鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
405 / 414
アルの採掘潜入編

第10話 国家の闇

しおりを挟む
「それは朕から説明する」
「え?」

 一人の女性が入室してきた。
 見るからに高価な服飾を纏い、歩く姿は気品に溢れている。

「まさか! シ、シルヴィア陛下!」

 信じられないことだが、帝国皇帝シルヴィアその人だった。

「ふふふ、私もいるわよ」
「レイ! ど、どうして!」

 帝国情報局オンザラの女性職員がすぐに跪く。
 そして退室した。
 さすがに二国の君主を目の前にし、極限まで緊張していたようだ。

「アル陛下。帝国の不祥事を押しつけて申し訳ないのじゃ」
「それは問題ないのですが、シルヴィア陛下がこんなところへ来たら感づかれるのでは?」
「大丈夫じゃ。レイが上手くやってくれている」
「レイが?」

 レイがその美しい紺碧色の瞳を俺に向ける。

「ふふふ、言ってあったでしょ? 帝都で私とシルヴィア陛下の会談があるって」
「あ、そうだったな」
「会談中に竜光石の視察をしたいと、私が急に言い出したことにしたのよ。だから怪しまれることはないわ。むしろ、他国が帝国の竜光石に興味を持っていると知らしめることになるのよ」
「知らしめる? 誰に? ん? もしかして相手が分かってるのかい?」
「ええ、シルヴィア陛下から概ね聞いたわ」

 俺はシルヴィアに視線を向ける。
 苦笑いしているシルヴィア。

「すなぬな、アル。こちらでもある程度情報は掴んでおるのじゃ」
「それは当然ですし、俺も帝国情報局オンザラから情報を貰いました。でもどうして外部の冒険者ギルドに依頼したんですか? 帝国情報局オンザラだけでも調査はできたのではないでしょうか?」
「なかなか繊細な問題でな。内部だと、どこでどのように情報が漏れるか分からんのじゃ」
「繊細な問題?」
「簡単に言うとじゃな……。皇族による皇位簒奪じゃ」
「皇位簒奪? え! それって!」
「うむ、皇帝の座を狙っておる。帝国資源局ウィシュハは六大貴族の一つでルーファ家という皇族じゃ。当然皇位継承権を持っておる。しかも、ルーファ家は六大貴族でも最上位で、我がフォルド家に次ぐ継承権利を持つ。もしフォルド家に後継者がいないと、皇位はルーファ家に継承される」

 シドから聞いたことがある。
 国家は必ずどこかで継承争いが発生するそうだ。
 シドが言うには、それはまさに人の醜さで国家の闇。
 権力争い、暗殺、内紛などで滅亡していった国家は山ほどあるとのこと。

「実は帝国千五百年の歴史で、我がフォルド家から皇位が移ったことはない。そのため、皇族たちは常に皇位を狙っておる。特に現ルーファ家当主は浅ましいほどの野心家じゃ。当然狙っておるじゃろう」
「で、でも、陛下には皇女がいらっしゃる。どうやって簒奪を?」

 帝国皇帝は代々女性だ。
 それは初代皇帝が女性だったことに由来している。

「莫大な富じゃ。その武器が竜光石となる。ルーファ家で竜光石を独占し、帝国どころか世界の流通を牛耳るつもりじゃ。有り余る資金と竜光石の権利を持って、皇位を簒奪するつもりなのじゃろう」
「ですが、最も深き洞窟エルサルドでも竜光石を採掘してます。独占は無理なのでは?」
「それを遥かに上回る生産を狙っており、帝国内で新たな鉱脈を探しているようなのじゃ。しかし、その方法が分からぬ。鉱脈を探すなぞ、広大な砂漠で一枚の金貨を見つけるようなものじゃ。それもあり、鉱夫だったアルにクエストを依頼した」
「なるほど。全て理解しました」

 俺は鉱脈を探す方法を伝えることにした。
 ここでは絶対に情報漏洩がない。
 なぜならば、皇帝陛下に直接報告するからだ。

「鉱脈探しはモンスターです。岩食竜ディプロクスの習性を利用して、探し当てるつもりです」
「なんじゃと!」
「暗殺者ギルドの使役師によって、竜光石に特化したディプロクスが作られようとしています」

 驚愕の表情を浮かべるシルヴィアとレイ。
 特にレイは、ディプロクスの習性を理解している。

「あなたが討伐したネームドのウォール・エレ・シャットと同じ。つまりネームドと同等のモンスターを人間が作るってことよね」
「そうだ。しかも竜光石は硬度九。体内生成で外殻の硬度が上がるということは……」
「十を超える! それってもう竜種じゃない!」
「だから止める必要があるんだ。竜種と同等のモンスターが、帝国内を飛び回り竜光石の鉱脈を探す。そこにもし人が住む集落があったら? 村は? 街は?」

 レイはネームドや竜種に襲われた村や街を知っている。
 その現場を目撃したこともあった。

「壊滅……」

 レイの言葉を聞いたシルヴィアの額に、薄っすらと滲む汗。

「ア、アルよ。ど、どうすればいいのじゃ」
「使役師とディプロクスは俺が止めます。陛下は引き続き、帝国資源局ウィシュハの調査をお願いいたします」
「わ、分かった」

 しばらくの沈黙後、シルヴィアのメイドが入室。
 美しい所作で紅茶を淹れてくれた。

 三人で紅茶を飲むと、場の空気が少し落ち着く。
 そこで、俺はシルヴィアに気になっていたことを質問することにした。

「シルヴィア陛下、一つ質問してもよろしいですか?」
「ん? なんじゃ?」
「簒奪に関してです。例えば……暗殺などはないのですか?」

 暗殺者ギルドがここまで関わっているのであれば、向こうにとって最も正攻法である暗殺に踏み切らない利用が気になっていた。

「それは現実的ではないのじゃ。もし仮に朕を暗殺できたとしても、他の皇族が黙っておらぬ。むしろそれを理由に、喜んでルーファ家を攻め込み断絶させるじゃろう。皇族は一枚岩ではなく、足の引っ張り合い。醜いものじゃ」
「分かりました。ありがとうございます」

 話はこれで終わりだ。
 警護の関係から、二人はあまり長居できないだろう。
 俺は見送るために立ち上がると、レイが俺の腕を掴んだ。

「アル。突然だけど、私とシルヴィア陛下は明日ナブム洞窟を視察するわ。これは極秘事項よ」
「え! そうなの? 洞窟に来るとなるとレイの警護は?」
「リマよ」
「今もいる?」
「ええ、外で待機しているわ」
「ちょっと呼んでもいいかな? 時間は平気?」
「良いけど。どうしたの?」
「リマに聞きたいことがあるんだ」

 レイに呼ばれたリマが入室してきた。

「陛下、お久しぶりです!」
「そんなに時間は経ってないだろう?」
「フハハハ。で、どうされました陛下? アタシが恋しくなりましたか?」
「アハハ、そうなんだよ」

 レイが大きく溜め息をつく。

「はいはい。冗談はそこまでにしなさい。シルヴィア陛下がいらっしゃるのよ?」
「構わぬよ。仲が良さそうで羨ましいものじゃ」

 俺たちの様子を見たシルヴィアは笑っていた。
 俺は改めてリマに視線を向ける。

「リマってさ、暗殺者ギルドを知ってる?」
「暗殺者ギルド? え、ええ。知ってます」
「上位ランク者を知ってる?」
「あっちの世界については、ウィルの方が遥かに詳しいです。ウィルは相当やり合ってますからね。もちろんアタシも何人かと戦ったことがあります。上位は厄介極まりない存在ですよ。まあアタシが勝ちましたけどね。レイ様だって戦ったことがありますよ」
「え? レイも?」

 腕を組み、少し呆れたような表情を浮かべているレイ。

「ねえ、アル。あなた忘れてるようだけど、私は当時Aランク冒険者だったし、騎士団団長だったのよ?」
「あ、そうだったね。レイって当時は世界最高額の懸賞金を掛けられて、暗殺者にとって天敵だったね」
「何よ、その言い方」
「アハハ。ごめんごめん。実はナブム採掘ギルドに暗殺者ギルドが紛れ込んでいる。それも相当な腕前だ。あれは強い」
「あなたにそう言わせるなんて、余程のことね」
「うん。だから名のある暗殺者の顔を覚えてないかなって思って」
「見れば分かるかもしれないわね。分かったわ。私もリマも注意しておくわね」

 そう言い残し、レイたちは退室。
 俺は時間をずらし店から出る。
 その足で賭博場へ行き、大負けする鉱夫を演じた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...