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第三章

第55話 初クエスト

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「ところで、モンスターは何ですか?」
「ああ、大牙猛象エレモスだ」
「エレモス!」
「そうだ。狩猟の目的はエレモスの大牙二本だ」

 ◇◇◇

 大牙猛象エレモス

 階級 B ランク
 分類 四肢型獣類

 体長約十メデルト。
 大型の獣類モンスター。

 長い鼻を持ち、口の両脇には三メデルトほどの湾曲した大きな牙が一本ずつ生えている四足歩行の大型モンスター。
 厚くて硬い皮膚を持つため防御力が高い。

 性格は凶暴で、一度暴れだすと手がつけられない。
 圧倒的なパワーを誇り、全てを破壊し尽くす。
 怒り狂ったエレモスが、たった一頭で小さな集落を壊滅させたこともある。

 エレモスの大牙は高級品で武具や装飾品、彫刻素材として重宝されている。

 ◇◇◇

 俺はモンスター事典を思い出しながら、ピットへ尋ねる。

「巨体のエレモスを二人で?」
霧大蝮ネーベルバイパーを一矢で仕留めた君なら、達成できるだろう」

 俺は少し考え込んで答えを出した。

「分かりました。やってみます」
「やってくれるか! ありがとう」

 ピットは一枚の書類を俺に出してきた。

「アル君。これは試験ではないので、報酬も通常通り支払う。これがクエスト依頼書だ。確認してくれ」

 ◇◇◇

 クエスト依頼書

 難度 Bランク
 対象 大牙猛象エレモス 
 内容 一頭の狩猟 大牙二本の剥ぎ取り必須
 報酬 金貨二十枚
 期限 二十日以内

 編成 Bランク四人以上
 解体 ギルド手配
 運搬 ギルド手配
 特記 出現場所は指示書参照 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み

 ◇◇◇

「報酬が金貨二十枚も!?」
「ああ、Bランク四人のクエストだし、そもそもエレモスは危険だからな。冒険者税は徴収済みだから、達成したら金貨二十枚がそのまま報酬になるよ」

 クエスト一つで金貨二十枚という大金に驚いたが、四人でやれば一人あたり金貨五枚になる。
 命がけだし妥当な金額か。

「今回、解体師と運び屋はギルドで手配するから費用はかからん。契約書を読んで問題なければサインしてくれ」
「分かりました」

 モンスターの出現場所や、剥ぎ取り素材等の注意事項がある指示書と、クエストの契約書を読みサインした。
 レイも同じようにサイン。

「アル。これがクエストの流れよ。これからたくさん行うことになるから覚えておいてね」
「ああ、分かった」

 俺の初めてのクエスト受注だ。
 緊張する。

「それでは、レイ様、アル君。よろしくお願いします」

 ピットに挨拶をして、ギルドを出た。

 指示書によると、今回の狩猟地はアセンから西へ五十キデルトの湿地帯だった。
 そこで、エレモスの群れを確認したそうだ。

 俺たちはまず、街の道具屋で狩猟に使用する道具を購入。
 そして、カミラさんの宿へ戻り一泊。
 まだ夜が明けないうちに出発した。

「アル、昨日体力テストをやったばかりだけど大丈夫? 期限はまだあるから休んでもいいのよ?」
「ああ、問題ないよ」
「本当にどういう身体してるのかしらね」

 レイは呆れていた。

 俺とレイはそれぞれ馬に乗り、エルウッドは徒歩で狩猟地へ向かう。

「アル。クエストに使用する道具類や、宿などの必要経費は自分で負担するのよ。報酬金額を考えながら、なるべく費用をかけないようにする必要があるわ」
「なるほど、報酬金額だけで考えてはダメなのか。場合によっては赤字になることもあるんだね」
「ええ、そうよ。経費や日数、危険度を考えて受注する必要があるの。注意してね」
「分かった」
「でも今回は、四人分を二人で受け取ることになるから、まず赤字になることはないわね」
「その分危険なんでしょ?」
「もちろんそうね。気を引き締めないと危険だわ」
「頑張るよ」
「ええ、二人で頑張りましょう」

 今回はエレモス一頭の狩猟で、大牙を二本を確保する必要がある。
 大牙は一頭で二本しか取れない。
 なので、もし狩猟中に大牙を破損してしまったら、その時点でクエストは失敗となる。
 二頭目の狩猟は許されていない。

 指示数以上の狩猟は、やむを得ない場合以外、罰金等の懲罰対象になることがある。
 度が過ぎるとギルドハンターからの制裁もあるようだ。
 また、クエスト失敗も罰金対象だ。
 ちなみに、クエストを三回連続で失敗すると、理由に関わらずランクは必ず降格する。
 Bランクのモンスターを相手にして、目的の素材に注意しながら狩猟することは難しい。

「エレモスの巨体自体がすでに凶器よ。さらに大牙や長い鼻がとても厄介なの」
「実物は見たことないけど、モンスター事典で読んだよ。長い鼻での薙ぎ払いが特に危険だって」
「ええ、そうよ。人間一人なんて簡単に吹き飛ばされるし、それだけであっけなく死ぬわ。鼻の攻撃には要注意よ」
「分かった。Bランクモンスターは伊達じゃない……か」
「エレモスの討伐セオリーはいくつかあるけど、もっとも王道なのが、片足にロープを掛けて大人数で引っ張って転ばすという古典的かつ力技よ。普通の人が引っ張るには二十人は必要だけど、Bランクにもなると四人でも大丈夫。まあ、それでも力負けすることはあるけどね」
「今回は二人だし、セオリー通りはできないよね?」
「あなただからできる作戦よ。ふふふ」

 レイがエレモス狩猟の注意点や作戦を説明してくれた。
 通常の討伐セオリーと同じく、エレモスの足にロープを引っ掛ける。
 違うのは俺が一人で足止めをするという点だ。
 その間にレイが、迅速にエレモスの脳天を一突きで仕留める。

 俺の力と、レイのスピードと正確な技術が揃うことで可能となる作戦だった。

 ――

 夕焼けが始まった頃、出現場所に最も近い宿場町に到着。
 俺たちはまず肉屋で牛鶏クルツを一匹購入。
 牛鶏クルツは一メデルトほどの大きさで、頭部に短い角が二本生えていてる鳥だ。
 しかし、ほとんど飛べない。
 その肉は非常に美味な上に、卵も生産できる家畜の代表格だった。

 今回購入した牛鶏クルツの重さは約四十キルク。
 かなり立派な牛鶏クルツだ。
 価格は銀貨一枚と半銀貨五枚。
 一匹買いなので妥当な値段だろう。
 その場で締めてもらい、血も別の容器に入れてもらった。

 そして、そのまま宿で一泊し、翌日は日の出前から行動開始。
 宿場町から五キデルトほど進み、エレモスの出現場所へ向かった。

 さっそく付近を調査すると、エレモスの足跡や形跡を発見。
 エレモスは大型モンスターなので、痕跡を発見しやすい。
 この付近に住み着いていることは間違いないだろう。

「足跡の形跡を見ると、何度もここを往復してるようね。恐らく今日もここを通るはず……。アル、この付近で罠を仕掛けましょう」
「分かった」

 獣道と思われる場所に罠を仕掛けることにした。
 まずはロープを輪っか状にして、エレモスの足跡の上に置き、落ち葉で隠す。
 そこへ餌となる大きな牛鶏クルツを置く。
 匂いを出すために、牛鶏クルツの血を撒き準備完了だ。
 俺たちは二十メデルトほど離れた風下の茂みに身を隠す。

 ここからが大変だ。
 ひたすら待つ。
 とにかく待つ。

 忍耐力が必要だった。
 息を潜め、物音を立てないようにじっと待つ。

 午前を過ぎ、太陽が頭上を通り越えた頃、変化を感じた。
 地面が揺れ始める。

「エレモスが来たわ」

 レイが小さな声で呟く。
 そして、ついにエレモスが姿を表した。
 五頭ほどの群れだ。

 エレモスの実物を見るのは初めてだが、本当に驚くほど大きい。
 この巨体のエレモスを、ロープで引き止めることができるのか不安だ。
 しかし、ここまで来たらやるしかない。

 俺はロープを持つ手に力を入れた。
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