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ビビりとモフモフ、冒険開始

材料(情報)は揃った

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カタンッ

異世界生活6日目。
何かの物音で、ボンヤリと覚醒した。
背中や頭や脚に重みを感じる…う、動けない…!
え、何コレ金縛り?…幽霊的なやつ?

俺はそんな怖くないから良いけど、詩音にはやめてね。
アイツ、悪霊退散とか叫びながら、光属性魔法ぶっぱしそうで怖いから。

『ん~……?』

目を開けて、重みを感じる左前肢を見た。
そこには幽霊なんかじゃなく、小さな羊の可愛い寝顔があった。
…なんだ、皆に枕にされてるだけか。

たぶん、頭に乗ってるのは小梅だ。
お腹の辺りは…詩音…俯せで俺の毛に埋もれてるけど、息大丈夫?
ってことは、背中はディアさんだね。

安心して二度寝しようと思ったら、部家のドアが開いた。

「おや、起きたかミライ。」
『あ、おはよディアさ………え?』

……ん?
ディアさんが今、ドアを開けて入ってきた。
でも、未だ背中に何かの重みを感じる。

『……ディアさん、俺の背中何か居る?』
「ん?何も居ないが。」
『……そっかぁー…………』

…な、なるべく早く詩音から離れよう…そうだ、小梅も苦手じゃなかったか?
とにかく距離をおいて、詩音が起きたら事情話して、宥めて宥めて落ち着かせてから、弔いしてもらおう。

『ディアさん…小梅を至急避難させて。詩音と陽向は布団に落とせるけど、小梅は床に落としそう。』
「まだ、寝ていて良いのだぞ?」
『あのね、何言ってんだコイツって思うかもだけど、なんか俺取り憑いてるっぽいんだ。だから3人からちょっと離れとく。』
「取り憑いている…?何も居ないと言ったではないか。……強いて言うなら、ジェイクからの報告書が置かれているくらいだ。」
『報告書かよ!!』

焦って損したわ!
なんで俺の背に置いたよ、ジェイクさん!

「暗号で書かれているからな…私が読んでおく。もう少し眠るといい。」
『ん、今何時?』
「午前3時40分だ。」
『おぅ…二度寝するわ。おやすみ~。』
「ああ。」

背中の重みが消えて、代わりに暖かな手で撫でられる感覚がする。
気持ちが、ほにゃほにゃしてくるのに任せて、そのまま眠りについた。

──────

今日は、朝食準備に間に合ったよ!
昨日ディアさんが作った、ビシソワーズに対抗して、コーンポタージュ作ってみた!
作り方ぶっちゃけ知らんかったけど、ビシソワーズ参考にしたらイケたんだよね。

「ふぁ……おはようございます…良い匂いですね。」
「あ、レヴァンさん、おはよ!」
『だぁれ?』
『ここの、ご主人なのです!』
「ああ…!コウメ、噂には聞いていましたが、本当にデザートキャットへ進化したのですね!おめでとうございます!」
『ありがとうなのです!』

めっちゃ眠そうだね?大丈夫?
ただ、小梅をモフる手は超高速だ。

「レヴァンさん、もしやずっと地下にいらしたんですか?」
「いえ…昨日の昼から、自室で寝てました。あ、ミライくんのお菓子、美味しかったですよ。ありがとうございます。」
「反動とは言え、それは寝過ぎだろう。」

昨日の昼からずっと?!
自律神経っての、おかしくするよ!

「ヴァンちゃん、だから言ってるじゃないか。研究も調合もしていいけど、自己管理も一緒にしておくれよ。」
「すみません…つい時間を忘れてしまって。」

……もしかして、初めて叱ってくれたって、こういう系の内容だった?

「そうそう、ミライくん達にもあげます。お菓子のお礼です。」
「あ、ありがとうございます。凄く効きそうな……毒薬、ですか?」
「…スゲー色……。」
「ブラッドグールの解毒薬です。大抵の毒は治せますよ。」

はいっ?!コレ例の解毒薬なの?!
む、紫と緑なんだけど……

『……逆に毒かかりそうです。』
「…………鑑定しても、飲むのは憚られるな…。」
『おいしくないにおい……』

散々な言われようの薬は、ありがたくアイテムボックスへ突っ込んだ。
できれば使わないことを祈る。

「では、私は納品して参りますので…ごゆっくり。」
「うん。」
「行ってらっしゃいませ!」

まだ少しフラフラしてる、レヴァンさんを見送って、食堂の席に着いた。

『いただきますです!』
『いただきまーす♪』
「「「いただきます。」」」

主食はバゲットみたいなパンに、レタスとチーズ,鶏皮せんべいを挟んだ、ファルさんの新作だ。
うん、今日の朝ご飯も美味しいっ!

「そーいや、ディアさん。ジェイクさんの報告書、どんな感じだった?」
「もう届いたんですか?!早いですね。」
「ああ……状況はかなり悪い。司教はやはり偽物で、杖は変化の杖だった。屋敷で囲っているのは姉ではなく、5年前に婚姻した年下の妻だそうだ。本当の職業は商人だが、評判も然程良くない上、妻の浪費癖が酷く経営破綻寸前らしい。」
「…マジで偽物かぁ。」
「経営のために、わざわざ他の町の教会からお金をせしめていらっしゃると…?」
「そのようだ。まあ、大半は妻が買い込む、ガラクタに使われているがね。」
『ガラクタかうの、たのしいの?』
『楽しい人も、居るらしいです。』

そ、そりゃ浪費癖ある嫁さんじゃ、大変だろうけど…やり方がさぁ……。
ってか、これ奥さんにもお説教必要かな。

「最近は、教会の寄進を巻き上げるだけでは、足りないようだな。……既に王都の孤児院から、3名も子供を奴隷として売っている。」
「「そこまでいった?!」んですか?!」
『そんなのダメです!』

おいおいおいおい?!
完全にアウトな事案発生してっけど?!

「売られた子は、保護済みだ。購入者は、どれもロクでもない輩だったようでな。ジェイクが購入者の弱味を握って、私が買い取った。子供達は、マクベスの治療院で療養中だ。」
「流石、子供の味方ヴァールフラン家!」
「それから、本物のトーマスも発見している。食品倉庫の地下に、主人の寝室の隠し扉から行ける小部屋があったそうだ。今朝の魔力充填が済んだら、直ぐにジェイクが救助する手筈に成っている。」
『お仕事早いのです!』

俺が二度寝してから、再び起きるまでに、そんなことしてたんだ…!
俺達にはできないことを、平然とやってのける!
そこに痺れる憧れるぅっ!

「そ、それで…成り済まし犯の正体は、どなたなのでしょう?」
「テンプ・ルベールという、悪どい商人……ウリシラの叔父だ。杖を手に入れたのは1年前で、とある冒険者から借金のかたに奪ったらしい。コレが、金庫から拝借した借用書だな。こっちは奴隷の売却に関する書類…粗悪品の表示詐称販売の証拠、従業員への未払い賃金に関する書類……」
「クズだな。」
「ゴミですね。」

……ほほう。
シスターを孤児院に入れて、家を乗っ取ったっていう例の……。
つまりは、殴りに殴って構わない、塵芥だということだ。

「ピザ伸そう。綺麗にまっ平らにしよう。」
『ピザ釜作るです?』
「いいね、焼こうか。」
『ピザっておいしーの?』
「それ、死んじゃいますよ!水責めにしましょう?犯行を認めさせて、スマホで証拠動画録るのが先決です。」
『しおちゃん、ナイスアイディアなのです!』
「君もなかなか、怖い事を言うな。」

そうと決まれば、早めに行こうよ。
あ、ご飯はゆっくり食べていいからね、詩音。
お前、急ぐと喉詰まらせるから。
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