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ビビりとモフモフ、冒険開始

日輪連合会異世界支部(仮)発足

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さて、俺と対峙する盗賊のお頭さん。
RPGで言うと、だいぶ強いと思う。
ある程度でも強さ知りたいな~と思いつつ鑑定したら、職業欄にレベルが見えたんである。

大盗賊ロードシーフ レベル57』

ドラ●エやったことある人なら、解ると思う。
レベル50代後半4人パーティーなら、立ち回りちゃんとやればストーリーのラスボス殺れる。
ポケ●ンだって、6匹レベル50代後半なら、初回のチャンピオン戦で勝てるのだ。
更にはただの盗賊シーフじゃなくて、大盗賊。
上位職とみていいだろう。
つまり…このおじさんは、だいぶ強い!

「…おじさん……俺が戦う相手としては、たぶん過去最強だわ。」

ディアさんのデコピンはノーカンで。

「そうかい。俺もガキを相手にした中じゃあ、てめぇが一番と言い切れるぜ。」

因みに今何をしてるかっていうと…まあ、動かず目を離さずお互いの観察?
いや、うん…こっちに寄ってきた詩音の、『早くやっちゃえばいいのにって』目線も感じてるんだけどさぁ……。
下手に動けないんである。
隙見せたら斬られる。

過保護ステータスあるから、大怪我まではいかないとは思うけどね。
絶対ではないし。
尚、俺は狼らしく下段に構えております。

[…未來くん、横槍入れたら怒ります?]
[後でシバかれる覚悟があるならいいよ。]
[いえ、あの、私じゃなくて小梅ちゃんと陽向くんが…助けに行きたがってまして……。]
[ゴメン、自力で倒してみたい。]
[わかりました、お留守番させますね。]

不味い、コレは不味い。
小梅や陽向が飛びかかれば、確かに隙は生まれる。
ただし、小梅や陽向が怪我することを引き換えに、だ。それだけは絶対阻止したい。

ならば早々に決着つけねば……そうだ、奇襲をかけよう!
相手はたぶん、俺を獣人だと思ってる。
口から火吹くとは思わない筈!

[《バーニングブレス》!!]

おじさんには聞こえないよう、念話で呪文を唱えて炎を吹き出す。
狙いは容赦なく、顔面である。
一瞬、火遁・豪火●の術って叫びたくなったけど自重した。

「なっ?!…このっ!!」

流石と言うべきか…アクロバットに炎を避けたおじさんは、着地の反動を利用して一気に間合いを詰めてきた。

「なにそれ、格好いい!!」
「調子狂うからやめろ天然!!」

繰り出されるのは、たぶん『突き』。
普通だ…普通に避ければいいんだ。
ゼ●伝のダークリ●ク戦とか、最初の頃のO●E PIE●EのVS C.●ロのあのシーン再現しようとか思わず……

「いいや、限界だ、やるねっ!!」
「はっ?!」

我慢できずに、ジャンプしてしまった。
だって、やってみたいんだもん!
突き出された剣の上に乗るヤツ!
あ、でもガッツリ乗ったら怪我しそう…!

「やべっ……アレ?」
「な、何だと?!」

…俺なんか、思うより超跳んでんだけど…
あ、腕輪の効果?!
んじゃ、着地点変更!狙うはおじさんの頭!

「喰らえ!空中下B!ファル●ンキーック!!」
「くっ…こnごふぁっ?!」

すぐに上へ向けられた剣を爪で弾き、頭を踏むように蹴りつける。
なんか、一瞬爪伸びたんだけど…武器特性かな?
蹴りは燃えてないだけいいと思ってね!
本家スマ●ラのは燃えてるから!

「ショーヤムーってな!」
「Show me your moveだと思いますけど…。」
「細かいことは気にすんな!」
『おにーちゃん、すごーい!』
『そうちょーさん、カッコいいです~♪』
「お、そうか~?♪」

…ん?なんかノリで普通に蹴っちゃったけど、そういや俺の攻撃力………

「……ぎゃぁあああ?!おじさんの首、変な方向曲がったぁああああ!詩音、ヒール!いや、リザレクション!!」
「え、えぇえええええ?!何してるんですか、未來くんっ!!」

ギリ死んではなかったみたいで、なんとかヒールで間に合った。

───────

『そうちょーさん、コウメおやくに たててるですか?』
「おう!ありがとうな、小梅~♪」
『しおにーちゃん、まほー すごかったー!』
「えへへ、ありがとうございます♪」

それぞれ小梅と陽向を抱きつつ、小声で話す。
まだ盗賊団の皆さんが、周りに居るもんでね。

「…わざわざ全員治すたぁ…とんだお人好しだなてめぇら。」
「そう?怪我人歩かせるの、気が引けるじゃん。」
「変わったガキだな。」
『むっ!そうちょーさん、こどもじゃないのです!』
「ガキじゃないでーす。ミライって呼んでよ、おじさん。」
「んじゃ、てめぇもガロンと呼びな。」
「うぃっす、ガロンさん。」

小梅に砂で盗賊達を捕縛してもらった。
土属性本当に便利。
今は、ゾロゾロと盗賊引き連れて、ケールをめざしている所だ。

「ありがとうよ、嬢ちゃん…!頭を助けてくれて…!」
「い、いいいいいえっ!その、わ、私は特に何も……!」
「何言ってんだ、命の恩人だぜ!大したことしてくれてんじゃねぇか!」
『そーだよ!しおにーちゃん、すごいんだよ!』

ガロンさんの治療をしたからか、詩音はなんか、したっぱさん達から崇められてる。
この盗賊団、元々孤児のグループだったんだって。
一番強くてリーダーシップもあるガロンさんを中心に、皆で肩寄せあって生きてきたんだとか。
正式に皆の職業が盗賊になったのは、26年前らしい。
ガロンさんが15歳の時だってさ。
つまり現在41歳なんだね。

「しかし、頭を倒すなんてなぁ…」
「坊主、後でステータス見てみろよ!すげぇ上がり方してんぞ、きっと!」
「うん、確認しとく。」

尚、したっぱさん方、俺に対してもなんでか好意的だったり。
マクベスさん曰く「馬鹿みたいに大慌てしながら、シオンに救命依頼したの見て、恨むのもアホらしくなったんじゃない?あの人生きてるし。」とのこと。

「ガロンさん、懲役どんくらいになるのかなぁ…。」
「なんだ、心配か?」
「うん。」
「どこまでもお人好しだな…盗賊の末路なんざ気にすんな。」
「だってさー。元々必要にかられての、盗賊稼業だったんじゃん?故郷に孤児院とか無かったんでしょ?」
「まあな…ケールには前からあったが……。シルフィード領の町で孤児院の設立が義務になったのは、今の領主の代からだ。」

…孤児院、国運営じゃなくて領運営なのかー……。

「国でやった方がいいって…。ディアさんに言ったら、王様のところ乗り込んでくれないかな……。」
「行くと思うよ。この国の王は、父さんに頭上がらないし。」

何をしたのディアさん。

「そうだミライ、1つ御使い頼まれてくれねぇか?」
「御使いって?」
「西に俺達のアジトがあるんだ。女子供と、護衛役が残ってる。俺が捕まったことを、伝えてほしい。」
「……もしかして、その人達も…?」
「ああ、元孤児だ。報酬は俺達がこれまで集めたお宝でどうだ?それで、衛兵にゃ場所教えねぇって約束してくれや。」

…盗賊団ってか…孤児救済組織……?
待って、ほぼ女の人と子供だけになるわけ?
それって、生きるの大変なんじゃ……!

「進路変更!アジトに皆帰そう、そうしよう!」
「はぁっ?!おい、お人好しにも程があるだろ!」
「いいの!荷物盗っても命取る気はない、平和主義盗賊団見逃したって、罰当たんないから!」
「盗賊に平和主義も何もねぇよ!」

ガロンさんが、何かギャーギャー言ってるけど気にしない。
マクベスさんも、めっちゃ呆れてるけど気にしないっ!

「いいよな、詩音!日輪流不良更正プログラム、とくと見せてやろうぜ!」
「はい!皆で盗賊から脚を洗いましょう!」
「「「はいっ?!」」」
「…何考えてんだか……危ないことしたら、即父さん呼ぶからね?」

───────

さてさて、ガロンさんの盗賊団のアジトにて。

「頭の命の恩人に!」
「俺達の救世主に!」
「「「カンパーイ!!」」」
「「か、カンパーイ…!」」
『かんぱいです!』
『かーぱーい!』
「兄貴方、酒はイケるんで?」
「えっと、保護者にはやめとけって言われてて…。」
「わ、私も遠慮します…。」
「レッドバイソンのお肉が焼けたわよ~!猫ちゃんもどうぞ~。」
『おいしそーです!』
「野草の温サラダも、召し上がれ♪羊くんも食べるかしら?」
『たべるー!』
「あ、ありがとう。」
「ど、どどどうも…。」
「兄貴!そのバイソン、俺が止め刺したんだぜ!」
「へぇ~…す、凄いねぇ。」

……めっちゃ歓迎されてるんだけど、なんだコレ。

『兄貴』って…20以上年上のおじさん達からの兄貴呼びって……!
違和感が半端ないよ!
俺を『若』って呼ぶおじさん達なら、じいちゃんの会社にめっちゃ居たけどさ!

「俺はこうなると思ってたけど?」
「え、マジ?どの辺で?」
「集落の様子見て、すぐに小梅協力の下ジャガイモ畑とか、ライス用の池作った辺りで、かな。」

…やっぱ、やり過ぎた?

「デイヴィー呼んで本格的に農業学べる環境を整え、ライスの調理法教えて、ドナベまで与えたし。奉り上げられもするよね。」
「いやさ、元の世界のダチ達も、根はいいヤツなのに悪さしてるの多かったんだよ。皆、何故か俺を慕ってくれたから、周囲の環境改善してみたり、俺なりにルール決めたりして、少し更正の手伝いしてたんで…なんかここの人達も放っとけなくて。」
「へぇ…元から、こういうことしてたんだ。」

うちの高校にあった、5つの不良グループの全員と友達になってさ。
『日輪連合会』っていうの作ったんだよ。
なんで俺の名字に成ったかっていうと、皆に押し切られたんである。
皆、俺の考えた更正プログラムに参加してくれてね。
他校の子も10人ちょい参加してくれたから、周辺の治安がちょっと良くなったっていう実績もあるよ!

「シオンもシオンで、集落の怪我人病人全員治したとか…天使だの女神だの言われても、しょうがないよ。」
「だ、だって、目の前に怪我人がいたら、助けるのが普通じゃないですかぁ!」
「うん、偉いと思う。」

詩音は基本優しいからなぁ。
人が怪我とか病気で苦しんでるの、見てられない質なんだよ。
ってか、マクベスさんも手伝ってたよね?

「先生、ライスの収穫はいつ頃になるんで?」
「普通に育てれば、2ヶ月程ですね。皆さんが馴れるまで、週に1度は顔を出しますよ。」
「こんなに旨いって知れたら、一気に高騰しちまいそうだな。」
「そこは領主様が調整なさるでしょう。私の方でも、需要に合わせて卸しますよ。安定的に収穫できるようになったら、この集落から優先的に仕入れます。」
「そりゃ、ありがてぇ!」

デイヴィーさんは、なんか商人モードだ。
この集落の立て直しを、商売に結びつけたらしい。
さっきこの集落で炊いたご飯を、2合程アイテムボックスに入れてたのも、商業ギルドへライスを高値で売り付けるためなんだと。
そして異世界の米は、2ヶ月で収穫できるのか……6倍速?
やばくね?

「さて、ギルドが閉まらない内に行ってきます!ライス1kg3万…いや、5万Gで売ってみせますよ!」
「阿漕ってマジだったんだ。」
「嘘吐いてどうするのさ。」

今のライスの相場は、1kg500Gだそうで。
100倍とか売れるの……?

「あ、ミライ明日予定開けといて!うちの商品、念のため全部見てもらいたいから!」
「兄ちゃん、俺を金の生る木だと思ってない?」
「使いたいものあったら、弟価格で卸すからさぁ~♪革新的な活用法教えてくれたら、ライス同様初回はタダでプレゼントするよ?」
「んー、まあ…ウィンウィンならいっか。」
「ありがと!んじゃ、また明日~♪」

俺が了承するなり、風を纏ってケールの方へ飛んで行っちゃった。
騙されてる感もあるけど…別にいいや。
米と醤油と味噌に出逢わせてくれたんだし、それくらい協力するさ!

「…私達も、お暇しませんか?ペンとか、陽向くんの首輪とか、買わないといけませんから。」
『くびわー?』
『コウメと、そうちょーさんと、おそろいのコレです♪』
『わーい!』
「そだね。あと、パン屋さん寄りたい。」
「なら、俺が空間転移で門まで送るよ。」

パン屋さんに、この世界のベーキングパウダー的な物を、教えてもらいたい。
小梅やサニーちゃん達に、にゃんこクッキーをあげたいんだ。

「なんでぇ、もう行くのか?」
「うん。また来るね!」
「お待ちしてます、兄貴!」

マクベスさんに引っ付いて、初空間転移を体験。
酔ったりもせず、本当に一瞬で景色が変わった。スゲェ。

余談だけど3日後、集落の入り口に『ヒノワ村』と書かれた看板を発見して、恥ずかしさのあまりガロンさんと小一時間揉めることになる。結局皆の熱意に負けたけど。
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