聖・黒薔薇学園

能登

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I

XXXVIII

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月城は、お腹を空かせている。

月城と一緒の時間を過ごすにつれ、彼の不調は簡単に感じ取れるようになった。

四季の血を飲みだしてから食事の頻度は大幅に減ったが、前回の食事から日にちが経っているということもあり不安な様子が拭えない。

四季も急いで部屋へ戻り、早めに食事と風呂を済ませてから月城の部屋へと足を運んだ。


「...。」

いざ、大きな扉の前に立つと、やはり緊張感が襲う。

(大丈夫、前みたいに...普通に話せる。)

一呼吸おいてから扉をノックすると、中から出てきた彼に部屋へと招かれた。

久しぶりな気がする部屋はやはり少し荒れていて、気休め程度にしかならない新薬がテーブルの上に散らばっていた。

「月城、あのさ...」

「僕はこの後用事があるから、30分だけ練習したらやめにしよう。」

彼の発言に、一瞬時が止まる。

用事があるなら仕方ない。

そう思うものの、自分に言い聞かせる行為とは裏腹に月城の言う用事が何なのかが気になってしまう。

前みたいにこの部屋に誰かを呼んでをするつもりなのではないかと、嫌な予感が容赦なく頭を過ぎった。





「用事って...?」

「......君が気にすることじゃない。」

突っ撥ねるような回答が吐き捨てられると、これ以上詮索することは出来なかった。

部屋の中央まで手を引き、四季の腰を抱く月城は気にする素振りも見せず、緩やかに足を右へ出す。

「集中して。」

「...。」

合わせるように出した右足を合図に、ダンスがスタートする。

円を描くようなステップ。

頭上で上げられた手の下をくるりと回って、時折彼の目を盗み見る。

月城は遠くを見ながら30分が過ぎるのを、ただただ、待っているようにも見えた。



「...上出来だよ。」

一通りダンスを踊り終わると、彼の形のいい唇が静かに動く。

「これなら、もう練習する必要はなさそうだ。」

「え?じゃあ...毎晩やってるダンス練習は...?」

「今日で終わりにしよう。


...お疲れさま。」

残り時間が20分もあるのに、早く帰れと言われているように感じる「お疲れさま」の発言に、四季はムッとした。

このダンス練習が無くなれば、月城は昼間授業から夜間授業に変更するだろう。

そうしたら月城に会える時間はいつになる?

四季が寮へ戻る時間に授業へ参加し、寝ている時間に寮へ戻ってくる生活は

間違いなく月城との距離を広げることになる。

「でも俺、ダンスはまだ不安だよ。」

「...。」

久しぶりに交差した視線に、再び心臓が素早く脈打つ。



「もう一回だけでもいいから...一緒に踊ってくれない?」


ルビーの瞳は静かに揺らめいたまま、四季の黒い瞳を見つめていた。

目が合っているだけで心臓がはち切れそうになるくらいドキドキしている。
顔が急激に火照り、掌にはじんわりと汗が滲んだ。

「...僕はてっきり、一緒の時間を過ごしたく無いのかと。」

月城が口を開くまでの時間はやけに長く感じたが、彼の発言を聞いて早鐘を打つ胸を痛めた。



「ごめん、そんなつもりは全くないんだ...。
ただ...俺が...」

月城のことを好きだから

好きになってしまったから

どう接していいか分からなくなってしまった。

「ん...?」

冷たい手で四季の手首を掴んだ月城が声を漏らす。
川のせせらぎのような穏やかな声は、四季の鼓膜を震わせながら脳に浸透していった。


(伝えなきゃ...、月城のことが好きだって。)


「俺...!言いたいことが、あって...!
つ...月城のことが......す...っ、す...」

喉が異様に乾いて言葉が詰まる。
額から滲む汗や忙しなく泳がせてしまう視線に、四季自身も動揺した。

人に想いを伝えるのがこんなに怖いことだとは知らなかった。


相手の反応

変わるかもしれない今の関係性


自分が想いを伝えたことによって、今まで通り話せなくなったら...?
接点がなくなったら...?

そう思うと凄く怖い。



「四季...、やっぱり景光に何かされた?」

「へ...?」

「僕が部屋に戻ってから様子がおかしくなったから...、景光に変なことでも言われたのかなって。」

と言われたらそうかもしれない。
四季の知らない感情を掘り起こしたのは紛れもなく如月だったが、それについては寧ろ感謝している。

この歳になるまで友人や恋人が皆無だった身からすれば、こう言った助言や手助けをしてくれる存在は非常に有難い。

「如月とは、その...れっ、恋愛に...関する話をした...。」

「へぇ...恋愛ね...。」

「だから、何かされたとかではない...。」


月の光が差し込む一室。
部屋の中央まで青白い光を伸ばし、四季の足へ縋るように照らすそれは、今の状況から助け出そうとしている天の導きにも見えた。



「本当に?」

するり、と彼の冷たい指がシャツの襟元を撫でる。

「あっ...。」

「触らせてない...?」

じれったい動作で首筋を撫でシャツの裾から手を忍び込ませる姿は、艶やかで淑やかで目を奪われてしまう。

冷たい掌を腹に押し付けた月城は、前髪の隙間からルビーをギラリと輝かせながら四季を覗き込んだ。

「答えて。」

炎のように揺らめく瞳。
微かに飛び出た牙。
長く美しい髪が肌に触れる。

四季は、蛇に睨まれた蛙という言葉を思い出した。

「...触らせてない...。」

彼は美しいヴァンパイアというだけでなく

「そう...」

肉食獣のような一面をチラつかせている。


「誰にも触らせちゃいけないよ...、四季。」
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