鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
320 / 414
第十八章

第308話 呼び起こす咆哮

しおりを挟む
 レイが凍蝙蝠竜ラヴィトゥルを引きつけ壁際まで移動していった。

 俺はその間に竜種リジュールを確認。
 エルウッドの雷の道ログレッシヴで倒れたリジュール。
 雷の道ログレッシヴは竜種にも効く。
 それはヴェルギウス戦でも、ルシウス戦でも実証している。
 特に海に住むルシウスには効果が高かった。

 死んでいれば討伐は完了だ。

 リジュールに外傷は見当たらない。
 無傷の竜種素材なんて開発チームが喜ぶだろう。

 リジュールの体長は二十メデルト。
 巨大な翼をマントのように身体に巻き付けたまま倒れている。
 俺は頭部へ近付いた。

 頭部や翼の色は蒼白色。
 他の竜種のように強固な鱗で覆われていると思ったが、よく見ると鱗ではなかった。
 光沢のある皮だ。

巨兵蛙ゴラエルの皮に似てるな」

 ゴラエルは体長二メデルトのEランクモンスターで、水辺に多く生息する。
 顎から胸の周辺を、体長の数倍膨らますことで有名だ。
 その皮は頑丈でよく伸びるので、様々な製品に使用される。
 水や空気を通さず、雨具、水筒、テントの素材として人気が高い。
 現在は飛空船の素材として重宝されている。

 リジュールの皮に触れてみると、弾力性があることに驚く。
 腰から短剣タガーを取り出し、皮を切ってみた。
 この短剣タガー紅竜の剣イグエルと同じヴェルギウスの素材で作られており、恐ろしいほどの切れ味を誇る。

「き、切れない?」

 この短剣タガーはローザが打ったものだ。
 すなわち、これ以上の短剣タガーはこの世に存在しない。
 だが、それでも切れなかった。

「この弾力が邪魔をしてるな。もう一回やってみるか」
「グウゥゥ」

 俺が皮を切ろうとすると、エルウッドが唸り声をあげた。
 この声は緊急事態だ。

 俺はとっさに剣の柄を掴む。
 すると、リジュールの瞳が突然開いた。
 眼球は黒く、縦長の瞳孔は金色に輝いている。
 これは竜種特有の眼球だ。

「い、生きてる!」

 俺はすぐに紅竜の剣イグエルを抜き、三メデルトほど先にある左眼球へ突きを放つ。
 だがリジュールの動きが先だった。
 俺を叩き潰さんと、振り上げた翼を超高速で振り下ろす。
 まるで家畜にまとわりつく不快な小さな虫、腐羽蠅モルファを潰すような素振りだ。

 俺は突きを諦め、辛うじて背後に飛び退く。
 エルウッドも避けていた。
 叩かれた地面は大きな振動を発生させる。

「クッ! 生きていたのか。エルウッド! もう一回雷の道ログレッシヴを出せるか?」
「ウォン!」

 エルウッドが構えた瞬間、リジュールは身体を起こし顔を上に向ける。

「ギイイイイイィィィィィ!」

 天井に向かって強烈な咆哮を上げた。
 空気が大きく振動している。

「ぐあぁぁぁ」

 立ってられないほどの咆哮。
 目眩がする。
 俺よりも耳が良いエルウッドは、その場に伏せて前足で耳をふさいでいるほどだ。
 
 咆哮がやむと同時に、猛スピードで尻尾の突きが飛んでくる。

「毒針!」

 俺は左へダイブし、間一髪で避けた。
 そのまま地面で身体を回転させ、すぐに起き上がる。

 リジュールの尻尾は、先端が鋭い針になっていた。
 毒の成分は分からないが、カル・ド・イスクと同じだとすると厄介だ。
 それに竜種の毒性がネームドよりも弱いなんてことはないだろう。

 リジュールは二本の足で完全に立ち上がり、両翼を広げた。
 想像以上に大きな翼は、腕と一体化している。
 両翼を広げた姿は幅三十メデルトにも達するだろう。

 胴体は全身蒼白色で、顎下から腹部全体は濃青色。
 尻尾の長さは約十メデルト。
 ヴェルギウスと同じ長さだが、ヴェルギウスは尻尾を力任せに叩きつけた。
 リジュールの尻尾は、まるで意思を持っているかのように自由自在に動き、毒針を突き刺す。
 今も尻尾だけが蛇のように動いている。

 エルウッドが大きくジャンプ。
 すかさず雷の道ログレッシヴを放つ。
 激しい雷光と轟音が発生し、リジュールの顔面に直撃。

 煙が晴れると、平然とした表情を浮かべているリジュール。

「き、効かないのか!」

 さっきは倒れたのに、今はダメージすらないようだ。

 着地したエルウッドがもう一度ジャンプし、雷の道ログレッシヴを放つ。
 しかし、全く意に介せず、右の翼でエルウッドを振り払う。
 もしかして、リジュールの皮は雷の道ログレッシヴを通さないのか。
 
「クッ! エルウッド! 雷の道ログレッシヴが効かないようだ。別の方法を考えよう!」

 俺たちの困惑をよそに、リジュールが大きく口を開けた。
 竜種は口からも攻撃の手段を持っている。
 大量の空気を吸い込み、そしてすぐに吐き出す。

「冷気の塊か!」

 ダイブするが、避けきれず足に直撃。
 足鎧グリーブが凍った。
 だが、紅炎鎧ファラムは外気温を遮断する。
 身体に影響はない。

 冷気の塊は、床の岩盤を粉々に砕いていた。
 全てのものを凍らせ、破壊するリジュールの冷気。
 ヴェルギウスの溶岩、ルシウスの海水以上にやっかいな攻撃だ。

 それにリジュールには雷の道ログレッシヴが効かない。
 これは長期戦になるかもしれない。
 一旦退却が頭をよぎる。

「そうだ! エルウッド、リジュールを牽制してくれ!」
「ウォン!」

 リジュールの尻尾が執拗にエルウッドを狙う。
 だがエルウッドの素早さが勝っている。
 エルウッドが上手く引きつけている隙に、俺は走りながら地面に置いた弓を拾い上げた。
 爆発であれば効果はあるだろう。

 すぐさまヴェルギウスの矢を放つ。
 腹部に命中すると、爆発を起こした。

「ギイイィィ!」

 リジュールがのけぞり叫ぶ。

「もう一発!」

 同じ場所に矢を放つと、さらに大きな爆発が起こった。
 完全に焦げている。
 これで剣が通るだろう。

 俺は弓を肩にかけ、リジュールに走った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

処理中です...