親友を落とす方法

たいら

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 趣味の悪いインテリアは居心地が悪いが、徳田の家はタダ酒を飲むにはちょうど良い家だった。お土産のたこ焼きを渡すと、徳田はテーブルに酒を並べてくれた。
「お前の魅力はどこにあるかって?」
 これが部屋着だと言う徳田は、フカフカのバスローブに身を包んでソファに座り、でかくて丸いワイングラスになみなみとワインを注いで飲んでいる。
「見た目以外に何がある?」
「…………」
「昔はただただかわいい美少年だったけど、今はそこに退廃さが加わっていい感じに仕上がってきてるな」
 小太りで個性的な顔立ちの徳田に審査するような目で全身を見られた。
「ま、でも男は年をとれば外見よりも金だけどな」
 徳田はなぜかシャワー上がりなのに手首に付けている高級時計を見せつけてきた。
「ついに拓真に迫られたか」
「…………」
「あいつも限界だったんだろ。一回くらいヤらせてやれよ」
 ……一回じゃねーんだよ。二回だったし、今じゃ数え切れないくらいだし。
「あいつ勉強家だからセックス上手そうじゃん。お前のためならなおさら頑張るだろ」
 ……それが嫌なんだよ。
 常に体を求められるのがうんざりだった。忙しいくせにいちいちセックスに時間をかけられるのもうんざりだし、嫌がる俺もあいつには興奮材料になってる気がしてそれもうんざりだった。
「あー、想像したらなんか俺もムラムラしてきた」
 徳田がテーブルにワイングラスを置き、ソファにもたれた。
「な? 俺も口でいいからしてくれない?」
 そう言ってバスローブを脱いだ徳田の胸毛が見えた瞬間、飲んでいたビールを徳田に向って吐き出していた。
「ゴボボボボボボボボボボボ」
 ……やっぱり男は無理だ。
 こんなにうんざりしてるのに拓真から離れられない俺はどうしたらいいんだ?







 どうやらアロハは詐欺によって全財産を失ったらしいが、その上詐欺の片棒も担いでいたらしく、今は拘置所の中らしい。おかげでようやくカラオケ店の深夜バイトに戻ることができた。
「今日入った新人の宮地みやじくん、大学一年生。お前が教えてやれよ」
 先輩に紹介されたのはいかにも十代の丸いほっぺたをした新人バイトだった。
「よろしくお願いします」
 宮地はほっぺたを赤らめながら頭をペコリと下げた。
「じゃ、ポテトの揚げ方から教えるから」
「はい」
 宮地と二人でキッチンで冷凍ポテトを揚げていると来客の音がした。レジに行くと高そうなスーツを着た男が二人立っていた。
 片方は拓真でもう片方はこの前俺がラブホの前でビンタした男だった。改めてビンタ男の顔をちゃんと見ると、三十代後半に見える甘いマスクに顎に髭を生やした渋めの男だった。
 ……こいつ、こういうタイプもいけるのか。俺と正反対じゃねぇか。
 拓真を睨むと、拓真は冷静な表情で視線だけを逸らした。その横でビンタ男が話し出した。
「この間のことですが、誤解させてしまったようなので弁解に来ました。実はあそこで村井くんに仕事の相談をしようとしていただけで、決してそういうつもりだったわけではありません」
「…………」
「弁護士として誠実に仕事をしようとしていただけです。信じてください」
 ……ラブホで仕事って誰が信じるかよ。
 胸に手を当てて誠実感を出していたビンタ男が、俺の全く動かない真顔を見て、口を横に開いて何故か嬉しそうに笑った。
「……あの、弁護士さんなんですか?」
 この緊迫感に気がついていないのか、宮地が横から割り込んできた。
「僕、法学部なんです! 弁護士になりたいんです! 勉強方法教えてくださいっ!」
 宮地がそう言って勢いよく頭を下げると、ずっと黙っていた拓真が口を開いた。
「いいよ」
「ほんとですかっ!?」
「…………」
 宮地が喜んで飛び跳ねる横で拓真を睨んだが、拓真は宮地と連絡先を交換するために鞄からスマホを出した。
 それを見ながら無言で伝票を出すと、ビンタ男がまた嬉しそうに俺を見て笑った。







「先輩、奥さんとはどこで知り合ったんですか?」
 深夜の眠気覚ましに適当にモップをかけながらレジの計算をしている先輩に話しかけた。
か?」
「高校の同級生」
 俺と拓真と一緒だ。
「どうやって付き合ったんですか?」
「俺の一目惚れ。滅茶苦茶強引に言い寄った」
「それで奥さんはいつ先輩を好きになったんですか?」
 あくびしながら聞くと、制服をだらしなく着た先輩が笑った
「今でも好きじゃないって言われるよ。俺がうっとうしいから付き合って結婚したって」
 ……そんなことあるか? うっとうしいから結婚?
「それって照れ隠し?」
 先輩がレジの一万円札を振りながら笑った。
「たぶんな。本当は俺のこと無茶苦茶好きだと思うよ。じゃなかったらこんな甲斐性のない男と結婚しないだろ」
 ……だったら俺と拓真とは全然違う。俺は金のために拓真とセックスしたから。セックスはするけど絶対に拓真を好きになることはないから。
 カラオケバイトから帰ると拓真はまだ寝ていた。
「あいつは?」
 布団をめくって話しかけると拓真が目を開けた。
「……あいつって?」
「一緒に帰ったんだろ」
 拓真がベッドの上で起き上がって眼鏡をかけた。
「あぁ、小早川こばやかわさん? カラオケ屋を出てすぐ帰ったよ。あの人、既婚者だから」
「既婚者って、お前既婚者にも手を出したのかよ」
 地味な見た目してなんて節操がないんだ。
「俺からじゃない。あの人から誘われた」
「誘いに乗ったなら同じだろ?」
 拓真はベッドからゆっくりと立ち上がると、寝癖で髪を乱したまま、よりかかるように俺を抱きしめた。
「大丈夫だって。俺はお前しか好きならないから」
「……信じられるかよ。俺はお前がゲイだってことも知らなかったんだぞ?」
「お前を騙してでも近くにいたかったんだ」
 寝起きが良すぎる拓真は、早速俺のシャツの中に手を入れてきた。
「死ぬまで騙し続けるつもりだった。でもお前を抱けないまま死ぬのは嫌だったんだ」
 ……最低だ。だからってあんなやり方するか?
 こいつは最悪の嘘つきだ。ずっとこいつを無二の親友だと思ってたのに、最低なやり方で裏切られたんだ。
 眠そうな拓真の顔を両手で挟んで顔を近づけた。
「二度と俺以外とセックスするなよ?」
 二度とこいつを裏切らせない。俺から唯一の親友を奪わせたりしない。
「わかってる」
 頷く拓真にキスをしていた。

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