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I
XIV
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「...。」
「月城って、百目鬼の血...飲んだことあるんだろ?
どこから飲んだの?」
こんなことが聞きたい訳じゃない。
どこから飲んだとか、知る必要なんてないのに
月城のことになると、聞かずにはいられない。
「...胸、だったかな。」
心臓が一際大きく脈打つ。
「じゃあ...、月城はどこから吸わせた...?」
歩みを止めた月城の顔に月の光が降り注ぎ、睫毛や前髪の影を落とす。
花弁が舞い、薔薇の香りが鼻の中を駆け巡ると同時に
「首から吸わせた。
普段、血を吸わせることなんてないから...周囲の子達には首に牙の痕があるだけで驚かれたよ。」
彼らの吸血し合う姿を想像しては、歯がギリ、と音を立てた。
「そっか。」
聞かなければ良かった、なんて今更思っても遅い。
このモヤモヤが何なのか、何故こんなにも気分が優れないのか...四季にはよく分からない。
ただ、彼の意識が他の人物に集中したことがあると思うだけで、どうしようもなく嫌な気分になる。
「...四季...」
四季がネクタイを解き、ワイシャツのボタンを三つほど外すと、月城は怪訝そうな表情を浮かべながらも喉を鳴らした。
「何してるの...?」
月光に晒される四季の肌はキメ細かく、首元から青白く走る血管が惜しげも無く晒されると、月城は我も忘れて手を伸ばしそうになる。
そして瞼を艶やかに濡らしながら、こう口にするのだ。
「飲んでいいよ...?」
悪魔の囁きだった。
人間との共存を密かに目指すヴァンパイアにとって、善人の血を吸うことは禁忌に値する。
我慢しなければならない。
明るい未来の...、これからを生きるヴァンパイアのために。
「ほら、月城...。」
月城より身長の低い四季は、彼の首へ手を回し優しく胸元へ引き寄せた。
欲望を押し殺し、微かに震える冷たい体には愛しさすら覚える。
涼しい顔をしているが、人間を前にするとその仮面は脆くも崩れ落ち、理性は欠如する。
「...本当...、君はいけない子だね...。」
縋るように背後へ回る彼の手は、四季の背中へ鋭い爪を立てた。
「んっ...、は...。」
チクリとした痛みが胸に広がるが、それも瞬時に快楽へと変わる。
満月の下、天を仰ぎながら彼の頭を抱き寄せると、月城の抱擁もより一層強くなった。
「...美味しい?」
伏せられた睫毛は長く、四季の声に反応して此方に向けられる熱を孕んだ瞳に、心臓が乙女の如く高鳴る。
「...ん...」
血で濡れた唇は扇情的で目が離せない。
「......骨の髄まで、しゃぶりつくしたくなるくらいには。」
恐ろしいことを言いながらも、愛しいものを見るように四季を見つめ、ちゅっ、ちゅっ、と胸元に口付けを施す月城は甘く掠れた声で「これ以上される前に、帰してあげる」と口にした。
甘美な一時。
彼の視線、声、ちょっとした動作のひとつひとつにドキドキしたながら寮へ戻ると、四季の部屋の前で別れを告げた。
周りの生徒は深い眠りについている。
「おやすみ、月城...。」
「...四季..。」
「ん?」
「僕は、人間がこの世のなによりも美しい生き物だと思っている。
だから、自分と馨を比べる必要なんてないよ。」
「...。」
「おやすみ。」
密会する男女さながら、小声で挨拶を交わし部屋の扉を閉めると、急激に寂しさが襲う。
『今日も僕の部屋に来る?』
彼はそう言ったが、これ以上一緒にいたら自分の気持ちが余計ぐちゃぐちゃになりそうだった。
あの気持ちはなんだろう。
月城を見ると胸が騒ぎ、どうしようもなく触れたくなるのは...彼が綺麗だから...?
それとも、ヴァンパイアという存在が珍しいから...?
人間の自分に、誰よりも優しくしてくれるから...ーーー?
「わからん...、俺は月城をどうしたいんだろう...。
友達も居たことがないから...胸がモヤモヤすんのも意味分からないし...。」
浴室で頭から熱い湯を被る。
「苦しい...、自分の心臓じゃないみたいだ...。」
ポツリと呟いた言葉はシャワーの音に掻き消され、結局自分の気持ちが分からないまま、四季は浴室の鏡に頭をコツンとぶつけた。
...
......
.........
「密...会いたかったよ。」
「...如月しゃま、息できないれふ...。」
翌日の夕方、如月と約束した通り西園寺を上手く言いくるめたが、会って早々豪快なハグをお見舞いされる姿を見ては、何だかいたたまれなくなる。
「じゃあ、黒須...俺達はこれで。
お礼はまた今度するから。」
(!?)
「如月様、これは一体どういうことですか!
私は、四季と遊べると思って!」
「黒須じゃなくて、俺と遊ぼ。」
うわあああ、と叫びながらも部屋に引きずり込まれていく西園寺。
三人で遊ぶ、という話だった気がするけど、完全にいいように使われただけだった。
今日はこの学園に来て、初めての休日。
昼過ぎまで寝ていたとは言え、何もしないまま休日を終わらせていいものなのか。
「加賀美ー、いるー?」
西園寺の部屋の前でぼっ立ちする四季は、向かいの加賀美を尋ねた。
最近の加賀美は、学校行事の打ち合わせで終始不在なことが多い。
ちゃんと話をしたのも、西園寺を入れた三人でご飯を食べた時以来だろう。
「いないのかな...。」
物音一つしない加賀美の部屋。
てっきり休日の今日くらいは居ると思っていたが...、残念だ。
「仕方ない、部屋でスマホでも弄るか。」
「やあ、四季...こんばんは。」
「月城!?何で一階に...!?」
「あれ...今日景光たちと遊ぶんじゃなかったっけ。」
「月城って、百目鬼の血...飲んだことあるんだろ?
どこから飲んだの?」
こんなことが聞きたい訳じゃない。
どこから飲んだとか、知る必要なんてないのに
月城のことになると、聞かずにはいられない。
「...胸、だったかな。」
心臓が一際大きく脈打つ。
「じゃあ...、月城はどこから吸わせた...?」
歩みを止めた月城の顔に月の光が降り注ぎ、睫毛や前髪の影を落とす。
花弁が舞い、薔薇の香りが鼻の中を駆け巡ると同時に
「首から吸わせた。
普段、血を吸わせることなんてないから...周囲の子達には首に牙の痕があるだけで驚かれたよ。」
彼らの吸血し合う姿を想像しては、歯がギリ、と音を立てた。
「そっか。」
聞かなければ良かった、なんて今更思っても遅い。
このモヤモヤが何なのか、何故こんなにも気分が優れないのか...四季にはよく分からない。
ただ、彼の意識が他の人物に集中したことがあると思うだけで、どうしようもなく嫌な気分になる。
「...四季...」
四季がネクタイを解き、ワイシャツのボタンを三つほど外すと、月城は怪訝そうな表情を浮かべながらも喉を鳴らした。
「何してるの...?」
月光に晒される四季の肌はキメ細かく、首元から青白く走る血管が惜しげも無く晒されると、月城は我も忘れて手を伸ばしそうになる。
そして瞼を艶やかに濡らしながら、こう口にするのだ。
「飲んでいいよ...?」
悪魔の囁きだった。
人間との共存を密かに目指すヴァンパイアにとって、善人の血を吸うことは禁忌に値する。
我慢しなければならない。
明るい未来の...、これからを生きるヴァンパイアのために。
「ほら、月城...。」
月城より身長の低い四季は、彼の首へ手を回し優しく胸元へ引き寄せた。
欲望を押し殺し、微かに震える冷たい体には愛しさすら覚える。
涼しい顔をしているが、人間を前にするとその仮面は脆くも崩れ落ち、理性は欠如する。
「...本当...、君はいけない子だね...。」
縋るように背後へ回る彼の手は、四季の背中へ鋭い爪を立てた。
「んっ...、は...。」
チクリとした痛みが胸に広がるが、それも瞬時に快楽へと変わる。
満月の下、天を仰ぎながら彼の頭を抱き寄せると、月城の抱擁もより一層強くなった。
「...美味しい?」
伏せられた睫毛は長く、四季の声に反応して此方に向けられる熱を孕んだ瞳に、心臓が乙女の如く高鳴る。
「...ん...」
血で濡れた唇は扇情的で目が離せない。
「......骨の髄まで、しゃぶりつくしたくなるくらいには。」
恐ろしいことを言いながらも、愛しいものを見るように四季を見つめ、ちゅっ、ちゅっ、と胸元に口付けを施す月城は甘く掠れた声で「これ以上される前に、帰してあげる」と口にした。
甘美な一時。
彼の視線、声、ちょっとした動作のひとつひとつにドキドキしたながら寮へ戻ると、四季の部屋の前で別れを告げた。
周りの生徒は深い眠りについている。
「おやすみ、月城...。」
「...四季..。」
「ん?」
「僕は、人間がこの世のなによりも美しい生き物だと思っている。
だから、自分と馨を比べる必要なんてないよ。」
「...。」
「おやすみ。」
密会する男女さながら、小声で挨拶を交わし部屋の扉を閉めると、急激に寂しさが襲う。
『今日も僕の部屋に来る?』
彼はそう言ったが、これ以上一緒にいたら自分の気持ちが余計ぐちゃぐちゃになりそうだった。
あの気持ちはなんだろう。
月城を見ると胸が騒ぎ、どうしようもなく触れたくなるのは...彼が綺麗だから...?
それとも、ヴァンパイアという存在が珍しいから...?
人間の自分に、誰よりも優しくしてくれるから...ーーー?
「わからん...、俺は月城をどうしたいんだろう...。
友達も居たことがないから...胸がモヤモヤすんのも意味分からないし...。」
浴室で頭から熱い湯を被る。
「苦しい...、自分の心臓じゃないみたいだ...。」
ポツリと呟いた言葉はシャワーの音に掻き消され、結局自分の気持ちが分からないまま、四季は浴室の鏡に頭をコツンとぶつけた。
...
......
.........
「密...会いたかったよ。」
「...如月しゃま、息できないれふ...。」
翌日の夕方、如月と約束した通り西園寺を上手く言いくるめたが、会って早々豪快なハグをお見舞いされる姿を見ては、何だかいたたまれなくなる。
「じゃあ、黒須...俺達はこれで。
お礼はまた今度するから。」
(!?)
「如月様、これは一体どういうことですか!
私は、四季と遊べると思って!」
「黒須じゃなくて、俺と遊ぼ。」
うわあああ、と叫びながらも部屋に引きずり込まれていく西園寺。
三人で遊ぶ、という話だった気がするけど、完全にいいように使われただけだった。
今日はこの学園に来て、初めての休日。
昼過ぎまで寝ていたとは言え、何もしないまま休日を終わらせていいものなのか。
「加賀美ー、いるー?」
西園寺の部屋の前でぼっ立ちする四季は、向かいの加賀美を尋ねた。
最近の加賀美は、学校行事の打ち合わせで終始不在なことが多い。
ちゃんと話をしたのも、西園寺を入れた三人でご飯を食べた時以来だろう。
「いないのかな...。」
物音一つしない加賀美の部屋。
てっきり休日の今日くらいは居ると思っていたが...、残念だ。
「仕方ない、部屋でスマホでも弄るか。」
「やあ、四季...こんばんは。」
「月城!?何で一階に...!?」
「あれ...今日景光たちと遊ぶんじゃなかったっけ。」
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