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第三章

第54話 疑惑の討伐証明書

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 試験を終えロビーに戻ると、レイが待っていた。

「お疲れ様。どうだった?」
「ありがとう。まだ全然余裕があるから、体力テストは大丈夫だと思うよ」
「あなたって本当にデタラメね」
「レイだって満点だったじゃん!」
「私はさすがに体力テストのあと動けなかったわ。なんとか満点取ったという感じだもの。数日間は疲労が取れずに寝込んでたわね」
「え? レイが疲労で寝込むことあるの?」
「ちょっと! あなたと違って私は普通の人間なの! ふ、つ、う、なのよ!」

 レイが頬を膨らませて怒っている。

「まったくもう。あなた筆記は問題ないでしょうから、今回も満点じゃないの? 他の受験生にとってみたら、ただの厄災よね」
「ちょっと! それは酷くない!」
「で、どうするの? Aランク受ける? 金貨はあるわよ」
「い、いや……討伐は本当に自信がないのでとにかくCランクからにしてくださいお願いします」

 俺は焦って早口で返答してしまった。

「ふふふ、分かったわよ」

 そして試験結果が張り出された。
 レイの予想通り、俺は満点だった。

 掲示板の前はざわついていた。

「おい! 満点が出たぞ!」
「確か昨年も出ただろ!」
「毎年出るってどうなってんだよ! 試験のレベルが落ちたんじゃねーか?」

 昨年の満点も俺だ……。
 受付の女性に受験票を提出。

「アル・パートさんですね! 満点って凄いですよ! おめでとうございます! 討伐試験はどうされますか?」
「Cランクでお願いします」
「え? Cランクですか? 満点なのに?」
「は、はい。まだ一頭しか討伐したことがなくて。経験がないものですから。それに国境を超えられればいいので」
「そうなんですねー。あれ? でも現在Eランクですよね? Eランクは討伐クエストを受注できませんよ?」
「こ、これも一緒にお願いします」

 俺は霧大蝮ネーベルバイパーの討伐証明書を提出した。
 冒険者カードに登録してもらうためだ。

「討伐証明書ですね。え? ネーベルバイパー? え? え? Eランクで?」

 受付の女性が混乱している。

「さ、さすがに、これはちょっと私では判断できないので、上席に確認しますね」 
「は、はい。逆に、すみません……」

 受付の女性が事務所へ走る。
 しばらく待つと、事務所から一人の男性が出てきた。
 年齢は四十歳から五十歳くらいか。
 身長は俺よりも少し高く、赤茶色の短髪で眼帯をしている。
 身体は絞れており、歴戦の冒険者という印象だ。

「君かね? Eランクでネーベルバイパーの討伐証明書を持って来たというのは?」
「は、はい。冒険者カードに登録してもらいたくて」
「Eランクは討伐クエスト不可と知らないのか!? それにネーベルバイパーはBランクだぞ? Eランクで討伐だと!? ふざけるな! 書類の偽造をするならもっと上手くやれ! 冒険者カードを失効させる! カードを出せ!」

 討伐証明書を偽造したと思い込んでおり、物凄い剣幕で怒っている。
 だが、これは間違いなく騎士団が発行した書類だ。
 元騎士団団長のレイが持っているのだから。
 事情を説明すれば理解してもらえるのだろうか。
 これは困った。

「あ、あなたも偉くなったのねえ。ピット・バックス」

 突然、レイが声を震わせながら口を挟んだ。

「なんだと! 貴様! ナメた口を聞くな!」

 男性はさらに怒り、発言したレイの姿を見る。
 レイは両手の拳を握り、怒りで身体を振るわせていた。

「本当に取り消しに……す……る……ぞ?」

 激怒していた男性の表情が、一気に青ざめた。

「あああああ! なななななななんで?」

 男性は死ぬほど驚いている。

「騎士団発行の書類が偽物ですって? 私も一緒にネーベルバイパーを討伐したのだけど? 書類にはアル・パートとレイ・ステラーの名前があるでしょ? この私を見て騎士団の書類が偽物って言えるの? 私の冒険者カードも失効にするのかしら? ねえ? ピット・バックス? ねえ?」

 こ、怖すぎる。
 これがレイの本性か?
 男性は魂が抜けたように、その場で動けなくなっていた。

 しばらくして、俺たちは別室へ移動。

「大変失礼いたしました、レイ・ステラー様。アル・パート君も、本当に申し訳ない」

 男性は何度も何度も謝ってきた。

「い、いえ、こちらこそ、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」

 そもそも、Eランクなのに討伐証明書を持ってきた俺が悪かったのだ。
 俺は謝罪した。

「レイ様も来られるのなら連絡ください」
「だって、普通に試験を受けに来ただけだし、討伐スコアを更新するだけでしょう。なぜ、いちいち連絡しなければいけないのよ? 私が悪いの?」
「うぐっ、大変申し訳ございませんでした」

 一通り不満をぶつけたレイが笑顔になった。

「ふふふ、ピット・バックス! 久しぶりね!」
「もう、レイ様。心臓が止まるかと思いましたよ。いや、実際に止まりましたから」
「ふふふ、ごめんなさいね。でも、あなたのあの対応はよろしくないわよ?」
「はい。それはもう海よりも深く反省しております」

 ピット・バックスはレイに謝罪した。
 そして、俺の顔を見る。

「私は冒険者ギルド、イーセ王国キーズ地方支部長のピット・バックスだ。よろしく」
「アル・パートです、よろしくお願いします」

 ピットはギルドの支部長だった。
 相当偉い立場の人なのに、レイには頭が上がらないようだ。
 どういう関係性なのだろうか。

「それにしても、レイ様が冒険者として復活なさって、アル君と行動を共にするとは驚きです。騎士団の方はよろしいのですか?」
「ええ、知ってると思うけど退団したわ」
「ギルドもその話題で持ちきりでした。しかし、まさか冒険者として復活されるとは。レイ様の復活はギルドに周知しますからね」
「はああ、分かったわ。仕方ないものね」

 どうやらこれで、レイの冒険者復活が周知されるようだ。
 続いて、ピットは何枚かの書類を確認し、俺の顔を見た。

「改めて、アル君の試験の成績と討伐報告書の内容を確認した。結論から言うと、ギルドとしてはCランクの討伐試験は許可できない」
「な、なぜですか!」

 突然の試験拒否に俺は焦った。

「アル君は昨年も満点を出している。もしCランクを取って、また次回Bランクを受けるとなると再度満点の可能性がある。この試験は満点なんて絶対に出ない仕組みなんだよ。ギルドの長い歴史でも、唯一の満点はレイ様のみ。あの時も議論されて、さらに厳しくしたんだ。もう二度と出ないと言われた満点を、こうも立て続けに出されてはギルドの面子が立たない」
「面子なんて関係ないでしょ?」

 レイが反論する。

「いやいや、レイ様はご存知でしょう。うちの試験が簡単だと思われたら他の組織に舐められますし、冒険者の評判にも関わります。冒険者ギルドの試験は騎士団よりも厳しいと有名なんですから」
「あら、そうかしら?」
「そうです!」

 団体の責任者同士のぶつかり合いだ。

「で、アル君の討伐試験ですが、もし受験するならBランク以上ではないと許可しません。普段からギルマスが仰ってますが、実力に見合った正しいランク付けが最も大切なんです」

 ピットが苦笑いをしながら、俺の顔を見る。

「しかし、アル君。私の予想だと、君はBランクの討伐試験ですら簡単にクリアしてしまうだろう。もはや討伐試験の意味がない。そこでだ……」
「な、なんでしょうか?」
「試験ではないのだが、一つ狩猟クエストをやって欲しい」
「狩猟クエストですか? その……俺はまだEランクですが大丈夫ですか?」
「ああ、支部長権限の特別許可を出すから大丈夫だ。このクエストをクリアしたら、私の権限でBランクを付与する。支部長はBランクまでなら特別付与ができるんだ」
「えっ! 試験はないんですか?」
「もちろんだ。君に試験は無駄だからな。だが、討伐試験よりも難易度は高いぞ」

 その会話にレイが加わる。

「それって私も同行していいのかしら?」
「ええ、いいですよ。お二人ならちょうどいいかもしれません」

 俺は驚いた。

「あの? レイってAランクですよ」
「ああ、このクエストは、格付機関シグ・エイトがBランク四人と指定してるんだ」
「Bランク四人!」

 ピットが詳しく説明してくれた。
 冒険者ギルドには、格付機関シグ・エイトという機関がある。
 格付機関シグ・エイトは、クライアントからの依頼内容を精査し、依頼料金、クエストランク、推奨編成、冒険者への報酬等を決める。
 格付機関シグ・エイトが定める推奨編成未満でもクエスト受注は可能だが、その場合はギルド責任者の承認が必要となる。

 今回はBランク四人が推奨編成だが、ギルド支部長のピットが許可するそうだ。

「イーセ王国でBランクの冒険者四人を同時に集めるのは、なかなか難しいんだ」

 ピットがレイの顔を一瞥する。

「この国は騎士団の影響が大きすぎて、高ランク冒険者は他国へ行ってしまう。だからBランク四人を集めるのが難しい」
「騎士団に依頼すればいいじゃない」
「冒険者ギルドも営利団体なので、国家機関である騎士団に討伐され続けると収益的に厳しいのですよ。それに、この依頼は素材案件ですからね」

 騎士団は基本的に、住民の生活を脅かすモンスターの討伐を行う。
 そのため、モンスターの素材収集を目的とした討伐は行っていない。

 というか、さっきからモンスターの名前を言ってないが、狩猟するモンスターはなんだろう。
 レイは気にならないのだろうか?
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