僕の好きな人

たいら

文字の大きさ
12 / 12

12

しおりを挟む
 出汁の香りが店の中に漂っていた。
 自分で天ぷらを取り、レジの前で注文すると茹でたてのうどんに熱い出汁をかけた、かけうどんが提供された。
 あつあつのうどんは今まで食べてきたどのうどんよりもコシが強く、出汁は甘くてコクがあるのにあっさりとしていた。
「美味しいですね」
「うん」
 高比良さんと香川に来て半年が経ち、毎週末の昼は高比良さんとうどん屋巡りをするのが日課になっていた。その半年の間にうどんという食べ物の奥深さを知り、うどんに持っていた固定概念をすっかり覆されてしまったのだ。
「高比良さん、来週はここのうどん屋に行きましょう」
 高比良さんにスマホの画面を見せると、高比良さんが微笑んでくれた。
「いいよ」
 本社にいたころよりも帰りが早くなったからか高比良さんはこっちに来てからの方が機嫌が良さそうに見えるし、俺が食事管理をするようになったからか美しさが増した気がした。
 海老の天ぷらを食べる高比良さんを思わずじっと見てしまうと、高比良さんが不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「……なんでもないです」
 思わず顔を伏せてしまったが、顔がニヤけるのは抑えられなかった。
 香川に来てから毎日が幸せだった。もうずっとここで高比良さんと暮らしたいくらいだった。
 ……たった一つの不安を除いては。







「久我山くん、気にしないで」
「…………」
 高比良さんの慰めにも反応することができず、ただ自分の股間を見つめていた。
 ……どうしてだ? どうしてお前は最近元気がないんだ? 香川に来るまではあんなに元気だったじゃないか。お前のせいで漫画のリバ展開も延期になっているんだぞ?
 高比良さんが俺のために足を開いて待っていてくれているのに。
 好きな人の前で勃たないなんて男として失格だ。いっそ消えてなくなってしまいたい。俺なんて要らない人間だ。
「久我山くん」
 高比良さんに抱きしめられて我に返った。
「…………」
「ごめんね。無理強いしちゃったかな。もういいから」
「……違うんです」
 ヤりたいんです。俺だって攻めしたいんです。高比良さんを抱きたいんです。
 ……でも勃たないんです。
 高比良さんに落ち度なんて一つもない。高比良さんはいつも優しいし香川での生活はストレスなんてないはずなのになんで勃たないんだ?
「今日はもういいから」
 高比良さんに抱きしめられながらシーツに押し倒された。
「…………っ」
 高比良さんに舌を入れたキスをされながら乳首を摘まれた。耳と首筋を優しく噛まれ、乳首にも高比良さんの歯が当たった。
「……あっ……」
 歯と舌で乳首を愛撫されながら、尻に指が挿入れられた。
 中で高比良さんの指が動くと、中の疼きとともに股間が硬くなるのを感じた。
 ……良かった。
 高比良さんのおかげで復調の兆しが見えてホッとした。これでもう一回チャンレンジできる。
 そう思っていると、高比良さんは俺の膝を曲げた状態で固定し、自分の性器を俺の窪みに押し当てた。
「……ちがっ……」
 まだ拡がりきっていなかったそこは、きつかったけど、高比良さんは躊躇することなく、根元まで挿入し、すぐに動き出した。
 最初は苦痛だったのに徐々に快感に変わっていく。まるで高比良さんから与えられるものは苦痛でさえも喜んでしまうみたいに。
「……あっ……あっ……あっ……あっ……あっ……」
 お互いに全く知り合いがいない香川に来て二人だけの濃い日常を送り、高比良さんへの信頼が日に日に増して愛が深まっていくのを感じていた。
 苦痛さえも受け入れてしまうほどに。
「……あっ……あっ……んっ……んっ……んっ……」
「先にこっちを完成させちゃったせいかな」
「え?」
 目を開けると、俺の両手首を掴んだ高比良さんが艶めかしく腰を振りながら俺を見下ろしていた。
 ……完成?
「でも大丈夫だよ。久我山くんの体は僕がちゃんと管理してあげるから」
「…………」
 ……高比良さんは不思議な人だからたまに理解できないけど、でも俺たちは愛し合ってるから大丈夫だ。高比良さんになら何をされても平気だし、俺も高比良さんのためなら何だってできるんだ。







「次の連休にそっちに遊びに行くよ。お土産もいっぱい持っていくから」
『ストーカーのくせに楽しそうだな』
「高比良さんの近くにいられるだけで幸せなんだ」
『ストーカーの極みだな』
 朝起きると高比良さんがいて、寝る直前まで高比良さんが視界の中にいるんだ。こんなに幸せなことはない。
 休みだというのに上司とゴルフに来ているという木島は体力も忍耐力もすごい。これくらいじゃないと保険会社では働けないんだ。すぐに辞めて良かった。俺にはやっぱり無理だ。
『ほどほどにしておけよ。今日上司から聞いたんだよ。会社内に高比良さんの派閥があるって。やっぱりあいつは曲者だぞ』
「……派閥?」
『おおっぴらにではないけど、高比良さんのために動く奴らだよ。突然香川行きが決まったのも何かあるのかもな』
「…………」
 現実主義者の木島が変なことを言うから思わず笑ってしまった。
 ……そんなわけない。仕事ができると変な噂までたってしまうから大変だ。あんなに優しくて誠実な人はいないのに。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話

ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

水泳部物語

佐城竜信
BL
タイトルに偽りありであまり水泳部要素の出てこないBLです。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

処理中です...