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I
XLIII
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御手洗を済ませた加賀美がニコニコしながらやってくる。
花とキラキラを纏った天使のような存在に、四季の顔は自然と綻んだ。
「ああ!加賀美くん、丁度いいところに来たね。
実は、夏休みに私の別荘へ行く計画を立てていたんだ。
加賀美くんも一緒にどうだろう?」
「わぁ、いいの!?
僕、夏休みは予定が全く無かったから是非ご一緒させていただきたいな!」
(ああ...、加賀美のこの笑顔でご飯が食える...。)
きゃっきゃっ、とはしゃぐ西園寺と加賀美は手を合わせて喜んでいる。
なんだかこの二人を見ていると、華があり過ぎて男女共学であると錯覚しそうになった。
「あ、あのね?もう一人夏休み中暇な子が居るんだけど、その子にも声を掛けてみていいかな?」
「ん?もう一人?私は全然構わないが。
人数は奇数より偶数の方がいいし。」
「えへへ、ありがとう!西園寺くん!」
「いいんだよ、加賀美くん!楽しみだね!」
「うん!」
机に肘を着きながら二人のはしゃぐ光景を生暖かい目で見つめる四季と、愛い存在に心を奪われる如月だったが
「...加賀美もか。」
月城がボソリと呟いた言葉に頭を傾げる。
そういえば彼は、どことなく加賀美を遠ざけていた。
気を付けるように注意をされたこともあれば、加賀美の部屋に入って不機嫌そうにしていたこともある。
「月城、大丈夫...?」
おずおずと尋ねた言葉に、彼は静かに頷いて見せた。
加賀美と西園寺は未だに手を繋ぎあったまま「あれをしよう」「これをしよう」と夏の旅行話に花を咲かせている。
どこからどう見ても人畜無害そうに見えるのだが...。
「お前、まだ加賀美のこと変なやつだと思ってんの?」
そんな中、愛い存在を見つめていた如月が突然月城に擦り寄った。
「ああ。」
「あんな純粋無垢な笑顔ができるのは善人だけだろ。」
如月の発言にうんうんと、四季までもが頭を縦に振る。
加賀美の何に警戒をしているのかは皆目見当もつかないが、加賀美の人の良さは分かっているつもりだ。
「月城、加賀美と仲良くしてね。」
「そうだぞ、綾斗。
お前は本当に昔から人の好みがハッキリしているからな。」
四季と如月に物申された月城は、ムッとしながら頬杖をつく。
「ああ言う天然温和キャラは、太古昔から腹黒いと決まっている。
何を考えているのか分かりにくいうえに、あの笑顔を駆使して他人の懐に入り込んでることを考えると正直恐怖の対象だよ。」
「お前何か知ってるな?」
「別に、何も知らない。」
恐怖の対象を視界に入れまいとする月城は窓の外に視線を移している。
「黒須、綾斗のことはもう放っておこう。
あいつのアンチみたいなもんだから。
綾斗は中等部の頃からそうなんだよ、何かあれば怪しい、なんか匂うって」
「景光...、余計なことを言うな。」
「はいはい。」
(続きが気になる... 。)
兎にも角にも、月城にとっては雲行きが怪しい旅行になりそうだが、四季は友達との初めての旅行に今から胸を踊らせていた。
...
......
.........
それからの日々は瞬く間に流れた。
返ってきたテストの点数に落ち込み、如月と一緒に追試に参加したり、夜は月城とダンスの練習に励んだり。
舞踏会当日間近になって、着る衣装がないことに気づき急いで西園寺が即席で見繕ってくれたりと、ここ数日間は感情の起伏も激しければ慌ただしい毎日となった。
そして
「変...じゃないかな...。」
「ああ、四季!まるでお人形さんみたいだ!
私の次の次の次くらいに可愛いね、あんな小汚い独房に住んでいるとは到底思えん。」
西園寺の部屋で衣装を身に纏い、己の姿を見るものの...似合っているのかどうかがイマイチよく分からない。
着なれない生地だとしても、手触りや光沢からして高級品であることが分かる。
輝くビジューが散りばめられた純白の燕尾服は、ふんわりとしたレースが裾に施されており、スーツとは程遠い印象を受ける。
「少しメイクをしよう。」
「め、メイク...!?」
ドレッサーの前に広げられた数々のメイク道具は、男性の所持品とは到底思えず四季は狼狽えた。
それでもあれよあれよというままに、西園寺は四季の顔に魔法をかけていく。
はたくと花の香りがするフェイスパウダー
パールの入った薄桃色のチーク
月の輝きを砕いて作ったかのようなキラキラなアイシャドウ
仕上げに、四季の唇にみずみずしさを与える艶やかなグロス
「はぁ...私のセンスが良すぎて、四季が石っころからダイヤモンドになってしまった...感服だ...。」
「なんか...本当に女の子になった気分。」
「舞踏会の会場は、シャンデリアが多くぶら下がっているからね。
目元や頬にハイライトを置くと光が反射して、四季の顔がより明るく見える。
かなりナチュラルに仕上げたつもりだけど、相手はこの違いに驚くだろうな。」
ドレッサーに手を付き鏡を覗き込んだ四季は、恋をしている小娘のように染まった頬やぷるぷるの唇、キラリと輝くアイシャドウが施された顔を見て思わず声を上げた。
「た、...たしかに可愛い...。」
「ああ...綺麗だ、四季。
時間があれば私とも踊ろう。」
花とキラキラを纏った天使のような存在に、四季の顔は自然と綻んだ。
「ああ!加賀美くん、丁度いいところに来たね。
実は、夏休みに私の別荘へ行く計画を立てていたんだ。
加賀美くんも一緒にどうだろう?」
「わぁ、いいの!?
僕、夏休みは予定が全く無かったから是非ご一緒させていただきたいな!」
(ああ...、加賀美のこの笑顔でご飯が食える...。)
きゃっきゃっ、とはしゃぐ西園寺と加賀美は手を合わせて喜んでいる。
なんだかこの二人を見ていると、華があり過ぎて男女共学であると錯覚しそうになった。
「あ、あのね?もう一人夏休み中暇な子が居るんだけど、その子にも声を掛けてみていいかな?」
「ん?もう一人?私は全然構わないが。
人数は奇数より偶数の方がいいし。」
「えへへ、ありがとう!西園寺くん!」
「いいんだよ、加賀美くん!楽しみだね!」
「うん!」
机に肘を着きながら二人のはしゃぐ光景を生暖かい目で見つめる四季と、愛い存在に心を奪われる如月だったが
「...加賀美もか。」
月城がボソリと呟いた言葉に頭を傾げる。
そういえば彼は、どことなく加賀美を遠ざけていた。
気を付けるように注意をされたこともあれば、加賀美の部屋に入って不機嫌そうにしていたこともある。
「月城、大丈夫...?」
おずおずと尋ねた言葉に、彼は静かに頷いて見せた。
加賀美と西園寺は未だに手を繋ぎあったまま「あれをしよう」「これをしよう」と夏の旅行話に花を咲かせている。
どこからどう見ても人畜無害そうに見えるのだが...。
「お前、まだ加賀美のこと変なやつだと思ってんの?」
そんな中、愛い存在を見つめていた如月が突然月城に擦り寄った。
「ああ。」
「あんな純粋無垢な笑顔ができるのは善人だけだろ。」
如月の発言にうんうんと、四季までもが頭を縦に振る。
加賀美の何に警戒をしているのかは皆目見当もつかないが、加賀美の人の良さは分かっているつもりだ。
「月城、加賀美と仲良くしてね。」
「そうだぞ、綾斗。
お前は本当に昔から人の好みがハッキリしているからな。」
四季と如月に物申された月城は、ムッとしながら頬杖をつく。
「ああ言う天然温和キャラは、太古昔から腹黒いと決まっている。
何を考えているのか分かりにくいうえに、あの笑顔を駆使して他人の懐に入り込んでることを考えると正直恐怖の対象だよ。」
「お前何か知ってるな?」
「別に、何も知らない。」
恐怖の対象を視界に入れまいとする月城は窓の外に視線を移している。
「黒須、綾斗のことはもう放っておこう。
あいつのアンチみたいなもんだから。
綾斗は中等部の頃からそうなんだよ、何かあれば怪しい、なんか匂うって」
「景光...、余計なことを言うな。」
「はいはい。」
(続きが気になる... 。)
兎にも角にも、月城にとっては雲行きが怪しい旅行になりそうだが、四季は友達との初めての旅行に今から胸を踊らせていた。
...
......
.........
それからの日々は瞬く間に流れた。
返ってきたテストの点数に落ち込み、如月と一緒に追試に参加したり、夜は月城とダンスの練習に励んだり。
舞踏会当日間近になって、着る衣装がないことに気づき急いで西園寺が即席で見繕ってくれたりと、ここ数日間は感情の起伏も激しければ慌ただしい毎日となった。
そして
「変...じゃないかな...。」
「ああ、四季!まるでお人形さんみたいだ!
私の次の次の次くらいに可愛いね、あんな小汚い独房に住んでいるとは到底思えん。」
西園寺の部屋で衣装を身に纏い、己の姿を見るものの...似合っているのかどうかがイマイチよく分からない。
着なれない生地だとしても、手触りや光沢からして高級品であることが分かる。
輝くビジューが散りばめられた純白の燕尾服は、ふんわりとしたレースが裾に施されており、スーツとは程遠い印象を受ける。
「少しメイクをしよう。」
「め、メイク...!?」
ドレッサーの前に広げられた数々のメイク道具は、男性の所持品とは到底思えず四季は狼狽えた。
それでもあれよあれよというままに、西園寺は四季の顔に魔法をかけていく。
はたくと花の香りがするフェイスパウダー
パールの入った薄桃色のチーク
月の輝きを砕いて作ったかのようなキラキラなアイシャドウ
仕上げに、四季の唇にみずみずしさを与える艶やかなグロス
「はぁ...私のセンスが良すぎて、四季が石っころからダイヤモンドになってしまった...感服だ...。」
「なんか...本当に女の子になった気分。」
「舞踏会の会場は、シャンデリアが多くぶら下がっているからね。
目元や頬にハイライトを置くと光が反射して、四季の顔がより明るく見える。
かなりナチュラルに仕上げたつもりだけど、相手はこの違いに驚くだろうな。」
ドレッサーに手を付き鏡を覗き込んだ四季は、恋をしている小娘のように染まった頬やぷるぷるの唇、キラリと輝くアイシャドウが施された顔を見て思わず声を上げた。
「た、...たしかに可愛い...。」
「ああ...綺麗だ、四季。
時間があれば私とも踊ろう。」
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