鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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アルの採掘潜入編

第11話 不審な鉱夫

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 翌日、朝からワイズの姿が見えなかった。
 連休明けの俺は、通常通り採掘を開始。
 しばらくすると大きなざわめきが起こり、物々しい警備の騎士が入ってきた。

「あれは帝国騎士団フォルロスだ。しかも団長のデッド・フォルドもいる」

 デ・スタル連合国との戦いで共闘したデッドは、シルヴィアの実子で帝国第三皇子でもある。
 皇帝陛下の警備ともなれば、団長自ら指揮を取るのは当然だ。

 そして登場するシルヴィアとレイ。
 警護のリマもいる。
 だが俺が確認して欲しいワイズはいない。

「ワイズはこの訪問を知っていたのか? それで身を隠した……」

 俺は視察するシルヴィアとレイを遠巻きに眺める。
 レイは竜光石を中心に、希少鉱石や鉱夫を視察。
 何人かに声もかけていた。

 俺は一瞬だけレイと目を合わせ、首を横に振る。
 レイも瞬時に理解したようだ。
 ワイズは危険を察知して来なかったのだろう。

 業務を終え宿舎に帰ると、レイの噂で持ちきりだった。

「なあ、レイ王妃を見たか。信じれれんほどの美女だった」
「す、凄かった。声かけられて心臓が止まるかと思ったぞ」
「世界一の美女なんて都市伝説だと思ってたけどよ。あれはやべーよ」
「アル国王ってあれと結婚してるんだろ? どんだけ良い男なんだよ」

 一国の王妃に向かってあれ呼ばわりはないと思うが、まあ言いたいことは分かる。

 食堂で夕食を食べていると、ワイズが俺の正面に座った。

「ワイズか。どこに行ってたんだ? 今日は信じられないものを見たよ」
「ああ、さっき聞いたよ。皇帝陛下とラルシュ王妃がご来訪されたのだろう? 俺も見たかったよ」
「ワイズはギルド職員だろ? 今朝の時点で話は聞いてなかったのか?」
「おいおい、皇帝陛下だぞ? 警備の関係上、末端の者に話が来るわけないだろう」
「そうか。そういうもんか」

 ワイズは嘘をついている。
 間違いなく、レイやリマと顔を合わせないようにした。

「残念だったよ。ラルシュ王妃は、それはもう美しいと聞いていたからな」
「そうだな。レイ陛下は驚くほど綺麗だったよ」

 俺は自分で言いながら、照れてしまった。

 ――

 それから一週間は通常通り働き、諜報活動も控えた。
 潜入がバレた帝国情報局オンザラ諜報員が消えたことで、ワイズたちも警戒しているはずだ。

 仕事を終え宿舎に戻ると、ワイズがロビーに立っていた。

「ヴァン、ギルマスがお呼びだ。来てくれ」
「ギルマスが? 分かった」

 ワイズと一緒にギルマスの部屋に入ると、待ち構えていたかのように両手を広げ笑みを浮かべているギルマス。

「おおヴァンよ。よく来てくれた。明日、帝国資源局ウィシュハ局長が視察に来られる。その案内をヴァンに頼みたい」
「俺にですか?」
「そうだ。成績優秀者として、特別に報奨金も出されるそうだぞ」
「本当ですか!」

 俺は両手を叩き、喜んだ振りをする。
 そしてギルマスから明日の予定を聞き退室した。

 先週のシルヴィアの視察直後に、帝国資源局ウィシュハ局長の視察だ。
 焦りがあるのか、シルヴィアに対抗しているのか。
 いずれにしても、これは大きな動きになるだろう。

 ◇◇◇

 部屋に残ったギルマスとワイズ。

 ギルマスの態度が一変。
 ソファーに深く背を預け、足をテーブルに乗せた。
 振動で珈琲カップが音を立てる。

「あの鉱夫が不審だと? 腕は良いようだが、どう見てもただの若造だ」
「あの若さで腕が良すぎます。それに私の見るところ、奴は力を抜いています」
「あの成績で力を抜いているだと?」
「はい」
「待て! なんで力を抜く必要がある? 奴は金が必要なんだろう?」
「可能な限り目立たないようにしているのでしょう。それに先日花街へ行ったという話でしたが、調べたところ確認できませんでした。また、奴はウグマ出身にもかかわらず、フォルド語にごく僅かなイーセ王国の訛りがあります。何より最も不審な点が……」
「なんだ。言ってみろ」
「気配が異常なのです。私ですら欺くほど……」
「なに! 暗殺者ギルドでトップのお前が?」
「初めて会った時から僅かな違和感を感じていたのですが、ようやく気づきました。奴は……同業者です」
「な、なんだと! 今さら気づいても遅いだろ! 貴様ら暗殺者ギルドには高い金を払ってるんだ! この間も帝国情報局オンザラの諜報員を見失ったのだろう! このマヌケが!」
「申し訳ございません」
「これが局長にバレてみろ! 私は終わりだ!」

 ギルマスは激昂し、花が挿してある花瓶をワイズに向かって投げつけた。
 ワイズほどの暗殺者であれば容易に避けることができるが、火に油を注ぐことを知っている。
 花瓶が割れ水をかぶると同時に、ワイズの額から流血。

 ギルマスは大きく息を吐いた。

「で、奴は暗殺者なのか?」
「いえ、暗殺者ギルドには在籍してません。恐らくどこかの諜報員でしょう」
「イーセ訛りがあるといったな。イーセの諜報員なのか?」
「現在、暗殺者ギルドの本部へ問い合わせています」
「とっとと調べろ!」

 足を乗せていたテーブルを蹴り上げるギルマス。
 珈琲カップが宙を舞い、黒い液体を撒き散らしながら床で砕け散った。

「明日はどうするんだ! あの小僧は直接局長と会うんだぞ! もしものことがあったら私は!」
「ヴァンが局長を襲うようなことはないでしょう。ヴァン自身に危険が及びます。もし何かあっても私が抑えます」
「当たり前だ!」
「では失礼します」

 ワーズが退室した。

「くそっ。貴族の腰巾着が……」

 ハンカチで額の血を拭う。

 今回の皇位簒奪が成功すれば、帝国の歴史は激変する。
 それに伴い、暗殺者ギルドは大きく勢力を伸ばし、帝国内部へ入り込むことになるだろう。

 ラルシュ王国の国営となった冒険者ギルドに対し、暗殺者ギルド上層部である長老会は焦りを持っていた。
 暗殺以外にも、小さな犯罪から国家の陰謀まで業務を広げることで対抗しようと画策。
 それがいきなり皇位簒奪という、ギルドにとってまたとないチャンスが巡ってきた。
 そのため長老会は、ランキングトップのワイズに対応を指示。

 ワイズは自室で額の手当てをする。

「いつまでこんなことをやらなければ……」

 今回は絶対に失敗できない。
 もし失敗したら、ワイズは殺されることを知っていた。

 ◇◇◇
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