聖・黒薔薇学園

能登

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I

XLIV

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会場は、季節のイベントなどで利用される花月かげつの間だ。

普段は立ち入り禁止のポールが行く手を阻んでおり、中の様子を見ることさえ許さないが今日という特別な日は花月の間も人を呼び寄せる。


「わ~、広い...!」

「今はちょっとした待機時間で、ダンスはあの扉の向こうで踊るんだ。
待ち時間の間はこの会場にある軽食を食べたり、他の人と話をして時間を潰すといい。」

「待ち時間があると余計緊張するな...。」

「む?大丈夫か?この私が何か温かい飲み物でも取ってきてやろう。
温かい飲み物...温かい飲み物...。」


辺りを見渡す西園寺が何かを見つけたようで、「あ」と声を漏らす。

一時停止してしまった彼に続きそちらへ視線を向けると、会場中は歓喜の声に包まれた。

「ああ、なんとお美しい...!」

「白と黒で対照的なところがまた素敵!」

「僕とも一曲踊って貰えないかな...。」

「はぁ、数年に一度しか見れない如月様のお美しいご尊顔たるや...♡」


ざわめく騒音の中、四季の目に飛び込んできたのは純白の正装に包まれた月城の姿だった。

深紅のリボンで髪を束ね、シルバーのカフスやネクタイピンなどの装飾が際立つその衣装は、控えめに言ってカッコよすぎる。

「まずい、...こっちに来てるな。」

(あ、月城が俺に気付いた。
軽く手を上げる姿さえ様になってる...、歩き方もスマートでカッコイイ...、顔も綺麗...。)

「四季、私はドリンクを取りに行くぞ。」

(今日はあんなにカッコイイ月城とダンスするんだ...。
ただでさえ緊張してるのに、あの距離でダンスしたら心臓が止まっちゃうかもしれない...。)

「おい四っ...、きゅぅ...。」

「密、今日も凄く可愛いね...宇宙一。」

「...あの...ちゅぶれてしまいましゅ...。」


月城に目を奪われ思考回路すら占領されてしまっていたが、突然隣に立ち竦んだ大きな存在にハッとした四季は徐に横を見やる。

「...?」

誰だろう、この身長と顔に全ステータスを振ったような男は。

切れ長の目と通った鼻筋、目元の泣きぼくろがなんとも印象的で、一度見たら忘れない顔のはずなのだが...四季はこの人物に心当たりがない。

強いて言えばこの瞳の色...アメジストの輝きはどこかで見た記憶が...

「......なんだよ、黒須。
俺がカッコよくて見惚れちゃった?」

「.........あ、如月!?」

「あれ、気付いてなかったんだ。」

いつも長い前髪で素顔を隠し一日の大半は寝て過ごす、つい最近一緒に補習まで受けた如月という人物は

「つーか、...うん...お前も可愛い。
密の次の次の次くらいにだけど。」

大人の色香に包まれ、視線だけで数多の人間を誘惑出来るほどの色男だったわけだ。


「あ、ありがと...。」

(こんな顔がいい奴に褒められると素直に照れる。)

「やあ、四季...。
君の美しさは一際目立つね、すぐに見つけられたよ。」

如月に続き、後からやってきた月城の圧倒的なオーラや香りに腰から崩れ落ちそうになる。

近くで見ると益々カッコイイ。
頭の先から指の先、足の先まで完璧にキマリ過ぎて息をすることすら忘れてしまう。

「四季?」

長いまつ毛の下で輝くルビーの瞳に吸い込まれそうになりながら、呼ばれた声に反応して四季は何とか冷静さを取り戻した。

「つ、月城も...凄くカッコイイね...。」

顔が熱い。
胸がドキドキして苦しい。

長い襟足を一つに束ねた姿が新鮮で、繊細な装飾が施された舞踏会用の豪華な衣装も月城が着ることで余計に絢爛豪華に見える。


「ありがとう、君にそう言われると嬉しいよ...。
こんな可愛くて美しい君を他の奴らに晒すのは気が引けるし...、今すぐにでも二人で抜け出したい。」

「いやいやいや...注目の的である月城が居なくなったら、速攻でバレますから...。」

「...バレてもいい、君と二人きりになりたいんだ。」

「つ、月城...♡」

四季と月城は完全に二人の世界に入っていた。
お互いの声以外は全てが雑音で、視界にチラチラと映るものは全くと言っていいほど眼中に無い。

四季や西園寺を羨む声や妬む声が辺りから湧き上がる中、如月はボソリと呟いた。

「バカップルの代表って感じ。」

「きしゃらぎしゃま...、さいおんじ、ちゅぶれてましゅ...。」

「ああ、ごめん...あまりにも愛しくて。
でも...潰れた顔も可愛い...食べちゃいたい。」

「ぴぇ...。」

如月の乳圧で圧死させられそうになっている西園寺は、何とか彼の体から脱出をしようと試みる。

だが、それを如月が許すはずもなく。



「んむっ、いい加減にしてください!
...折角如月様のためにおめかししてきたのに、抱き締められたらセットが崩れてしまいます...!」

ようやく発言権を与えられた西園寺が何とか言葉を紡ぐと、彼の抱擁はピタリと止まる。


「俺のため...?」

「そうです。」

「........ごめん。
俺のためにめかし込んでくれたんだもんね...。
はぁ、死んじゃいそうなくらい嬉しいよ...密...。」

「うう、...わじゃとやってましゅよね...?」


再び熱い抱擁に包まれた西園寺は、如月の腕の中で生気を吸い取られぐったりと項垂れていた。
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