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……こいつこんな顔してたっけ。
眼鏡をはずした拓真の顔を見るのは久しぶりだった。控えめな顔だちでモブ中のモブだと思っていた拓真の顔は、眼鏡の印象が消えると、意外にも意志の強そうな眼差しをしていることに気が付いた。
顔に癖がないから整っているように見えなくもない。
拓真の唇と俺の唇が重なる直前だった。
「やっぱ無理」
「…………」
拓真を押しのけて、ソファから立ち上がった。
勝手に冷蔵庫を開けて好物のプリンを鞄に入れ、玄関で靴を履き、拓真の家を出て、夜道を歩きながら歩道でしゃがみ込んだ。
「……あっぶねー」
あやうく親友とキスをするところだった。
……危ないって。キスなんかしたら明日からあいつの顔見れねーよ。
ましてやセックスなんかできるかよっ! 絶対に親友に戻れなくなるだろうがっ!
「あー、金どーしよ」
……アロハ以外の金持ちなんか知らねーよ。金持ちってどこにいるんだよ。
こうなったら五百万の借金背負うしかないか? 元はと言えば俺が拓真から借りた金だし。地道に働いて返すしかないか?
そう思いながら立ち上がり、とぼとぼと歩いていると、背中に振動を感じた。鞄からスマホを出して画面を見ると、先輩からだった。
「はい?」
『さっきアロハがブチ切れながら店に来たぞ。お前もう二度と店に来るなよ。この辺にも来るな。あいつの手下がお前を狙ってるからな。俺がお前の履歴書破り捨てておいてやったから、絶対二度と店に現れるなよ?』
「…………」
また地面にしゃがみ込むはめになった。
……せっかく心入れ替えたのに仕事探しから始めなきゃならねーのかよっ!
……ピンチなのに働かなきゃいけないのに収入源が減ってしまった。
やっぱりパチンコで金を増やすしかないか。でも何故か増えないんだよなー。むしろ減るんだよなー。
などと考えながら、早朝のコンビニのレジに立っていると、商品の入ったカゴが置かれた。
「……いらっしゃいませー」
見覚えのあるカゴの中身に顔を上げると、拓真だった。
「今から仕事? 早いな」
「カラオケのバイトは辞めたのか?」
「行ったの?」
「昨日」
「常連客殴っちまったからな。クビになった」
拓真のカゴを見ると、俺の好物のプリンが入っていた。
「もうこれ買わなくていいよ。もうお前の家行かないから」
……間違っても親友とキスはしたくないからな。
おにぎりやパンのバーコードをスキャンしていると、拓真が脇に挟んでいた封筒から書類を出して渡してきた。
「何?」
「常連客を殴ったついでに店の中の物も壊したらしいな」
「…………」
スキャンする手を止めて書類を受け取った。
「そんがいばいしょうせいきゅう……?」
そこには治療費や賠償金の金額が書かれていた。
「五百万っ!?」
「高級な酒の瓶を割ってしまったらしい」
「なんでだよっ!? あいつが俺の上に乗ってきたから殴ったのにっ!? なんで俺が払うんだよっ!?」
「残念ながらあの店には防犯カメラがなかったし、依頼人はお前を襲ったことを認めていないが、お前は今依頼人を殴ったことを認めたな」
拓真にスマホの録音画面を見せられた。
「……お前、あいつの弁護士になったのかっ!?」
「たまたま偶然依頼されただけだ」
「嘘つけっ!」
「示談することもできるが、お前も弁護士をつける必要がある。そんな金あるのか?」
「……マジかよ」
また五百万も借金が増えたのかよっ! 合わせて一千万っ!? 返せるわけないだろっ!!
「ついでに依頼人にお前の住所も教えたからもう家に帰ることはできないぞ。この依頼人は金で解決するだけじゃ物足りないみたいだからな」
「……お前」
書類を握りながら拓真を睨んだが、眼鏡の奥から冷静な目を向けられただけだった。
「忘れたか? 俺はもうお前の親友じゃない。今まで貸した分をきっちり返してもらうだけだ。逃げるなよ?」
「…………」
……誰だ、こいつ。俺の知ってる拓真じゃないぞ。こんな冷たいことを俺に言う奴じゃなかったのにっ!
……とうとう帰る家さえなくなっちまった。
泊めてくれる人間を探して片っ端から知り合いに連絡をしてもなかなか見つからなかった。
「先輩、家に泊めてください」
『悪いな。今奥さんが妊娠中なんだよ』
……くそ。普段拓真に頼り切ってたせいで、いざというときに頼れる知り合いがいねぇ。
仕方ない。最終手段だ。
『やだ、あんた帰ってくるつもりなの? 彼氏が怒るわよー』
最終手段の母親は案の定、即刻嫌がった。
「俺の部屋まだあるだろ?」
『そんなのとっくにないわよ。拓真くんの家に泊めてもらいなさいよ』
「毎月仕送りしてやってんだろうがっ!」
『あんな端金じゃ親孝行にもならないね!』
「クソババァ!」
『まさか拓真くんと喧嘩したの? あんた拓真くんしかまともな友達いないのに?』
「うるさい。その拓真がまともじゃなくなっちまったんだよっ!」
『あら、とうとう拓真くんに見捨てられたのね。かわいそうに。それでも仕送りはこれ以上減らせないからね! しっかり頑張りなさいよ!』
最終手段から電話を一方的に切られてしまった。
……息子の貞操がどうなってもいいのかよっ! クソババァっ!
眼鏡をはずした拓真の顔を見るのは久しぶりだった。控えめな顔だちでモブ中のモブだと思っていた拓真の顔は、眼鏡の印象が消えると、意外にも意志の強そうな眼差しをしていることに気が付いた。
顔に癖がないから整っているように見えなくもない。
拓真の唇と俺の唇が重なる直前だった。
「やっぱ無理」
「…………」
拓真を押しのけて、ソファから立ち上がった。
勝手に冷蔵庫を開けて好物のプリンを鞄に入れ、玄関で靴を履き、拓真の家を出て、夜道を歩きながら歩道でしゃがみ込んだ。
「……あっぶねー」
あやうく親友とキスをするところだった。
……危ないって。キスなんかしたら明日からあいつの顔見れねーよ。
ましてやセックスなんかできるかよっ! 絶対に親友に戻れなくなるだろうがっ!
「あー、金どーしよ」
……アロハ以外の金持ちなんか知らねーよ。金持ちってどこにいるんだよ。
こうなったら五百万の借金背負うしかないか? 元はと言えば俺が拓真から借りた金だし。地道に働いて返すしかないか?
そう思いながら立ち上がり、とぼとぼと歩いていると、背中に振動を感じた。鞄からスマホを出して画面を見ると、先輩からだった。
「はい?」
『さっきアロハがブチ切れながら店に来たぞ。お前もう二度と店に来るなよ。この辺にも来るな。あいつの手下がお前を狙ってるからな。俺がお前の履歴書破り捨てておいてやったから、絶対二度と店に現れるなよ?』
「…………」
また地面にしゃがみ込むはめになった。
……せっかく心入れ替えたのに仕事探しから始めなきゃならねーのかよっ!
……ピンチなのに働かなきゃいけないのに収入源が減ってしまった。
やっぱりパチンコで金を増やすしかないか。でも何故か増えないんだよなー。むしろ減るんだよなー。
などと考えながら、早朝のコンビニのレジに立っていると、商品の入ったカゴが置かれた。
「……いらっしゃいませー」
見覚えのあるカゴの中身に顔を上げると、拓真だった。
「今から仕事? 早いな」
「カラオケのバイトは辞めたのか?」
「行ったの?」
「昨日」
「常連客殴っちまったからな。クビになった」
拓真のカゴを見ると、俺の好物のプリンが入っていた。
「もうこれ買わなくていいよ。もうお前の家行かないから」
……間違っても親友とキスはしたくないからな。
おにぎりやパンのバーコードをスキャンしていると、拓真が脇に挟んでいた封筒から書類を出して渡してきた。
「何?」
「常連客を殴ったついでに店の中の物も壊したらしいな」
「…………」
スキャンする手を止めて書類を受け取った。
「そんがいばいしょうせいきゅう……?」
そこには治療費や賠償金の金額が書かれていた。
「五百万っ!?」
「高級な酒の瓶を割ってしまったらしい」
「なんでだよっ!? あいつが俺の上に乗ってきたから殴ったのにっ!? なんで俺が払うんだよっ!?」
「残念ながらあの店には防犯カメラがなかったし、依頼人はお前を襲ったことを認めていないが、お前は今依頼人を殴ったことを認めたな」
拓真にスマホの録音画面を見せられた。
「……お前、あいつの弁護士になったのかっ!?」
「たまたま偶然依頼されただけだ」
「嘘つけっ!」
「示談することもできるが、お前も弁護士をつける必要がある。そんな金あるのか?」
「……マジかよ」
また五百万も借金が増えたのかよっ! 合わせて一千万っ!? 返せるわけないだろっ!!
「ついでに依頼人にお前の住所も教えたからもう家に帰ることはできないぞ。この依頼人は金で解決するだけじゃ物足りないみたいだからな」
「……お前」
書類を握りながら拓真を睨んだが、眼鏡の奥から冷静な目を向けられただけだった。
「忘れたか? 俺はもうお前の親友じゃない。今まで貸した分をきっちり返してもらうだけだ。逃げるなよ?」
「…………」
……誰だ、こいつ。俺の知ってる拓真じゃないぞ。こんな冷たいことを俺に言う奴じゃなかったのにっ!
……とうとう帰る家さえなくなっちまった。
泊めてくれる人間を探して片っ端から知り合いに連絡をしてもなかなか見つからなかった。
「先輩、家に泊めてください」
『悪いな。今奥さんが妊娠中なんだよ』
……くそ。普段拓真に頼り切ってたせいで、いざというときに頼れる知り合いがいねぇ。
仕方ない。最終手段だ。
『やだ、あんた帰ってくるつもりなの? 彼氏が怒るわよー』
最終手段の母親は案の定、即刻嫌がった。
「俺の部屋まだあるだろ?」
『そんなのとっくにないわよ。拓真くんの家に泊めてもらいなさいよ』
「毎月仕送りしてやってんだろうがっ!」
『あんな端金じゃ親孝行にもならないね!』
「クソババァ!」
『まさか拓真くんと喧嘩したの? あんた拓真くんしかまともな友達いないのに?』
「うるさい。その拓真がまともじゃなくなっちまったんだよっ!」
『あら、とうとう拓真くんに見捨てられたのね。かわいそうに。それでも仕送りはこれ以上減らせないからね! しっかり頑張りなさいよ!』
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