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会場内の特設ステージ上で、アイドルたちがパフォーマンスを始めていた。
その途中で大阪が会場の外に出た。しばらくすると北海道さんに連絡が入り、近くのホテルのバーに呼び出された。
「いいですかっ⁉ 誘われても絶対にホテルの部屋には行かないでくださいねっ⁉」
「君、何か誤解してない⁉」
タクシーに乗る北海道さんの隣に千葉を無理矢理押し込んだ。
「いいか? 北海道さんから絶対に離れるなよ? 離れたら叔母さんに突き出すからな?」
「…………」
千葉は黙ってコクコクと頷いた。アニマルババァの夫に働かせてくれと頼まれて仕方なく連れてきたが、こんなにすぐに役立つとは思わなかった。
タクシーの窓越しに北海道さんに睨まれながら、二人を送り出した。
「大丈夫だよ。これまでも何度も二人で会ってるからね」
「…………」
いつの間にかボーイ姿の熊本さんが隣に来ていた。
「……二週間で何度もって多くないですか?」
「北海道くんは人に気に入られやすいんだよ。人の内側に入るのが上手いっていうのかな。特にあの無邪気な笑顔だよね。あの笑顔を見てときめかない人間がいるわけがないよ」
「タクシー!」
急いでタクシーを停めた。
二人に遅れてホテルの前でタクシーを降り、地下にあるバーに向かった。しかし店に入る前に、ちょうど店から出てきた北海道さんと千葉と大阪とすれ違ってしまった。
こっそり付いて行くと、三人はエレベーターに乗った。そのエレベーターの行き先を見ていると、客室として使われている一番上の階で止まった。
「くそっ」
部屋には行くなって言ったのにっ!
でもそうだ。千葉がいる。千葉がいるから大丈夫だ。
しかし降りてきて開いたエレベーターに千葉が一人で乗っていた。
「何でだよっ‼ 北海道さんから離れるなって言っただろっ⁉」
千葉は小犬のように黒目がちな目を潤ませながら眉を八の字に下げた。
「……北海道さんから帰れって言われたんです」
あれほど二人きりにはなるなって言ったのにっ……!
思わず千葉に掴みかかった。
「どこの部屋だ?」
千葉が首を傾げた。
「さぁ?」
「おいっ‼」
「……フロア全て貸し切ってるみたいでした」
千葉を押しのけてエレベーターに乗ろうとすると、千葉に止められた。
「だめです!」
「なんでだよっ⁉」
「北海道さんに、島根さんに絶対に来るなって言えって言われました」
「あーっ‼」
なぜなんだ、北海道さん。俺の気持ちを知っているくせに。北海道さんを信じたい。信じたいけど。
「今日も朝までかな」
突然声がして振り向くと、またいつの間にか熊本さんが後ろに来ていた。
「北海道くん上手いからなぁ。人を自分の中に入れるの」
「…………」
俺と目が合った熊本さんが不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「…………」
「だから上手いんだよ、北海道くんは。自分の中に人を入れるのがね」
……何を言ってるんだ、このおじさんは。俺を混乱させたいのか。
「ま、僕らは朝まで待とう。これが最後だからね。北海道くんが今ごろ体を張って頑張ってくれてるはずだから」
「…………」
北海道さん。信じてますよ。ラストチャンスだからってそんなことしませんよね。無茶はしないでくださいよ。もはや手を合わせて祈ることしかできなかった。
「今ごろ二人で見てるんだろうね」
横を見ると熊本さんが天井を見上げていた。
「え?」
「はい。フロア全体に線路がありましたから」
千葉も上を見上げている。
「どういうこと?」
「フロアの廊下にプラレールの線路がたくさんありました」
「彼は電車マニアとして有名だよ?」
知らないの? と言いたげに熊本さんが俺を見ている。
知るかよ。トップアイドルだろうが何だろうが俺は北海道さんにしか興味ないんだよ。
朝になり、待ち合わせのファミレスに北海道さんがやってきた。
「大変なんだよ。一晩中プラレールに興味があるふりをするの」
北海道さんがテーブルを頬杖をついて、ハァとため息をついた。スーツを着崩し、シャツのボタンを三つも開けて、いつになく気怠げである。
「トップってのは孤独なんだよね。彼は毎夜ここでプラレールを見ながらお酒を飲んでいるんだ」
熊本さんはさっきからモリモリとモーニングを食べている。
「じゃあ薬物関連のことはデマですか?」
「ううん。大阪以外の証言では確実なんだ。でも本人は絶対にボロを出さないんだよ」
「北海道くんでもだめだったかぁ」
熊本さんがフォークを動かしながらため息を付いた。
「今回はスクープにはならなかったね」
久しぶりの寝不足だった。北海道さんといると結局こうなるんだ。俺を全然安心させてくれないんだ。
「あの、スクープって、もしかしてこれですか?」
そう言って、まだ若い千葉が寝不足を感じさせない顔で上着のポケットから出したのは、キラキラと輝く金色の時計だった。
「あ、間違えた」
続けて千葉がポケットから出したのは、小さな透明の袋に入った白い粉だった。
「…………」
「これ大阪の?」
千葉が頷いた。
……これはまさか、アレか? 三人でテーブルの上に置かれた物を見つめた。
「これ証拠になるんじゃないですか?」
「どうやって? 名前が書いてあるわけじゃないのに」
「指紋は?」
「だめだよ。千葉くんの指紋も付いてるから」
「…………」
思案する俺たちの前で千葉がなぜかはにかみながら笑っていた。
「はぁ、疲れた。お腹もいっぱい」
結局、北海道さんの二週間は徒労で終わった。千葉を一人暮らしのアパートに帰したあと、北海道さんは俺の家でシャワーを浴び、俺が作ったお好み焼きを食べた。そして勝手にリビングのソファに仰向けに倒れ込んだあと、笑顔のまま目をつぶってしまった。
……無防備過ぎる。
この前怒って帰ったくせに、なんでまたここに平気で来られるんだ。
「北海道さん。俺のベッドで寝てください。風邪ひきますよ」
「いいよ。君も寝るんだろ?」
「俺は良いですから」
北海道さんが目をつぶったまま笑った。
「そんなに僕のことが好きなの?」
「…………」
この人、また俺の告白を流そうとしている。
あんなに悩んで後悔したのに。もう二度と会えないかもしれないと思ったのに。なのになんでまた、俺の服を着て、俺の前で、そんな顔で眠ろうとしてるんだ?
俺がしたことを知ってるくせに。
「北海道さんて、いつ目が覚めたんですか?」
「え?」
「長崎で」
北海道さんが薄く目を開けた。
「キスしてるときですか? ……それとも」
その途中で大阪が会場の外に出た。しばらくすると北海道さんに連絡が入り、近くのホテルのバーに呼び出された。
「いいですかっ⁉ 誘われても絶対にホテルの部屋には行かないでくださいねっ⁉」
「君、何か誤解してない⁉」
タクシーに乗る北海道さんの隣に千葉を無理矢理押し込んだ。
「いいか? 北海道さんから絶対に離れるなよ? 離れたら叔母さんに突き出すからな?」
「…………」
千葉は黙ってコクコクと頷いた。アニマルババァの夫に働かせてくれと頼まれて仕方なく連れてきたが、こんなにすぐに役立つとは思わなかった。
タクシーの窓越しに北海道さんに睨まれながら、二人を送り出した。
「大丈夫だよ。これまでも何度も二人で会ってるからね」
「…………」
いつの間にかボーイ姿の熊本さんが隣に来ていた。
「……二週間で何度もって多くないですか?」
「北海道くんは人に気に入られやすいんだよ。人の内側に入るのが上手いっていうのかな。特にあの無邪気な笑顔だよね。あの笑顔を見てときめかない人間がいるわけがないよ」
「タクシー!」
急いでタクシーを停めた。
二人に遅れてホテルの前でタクシーを降り、地下にあるバーに向かった。しかし店に入る前に、ちょうど店から出てきた北海道さんと千葉と大阪とすれ違ってしまった。
こっそり付いて行くと、三人はエレベーターに乗った。そのエレベーターの行き先を見ていると、客室として使われている一番上の階で止まった。
「くそっ」
部屋には行くなって言ったのにっ!
でもそうだ。千葉がいる。千葉がいるから大丈夫だ。
しかし降りてきて開いたエレベーターに千葉が一人で乗っていた。
「何でだよっ‼ 北海道さんから離れるなって言っただろっ⁉」
千葉は小犬のように黒目がちな目を潤ませながら眉を八の字に下げた。
「……北海道さんから帰れって言われたんです」
あれほど二人きりにはなるなって言ったのにっ……!
思わず千葉に掴みかかった。
「どこの部屋だ?」
千葉が首を傾げた。
「さぁ?」
「おいっ‼」
「……フロア全て貸し切ってるみたいでした」
千葉を押しのけてエレベーターに乗ろうとすると、千葉に止められた。
「だめです!」
「なんでだよっ⁉」
「北海道さんに、島根さんに絶対に来るなって言えって言われました」
「あーっ‼」
なぜなんだ、北海道さん。俺の気持ちを知っているくせに。北海道さんを信じたい。信じたいけど。
「今日も朝までかな」
突然声がして振り向くと、またいつの間にか熊本さんが後ろに来ていた。
「北海道くん上手いからなぁ。人を自分の中に入れるの」
「…………」
俺と目が合った熊本さんが不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「…………」
「だから上手いんだよ、北海道くんは。自分の中に人を入れるのがね」
……何を言ってるんだ、このおじさんは。俺を混乱させたいのか。
「ま、僕らは朝まで待とう。これが最後だからね。北海道くんが今ごろ体を張って頑張ってくれてるはずだから」
「…………」
北海道さん。信じてますよ。ラストチャンスだからってそんなことしませんよね。無茶はしないでくださいよ。もはや手を合わせて祈ることしかできなかった。
「今ごろ二人で見てるんだろうね」
横を見ると熊本さんが天井を見上げていた。
「え?」
「はい。フロア全体に線路がありましたから」
千葉も上を見上げている。
「どういうこと?」
「フロアの廊下にプラレールの線路がたくさんありました」
「彼は電車マニアとして有名だよ?」
知らないの? と言いたげに熊本さんが俺を見ている。
知るかよ。トップアイドルだろうが何だろうが俺は北海道さんにしか興味ないんだよ。
朝になり、待ち合わせのファミレスに北海道さんがやってきた。
「大変なんだよ。一晩中プラレールに興味があるふりをするの」
北海道さんがテーブルを頬杖をついて、ハァとため息をついた。スーツを着崩し、シャツのボタンを三つも開けて、いつになく気怠げである。
「トップってのは孤独なんだよね。彼は毎夜ここでプラレールを見ながらお酒を飲んでいるんだ」
熊本さんはさっきからモリモリとモーニングを食べている。
「じゃあ薬物関連のことはデマですか?」
「ううん。大阪以外の証言では確実なんだ。でも本人は絶対にボロを出さないんだよ」
「北海道くんでもだめだったかぁ」
熊本さんがフォークを動かしながらため息を付いた。
「今回はスクープにはならなかったね」
久しぶりの寝不足だった。北海道さんといると結局こうなるんだ。俺を全然安心させてくれないんだ。
「あの、スクープって、もしかしてこれですか?」
そう言って、まだ若い千葉が寝不足を感じさせない顔で上着のポケットから出したのは、キラキラと輝く金色の時計だった。
「あ、間違えた」
続けて千葉がポケットから出したのは、小さな透明の袋に入った白い粉だった。
「…………」
「これ大阪の?」
千葉が頷いた。
……これはまさか、アレか? 三人でテーブルの上に置かれた物を見つめた。
「これ証拠になるんじゃないですか?」
「どうやって? 名前が書いてあるわけじゃないのに」
「指紋は?」
「だめだよ。千葉くんの指紋も付いてるから」
「…………」
思案する俺たちの前で千葉がなぜかはにかみながら笑っていた。
「はぁ、疲れた。お腹もいっぱい」
結局、北海道さんの二週間は徒労で終わった。千葉を一人暮らしのアパートに帰したあと、北海道さんは俺の家でシャワーを浴び、俺が作ったお好み焼きを食べた。そして勝手にリビングのソファに仰向けに倒れ込んだあと、笑顔のまま目をつぶってしまった。
……無防備過ぎる。
この前怒って帰ったくせに、なんでまたここに平気で来られるんだ。
「北海道さん。俺のベッドで寝てください。風邪ひきますよ」
「いいよ。君も寝るんだろ?」
「俺は良いですから」
北海道さんが目をつぶったまま笑った。
「そんなに僕のことが好きなの?」
「…………」
この人、また俺の告白を流そうとしている。
あんなに悩んで後悔したのに。もう二度と会えないかもしれないと思ったのに。なのになんでまた、俺の服を着て、俺の前で、そんな顔で眠ろうとしてるんだ?
俺がしたことを知ってるくせに。
「北海道さんて、いつ目が覚めたんですか?」
「え?」
「長崎で」
北海道さんが薄く目を開けた。
「キスしてるときですか? ……それとも」
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