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8.番外編 (あの時のマリア視点)
しおりを挟む~(居間にて)~
「……ということだから、もう1度、2人でよく話しなさい。」
という子爵様の言葉に従って、奥様とレオン様に続いて居間へと移動する。
「大切な人のことになると暴走するのは、貴方似よね。」
お茶を出して一息ついたころ、まず話し始めるのは、やっぱり奥様で……。
「早すぎる行動力はお前似だろ。」
「あの勘違いの仕方は、昔を思い出すわね。」
「……。」
少し落ち着いた子爵様が反論するも、斬り返されて沈黙。
「昔って?」
面白い話が訊けそうだと期待する表情で、レオン様が話を促す。
子爵様が何か言ったり動いたりする間も無く奥様が話し始める。
「お父様は、私の父を通して何回も求婚してたくせに、私の結婚が決まったと聞くや、攫ってでも連れて行くと言って私の部屋に飛び込んできたのよ。」
「お前は私より格上の伯爵令嬢だったし、まだ義父上からは承諾貰う前だったし……。」
さっそくの奥様による暴露に、子爵様が慌てて釈明するけれど……。
「だから、他の男性との結婚だと思い込んだのよね?」
「それは……。」
「私は貴方の求婚を承諾していたわよね?」
「貴族の結婚は」
「私が不本意な結婚に従うと?」
早々に、いつもの流れになりそうな気配。
「……当時は、それに気づく余裕も無かったんだ!」
「ほら、ジュリアと似てるでしょ?」
そしてやっぱり口では奥様に軍配が上がる。
「だからって、私を引っ張って義父上に確認すべく即座に執務室に乗り込む行動力は、ジュリアはそっくりだよな?」
「立ち止まって考えてるうちに手遅れになったら困るでしょ!?」
それでもなんとか反撃を試みて、暴露に暴露で返した子爵様だけど、傍から見れば惚気だと気付いてないところは似た者夫婦と言えるでしょう。
「その発想も、ジュリアは受け継いでると思うぞ?」
「何か不都合でも?」
「無い。」
いつも通りの遣り取り……それによって子爵様も " いつも通り " に戻ってきていた
「レオンの、周りが慌てるほど冷静になるところは妻似だな。」
「だって、傍から見てるほうが楽しめるからね。」
楽しげな息子に、子爵様は矛先を向ける。
「で、ちゃっかり色々仕組むのは夫似よね。」
「せっかくの立場を活かすんだから、有能でしょ?」
そんな子爵に奥様がツッコミを入れると、すかさずレオン様が胸を張ってみせる。
「で? 傍観者に徹してるマリア? 貴女からヒューに送った手紙の中身、教えてくれる?」
「あら。こちらの様子を少々と、ジュリアお嬢様の近況をたっぷり、に決まってますわ。」
いつも通りの雰囲気にそっと安堵しながら微笑ましく見ていれば、突然レオン様から話題を振られたけど、何の後ろめたさも無いので素直に答える。
「そういうことをやる点もだけど、それを堂々と言い切る点も、普通の母親はやらないよね。」
「バカ息子がじれったかったし、ジュリアお嬢様の幸せに関わることですから。」
予想通りと頷く様子はレオン様らしい。
「うん、これからもよろしくね。」
「はい。」
ついでに今後についても了承を貰えたようなので、普通に了解の意思を示しておく。
「……将来の義父の目の前で、あれだけの激白をする男も、そうそう居ないよなぁ。」
レイン様と私の会話で思い出したような子爵様の呟きに、つい私は苦笑が出そうになる。
「この息子の幼馴染みで親友ですからね。」
すかさず奥様がレオン様に向けた内容は、微妙に子爵様の呟きを肯定しているものだから、とうとう私の苦笑は顔に出てしまう。
「ねえ、マリア、あの時あの場面で、将来の義理の息子の激甘告白に驚いてた父親に対して裏事情補足という時間差攻撃をする息子も、そうそう居ないと思わない?」
それでも、誰も私を見咎めることは無く……。
「僕なりの、ジュリアへの応援だったんですけどね。」
奥様の私への言葉を装ったセリフに、レオン様がキッチリ反応を返していく。
「そうではなくて、そのやり方がレオンらしいって言ってるのよ。」
「僕らしくない僕なんて、僕じゃないですから。」
「はいはい。ホント、レオンらしい返事だわ。」
奥様とレオン様との軽妙な会話が続く間、子爵様は、口では奥様とレオン様には勝てないこともあって沈黙。
いつもと同じような遣り取りが交わされるけど、どこか少し違うのは、置いてきた2人を気にせずにはいられないから。それでも、2人の想いを知っているからこそ、誰も余分なことはしない。
さぁ、バカ息子よ、この機会を無駄にすることは許さないわよ?!
*****(番外編 完)*****
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