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7.想いゆえに (3日目と本編完結)
しおりを挟む~(『いつもの場所』から居間へ)~
「っ!愛してる。」
なんとか一気に話しきった途端、ヒューに思い切り抱きしめられて、耳元に囁かれる。
その抱擁は苦しいぐらい強くて、その囁きは切ないほどに甘くて、なぜか泣きたい気分になった。でも、ヒューの微かに震える身体から、私の想いが伝わったのが分かって嬉しくて、私もヒューを抱きしめた。2年前のようにヒューの服にしがみつくのではなく、今でも腕は回りきらないけど、今度はしっかりヒューの身体を抱きしめた。
「明日、身内だけで結婚式をします。教会は辺境伯に押さえてもらって手続きは済んでます。ジュリアのウエディングドレスは母に預けてあります。叙爵と領地拝領の諸々は辺境伯が進めてくれてます。ついでに、それらと結婚を合わせたお披露目は辺境伯が主催したいとのことなので、奥様、調整をお願いします。新婚生活や新居の準備は母に頼みます。明日、迎えの馬車を来させますので、よろしくお願いします。……そういうことで、明日を楽しみにしてる。」
あの後、私を連れて居間に入るなり、ヒューはお父様たちに向かって一息に話し、最後の一言を私に囁くと踵を返し、そのまま屋敷を出て行った。
「「「「「……。」」」」」
お父様、お母様、レオンお兄様、マリア、私……それぞれ異なる空気の沈黙。
私なんて、またもや話についていけなくなってしまった感じ。
「あははははっ!ヒューってば、ホントに必死だね!」
突然、レオンお兄様が笑いだす。
「「ホント。」」
それを受けて、お母さまとマリアが軽い溜め息と共に口をそろえて一言。
「レオンお兄様?! お母様?! マリア?!」
「ヒューは、色々な意味で限界だったんだよ。
『閉じ込めて隠したいくらいにジュリアが可愛くて仕方ない』と悩み始めのが5年前。
その翌年には、諦めることを諦めてた。
更に1年後には、『ジュリアのダンスの練習相手を断って傷つけた』と落ち込んで、ワルツのホールドは密着するからマズイのにと狼狽えてた。
次の年の子爵領に赴任直前にジュリアに大泣きされた時は、攫っていくのを我慢しようと握りしめた手の平から血が出てたし。
その後も、1回目にここに寄ったときは『ジュリアを抱きしめたくなるから会えない』と苦しんで、次の時は『会いたくなるからジュリアのことをうっかり考えることもできない』と悶えて……。」
「……。」
ヒュー本人から聞いていた話に、レオンお兄様視点の暴露が加えられて、私は頭だけでなく心まで一杯で、もう何も言えなかった。
そして、固まったままだったお父様の表情は、ごく微かに、めまぐるしく変わっていた。
「それで? 母上、マリア。ウエディングドレスの話はいつ言われた?」
「「1年前。」」
レオンお兄様の質問にお母さまとマリアが揃って即答。
「うん、やっぱり、認められる見込みが出てすぐ、だね。」
「っ!ドレスのこと、私は聞いてないぞ!」
レオンお兄様とお母様とマリアの会話に、お父様が我に返って噛み付く。
「結婚の許可を貰いに来ることは分かってたでしょ? 実際に来たんだし、問題無いでしょ。」
「しかし……!」
「花嫁の準備は女性の役割であり特権よね? マリア。」
「ええ、奥様。娘を溺愛してる男親は邪魔してくる場合もありますし……。」
「……。」
そんなお父様を女性2人がいなすのを、レオンお兄様は笑って見ていて……。
「ジュリア、新居はブロウイン男爵家だよ。」
レオンお兄様が新たな情報を教えてくれる。
「え? 辺境伯領の?」
「一番王都寄りの、ね。辺境伯からの結婚祝いみたいなものだよ。」
ブロウイン男爵家とは辺境伯家が持つ称号であり、その当主が治める領地も示す。
「なんで辺境伯が?」
「私の伯父様が誰か忘れたの?」
私の疑問に答えたのは、お母さまだった。
「あ、お母さまの……。」
「思い出した? 諸々のお祝いでもあるけど、実際はジュリアの持参金の1つよ。」
言われてみれば、辺境伯はお母様の叔父上だから、不自然ではない……らしい。
「実質的には、ヒューは婿入りになるわけだよ。」
レオンお兄様が、どこか楽しそうに言葉を添える。確かに、既存の家名と領地を私が受け取って、そこにヒューと住むんだから婿入りと言えばそう言えなくもないんだけど……。
「やっぱり、ヒューは話してなかったね。」
「あのバカ息子は、早く結婚することで頭が一杯なんでしょう。」
「話したつもり、なのかもしれないわね。」
確認できた事柄に予想通りと頷くレオンお兄様と、苦笑するマリアとお母様。
「……それにしても、明日なんて」
「さっきジュリアを連れて帰らなかったのが、ギリギリの我慢なんだよ。今日で最後だからと自分に何度も言い聞かせてやっとなんだと思うよ? 結婚式を延ばしたら、明日には攫って自分だけのものにするのは確定だろうね。」
ショックを思い出して呟くお父様に、レオンお兄様が追い打ちを掛ける。
「「……。」」
レオンお兄様による予想(脅迫?)に、諦めた様子のお父様は言葉を無くして……。
私は驚きの連続に呆然としていた。
そして、結婚命令から3日目、ヒューの宣言通りに結婚式が決行された。
結婚式の直後には、辺境伯によって、ヒューの叙爵内定と領地譲渡を含めたお披露目を1か月後に行うとの発表も有った。
「それ以上遅らせると、ジュリアが身重で出席できないかもしれんからな。」
との辺境伯の言葉に、冗談と受け取った周りはどっと盛り上がったけど、隣でヒューは真顔で頷いてたりするから、ただでさえ恥ずかしかった私はヒューを張り倒したいぐらいで……。
想いゆえに勘違いして、想いゆえに暴走して、想いゆえに絶望して、
想いゆえに悩んで、想いゆえにすれ違って、想いゆえに先走って……。
想いゆえに慌てて、思いゆえに間違えて、想いゆえに見守って、想いゆえに協力して……。
人それぞれ、その時々、色々な想いが重なってさまざまに交錯して……。
だから、私は、受け取った想いを胸に抱いて幸せになります!
*****(本編 完)*****
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