聖・黒薔薇学園

能登

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「...勘弁して欲しいのはこっちだ。
中等部の頃から舞踏会に一度も出ようとしないお前が、唯一今年の舞踏会に参加すると知って喜んだ俺が馬鹿みたいじゃねェか。」

「馨......

前から伝えているが、僕は君をとして見ていない。
そろそろ理解して欲しい。」

「は...っ、...理解できる訳ないだろ。」


握り締めた百目鬼の拳が月城の胸に突き付けられる。

「俺はずっとお前をそういう対象として見てんだから!!」


部屋の中に響き渡る百目鬼の怒号と共に、空に大きな稲妻が瞬いた。
薔薇は焼け焦げ、月すらも雲に隠れてしまう。

空で唸る無数の稲妻は、お互いの輪郭をハッキリとうつし、視界をチカチカと照らした。








「......どうしようもないくらい好きなんだ...。」

小さな声。

百目鬼の肌を透明な涙が伝うと同時に、今度は天からも大粒の雨が降り注ぐ。

感情とリンクした天気はコロコロと表情を変えながら大地をも翻弄した。

「あいつが良くて俺がダメな理由は?」

月城は、切なく絞り出された百目鬼の声を聞いて何とも言えない気持ちになる。

百目鬼という存在は特別だ。

幼い頃から何をするにも一緒で、寧ろ隣にいないと落ち着かない。

親同士が決めた婚約話に最初こそ不満は無かったが、次第に本当にこのままでいいのかと疑問を持ち始めたのは月城がまともに物事を考えられるようになってからだった。


名家の純血は名家の純血同士でしか結婚が許されないことも、月城家に嫁ぐため女型として百目鬼の存在も、全てが理不尽に思えた。

彼は本当に決められた通りの人生を歩むことしか出来ない。

自分の意思で髪を短く切ることも出来ず、結婚相手すら決められている。
月城家に嫁いだら家業を叩き込まれるのは勿論、月城の顔に泥を塗らないようにと厳しく躾られるに違いない。

死ぬことが出来ない生き物である以上、この関係は一生ついてまわる。


少なくとも月城自身、名家の純血同士でしか結婚出来ないという訳の分からない決まりや、月城家に嫁ぐ者は女性らしくせねばならないといったしきたりは絶対におかしいと感じている。

今まで、こんな馬鹿げたしきたりを守り抜いてきた一族が、次期当主である月城 綾斗自身の意図や見解に耳を傾けることはありえない。


「馨が駄目なのではなく、月城が駄目なんだよ。」

「...。」

「僕は、この忌々しい一族の物語に終止符を打つ。
だからこそ、結婚はしないし子孫は残さないと決めているんだ。

君を酷い目にあわせないためにも、僕は君を拒絶する。」

「酷い目にあってもいい...!
綾斗と一緒にいれるなら俺はどんなことだってしてみせる!」



ああ、鬱陶しい。



話の分からない、盲目で哀れで美しく...それでいて悲しい生き物は

「だからお願い、俺を捨てないで...。」

ただただ怒りを高まらせることしか出来ない。



「......馨、これ以上僕をイライラさせるな。
僕の母がどんな扱いをされたか知っているんだろ...?
酷い目にあってもいいなんて軽々しく言わないで欲しい。」

脱力した手をソファーから投げ出す月城は、半ば呆れたように吐息と共に呟いた。

突然漂った氷のような空気感を察知した百目鬼は、機嫌をとるためなのか、はたまた謝罪するためなのか慌てて月城に擦り寄る。

目を潤ませ、長く煌めく髪を乱しながら足にしがみつく百目鬼の姿を見て月城は思わず息を飲んだ。


「!ご、め......ごめん...っ、ごめんなさい...綾斗...。」


それは自分の母親を彷彿とさせる姿だったからだ。

謝り続ける彼は意地でも足から身を離そうとせず、懇願し、媚びへつらう。


「...もういい、帰ってくれ。」


百目鬼の妖しく輝く瞳が潤み、大粒の雫がフカフカな絨毯を濡らす。

離れたくないと泣く様はさながら子供のようで、月城はソファーの背もたれに首を擡げ、天井を仰いではまた言葉を紡ぐ。

「...君になんと言われようが、僕の気持ちは変わらない。
立場がどうの、純血がどうのって本当に煩わしい...。
これ以上僕を失望させないでくれ...、君と本格的に関係を切ることになる。」


百目鬼は、勿論女性と比べたら華奢ではないし、言葉遣いだって乱暴で喧嘩っ早いところもある。

だからこそ、彼に涙は似合わない。

例え今この時に傷付けたとしても、終わることの無い辛く長いヴァンパイアの人生の中では少しでも多く笑っていて欲しいのだ。


「ごめんなさい...。」



君は僕と居ても幸せになれないよ。

その言葉が喉まで出かかったのに、弱った百目鬼に追い打ちをかけるようなことは言えなかった。


静かな室内に小さな呼吸が二つ。

止むことのない雨はしとしとと...明け方まで降り続け乾いた大地と赤赤と揺らめく薔薇を濡らした。

しがらみの中で生きるヴァンパイアは、思っている以上に脆い存在で、遠くの山々から顔を出す朝日にヴァンパイアは怯えることしかできないのに

「ああ...綺麗だ...。」

不死の存在であるヴァンパイアを灰へと変貌させる死の陽光を、百目鬼は綺麗だと言った。



「......俺達も人間だったら、朝日を浴びれたのにな...。」


彼の人間に対して放たれる罵声は憎しみからか

はたまた憧れや嫉妬からか


「...そうだね...。」


月城にとっては、考えなくても分かることだった。
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