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第1章
第4話 世界創造 ③
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「放せよ、ナミ!」
「嫌だっ! これはアタシのだ! そっちこそ放せ、ナギィ!」
「…………」
ああ、本当にこれで良かったんだろうか……?
これは、成功したんだろうか……?
右肩から天使の翼を生やした男児と、左肩から同じように天使の翼を生やした女児が、目の前でオモチャの取り合いをしている。
二人ともすごぶる仲が悪い。俺は眉根を押さえて、近くのチロに視線を投げた。
そのまま、ジトリと両目を細めて訊く。
「なあ、なんでこいつら赤ん坊で生まれてきたんだ?」
「なんでって、普通は赤ん坊で生まれてくるじゃん。おっさんで生まれてきたらビックリすると思うけど。この答えを返すの三百三十回目だけど」
「……ああ、そうか。俺はこの五年で三百回以上、この質問をしてたのか。病んでるな……」
いや病みもする。
原初の生命体、ナギとナミ(イザナギとイザナミから取った。深い意味はない)は赤ん坊の状態で誕生した。
これはハッキリ言って想定外だった。大人の状態で誕生し、すぐに下界に送れるものだとばかり思っていたからだ。
まさかある程度大きくなるまで、この場所で育てる必要が生じるとは想像だにしていなかった。
「うわーん!! 父さまーっ!! ナギがアタシのことぶったーっ!! 怒ってよーっ!!」
「おまえがオレのオモチャ取ったからだろ! 父上、こいつをぶってください!!」
「……ああ」
こつん。
こつん。
ため息ついでに、俺は二人の頭をそれぞれ一発ずづ軽く小突いた。
「うわーん!! 父さまにぶたれたーっ! アタシ、悪いことしてないのにーっ!」
「ふざけんなよ! おまえのせいでオレまでぶたれただろ!? バカナミ!!」
「……ハァ」
二度目のため息が、知らず口からズシリと落ちる。
この五年間で、ダブルを三千本以上作った。
Sランク七本。Aランク七十本。Bランク五百本。Cランク千本。Dランク二千本。
マジックボールに至っては、もう数えることすら放棄したくなるレベルの数を製造した。おそらく二万個以上は作っただろう。
それはもちろん、世界を形作るうえで必須の行程だったが、想定していた順序と完全に逆になってしまった。
ナギとナミを下界に送り、ある程度の年月が過ぎてから、マジックボールやダブルを投下する(宝箱とかに入れて)予定だったのだ。
これらは新しく誕生する人類用に作った武器なので、それを使える者や使う対象(魔物やモンスターなど)がそこに存在していなければ何の意味もないのである。
だが、それらはいち早く完成してしまった。
下界に生物があふれるだいぶ前に。
完全に想定外の外だった。
「もっとゆっくり作れば良かったのに」
チロが、そんなことを言ってくる。
俺は半眼で答えた。
「ほかにすることなかったんだからしょうがないだろ。作ってて、けっこう楽しかったし。それになにより――」
「あーっ、それはアタシのお菓子だーっ! ナギのはさっき自分で食べただろ!」
「そんなの忘れたね! さっさと食べないのが悪いんだ! これはオレのもん!」
「横暴だーっ! 無茶苦茶だーっ! 父さまぁーっ!!」
「……ハァ」
三度目のため息は、意識的に落とした。落とさざるを得ない心境だった。
俺はさっきと同じように両目を細めてチロを見やると、
「なあ、チロ。こいつら、いつになったら下に降ろせるんだ?」
「あと五年は無理だろうね。一応、二人は人間ベースの生命体だから、生き物を生み出せるようになるまで最低十年はかかるよ。もう少し、大きくなるまで育ててあげないと。人間とかほかの生物のように交尾して産み落とすわけじゃないけどね」
「……憂鬱な五年になりそうだな。そのあいだ、ほかになんかしとくこととかある……?」
「産地特有の作物を設定するとか、この病気はこの薬草で治るとか――そういった細かい部分を詰めていったら? 年に一度しか毒の霧が晴れない沼地とか、砂漠のド真ん中にポッカリと空いた謎の大穴とか、そういった派手な大枠だけじゃ世界に味は出ないよ」
「……ああ、そうだな。その辺、ざっくりとしすぎだったか。頭使うし、めんどくさいからってことで設定丸パクリしてたけど、そういった部分でも少しは独自性を出さないとな」
加えて、それらの特徴をこと細かく記憶する必要もある。ヴェサーニアのことは、ヴェサーニアに住む誰よりも詳しくなくてはならない。庭先に咲いた花の名を隣家の人間に教えてもらうようでは神失格だ。
「うん、時間はたっぷりあるから、二人でこのヴェサーニアをもっともっと魅力のある世界にしていこうよ。オイラ最近、地味に世界づくりのこの感覚が癖になってきたんだー」
チロが、まんざらでもなさそうに言う。
俺は軽く鼻で息を落とすと、唯一無二の『相棒』に向けて二日ぶりの笑みを浮かべたみせた。
そのまま、気持ちを切り替えるように言う。
「そうだな。せっかくゼロから世界を作る権利を得たんだ。時間も腐るほどあるし――頭がパンクするまで考えて、最高の世界を作んなくちゃな。ヴェサーニアに産み落とされた連中が楽しく幸せに暮らせるように」
争いがなく、貧困もない。格差も少なく、そうして平和と平等のもとにみんなが笑って暮らせる穏やかで優しい世界。そんな世界をしっかり作ろう。
理想郷の実現を目指して――。
「嫌だっ! これはアタシのだ! そっちこそ放せ、ナギィ!」
「…………」
ああ、本当にこれで良かったんだろうか……?
これは、成功したんだろうか……?
右肩から天使の翼を生やした男児と、左肩から同じように天使の翼を生やした女児が、目の前でオモチャの取り合いをしている。
二人ともすごぶる仲が悪い。俺は眉根を押さえて、近くのチロに視線を投げた。
そのまま、ジトリと両目を細めて訊く。
「なあ、なんでこいつら赤ん坊で生まれてきたんだ?」
「なんでって、普通は赤ん坊で生まれてくるじゃん。おっさんで生まれてきたらビックリすると思うけど。この答えを返すの三百三十回目だけど」
「……ああ、そうか。俺はこの五年で三百回以上、この質問をしてたのか。病んでるな……」
いや病みもする。
原初の生命体、ナギとナミ(イザナギとイザナミから取った。深い意味はない)は赤ん坊の状態で誕生した。
これはハッキリ言って想定外だった。大人の状態で誕生し、すぐに下界に送れるものだとばかり思っていたからだ。
まさかある程度大きくなるまで、この場所で育てる必要が生じるとは想像だにしていなかった。
「うわーん!! 父さまーっ!! ナギがアタシのことぶったーっ!! 怒ってよーっ!!」
「おまえがオレのオモチャ取ったからだろ! 父上、こいつをぶってください!!」
「……ああ」
こつん。
こつん。
ため息ついでに、俺は二人の頭をそれぞれ一発ずづ軽く小突いた。
「うわーん!! 父さまにぶたれたーっ! アタシ、悪いことしてないのにーっ!」
「ふざけんなよ! おまえのせいでオレまでぶたれただろ!? バカナミ!!」
「……ハァ」
二度目のため息が、知らず口からズシリと落ちる。
この五年間で、ダブルを三千本以上作った。
Sランク七本。Aランク七十本。Bランク五百本。Cランク千本。Dランク二千本。
マジックボールに至っては、もう数えることすら放棄したくなるレベルの数を製造した。おそらく二万個以上は作っただろう。
それはもちろん、世界を形作るうえで必須の行程だったが、想定していた順序と完全に逆になってしまった。
ナギとナミを下界に送り、ある程度の年月が過ぎてから、マジックボールやダブルを投下する(宝箱とかに入れて)予定だったのだ。
これらは新しく誕生する人類用に作った武器なので、それを使える者や使う対象(魔物やモンスターなど)がそこに存在していなければ何の意味もないのである。
だが、それらはいち早く完成してしまった。
下界に生物があふれるだいぶ前に。
完全に想定外の外だった。
「もっとゆっくり作れば良かったのに」
チロが、そんなことを言ってくる。
俺は半眼で答えた。
「ほかにすることなかったんだからしょうがないだろ。作ってて、けっこう楽しかったし。それになにより――」
「あーっ、それはアタシのお菓子だーっ! ナギのはさっき自分で食べただろ!」
「そんなの忘れたね! さっさと食べないのが悪いんだ! これはオレのもん!」
「横暴だーっ! 無茶苦茶だーっ! 父さまぁーっ!!」
「……ハァ」
三度目のため息は、意識的に落とした。落とさざるを得ない心境だった。
俺はさっきと同じように両目を細めてチロを見やると、
「なあ、チロ。こいつら、いつになったら下に降ろせるんだ?」
「あと五年は無理だろうね。一応、二人は人間ベースの生命体だから、生き物を生み出せるようになるまで最低十年はかかるよ。もう少し、大きくなるまで育ててあげないと。人間とかほかの生物のように交尾して産み落とすわけじゃないけどね」
「……憂鬱な五年になりそうだな。そのあいだ、ほかになんかしとくこととかある……?」
「産地特有の作物を設定するとか、この病気はこの薬草で治るとか――そういった細かい部分を詰めていったら? 年に一度しか毒の霧が晴れない沼地とか、砂漠のド真ん中にポッカリと空いた謎の大穴とか、そういった派手な大枠だけじゃ世界に味は出ないよ」
「……ああ、そうだな。その辺、ざっくりとしすぎだったか。頭使うし、めんどくさいからってことで設定丸パクリしてたけど、そういった部分でも少しは独自性を出さないとな」
加えて、それらの特徴をこと細かく記憶する必要もある。ヴェサーニアのことは、ヴェサーニアに住む誰よりも詳しくなくてはならない。庭先に咲いた花の名を隣家の人間に教えてもらうようでは神失格だ。
「うん、時間はたっぷりあるから、二人でこのヴェサーニアをもっともっと魅力のある世界にしていこうよ。オイラ最近、地味に世界づくりのこの感覚が癖になってきたんだー」
チロが、まんざらでもなさそうに言う。
俺は軽く鼻で息を落とすと、唯一無二の『相棒』に向けて二日ぶりの笑みを浮かべたみせた。
そのまま、気持ちを切り替えるように言う。
「そうだな。せっかくゼロから世界を作る権利を得たんだ。時間も腐るほどあるし――頭がパンクするまで考えて、最高の世界を作んなくちゃな。ヴェサーニアに産み落とされた連中が楽しく幸せに暮らせるように」
争いがなく、貧困もない。格差も少なく、そうして平和と平等のもとにみんなが笑って暮らせる穏やかで優しい世界。そんな世界をしっかり作ろう。
理想郷の実現を目指して――。
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