宝石が入ったネックレスと指輪だった。
「…………」
「すごく綺麗だったから持って来ちゃって」
千葉が照れたように笑った。
『じゃあそっちの依頼はもう終わったの?』
「はい」
千葉を連れて行ったのは、遠縁にあたるという寺だった。そこで千葉を降ろした帰り道、車を運転しながら北海道さんと通話をしていた。
「宝石を返すのは気が重いですけど」
『常習犯なんじゃない? 気にしなくてもいいよ』
「ですね」
あの夫が拷問されないといいけど。
『君にもう一つ仕事をお願いしてもいいかな?』
「……なんですか?」
休憩のために路肩に車を止めた。
もうすぐ家に着くが、朝から働きづくしであくびが止まらなかった。それにまだこれからこの車を義弟に返しに行かなくてはならなかった。
『近所の犬の散歩をして欲しいんだ』
「そんな仕事もしてたんですか?」
『僕だってたまには嫌な仕事もしないとご飯が食べられないよ』
「犬大好きじゃないですか」
『その家には引き籠もりの小学生もいるんだ。犬の散歩のついでにその子と話すのが本当の仕事だよ。子供苦手なのに』
「なるほど」
たしかに北海道さんが子供といるところを見たことがない。
『頼んだよ。僕の一番の収入源だからね』
「そろそろ看板の探偵の二文字を消した方がいいんじゃないですか?」
『その二文字は僕のアイデンティティだよ。それがないと僕は消えてしまうんだ』
……そんなことないのに。北海道さんが何をしていようが俺は好きなのに。北海道さんの声を聞きながら見上げる夜空は、ほんの少し星が出ていてなかなか素敵だった。
「ちなみに今、警備員の制服着てるんですか?」
『そうだよ。エッチな想像しないでね』
……バレてる。北海道さんもたまには鋭いんだ。
北海道さんからメッセージで送られてきた住所へ向かうと、とんでもない豪邸だった。庭だけで犬の散歩がこと足りてしまいそうだった。
お手伝いさんに家に上がらせてもらい、二階の部屋をノックした。
「メリーちゃんのお散歩に来ました」
しばらく待つと、ドアが開き、ツヤツヤの黒髪を持つ少年が顔を出した。
「……北海道のおじさんは?」
「北海道さんは今忙しくて、俺が代わりに来ました」
「…………」
少年は俺の顔をじっと見たあと、一度ドアを閉じて部屋に入り、帽子を被って出てきた。胸に小さな白い犬を抱いている。
「この子は初めての人には触らせないから」
「はい」
犬のリードは少年が持ち、巨大な庭を歩いて、家の外に出た。
夜の九時を過ぎていて、豪邸が並ぶエリアのためか、人が全く歩いておらず、静まり返っている。プードルのフリフリ動かして歩く白い尻尾を見ながら、沈黙を埋める方法を考えた。
北海道さんから聞いた少年のNGワードは、学校、友達、勉強だ。正直その三つを抜いたら子供と何を話せばいいのか分からなかったが、ここは一つ、お互いの共通点について話そうと決めた。
「北海道さんとはよく犬の散歩をするの?」
「うん。お母さんがいないときだけね」
プードルの尻尾はフリフリとよく動いているが、歩くスピードはとんでもなくゆっくりだ。
「北海道さんてどんな人?」
この質問に、少年が初めて笑った。
「北海道のおじさん、この間学校に侵入したんだって」
少年は笑いが堪え切れないみたいに、口と胸に手を当てている。
「それでね、悪い人たちがいたから、写真を撮ったんだって。ニュースで見たよ。北海道さんが悪い人たちをやっつけたんだって」
「…………」
少年の顔が北海道さんの話をしながらキラキラと輝いている。無鉄砲な人だと思っていたけど、この少年にとっては北海道さんはヒーローなんだ。
子供苦手なのに。
「幽霊にも会ったことあるんだって」
嘘つきだけど。
「叔父さんはいつも僕を助けてくれました。でも叔母さんには嫌われてて、何かあるとすぐに疑われるんです……」
泣きながらチャーハンを食べる千葉は、聞けばまだ二十才で、前髪をどかせばまだ顔も幼く、とても泥棒ができる人間には見えなかった。
「とりあえず家には帰らない方が良いです。怖い叔母さんが探してるから」
「はい」
このあと依頼主に言われた場所にこの男を連れていけば任務完了だ。これでまた一年は北海道さんといられる。俺にとってはこれ以上ない報酬だ。
「あの」
チャーハンを食べ終えた千葉が袖で口を拭きながら言った。
「お願いがあるんですけど」
「はい?」
「これを叔母さんに返して欲しいんです」
そう言って千葉がズボンのポケットから出したのは、赤い宝石が入ったネックレスと指輪だった。
「…………」
「すごく綺麗だったから持って来ちゃって」
千葉が照れたように笑った。
『じゃあそっちの依頼はもう終わったの?』
「はい」
千葉を連れて行ったのは、遠縁にあたるという寺だった。そこで千葉を降ろした帰り道、車を運転しながら北海道さんと通話をしていた。
「宝石を返すのは気が重いですけど」
『常習犯なんじゃない? 気にしなくてもいいよ』
「ですね」
あの夫が拷問されないといいけど。
『君にもう一つ仕事をお願いしてもいいかな?』
「……なんですか?」
休憩のために路肩に車を止めた。
もうすぐ家に着くが、朝から働きづくしであくびが止まらなかった。それにまだこれからこの車を義弟に返しに行かなくてはならなかった。
『近所の犬の散歩をして欲しいんだ』
「そんな仕事もしてたんですか?」
『僕だってたまには嫌な仕事もしないとご飯が食べられないよ』
「犬大好きじゃないですか」
『その家には引き籠もりの小学生もいるんだ。犬の散歩のついでにその子と話すのが本当の仕事だよ。子供苦手なのに』
「なるほど」
たしかに北海道さんが子供といるところを見たことがない。
『頼んだよ。僕の一番の収入源だからね』
「そろそろ看板の探偵の二文字を消した方がいいんじゃないですか?」
『その二文字は僕のアイデンティティだよ。それがないと僕は消えてしまうんだ』
……そんなことないのに。北海道さんが何をしていようが俺は好きなのに。北海道さんの声を聞きながら見上げる夜空は、ほんの少し星が出ていてなかなか素敵だった。
「ちなみに今、警備員の制服着てるんですか?」
『そうだよ。エッチな想像しないでね』
……バレてる。北海道さんもたまには鋭いんだ。
北海道さんからメッセージで送られてきた住所へ向かうと、とんでもない豪邸だった。庭だけで犬の散歩がこと足りてしまいそうだった。
お手伝いさんに家に上がらせてもらい、二階の部屋をノックした。
「メリーちゃんのお散歩に来ました」
しばらく待つと、ドアが開き、ツヤツヤの黒髪を持つ少年が顔を出した。
「……北海道のおじさんは?」
「北海道さんは今忙しくて、俺が代わりに来ました」
「…………」
少年は俺の顔をじっと見たあと、一度ドアを閉じて部屋に入り、帽子を被って出てきた。胸に小さな白い犬を抱いている。
「この子は初めての人には触らせないから」
「はい」
犬のリードは少年が持ち、巨大な庭を歩いて、家の外に出た。
夜の九時を過ぎていて、豪邸が並ぶエリアのためか、人が全く歩いておらず、静まり返っている。プードルのフリフリ動かして歩く白い尻尾を見ながら、沈黙を埋める方法を考えた。
北海道さんから聞いた少年のNGワードは、学校、友達、勉強だ。正直その三つを抜いたら子供と何を話せばいいのか分からなかったが、ここは一つ、お互いの共通点について話そうと決めた。
「北海道さんとはよく犬の散歩をするの?」
「うん。お母さんがいないときだけね」
プードルの尻尾はフリフリとよく動いているが、歩くスピードはとんでもなくゆっくりだ。
「北海道さんてどんな人?」
この質問に、少年が初めて笑った。
「北海道のおじさん、この間学校に侵入したんだって」
少年は笑いが堪え切れないみたいに、口と胸に手を当てている。
「それでね、悪い人たちがいたから、写真を撮ったんだって。ニュースで見たよ。北海道さんが悪い人たちをやっつけたんだって」
「…………」
少年の顔が北海道さんの話をしながらキラキラと輝いている。無鉄砲な人だと思っていたけど、この少年にとっては北海道さんはヒーローなんだ。
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「幽霊にも会ったことあるんだって」
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