鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十三章

第235話 見えない戦い

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「リアナ、おめでとう」
「リマ様! ありがとうございます!」

 ウチは表彰式を終え試合場を下りてきた。
 準決勝でレイ様に敗退したリマ様が、笑顔で声をかけてくれる。
 本当に優しい上司だ。

「リマ様、腕は大丈夫ですか?」
「しばらく安静だな。毛細血管が切れまくったらしい」
「うわあ、痛そうですね……。でもさすがでした。レイ様にもあともう少しで届きそうでしたし」
「そんなことないさ。七段突きを受けきったとしても、その後の攻撃ができない。初撃を躱された時点で負けてたんだよ」
「そ、そんなこと……」
「いいんだ。アタシはもっと強くなるからな。リアナだって、レイにやられっぱなしは悔しいだろ」
「はい、全く何もさせてもらえませんでした。レイ様には憧れてますが、目標としていつかは勝ちたいと思います」

 リマ様に宣言すると、後ろから気配を感じた。

「リアナ、仇は取ってくるよ」
「ア、アル! ……様」

 アルがウチの肩に手を置く。
 その横で、リマ様が焦った表情を浮かべていた。

「お、おいおい。いいのかアル君? 仮にも愛すべき妻だぞ?」
「アハハ。正直に言うと、今のレイは俺も勝てるか分からない。でも見てて。レイとの戦い方を教えるから」

 冗談かと思ったら、アルの顔は真剣そのものだった。
 ウチはアルと竜種ヴェルギウスの戦いを見ている。
 本当に凄かったし、ウチには絶対できない。
 アルに対して、剣士として畏怖の念を持っている。
 そのアルでも今のレイ様には勝てないかもしれないと言う。

 試合場に上がるアル。
 陛下とレイ様が迎え入れていた。

「アル、レイ、私から言い出したことだけど、無理させてないかしら?」
「アハハ。大丈夫だよヴィクトリア。リアナとリマの仇を取るよ」

 レイ様が両手を腰に当て、じっとアルを見つめている。

「ふーん、私よりもあの二人が大事なの? 分かったわ。私が勝つ」
「俺が勝つに決まってるだろ!」
「今の私は強いわよ?」

 その様子を見て、苦笑いされている陛下。

「ふ、二人ともほどほどにね」

 二人の雰囲気から、真剣勝負になるのは間違いないだろう。
 陛下が試合上から下りると、二人は一騎打ちの礼を行った。
 いよいよ試合開始だ。

 アルは右手に両手剣グレートソードを持っていた。
 だが、長剣ロングソードのように軽々と扱う。
 一体どういう力をしてるんだろう?

 お互い剣を構え、五メデルトほどの距離で対峙している。
 しかし、ピクリとも動かない。
 ウチでも分かる。
 これは呼吸の読み合いだ。
 止まっているようで、幾千ものやり取りが行われているのだろう。

 闘技場全体が静寂に包まれた。
 観客もただならぬ雰囲気を感じ取っているようだ。

 すると、僅かにレイ様が動いた。
 同時にアルも動く。

 二人にとって、五メデルトの距離なんてなかったかのように突きを放つ。
 それはまるで瞬間移動かのように、一気に距離を詰めていた。
 その瞬間、試合場の中心で爆発が起こったような破裂音が鳴り響く。
 いや、実際に何かが爆発した。
 煙で二人の姿が見えない。

 少し強い風が煙を流す。
 ウチにとって、弓術で優勝させてくれた幸運の風だ。
 二人の姿が現れると、お互いが突きを放った姿勢で向き合っていた。
 だが、二人が持つ剣は、柄から先がなくなっている。

 先程の音は、剣が爆発した音だったようだ。
 でも、何がどうなったら木製の剣が爆発するのだろう?

 観客の誰かが歓声を上げると、一気に広がり闘技場全体から大歓声が降り注ぐ。
 アルとレイ様は握手をし、そして手を挙げ歓声に応えていた。

「ふうう。レイ、やっぱり君は凄いや。勝つつもりだったけど、これじゃ引き分けだな。剣が砕け散ったもん」
「何言ってるの。私の動きを見てから反応したでしょ。あなた異常よ?」
「そんなことないよ。もし俺が先に動いても、レイだって同じことをしてたでしょ?」
「無理に決まってるでしょ! あなたの動きに合わせられるわけないもの。ねえ、アル。あなた、わざと引き分けを狙ったでしょう?」
「か、買い被りすぎだって」

 レイ様とアルの会話が聞こえた。

「え? 動きに合わせた? わざと引き分け?」

 ウチには意味が分からない。
 二人の姿を眺めていると、リマ様がウチの肩に手を置いてきた。
 
「リアナ、見えたかい?」
「い、いや、ウチには何も」
「そうか……。見えなかったか」

 リマ様は呟きながら、試合場の二人を見つめている。

「リマは見えたのですか?」

 後ろから聞こえる男性の声。
 振り返ると、ジル・ダズ団長がいらっしゃった。
 団長に敬礼すると「楽にしていいですよ」と、お言葉をいただく。

「見えたさ。ジル団長だって見えただろう?」
「ええ、そうですね。私も見えただけですけど」
「そりゃ、そうさ。あんなの真似なんかできるわけない」

 真剣な表情で話す二人。
 二人には見えたようだ。
 あのスピードを見切ること自体、人間業ではないと思う。
 ウチは二人に尋ねることにした。

「ど、どういうことなんですか? 何があったのでしょうか?」

 リマ様は腰に左手を当て、右の手のひらを宙にかざし、少し呆れた表情を浮かべていた。

「いいか、リアナ。まずレイが動いたんだ。その瞬間、アル君も反応」
「はい、そこまでは見えました」
「そうか。そこからが人間業ではなかった。レイは超高速の七段突きを放った。だが、アル君も七段突きで返す。しかも恐ろしいことに、アル君はレイの七段突きを全て切先で当てにいったんだ。そして四段目で木剣から火が出て、七段目で爆発した。そんなこと起こるか普通? そもそも、いつどこに来るか分からない超高速の突きに、全て合わせることなんてできるか? アル君の住むスピードの世界は、我々と次元が違うよ」

 七段突きを全て切先で合わせた?
 それで剣が爆発した?
 ダメだ、全然理解できない。

「リマの言う通りですね。人の領域を超えています。しかもアルさんは、グレートソードですからね」
「そうだな、ジル団長。アル君にはまだ余裕があったしな」
「ちなみに、レイ様は五段突きまでなら剣を回転させ、貫通力を上げることもできます。レイ様ができるということは、アルさんにもできるでしょう。いや、もしかしたらアルさんは七段突きでも、全て回転突きにできるかもしれません」
「何が見ててね、だよ! アル君め! 全く参考にならないじゃないか!」

 アルとレイ様が試合場から下りてきた。
 アルは満面の笑みだ。

「リアナ! リマ! 見ててくれた? 引き分けになってしまったけど、レイとの戦い方だ。レイの突きを迎撃して無効化すればいいんだよ」

 アルが意味不明なことを言っている。

「バカ! あんなの参考にならないでしょ! アンタは本当にバカね!」
「オホン!」

 ジル・ダズ団長の咳払いが聞こえた。

「あ! さ、参考にならないですわよ、アル様。オホホ」

 つい素が出てしまった。
 ジル団長は怒ってないようだが、表情は真剣そのものだ。

「いいですか、リアナ。あなたの上司であるリマはこれで退団して、アルさんの元へ行きます。我々とは友好関係ですが、アルさん、レイ様、リマがいる組織と戦うことになったらどうしますか? あなたは勝てますか?」
「え? あの……か……勝てません」
「そうですね。ですので、体を鍛え研鑽を積むのです。国を守るという我々の責務は、誰が相手でも勝てなくてはいけないのです」
「ハッ! 承知いたしました!」
「では、団長命令です。この後のアルさんとの試合に参加しなさい」
「え!」
「復唱は?」
「は、はい! リアナ・サンドラはアル・パート様との試合に参加いたします!」
「よろしい。では準備なさい」
「ハッ!」

 ウチはすぐにテントへ走った。
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